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水無杏里の物語(第25話)

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 いきなりの魔女殿との邂逅ー。

 目の前に現れた少女に、カイトと杏里はしばしの間、呆気に取られていたが・・・、

「あ、あの・・・」

 杏里が恐る恐る声をかける。

「は、初めまして、ええと、モリガンちゃん?私は水無杏里と言います」

 続いて、カイトも挨拶をする。

「僕はカイト。空のハンターさ、よろしくね」

 モリガンは、二人を見定めるかのように腕組みをしながら、ふんっと鼻を鳴らした。

「わしはもう立派なレディじゃ。したがって、モリガンちゃんではないぞ、杏里とやら」

 自分がちゃん付けで呼ばれたのが気に入らなかったのだろう。その横で、楓がくっくっくと笑いを漏らす。

「あ、あらごめんなさい・・・そうよね、魔女様だものね・・・失礼したわ」

 杏里が素直に非礼を詫び、そして恐る恐る気になっていたことを尋ねた。

「差し支えなければでいいのだけれど・・・モリガンさん。秋の領域って・・・?」

 ガクっとうなだれる魔女の姿を見て、いよいよ楓も大笑いしたのだった・・・。

ーー

「お前、浮遊大陸の人間にいきなり「秋の領域最大の魔女」とか名乗ったって通じるわけないだろ」

 楓が笑いながら、魔女モリガンの頭をバンバンと叩く。モリガンは、それを鬱陶しそうに振り払いながら、

「ええい、やかましいわ!!ったく、これだから世間知らずな連中は・・・!」

「やれやれ、どっちが世間知らずなのやら・・・」

 一人むくれているモリガンを横目にかぶりを振りながら、楓は杏里とカイトに居間に入るように勧めてきた。

「カイトには少し聞きたいことがあるんだ。まあ、居間で少し待っててくれ。今日は片付けてあるからくつろげるだろう」

「片付けたのは、主に杏里じゃったような気がするがのう」

 ホルルの独り言に思わず苦笑する杏里。まあ、この家の片づけはいつも杏里が習慣的にやっているので、今更気にすることもない。

 その後、ホーホウと鳴きながら、ホルルは二人を居間に案内した。モリガンもその後に続いた。

ーー

 杏里が片付けているというだけあって、確かに居間は整頓されていた。カイトはソファに腰掛け、素直に楓を待つことにした。

「そう言えば、カイトとやら、お主は空のハンターなのじゃろう?」

 ふと、隣に座ったモリガンがカイトに尋ねてきた。普段は大樹の森で暮らしている魔女だけに、空を生活領域とするカイトの存在は新鮮に思えたのだろう。年相応の女の子らしく、興味津々といった様子だった。

「わしも、飛空船には乗ったことがあるがのう。さすがに自分の魔法で飛ぶのとは違って楽ちんじゃったわ」

「あら、モリガンさんは空を飛べるの?」

 部屋のカーテンを開けていた杏里が、モリガンが飛べることを聞いて興味をそそられたようだ。

「もちろんじゃ・・・秋の領域最大の魔女をなめてはいかん・・・空を飛ぶ魔法は主要なものでは2種類あってな・・・風を操る場合と重力制御じゃ。そのうち、わしが得意とするのは重力制御の方じゃな」

 得意げに自身の魔法について語る魔女殿。この辺りは、まだまだ子供といったところか・・・。

「やっぱり、魔女さんは箒で飛ぶのよね?」

 がくんと、モリガンが首を垂れる。

「・・・素人は、すぐに魔女が箒に乗って飛ぶものだと考える癖があるらしいのう」

 盛大にため息をついた後、びしぃっと人差し指を杏里に突きつけ、

「よいか、杏里とやら。魔女が箒で空を飛ぶというのは、あくまでも前文明時代のおとぎ話でのことじゃ・・・あんな、挟んだだけでお股が痛くなるだけの木の棒きれなんぞ、飛行魔法には何の役にも立たん!このわしが断言するぞ!!」

「ほう、それだけ詳しいということは、モリガン、お前さん実際に試してみたんだな?」

 指先に煙草を挟み、にやにやと笑いながら、楓が居間の入り口に立っていた。どうやら、ちょうど今来たところだったようだ。

「な・・・っ!」

 楓の指摘に、慌てふためく魔女殿・・・どうやら、図星だったようだー。

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