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ユグドラシルの双子の主・和泉奏多(第2話)
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ーー奏多視点ーー
吾妻晶の導きにより、屋敷の中に入る。外からも確認できたが、昔でいうところの武家屋敷のような雰囲気で、なかなか趣を感じさせるものだった。そして、ここで暮らす晶もまた、この屋敷の住人らしく着物姿で生活しているようだ。
「今、この屋敷にはオレだけが残っています」
「ご家族は?」
「ここは危ないので、姉と祖父は親戚の家の方に。結界を張れるのもオレだけなので」
なるほど。この結界は彼の手によるものらしい。なかなか大掛かりなものだけに、異能力は高いと見た。
「まずはこちらへ」
書斎へと案内された。たくさんの本が並んでおり、なかなかの読書家一家であることがうかがえる。すでに絶版になった本もあり、ぜひとも読んでみたいタイトルもいくつか目に留まった。
「和泉さん、この本を見てください」
晶が何冊かの本を携えてこちらにやってきた。今回の一件と何か関係があることが書いてあるのか・・・?
示された本をめくってみる。タイトルは「前文明時代の庶民の生活(日本編)」とあった。学術書の類らしい。さっそくページをめくってみると・・・なんと、最初の数ページの写真以外は、文字が一切ない。挿絵や写真だけが本の中に残されていて、文字だけが消えたような印象を受けた。
他の本も確認してみる。学術書、ハウツーもの、小説、漫画・・・どれも確認してみたが、共通しているのは「文字だけが欠落している」という点だ。漫画も、キャラの絵だけは残っているが、吹き出しの中は無文字である。
「これが、オレがこの屋敷に結界を張り、ここから蟲達が出ないようにしている原因です」
「文字がない・・・というより、文字が蟲に食われた?」
「ええ」
晶は皮肉気に笑みを浮かべて、
「まさに「本が蟲に食われた」という状況です」
と、事情を簡単に説明した。
晶によると、その蟲は最初は毛玉くらいのサイズで、やたらと動きが素早く、とても捕らえられるような状況ではなかったという。何度も退治しようとしたが、その都度逃げられたようだ。
しばらくして、その蟲を見つけた時、たまたま近くに広げていた本にかなりの興味を示していたらしい。そして・・・
「蟲を追い払った後、本を見てみたら、文字だけがきれいさっぱりと消えていた・・・というわけです」
なるほど、虫食いパズルなんてものが世の中にはあるが、こちらもまさしく蟲食いといったところか。
それにしても、不思議なのは文字だけを食らい、他の写真や挿絵については一切手を付けていないという点である。まさか、文字のインクが餌なのかとも考えたが、それなら漫画や挿絵にもそういった成分はあるはずだから、それも不自然だ。
要するに、本当に「文字だけを食べる蟲」なのだろう。
「まさに本が蟲に食われたといった感じだね。それだけなら害はなさそうだけど・・・」
まあ、本の文字を食われてはいるので、実害はあるにはあるが、少なくとも危険度という点では低い方になるだろう。
ただ、こういった蟲が「変異」する可能性も考えなければならない。要は、今までは本の文字だけを食っていたのが、力を蓄えることにより今度は人や動物を襲う段階まで成長するということもあり得る話だ。そうなれば、完全に害蟲と呼ばれる存在になる。こうなると、うちのチーム《ユグドラシル》の出番となる。なぜなら、うちは害蟲駆除を専門としているチームだからだ。
