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カイトと杏里、大樹へ(第10話)

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 カイトと杏里、晶と早苗、そしてミケさんがそれぞれ顔合わせしたところで・・・。

「さあ、杏里ちゃん、カイト君。日向荘を見て回ろうか!!」

 さっそく、早苗が日向荘の中を案内しようと、元気いっぱいに二人を連れ出そうとする。

「ちょっと待て、清野・・・二人ともまだ疲れてるかもしれないし、まだ休んでてもらった方がいいんじゃないか」

 考えてみれば、いきなり右も左もわからぬ大樹まで逃げてくることになったのだ。二人とも元気そうには見えるが、本人達も意識していない疲労もあるかもしれない。

「うーん、それもそうか・・・」

 多少眉尻を下げて、残念そうに早苗が零す。

「ここでもうしばらくお話でもする?」

 だが、すぐに眩しくなりそうな笑顔を浮かべて、杏里とカイトに話を振ろうとする。

「私たちのことももっとお話ししたいしねぇ~」

 晶も、空の世界から来たという二人の身の上話には興味があった。彼自身、空の世界への憧れがあったからだ。

 大樹の上部ーキャノピーに当たる部分は、実は雲海から突き出ており、その周りには浮遊大陸やら惑星やらが浮かんでいるので、ある程度は空の世界がどのようなものなのかは想像できる。だが、実際にその場所で暮らすとなると、やはり話は別だ。そこで暮らす二人の話をぜひ聞いてみたいと思った。

 しかし・・・。

「でも、二人とも疲れてないか・・・。モリガンのやつ、いきなり転送魔法陣で二人をここへ送り込んだんだろ?あれ、見た目と違って結構体力消耗するからな」

 杏里とカイトが、大樹に来るために通った「精霊の道しるべ」は、実際の移動時間は一瞬ではあるものの、外の世界と「精霊の道しるべ」内では時間の流れが異なるのか、結構長い間飛行していた感覚があった。そして、そこから出た時に、確かに言い知れぬ虚脱感を覚えたのも事実である。

 おそらく、実際の時間の流れとの違いと、半ば強制的な飛行体験により、体に思った以上の負荷がかかってしまったからではないかーと思われる。

 したがって、晶が二人の体のことを気遣うのも無理からぬことであった。彼自身、以前にモリガンの転送魔法陣を使用後、なんとも言えぬ虚脱感にさいなまれたことがある。モリガン曰く、「慣れるまでの辛抱じゃよ、まあ、乗り物酔いと同じようなもんじゃな」とのことであった。

「ああ、それについては大丈夫だよ、晶」

「私も、少し部屋の中で休んでいたらすぐに体が治りましたし」

 どうやら、杞憂だったようだ。そして、そんな二人の様子を見て、再び早苗が目を輝かせた。

「それじゃあ、お話ししようか、二人とも!」

 この中で最も元気がいいのは早苗のようだ。晶は、いつものことだと多少を肩をすくめて苦笑い。ミケさんに至っては、酒をかっ喰らってさっそく眠りこけている。

「そうね・・・早苗ちゃん。いっぱいお話ししましょう」

 こうして、まずは早苗と杏里のガールズトークから始まったのだったー。
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