上 下
419 / 464

咲那と鏡香(第7話)

しおりを挟む
「さっさと帰りな・・・!この低級女神」

「今日のところはどうかお引き取りを、女神様」

 咲那と鏡香ー口調や態度は異なるが、ヴァルキリーを拒絶したという点では全く同じだったー。

「嫌われたものですね、我々神族も」

 ヴァルキリーが、ふっと自嘲気味に笑う。

「別に神族そのものを嫌ってるわけじゃねえ・・・アンタが嫌いってだけだ」

 ヴァルキリーは、やれやれと言った感じで肩を竦めた。

「ですが、いかにあなたたちが手練れとて・・・惑星Σ-11までの移動手段は限られているはず・・・神族である私なら、ほぼ一瞬であなた方を目的の場所までお連れすることもできるのですよ?」

「・・・モリガンちゃんの転送魔法陣みたいなもの、ですか・・・」

 鏡香の問いかけに、ヴァルキリーは静かな笑みを浮かべ、

「原理的にはあれと似たようなものですが、我々神族が使うものはより精緻にできておりまして、あの「精霊の道しるべ」のような途中のショートカット空間もありません。安全性も保障しますよ」

「・・・てめえの力なんざ借りねえと言ったはずだがな」

 咲那は、まだエクセリオンの切っ先をヴァルキリーに向けたままだった。この女は、信用できないー彼女の勘がそう告げていた。

「私を信用しないのは結構・・・しかし、こうしている間にも、悠久王国ばかりではなく、冥府も行動を起こすでしょう・・・一刻も早く、目的の場所へ向かうべきなのではありませんか?」

 それは確かにそうだが、ここでこの女に貸しを作って、後でとんでもない形で「取り立て」られるのも避けたいところだった。

 何せ、彼女は「魂の選定者」なのだから・・・。

「それに、前にも申し上げましたが、少なくとも私が干渉できるのは、あくまでも戦死者の魂のみーまだ亡くなられていないあなた方をどうすることもできません」

「少なくとも、ですか・・・」

 今度は鏡香が訝し気な表情を向ける。

「神族の方を目の前にして、このようなことを申し上げるのも憚られるのですが、実際に、我々人類はあなた方神族の方々に何度も裏切られています・・・それこそ、悪魔以上に」

 前文明時代滅亡後、人類は突如現れた上位の神々と共に大地や世界の再興に努めることとなった。確かに、両者が手を取り合い、一時は共に繁栄の道を歩もうとしたこともあるが・・・。

「実際のところ、前文明時代の聖書の時代においても、悪魔よりも天使や神族の方が、人間を欺き、時には滅ぼしていることが多いくらいですよ」

「なるほど・・・」

 鏡香の言葉に、思わずうなずいてしまうヴァルキリー。彼女の言葉に、自分でも思い当たる節があるのだろう。

「人の子の信頼を得るのも難しいものですね、主神様」

 思わず、彼女の直接の支配者である主神の名を口にするヴァルキリーであったー。

 
しおりを挟む

処理中です...