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モリガン一人旅(第29話)

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「よし、杏里たちに連絡しておいたぞ」

 楓が、杏里たちにメールを送ったのを確認してから、モリガンは転送魔法陣の構築を完了させた。

「これで大樹の日向荘と繋がったはずじゃ・・・あとは、二人を呼んで一時的にここから退避させることにするぞ」

 使い魔からの報告では、幸いなことに不時着したカイトの飛空鎧はまだ見つかっていないようだ。仮にアサギに発見されるようなことがあったとしても、二人がこの場所を離れていればしばらくは時間稼ぎができるだろう。

「日向荘・・・お前が世話になっているチームの拠点なら、ここから結構離れているしな・・・」

 楓とモリガンは、頻繁にやり取りしているので、ある程度日向荘のことも把握している。もっとも、モリガンの話す内容は、そのほとんどが彼女にとって都合のいいものばかりであるが。

「ふん、わしがいなければ成り立たんチームじゃよ!」

 得意げに、まだ薄い胸板を反らすモリガンに、思わず苦笑してしまう楓。まあ、話半分くらいには聞いておこう。

「ところで、ここと大樹って結構離れてるんだろ?」

「まあ、転送魔法陣なしで行き来するならそれなりに時間はかかるがのう」

 実際、飛空船を乗り継いでの小旅行にはなる。

「じゃが、転送魔法陣には絶対勝てんぞ!何せ、一瞬で移動できるんじゃからな」

「そりゃそうだな・・・」

 これで、少しの間はカイトたちは安全を確保できるだろう。その間に、アサギが捜索を諦めてくれることを祈るばかりである。

「ところで」
 
 ふと、何か思い出したことがあるのか、楓はモリガンに、

「その東方の女剣士ってのは、東方のチームに所属してるんだろ?」

「そうじゃよ。確か燎原リンイェンとかいう名前じゃったはずじゃ」

 東方のチームの名前を聞いて、楓が少しの間思案顔になる。

「何か、気になることでもあるのかのう、楓?」

「いや、だいぶ前の話なんだが・・・」

 楓は、そう前置きしながら、自分でも自身がなさそうに言った。

「どこかで聞いたことがあるような気がするんだよな・・・あまりいい話題ではなかったような」

「ほほう」

 モリガンは、そんな楓に対して少し悪戯っぽい笑みを浮かべて皮肉気に、

「引きこもり中のお前さんでも、ある程度外のことを把握しておったのか」

「誰が引きこもりだ!私の場合、周りに人がいると研究の邪魔になるから、ホルルや杏里以外とは合わないというだけだ!」

 それこそ立派な引きこもりではないか、と思うモリガンであったが、これ以上楓をからかっても話がややこしくなるだけだ。何か気になることがあるのなら、確認してみた方がいいかもしれないー。
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