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水無杏里の物語(第14話)

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 杏里の生体端末に、壮太から連絡が来たようだった。内容は、飛空鎧を修理してくれる町工場を見つけたということらしかった。

「よかったぁ、さすがにあんな大きなもの、そう簡単に直せないだろうし、本当に助かったよ」

 実際、あの半壊状態の飛空鎧では、空はおろか陸地さえ移動することもできないだろう。もちろん、修理と言っても何日もかかるだろうし、修理代もバカにはならないはずなので、手放しで喜べるような状況でもないのだが、それでも空のハンターであるカイトにとって、飛空鎧は商売道具でもある以上、今はこれほどありがたい話もない。

「ねえ、カイト」

 杏里が、カイトの顔を下からのぞき込むような格好で尋ねてきた。

 ・・・か、可愛い・・・。

 その仕草がなんとも可愛らしく、思わずドギマギしてしまうカイト。ただでさえ、男所帯で異性に対してほとんど接したことのないカイトにとって、今のはかなりの不意打ちとなった。

 対する杏里はというと、別に意識してやった行動でもなく、なぜカイトが顔を赤くしてオドオドしているのか、よくわからなかった。

 きょとんとした顔で、カイトを見つめる杏里。

「・・・ん?」

「あ、ああ、いや、何でもないよ杏里。それで・・・?」

 両手を少し大げさに振りながら、カイトが杏里に話の続きを求める。

「カイト、飛空鎧なんだけど・・・」

 杏里が唇のあたりに人差し指を当て、少し遠くを見つめるような仕草で、飛空鎧の中がどうなっているのかについて尋ねてきた。

 ・・・一つ一つの仕草が可愛らしく、それだけで内心参ってしまいそうになる。

「中は、乗ろうと思えば2人までなら乗れるかな・・・少し無理があるけど、僕と杏里なら大丈夫・・・って!」

 そこまで説明して、その光景を思い浮かべて・・・カイトは顔から火を噴きそうなくらいに赤面した。

 確かに、飛空鎧のハッチの中は、人間二人くらいまでなら入る。しかし、それの意味するところは・・・。

「・・・!!」

「そう、二人までなら入れるんだ・・・私さ、一度飛空鎧の中に入ってみたいなぁ、なんて思ったのよ。実際にお空を飛んでみたら、どんなに気持ちいいのかなぁ、とか、考えて・・・って、あれ、カイト?」

 カイトの様子が少しおかしいことに気が付いた杏里が、怪訝そうに彼に呼び掛ける。

「・・・ああ、だ、大丈夫だよ、杏里。僕は・・・」

「・・・うーん、本当に大丈夫なのかしら・・・グエンさんがそう言うなら安心と思ってたけど、なんだか様子がおかしいよ、カイト。本当に大丈夫?」

 心配そうに、そして再び下から顔を覗き込んで来る杏里。彼女が、自分の話した内容が全く気が付いていない点もかなり厄介だった。

 いくら二人で乗れるとはいえ、狭いハッチ内にこれほどの可愛らしい女の子と二人だけ・・・その光景を想像すれば・・・。

「ごめん、杏里。少しだけ椅子で休んでていい?」

「あら、大変。ごめんなさい、カイト。具合が良くないのに気が付かなくて」

「あ、い、いや・・・違うんだけど・・・」

「・・・?」

 心底申し訳なさそうに謝罪する杏里であったが・・・いや、違うんだ、杏里。問題はそこじゃないんだ・・・。

 そう心の中で叫びつつ、カイトは待合室の椅子に腰かけたー。
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