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カルミナとブラーナ(第30話)

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 惑星Σ-11の方に逃れた害蟲を追うチーム《ラピュタ》の面々ー。

「さすがに空の上だと手を出せないからな・・・浮遊大陸のどこかに着陸しておびき寄せることにするか」

 あくまで飛空船「白波号」は戦闘艇ではないので、空を飛び回る害蟲を追いかけることはできても攻撃はできない。したがって、一旦浮遊大陸に着陸して、改めて決着をつけるという流れになった。

「こういう時には、確かに攻撃できる船の方がいいよな~オレもガンガン蟲を撃ち落としてぇし」

 翔が、まるで銃を持っていて狙いを定めるかのような仕草をしながら、窓の外の害蟲の姿を追っていた。

 敵は手負いだ。ゆえに、先ほどの傷の影響もあるのか、飛行速度もさほど早いわけではない。だが、手負いの獣程厄介な相手はいない。油断せず、次こそは確実に仕留めなければならないー。

「また、私が害蟲をおびき出します」

 黒羽が周囲に黒い羽根を浮かせた。複数の黒い羽根が、黒羽からの魔力の影響を受けて黒く輝き始める。

「あの害蟲が向かう場所をこちらで決めます。うまく誘導することに成功したら、私が場所を教えますので、そちらまでお願いします」

 黒羽が、操舵輪を握る武人に頼む。

「任せな、黒羽の嬢ちゃん」

 黒羽の周囲を舞っていた黒い羽根が、突如消える。

「あら、羽根が消えちゃったわ」

 突然目の前で羽根が消えたので、カルミナが少し驚いて周囲を見回した。

 やはり、さっきまで浮かんでいた黒い羽根は、船内には見当たらなかった。

「ご心配なく、カルミナ」

 黒羽が多少表情を柔らかくしながら、カルミナに説明する。

「私の羽根は、もうすでに害蟲の背中に突き刺さっていますよ」

「え、羽根だけ瞬間移動させたの?」

 目を丸くするカルミナ。

「しかも、背中に突き刺さってるって・・・」

「相手の行動を制限する魔素を含んだ羽根です。と言っても、完全に制御できるわけではありませんが、足止めや少しの間の能力封じくらいなら可能なものです」

 そして、右手の人差し指をピンと上に立てて、

「さっきみたいな不意打ちがないよう、可能な限り相手の動きを封じられるようにしておきました。しかも、害蟲自身はそのことには気が付いていません・・・今度こそ、確実に仕留めましょう」

 ウィンクのつもりなのか、左目を軽く閉じる黒羽ー例の如く、翔と卓がその可愛さに間抜け面になる。

「へえ、黒羽の嬢ちゃん、アンタ、そんな表情もできるんだな・・・」

 操舵輪を動かしていた武人だったが、黒羽の意外な一面を見て相好を崩す。

「はい、私も一応女の子ですので」

 黒羽も、武人につられて笑みを見せた。

ーー

「なあ、卓」

 そんな中、翔と卓が女子に聞こえないようにひそひそ話を始めた。

「・・・なんだ、翔?」

「黒羽って、マジで可愛いよな」

「・・・だな」

「これで、普段もうちょっと愛想よくしてくれりゃあいいのに」

「同感だ・・・」

 はあ、とため息をつく二人。黒羽の意外な一面にだらしなくもメロメロ状態の二人であったー。

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