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ゼクスとイリア(第6話)

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 ここは、一時撤退だー。

 とにかく、相手の正体がわからない以上は、これ以上戦いを続けても無駄である。いや、無駄どころか、最終的には消耗戦となり、こちらの体力が尽きるのがオチだ。

「仕方ねえ、ここは一旦離脱するか・・・」

 さすがのイリアも、これ以上はこちらが不利になると判断してか、素直にゼクスの提案に従う。彼女は、いわゆる戦闘好きではあるものの、全く後先を考えられない戦闘狂バーサーカーではない。最低限の引き際くらいはわきまえている。

「多分、こいつ自身は追ってこないだろう。ただ・・・」

 この魔物に力を与えているやつには、こちらの姿を見られている可能性がある。そうなると、この場を離脱してもすぐに何らかの形で接触をしてくる恐れもある。

「FOを使うか・・・イリア、少し目を閉じろ!」

「っ!」

 突然のゼクスの指示だったが、考えるより先に行動した。イリアは言われるがままに、目を閉じて後退した。

 その直後、FOから凄まじい閃光が放たれた。これをまともに直視していればしばらくの間、目が眩んで思うように行動できなくなっていただろう。

 ゼクスとイリアは、その場をすぐに離れた。敵は追ってくる気配がない。おそらく、ほんの少しの間だけだろうが、相手を撒くことに成功したようだった。

「・・・畜生、自分は表に出ねえで、裏でこそこそと・・・」

 イリアが悪態をつく。元々、彼女は真正面からやり合うのが好きなタイプだ。したがって、今回の相手のように、自分は遠く離れた安全圏に身を隠して策を練るようなタイプは徹底的に気に食わない。

「まあ、それも戦い方の一つといってしまえばそうだろうけどね」

 敵の肩を持つというわけではないが、どちらかといえばゼクスは、イリアと異なり前面に出るタイプではない。あくまでも後方支援がメインだ。

「・・・にしても、どうすんだよ。相手に顔を見られちまったんじゃねえか」

 仏頂面でイリアが尋ねてくる。確かに、敵にこちらの正体を見られたのはまずい。しかも、こちらは相手の正体をわかってはいない。いつ、どこで相手が仕掛けてくるのかもわからないのだ。

「・・・一つ推測できるのは、敵はおそらく僕たちとはそんなに離れた場所にはいないってことだ」

「はあ?なんで断言できるんだよ」

 理解できないといった感じのイリアに対して、ゼクスがわかりやすく説明する。

「念のため、逃げる前にあの魔物に力を与えている敵の魔力の痕跡を探ってみたんだ。やはり操れる範囲には限界があるようだ。魔力の濃度勾配を追っていくと、距離が離れるにつれて薄くなっているからね。だから、あいつのいる場所は、実はそんなに離れていないんじゃないかな」

「・・・意外と近い場所に潜んでいるかもってことか・・・なら、こちらかも面を拝める機会はあるってわけだな」

 煮え湯を飲まされたイリアが、今度こそはと意気込む。

「まあ、でもまだ敵の正体が分かったわけじゃない。それに・・・」

「?」

 ゼクスが少し考え込んでから、

「もしかしたら、敵の正体次第によっては、の出番なのかもしれないよ」

 と、思わせぶりに語ったー。
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