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咲那と鏡香(第15話)

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 咲那の活躍によって、害蟲を撃退し、無事に飛空船を発着場に迎え入れることができたー。
 
 係員にも事情は説明し、実際の被害が軽微なこともあって、感謝される二人だった。

「まあ、少し地面を焦がしちまったのは申し訳ねえけどな」

「いえいえ、害蟲が出て、この程度で済んだのであれば幸いです。本当にありがとうございました」

「おそらく、そうすぐには害蟲は来ないでしょうが、万が一のことも考えて、害蟲除けの結界も張っておきますね。これでしばらくの間は、害蟲が寄り付かなくなるでしょう」

 鏡香が結界を張るのを申し出る。こういった作業では、戦闘専門の咲那の出番はなかった。

「それはありがたい・・・本当に何から何まで」

「いえいえ」

 鏡香が持っていた符を取り出し、それに害蟲除けの魔力を込めるのを傍で見ながら、咲那は先ほどの鏡香の言葉を思い出した。

 ーもうすでに、江紀さんの隣に立っていますよー

 咲那には、まだまだ江紀は手の届かない相手のように思える。鏡香が自分に気を遣って言った言葉だろう。

 とはいえ、まだ届かないまでも、いつかは届きたい相手であることには違いない。自分が納得できる形で、江紀と相対するまでは、まだ自分は彼の「隣に立った」とは言えないのだ。

「・・・江紀なら、こんな焼け焦げなんて残さず、仕留めただろうな・・・」

 もはや消し炭しか残っていない害蟲の成れの果てを見て、そう独り言ちる咲那。実際、江紀ならもっと手際よくこいつを退けただろう。

「咲那さん」

 黒こげのアスファルトを眺めていると、結界張りが終わったのか、鏡香が係員と共に戻ってきた。

「おう、そっちは終わったようだな」

「ええ」

 鏡香は、この発着場の害蟲が侵入しそうな箇所に符を置き、結界を張ってきた。符術師としての才能もある鏡香ならではの結界の張り方だった。

「これで・・・大体6か月くらいでしょうか・・・すみません、本当ならもう少し結界を充実させたかったのですが」

「いえいえ、大変助かります」

「私が知っている天空世界の害蟲駆除チームにも、それとなくお話しておきますので、何かあればそちらの方へご相談ください」

「これはもう、本当にご丁寧に、ありがとうございます」

 係員が何度も頭を下げて感謝してくるので、咲那は思わず苦笑してしまった。

「符による結界って、結構長持ちするんだな」

 咲那は、生憎と符術については詳しくはなかった。有効期間が半年と聞いて、意外と長期間維持できるのだと初めて知ったくらいだった。

「本格的にやれば、もう年単位での結界も可能なんですが、さすがに今は準備ができていないので、半年くらいが限度ですね」

 つまりは、有り合わせで間に合わせたということだが、それでも限度まで結界を維持できるのなら大したものである。

「ふーん、まあ、今度詳しいこと教えてくれよ、鏡香。あたしはそっちの方面はさっぱりだ」

 肩を竦めながら咲那は鏡香の張り巡らせた結界に目を向ける。詳しいことはわからないものの、確かにこれなら長期間は維持できそうだったー。

 
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