上 下
56 / 464

吾妻晶と清野早苗(第19話)

しおりを挟む
ーー日向荘・広間にてーー

 蟲の様子を見に行っている3人を待つ間、ミケさんはさっそく、モリガンのおもちゃにされていた。

「ウニャーン」

「あっはっはー!すごいモフモフしておるな、お主」

 ミケさんの体をあちこち引っ張るモリガンに対し、ミケさんは防戦一方だった。

 どうやら、この魔女殿もミケさんをいたく気に入ったようだ・・・もっとも、ミケさんの方はかなり迷惑そうではあるが・・・。

「ニャニャニャ、ひげを引っ張ってはいけませんニャー」

 その様子を微笑ましく見つめる鏡香・・・しかし、ミケさんがかなりピンチな気がするが・・・。

 なんだかんだ言って、モリガンやるな・・・と晶は思った。

「モリガンちゃん、可愛がってあげないとダメだよ。ほら、こうして・・・」

 早苗が横からミケさんをかっさらい、だっこする。それをいいことに、まるで「抱っこちゃん人形」のように張り付くミケさんであった。

 例によって、「ふふふ・・・」という不敵な笑いも忘れてはいない。

「おお、わしもだっこする!」

 早苗とモリガンが、ミケさんを取り合っている。ニャーニャーと悲鳴を上げるミケさんだが、まあ別に命を取られるようなこともないし、2人の好きにさせておくことにしよう。

「鏡香さん、そろそろ3人とも帰ってきますよね」

「そうね・・・」

 鏡香は、軽く小首をかしげながら、

「今回現れた蟲というのは、そんなに強い個体ではないらしいの。奏多君も一緒に様子を見に行ってるし、もうそろそろだと思うのだけど・・・」

「まあ、詳しいことは全員が揃ってからの方がいいでしょう。紹介もしたいですしね」

 実際、このミケさんは悪い蟲ではない。ここに来るまでに何度も注意深くミケさんの魔力の波動を確認したので、それは間違いないだろう。仮に、こいつがその「悪しき本性」を現して害蟲として立ちはだかったとしても、うちのチームに勝てる見込みなど全くない。魔力の潜在量も注意深く観察したので、その点も大丈夫だ。

 したがって、ミケさんが《ユグドラシル》の客人として、ここに長く居候することになったとしても、晶は特に不満はなかった。

 もっとも、さっきの様子から察するに、モリガンに毎日おもちゃにされそうではあるが。

 この日向荘は、元は旅館だった建物だ。したがって、使っていない部屋はいくつもある。一応ミケさんにも部屋を与えた方がいいだろう。蟲ではあっても、ペットではなく、知性もあるので、犬小屋(こいつは猫らしいが)のようなものに住まわせるのではなく、人間と同じ待遇にしないと後々面倒なことになりそうである。

「・・・贅沢な奴め・・・」

 モリガンに追い掛け回されているミケさんを眺めていると、

「ただいまー」

「ふう、やっと終わったー」

「やれやれ・・・」

 どうやら、他の住人たちが帰宅したようであるー。
しおりを挟む

処理中です...