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カイトと杏里、大樹へ(第5話)
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ミケさんとの不思議な邂逅の後、二人は鏡香に「日向荘」の中を案内してもらった。
「元は旅館でしたので、中は広々としていますよ」
鏡香の言う通り、元旅館なだけあってたくさんの部屋があるようだ。その中で、しばらくの間カイトと杏里が滞在できる部屋を2つ用意してもらうことになった。
「本当にありがとうございます。助かります」
「いえいえ」
二人があてがわれたのは、それぞれ2階の部屋だった。障子がはまった窓の外からは、この日向荘の中庭が見える。前文明時代における日本庭園そのものを再現したかのような作りに、思わず感嘆の声を上げる杏里。もう少し部屋でゆっくりしたら、今度は中庭に降りてみてもいいかもしれない。
「ぜひ、ゆっくりしてくださいね。ここは安全ですから」
鏡香も、モリガンからの連絡で一通りのことは知っているようだった。カイトを狙う東方の女剣士が諦めるまでは、ここでお世話になることになりそうだ。
「はい。本当にありがとうございます」
鏡香は、二人をそれぞれの部屋へと案内した後、夕飯の支度があるというのことで1階に降りて行った。
杏里とカイトは、しばらくの間カイトの部屋で話をすることにした。
「いいところね・・・鏡香さんも優しそうな方だし、これならカイトも安心よね」
「うん・・・」
カイトが部屋の中で寝転がる。
「どうしたのかな・・・少しほっとしたら、疲れがどっと出てきちゃった」
そんなカイトの脇に座る杏里。
「そうね、私もよ、カイト」
寝転がるカイトの顔を覗き込む。さすがにカイトみたく寝転がるようなことはしないが、彼女も知らぬうちに体が疲れていたことに気が付いたのか、うーんと伸びをして体をほぐしている。
「モリガンちゃんを疑っていたわけじゃないけど、あの綺麗な道を通る時に、かなり緊張していたのね、私たち」
今までにない体験だっただけに、体のあちこちに変に力がかかっていたのかもしれない。それは、空を飛ぶことには慣れているカイトも同様だった。
「あの感覚は、飛空鎧で空を飛ぶのとはまた違うからね~、変な浮遊感というか・・・それでいて、前にしか進めない強制力みたいなものもあって、なんていうか・・・」
そこで一旦、言葉を区切ってからカイトが苦笑して、
「よくわかんないや」
楓のアトリエでは、先輩たちが敗死したことを知らされ、それ以来ずっと表情を強張らせていたカイトだったが、ここに来てようやく本来の彼らしい笑顔をのぞかせた。
そのことに、杏里が少し安堵する。
その一方で、まだ事態は解決したわけではないことを思い起こす。さすがに、この大樹までカイトの先輩たちを屠った相手が現れるとは思えないが、それでもカイトがこれから先、遠くない未来に杏里たちから離れ、再び空へと戻っていくことを考えると、まだまだ安心できるような状況にはない。
だが、今はこの穏やかな時間に甘えようと、杏里は思った。
「そうだね・・・」
クスクスと笑いながら、杏里はカイトの柔らかな髪を撫でたー。
「元は旅館でしたので、中は広々としていますよ」
鏡香の言う通り、元旅館なだけあってたくさんの部屋があるようだ。その中で、しばらくの間カイトと杏里が滞在できる部屋を2つ用意してもらうことになった。
「本当にありがとうございます。助かります」
「いえいえ」
二人があてがわれたのは、それぞれ2階の部屋だった。障子がはまった窓の外からは、この日向荘の中庭が見える。前文明時代における日本庭園そのものを再現したかのような作りに、思わず感嘆の声を上げる杏里。もう少し部屋でゆっくりしたら、今度は中庭に降りてみてもいいかもしれない。
「ぜひ、ゆっくりしてくださいね。ここは安全ですから」
鏡香も、モリガンからの連絡で一通りのことは知っているようだった。カイトを狙う東方の女剣士が諦めるまでは、ここでお世話になることになりそうだ。
「はい。本当にありがとうございます」
鏡香は、二人をそれぞれの部屋へと案内した後、夕飯の支度があるというのことで1階に降りて行った。
杏里とカイトは、しばらくの間カイトの部屋で話をすることにした。
「いいところね・・・鏡香さんも優しそうな方だし、これならカイトも安心よね」
「うん・・・」
カイトが部屋の中で寝転がる。
「どうしたのかな・・・少しほっとしたら、疲れがどっと出てきちゃった」
そんなカイトの脇に座る杏里。
「そうね、私もよ、カイト」
寝転がるカイトの顔を覗き込む。さすがにカイトみたく寝転がるようなことはしないが、彼女も知らぬうちに体が疲れていたことに気が付いたのか、うーんと伸びをして体をほぐしている。
「モリガンちゃんを疑っていたわけじゃないけど、あの綺麗な道を通る時に、かなり緊張していたのね、私たち」
今までにない体験だっただけに、体のあちこちに変に力がかかっていたのかもしれない。それは、空を飛ぶことには慣れているカイトも同様だった。
「あの感覚は、飛空鎧で空を飛ぶのとはまた違うからね~、変な浮遊感というか・・・それでいて、前にしか進めない強制力みたいなものもあって、なんていうか・・・」
そこで一旦、言葉を区切ってからカイトが苦笑して、
「よくわかんないや」
楓のアトリエでは、先輩たちが敗死したことを知らされ、それ以来ずっと表情を強張らせていたカイトだったが、ここに来てようやく本来の彼らしい笑顔をのぞかせた。
そのことに、杏里が少し安堵する。
その一方で、まだ事態は解決したわけではないことを思い起こす。さすがに、この大樹までカイトの先輩たちを屠った相手が現れるとは思えないが、それでもカイトがこれから先、遠くない未来に杏里たちから離れ、再び空へと戻っていくことを考えると、まだまだ安心できるような状況にはない。
だが、今はこの穏やかな時間に甘えようと、杏里は思った。
「そうだね・・・」
クスクスと笑いながら、杏里はカイトの柔らかな髪を撫でたー。
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