「こいつが力を蓄えて、変異したら確かに脅威となるかもしれないね、確かに放置はしておけないか」
「そうですね」
晶がうなずいた。直にその蟲の姿を確認しているがゆえに、将来的な危険性も予想できるのだろう。
「ゆえにこの屋敷から出さないように結界を張り巡らしているわけです。今は文字を食い漁り、さらに巨大化しているので、万が一に備えて屋敷全体に結界を張り巡らしておきました」
巨大化・・・害蟲の特徴の一つだ。巨大化-あるいは群生化するものと、人型になるものがある。これが益蟲の場合は、滅多に巨大化することはない。ほとんどの場合、害をなす側が巨大化や群生化の傾向にある。自分たちの貪欲な繁殖力を満たすため、より大きくなっていく性質があるというわけだ。
「君のお屋敷はかなり広いよね。これだけの場所に結界を張るというのは結構な魔力がないとできないはず」
「これだけですよ、オレの取柄は」
晶の魔法力はかなりのものだ。ここまで大掛かりな結界となると、そうそう簡単には張ることはできない。純粋に褒めたつもりだったが、晶は自嘲気味に答えた。
「オレは抑えたり封じ込めたりするくらいしかできません。一応蟲を倒すための技量も身に着けようとはしているのですが・・・」
「いや、これだけの結界を張れるだけでもすごいだろう。それに、退治するのは、僕たち専門家の仕事だ」
詳しい話を伺ってみると、吾妻晶は、一応蟲払いの能力を持っているようだ。ただ、僕や鏡香のように、直接的に相手を攻撃する能力よりも、蟲除けの結界を張ったり蟲の性質を利用してその行動を制限するといった補助的な異能力がメインらしい。直接的な退治よりも相手を閉じ込めたり動きを抑えたりする方が得意といった感じだろう。
そう、蟲を退治するのがチーム《ユグドラシル》の仕事だ。
「晶君、蟲のいる場所まで案内してもらえるかな」
まずは、蟲が今どういう状態にあるのか直に確認しておきたい。場合によってはその場で蟲退治ということもあり得るだろう。
「問題の蟲ですが、実は奥の蔵の中に潜んでいます。一応二重に結界を張っておきましたが、今のあいつの状態から考えて、いつまで結界が持つかはわかりません」
なるほど、それだけ蟲の成長が著しいということか。
「ご案内します。こちらです」
僕は、晶に案内されるままに庭へと繰り出したー。
吾妻晶の導きにより、屋敷の中に入る。外からも確認できたが、昔でいうところの武家屋敷のような雰囲気で、なかなか趣を感じさせるものだった。そして、ここで暮らす晶もまた、この屋敷の住人らしく着物姿で生活しているようだ。
「今、この屋敷にはオレだけが残っています」
「ご家族は?」
「ここは危ないので、姉と祖父は親戚の家の方に。結界を張れるのもオレだけなので」
なるほど。この結界は彼の手によるものらしい。なかなか大掛かりなものだけに、異能力は高いと見た。
「まずはこちらへ」
書斎へと案内された。たくさんの本が並んでおり、なかなかの読書家一家であることがうかがえる。すでに絶版になった本もあり、ぜひとも読んでみたいタイトルもいくつか目に留まった。
「和泉さん、この本を見てください」
晶が何冊かの本を携えてこちらにやってきた。今回の一件と何か関係があることが書いてあるのか・・・?
