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我ら悠久王国なり(第8話)

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 来栖と司を除き、大広間に集まった全員が退室したー。

「まあ、たまにはあいつらにも遊ばせてやらんとな・・・」

「それについては同意だね・・・この何もない退屈な城で何十年も同じ事ばかりしてるってのは、確かに精神衛生上悪いよ・・・」

「・・・そういうお前は、城から出たのはいつだったかな、司・・・?」

 来栖の問いかけに、司は小首をかしげながら、

「まあ、少なくとも、ここ数百年はこの城からは出てないね・・・」

「だろうな・・・」

 不死者である司と来栖にとって、もはや時間の感覚は希薄なものになっていた。人間にすれば何世代にもわたる歳月を生きてきている彼らにとって、一日も数百年もどちらにも差はないと言える・・・。

「忍は、しょっちゅう外に出て外の様子を見てきてるんだろ?」

「いろいろと外のことを把握しておく必要はあるからな・・・そうしなければ、今回のような「お遊び」もできん・・・」

 世俗から離れた生活を数百年も続けている司に対し、来栖の方は頻繁に外の世界を見てきている。さすがに、数百年もたてば、社会の在り様は様変わりしている。

 とはいえ、社会の形態は変わっていたとしても、人間そのものはさほど変わってはいないというのが来栖の見立てだ。そして、それは自分たち不死者もまた同じことなのであった。むしろ、未来永劫の生を余儀なくされる自分たちだからこそ、逆に変化はあり得ないということか。

「蟲生みと転送魔法陣を使った魔女を捕えて、我が城までお越しいただくー久しぶりの来訪者だ、せいぜい歓迎せねばな」

「歓迎パーティーでも開こうか、忍」

 おどけた口調で司が提案する。

「酒池肉林になりそうだがな」

 肩をすくめて、来栖が応える。さぞかしご立派な歓迎パーティーとなりそうだ。尤も、客自身に受け入れてもらえるかどうかはまた「別問題」だろうが。

「蟲生みを連れてくれば、今まで以上に益蟲、害蟲の培養はたやすくなるーついでに転送魔法陣の魔女を確保できれば言うことはないだろう」

「・・・さっき言い忘れたけれど、無事に連れてこられた人にご褒美を上げないとね・・・そうだな」

 司が顎に手を当てて、少しの間思案する。そしてー。

「不老から不老不死・・・つまりは、私たちと同じ立場にするってのはどうだい?」

「・・・お前がそう決めたのなら、私から言うことはないな・・・」

 不老の力をさらに強化して、完全なる不老不死とするーまさに不死者の誕生だ。それこそ、彼らが長年願い続けてきたことなのだから。

「連中には、後で知らせておく」

「頼んだよ、来栖」

 大広間に、二人だけのかすかな笑い声が響き渡ったー。
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