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清野江紀と薬師寺咲那(第4話)

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ーー江紀視点ーー

 薬師寺と別れた後、オレは大型の蟲の気配を感じる屋上を目指した。朽ち果てた階段を駆け上がる。もっとも、今にも崩れ落ちそうだったが、例え崩れたとしてもオレならば受け身くらいすぐとれる。

 2階、3階と上がっていくが、どこも同じような構造の部屋ばかりでさっき薬師寺が漏らした愚痴が改めて思い出された。確かに、みんな同じような部屋で、何十人も一か所に集めて教育するという前文明時代のやり方にはついていけない。

 オレは前文明時代についてさほど関心はないが、妹の早苗が実は学校に通っていたりする。前文明時代の教育システムを一度体験してみたかったようだ。オレがいうのもなんだが、妹は人なつっこく、適応力も高いので、学校での生活も結構気に入っているようだった。

 というわけで、オレは一応学校という施設に関してはある程度早苗から聞いていて、少しは把握しているが、やはりついてはいけないところがある。前文明時代のそれぞれの国家単位で様々な違いはあるらしいが、そもそも制服というみんな同じ服装を強いられ、さらにはこの狭苦しい部屋で何十人も一度に教育するというのは、どうにも感覚的に理解できないのだ。ましてやそれが義務だったらしいので、なおのこと前文明時代というのはオレには感覚的に合わない社会なのだろうと痛感した。

 一応、この学校という施設にも、用途ごとに部屋の作りは違っているらしい。例えば理科室、家庭科室、体育館、職員室などーだが、教室というのは基本的にどこも同じ作りで、窮屈さすら感じる。

 薬師寺が前文明時代に生まれていたなら、彼女は間違いなく不良(学生生活になじめず規律違反を繰り返したり成績が悪い生徒をそう呼んでいたらしい)になっていただろうなと、つくづく感じるばかりだ。

 ・・・余計なことを考えすぎた。今は、屋上に潜んでいる蟲の方に専念するべきだ。いくら亜人種型デミヒューマンタイプではないとはいえ、大型の個体も決して軽く見ていい相手ではない。一瞬の油断が命取りとなることもあるのだ。

 それもそうだし、早くこいつを倒さなければ、もし薬師寺が窮地に陥った時に駆け付けることができなくなる。薬師寺のことだから余計な手出しはするなと怒るかもしれないが、それでも彼女の身に危険が及んだ場合は、例え恨まれようが加勢しなければならないだろう。

 何せ相手はA級の亜人種型デミヒューマンタイプなのだ。薬師寺の実力はよく知っている。正直、相手するにはまだ早いのではないだろうかー。

「ともかく、さっさとこちらを片付けてしまわないとな」

 3階の階段をさらに上がり、屋上へと続く扉を発見した。朽ちている上にカギがかかっているようだった。

「仕方がない、斬るか」

 扉を斬りつける。オレにとってはたとえ目の前にあるのが鉄の扉であっても紙も同然にすぎない。

 オレは、「双剣士」の二つ名の通り、戦いの場では常に2本の剣を携帯している。2本の片手剣による連撃で敵を仕留めるのがオレの戦闘スタイルだ。大抵の奴ならすぐに仕留められる自信はある。亜人種型デミヒューマンタイプでさえ何度も倒してきた。

 もっとも、オレが本気になるだけの相手に偶然出会わなかった可能性もあるが・・・。

ーー

 屋上に出る。太陽の光に一瞬目が眩んだが、すぐに周囲の状況確認に移る。

「あいつか!」

 目的の相手はすぐに見つかった。

 一言でいうなら無数の目が付いた巨大なイソギンチャクか。俗に「ローパー」と呼ばれるタイプの巨大化した個体だろうと推測できる。ただでかいだけでなく、それなりに魔力も秘めているようだ。魔力の波動から推測するに、実力的にはB級クラス中位ランクといったところだろう。

ーー少なくとも、オレにとっては敵ではない。

「薬師寺でもすぐに倒せそうな相手だな」

 蟲がこちらの姿を認識したようだ。触手に当たる部分を鞭のように振り回して、オレを狙い撃ちにしようとする。

 もちろん、そんな攻撃が当たるわけがない。オレは、最小限の動きだけで蟲の攻撃をかわした。

 今の攻撃を見れば、特に知性は特に感じられず、魔力自体はあるものの、亜人種型デミヒューマンタイプのように高度な魔法を使用することもなさそうである。

「悪いな、こっちも仕事なんでね。手早く終わらせてもらうぞ」

 さっさと片付けて薬師寺の方を確認しに行かなければーー。

 オレは蟲に相対すると、2本の剣に魔力を込め始めたー。


 
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