示された本をめくってみる。タイトルは「前文明時代の庶民の生活(日本編)」とあった。学術書の類らしい。さっそくページをめくってみると・・・なんと、最初の数ページの写真以外は、文字が一切ない。挿絵や写真だけが本の中に残されていて、文字だけが消えたような印象を受けた。
他の本も確認してみる。学術書、ハウツーもの、小説、漫画・・・どれも確認してみたが、共通しているのは「文字だけが欠落している」という点だ。漫画も、キャラの絵だけは残っているが、吹き出しの中は無文字である。
「これが、オレがこの屋敷に結界を張り、ここから蟲達が出ないようにしている原因です」
「文字がない・・・というより、文字が蟲に食われた?」
「ええ」
晶は皮肉気に笑みを浮かべて、
「まさに「本が蟲に食われた」という状況です」
と、事情を簡単に説明した。
晶によると、その蟲は最初は毛玉くらいのサイズで、やたらと動きが素早く、とても捕らえられるような状況ではなかったという。何度も退治しようとしたが、その都度逃げられたようだ。
しばらくして、その蟲を見つけた時、たまたま近くに広げていた本にかなりの興味を示していたらしい。そして・・・
「蟲を追い払った後、本を見てみたら、文字だけがきれいさっぱりと消えていた・・・というわけです」
なるほど、虫食いパズルなんてものが世の中にはあるが、こちらもまさしく蟲食いといったところか。
それにしても、不思議なのは文字だけを食らい、他の写真や挿絵については一切手を付けていないという点である。まさか、文字のインクが餌なのかとも考えたが、それなら漫画や挿絵にもそういった成分はあるはずだから、それも不自然だ。
要するに、本当に「文字だけを食べる蟲」なのだろう。
「まさに本が蟲に食われたといった感じだね。それだけなら害はなさそうだけど・・・」
まあ、本の文字を食われてはいるので、実害はあるにはあるが、少なくとも危険度という点では低い方になるだろう。
ただ、こういった蟲が「変異」する可能性も考えなければならない。要は、今までは本の文字だけを食っていたのが、力を蓄えることにより今度は人や動物を襲う段階まで成長するということもあり得る話だ。そうなれば、完全に害蟲と呼ばれる存在になる。こうなると、うちのチーム《ユグドラシル》の出番となる。なぜなら、うちは害蟲駆除を専門としているチームだからだ。
「こいつが力を蓄えて、変異したら確かに脅威となるかもしれないね、確かに放置はしておけないか」
「そうですね」
晶がうなずいた。直にその蟲の姿を確認しているがゆえに、将来的な危険性も予想できるのだろう。
「ゆえにこの屋敷から出さないように結界を張り巡らしているわけです。今は文字を食い漁り、さらに巨大化しているので、万が一に備えて屋敷全体に結界を張り巡らしておきました」
巨大化・・・害蟲の特徴の一つだ。巨大化-あるいは群生化するものと、人型になるものがある。これが益蟲の場合は、滅多に巨大化することはない。ほとんどの場合、害をなす側が巨大化や群生化の傾向にある。自分たちの貪欲な繁殖力を満たすため、より大きくなっていく性質があるというわけだ。
「君のお屋敷はかなり広いよね。これだけの場所に結界を張るというのは結構な魔力がないとできないはず」
「これだけですよ、オレの取柄は」
晶の魔法力はかなりのものだ。ここまで大掛かりな結界となると、そうそう簡単には張ることはできない。純粋に褒めたつもりだったが、晶は自嘲気味に答えた。
「オレは抑えたり封じ込めたりするくらいしかできません。一応蟲を倒すための技量も身に着けようとはしているのですが・・・」
「いや、これだけの結界を張れるだけでもすごいだろう。それに、退治するのは、僕たち専門家の仕事だ」
詳しい話を伺ってみると、吾妻晶は、一応蟲払いの能力を持っているようだ。ただ、僕や鏡香のように、直接的に相手を攻撃する能力よりも、蟲除けの結界を張ったり蟲の性質を利用してその行動を制限するといった補助的な異能力がメインらしい。直接的な退治よりも相手を閉じ込めたり動きを抑えたりする方が得意といった感じだろう。
そう、蟲を退治するのがチーム《ユグドラシル》の仕事だ。
「晶君、蟲のいる場所まで案内してもらえるかな」
まずは、蟲が今どういう状態にあるのか直に確認しておきたい。場合によってはその場で蟲退治ということもあり得るだろう。
「問題の蟲ですが、実は奥の蔵の中に潜んでいます。一応二重に結界を張っておきましたが、今のあいつの状態から考えて、いつまで結界が持つかはわかりません」
なるほど、それだけ蟲の成長が著しいということか。
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僕は、晶に案内されるままに庭へと繰り出したー。
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