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日向荘にて(第26話)

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「むきー!!扇女め・・・どこまでも腹が立つやつでやんすな!!」

 早苗の挑発に、あっさりと乗ってしまう憤ドラゴラー。

 その名の通り、「憤怒」の表情をあらわにしながら、しかしどの早苗が本物なのかわからないので、地団駄を踏むしかない憤ドラゴラである。

「ええい、こうなったら、片っ端からぶっ飛ばしてやるでやんすよ!!覚悟するがいいでやんす、扇女!!」

「おお・・・幻にとらわれていても、やる気の方は十分だねぇ、憤ドラゴラ君」

 これまたからかうような口調で早苗が言う。そんな早苗に対して杏里が、

「あのう・・・早苗さん。あまり憤ドラゴラさんを挑発しない方がいいのでは?」

「杏里ちゃん・・・」

「ええと、なんだか憤ドラゴラさんがちょっとかわいそうになってきたかなって、思えてきて・・・」

 心優しい杏里のことである。害蟲の影響を受けているとはいえ、憤ドラゴラを哀れに思う心はまだあるのだろう。

 そんな杏里に、早苗も少し思うところがあるらしい。ほんの少し逡巡してから、

「杏里ちゃんの言う通り、あまりいじめすぎると確かに後が面倒かもねぇ~。それじゃあ・・・」

 早苗が、憤ドラゴラの方に向き直り、

「そろそろけりをつけてあげようかな」

「・・・結局、憤ドラゴラさんを折檻することには変わりないのですね・・・」

 溜息をつく杏里。しょうがない、こうなれば、せめてこれ以上事態が悪化しないように見守るしか道はないだろう。

「そういうこと。ここでお仕置きしておかないと、またお庭を壊したりするかもしれないしねぇ~」

 先ほど、憤ドラゴラが庭石を破壊したのは事実である。あの調子で今後も暴れられると確かに困る。今ここで、力ずくでもおとなしくさせておかないと、鏡香が帰宅した時にお叱りを受けそうである。

 幻覚に惑わされ、ただやみくもに早苗の幻影を片っ端から攻撃しまくる憤ドラゴラが、これ以上中庭を壊さないようにしなければー。
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