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咲那と鏡香(第4話)

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「・・・あれは・・・!」

 ふと、目を向けた先にあったのは、森の中で不思議な邂逅を果たしたヴァルキリーの姿ー。

「あれは・・・神族ですか・・・?」

 咲那の視線の先を追って、鏡香もその存在に気が付いたらしい。白銀の鎧を身にまとい、光り輝く翼を広げるその姿は、まさに神族そのものであった。

「この森を逃げ回っている時に、あたしをたぶらかしに来たやつだ・・・まだこの辺りをうろついてやがったのか・・・」

 咲那が忌々し気に吐き捨てた。

「しつこいことこの上ないねえ、あの低級神は」

「あれは・・・ヴァルキリーですよね。すると、まさか咲那さんをたぶらかしに来たというのは・・・」

「ああ、まあ簡単に言っちまえば、勧誘だな・・・」

「まあ、神族からのスカウトを受けたんですか?」

 鏡香が珍しく驚愕の表情を見せる。戦士の魂を選定するヴァルキリーから直々に選定を受けるということは、それだけで実力があると判断されたようなものである。

「それはそうなんだが・・・わかるだろ?あいつらからの勧誘ってのは、こっちがくたばった後に名目上は英雄扱いにして、自分たちの眷属としてこき使ってやろうって話だよ」

 咲那の言葉には痛烈な皮肉が込められてはいるものの、あながち悪意ある解釈とも言い切れないものだった。実際、彼女たちヴァルキリーが死者の魂を選定し、英雄の名のもとに眷属として使役しているというのは間違いないからだ。咲那自身は、もちろん死ぬつもりなどないし、何より自由を好む彼女にとって、束縛されるのはこの上なく屈辱的な話だった。

「そして、チーム《ユグドラシル》所属で、さらにはまだピンピンしているあたしに狙いを定めているってわけさ・・・尤も、あいつら自身は生きている連中には手出しはできねえって決まりだから直接は仕掛けてこねえだろうが・・・」

「その代わり、咲那さんが命を落としやすくする状況を作り出すことはできるっと・・・」

「まあ、そういうこった。それが狙いかもな・・・今回あたしに接触してきたのは」

 そして、今モリガンがいる浮遊大陸での出来事を知らせたのも。

「かまうな・・・と言いたいところだが、どうやらあちらさんはこっちにかまう気満々らしい・・・」

「仕方がありません・・・相手のペースに呑まれないようにしつつ、適当なところでお暇させていただきましょう」

 翼を広げ、ヴァルキリーが咲那と鏡香の目の前に降り立つ。その姿だけを見ればなんと神々しく、そして美しいことか・・・。

 しかし、今の2人には、この目の前の選定者が死神に近しい存在に思えて仕方がなかったー。
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