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アサギと黒羽(第12話)

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「処刑を!」

「狩りを!」

 二人が同時に叫び、それぞれの武器を携え、間合いに飛び込む。太刀を切り抜くアサギは閃光を纏い、サイズを振り回す黒羽は、漆黒の闇を纏いー。

 それぞれの武器が、火花を出してぶつかり合う。

「ほう・・・」

 アサギが、口元を歪めた・・・愉し気に。

「この私の太刀を受け止められる邪術師がいようとはな・・・」

「私は、今まであなたが戦ってきた者達とは違いますよ」

 対する黒羽の目も、愉悦の色を交えながら細められている。

 一旦、二人は距離を取る。そして・・・互いに疾走し始めた。

「スピードも互角か・・・なるほど、確かに私が戦ってきた邪術師どもとは一味違うようだ」

 今まで戦ってきた連中とは、確かに格が違う。それは、先ほどの一撃を受けて感じたことだ。

 ・・・ネコを被っていたのか・・・こやつは。

 最初に感じた魔力の波動では、かつて倒してきた邪術師たちとそう大して変わらない相手だとばかり思っていたが、実力を隠していたのか。

 と、そこでアサギはふと思い出す。

 そう言えば、こやつらはこの惑星付近の衛星で、害蟲とやり合っていたな・・・あの害蟲は、結構な強敵だったはずだ。実際に害蟲を仕留めたのは他の者だったようだが、あれと互角にやり合っていたということを考えれば、なるほど今のが本来の力というわけか。

「だが、勝つのは私だ!」

 アサギが、疾走しながら、同じく並走している黒羽に向かって太刀を振り上げる。太刀から放たれたかまいたちが、黒羽に襲い掛かる。

「・・・っ!」

 突然放たれた真空の刃にも、黒羽は慌てることなく対処する。彼女の周囲に黒い羽根が舞い、それが真空の刃を防いだ。実際には、黒い羽根を中心に真空波が巻き起こり、それによってアサギの放ったかまいたちが相殺されたような形だった。

「・・・なかなか面白い芸当を使うな、邪術師」

「そちらのかまいたちも、なかなか興味深いですね。東方の御方」

 二人は並走しながら、再び攻撃に転じる隙を窺がっていた。

 スピードもパワーもほぼ互角。技については、お互いがすべての手の内を見せたわけではないので、まだ断定できないが、先ほどの一撃を見ても、そんなに差は開いていないはず。

「やあ!」

 アサギが黒羽に斬りかかった。黒羽は、先ほどと同様に、サイズで相手の攻撃を受け止める。

「・・・そういえば、貴様の名を聞いていなかったな・・・」

「・・・私も、あなたの名を伺っておりませんね」

 アサギも黒羽も、相手の名も知らぬまま死闘を繰り広げていたことを思い出す。特に、アサギに至っては、邪術師の名等聞く価値もないと、最初は思っていたが、今は思い直し、逆に彼女の名を知りたくなった。

 お互いの武器を交差させながら、それぞれの名を名乗る。

「まずは私から名乗ろう・・・私はアサギ。燎原リンイェンの守り手にして、邪術師の処刑人だ。光栄に思うがいい。邪術師ごときに名を名乗ったは、貴様が初めてだ」

 口元を愉悦で歪ませながら、アサギは言い出しっぺの自分から名乗った。

「では、私も・・・私は黒羽と申します。チーム《ラピュタ》の一員で、今は配達員として働いております」

 それに対して、黒羽も律儀に名乗る・・・現在の職業まで付け加えたりする。

「黒羽・・・だと?それは本名ではあるまい」

 相手の名前を胡乱だと思い、重ねて質問する。

「本当の名は?」

「申し訳ありませんが」

 黒羽が、多少を眉を下げて本当に申し訳なさそうに答える。

「真名についてはお答えできません・・・これは、別にあなただからではなく、同じチームの皆さんに対しても同じように知らせてはいません。それは、ことですので」

「・・・そうか」

 ふんっと軽く鼻を鳴らすアサギ。やはり、邪術師というのは面妖な輩ばかりだ。

 まあいい。今すぐに倒す相手だ。所詮は個人的に興味が出たというだけのことー無理して聞き出すこともないか。

「それでは、その名で呼ぶとしよう・・・」

「それでお願いします」

 こうして、二人の不思議な邂逅と、激しい自己紹介が終わったー。

 
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