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我ら悠久王国なり(第5話)

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 悠久王国レギューム・エタールヌムの主・結城司の待つ大広間へと向かう3人ー。

「久々の緊急招集だね・・・早く出たいなぁ」

 久しぶりに、退屈な城の中から出られるとあって、いささか興奮気味のユリウスー外見年齢通りの子供らしさが滲み出ている。彼が「不老」の力を授かったのは12歳の頃だから、その頃から肉体だけでなく精神的な成長も止まってしまったのかもしれない。

「確かに、お前たちにはここ数十年活躍の場がなかったな・・・」

 ユリウスとイザベラは、ここ数十年はずっと城の中での「お務め」だった。ここでいう「お務め」とは、もちろん司の相手も含まれるが、他にも悠久王国が新たに獲得(手段は問わずだが)してきた新兵たちの訓練なども行っていた。

 そして、その新兵の中には、あの和泉姉弟も含まれているー今は出奔し、双子で新たなチームを立ち上げている。《ユグドラシル》というのがそのチーム名だった。

 和泉姉弟は、ユリウス、イザベラだけでなく、来栖自身も手ほどきを行った。来栖にとっては最初戯れのつもりだったが、実際に訓練を開始すると、この双子の姉弟には見込みがあることもわかり、思わず「教育」に熱が入ってしまったものだ・・・ただ、最終的には二人とは袂を分かつことになってしまったのだが。

「急ぐぞ、お前たち、司がお待ちかねだ」

 二人を急かして大広間へと向かう来栖ー緊急招集をかけた他のメンツはもう集まっているかもしれない。

「腕が鳴るぜ・・・」

「・・・全く、男という生き物は、いつまでたっても子供のままなのですね・・・」

 外見年齢相応の笑みを浮かべて肩を振り回すユリウスを、冷ややかな瞳で見下ろすイザベラ。もっとも、その彼女自身もまた、久しぶりに表へ出られるとだけあって、いささか浮足立っている感は否めない。

 大広間には、既に先客がいた。ユリウスとイザベラの「同僚」たちだ。もっとも、個人意識が強く、仲間意識に乏しい悠久王国の面々にとって、「同僚」や「同志」という表現がどれだけ当てはまるのかはわからないが。

 何人かの先客たちは、胡乱気な瞳を3人ーとはいっても、主にユリウスとイザベラに対してだがー向けた。

 全身の至る所を包帯で隠し、灰色がかった髪を伸ばした長身でやせ型の男ー包帯の隙間から覗く紅い瞳だけが爛々と輝いて見える。

 その隣には、騎士の恰好をまねた双子の兄妹ーただし、その性別は逆転しており、兄が女装、妹が男装している。女装した兄の方は、唇に人差し指を当てて目を細め、面白そうにユリウスたちを見つめるのに対し、男装した妹の方は険しい目つきで二人を睨みつけている。

 部屋の隅では、その巨体を武者鎧で覆いつくした大男の姿がある。3人が部屋に入ってきても、全く動じる様子はないものの、その威圧感たるや、ただ者ではないということを感じさせる。

 さらにその近くでは、外見年齢が大体14~15歳くらいの少女ーこちらは、少なくとも外見上は普通そうに見えるが、果たして・・・?

「・・・」

 天井付近に張り付いている液体金属でできた人形が、ユリウスとイザベラを見下ろしている。体の表面が銀色に輝いており、いかにも液体金属らしい質感がある。

「どうやら、全員揃ったみたいだな」

 大広間に集まった面々を確認する来栖。この面々が、今回来栖が緊急招集をかけた者達だったー。
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