Vicky!

大秦頼太

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ミュージカル版

第十場

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●第十場● 港町
1.△プロジェクター………P010_「港町」(5秒程度表示)
(表示が消えたら)
2.■音響………019_港町(FI)
3.□照明………10_全体明かり(CI)

   木の販売先を知る木の精。海鳥の泣き声、波の音。黒豹と木の精は舞台中央。
   材木商人の娘ニコラは上手奥にて客席に背中を向けて作業中。

黒豹   それではここでお別れだ。アタシはここからかすかな臭いを追って妖精を見つ
    けないといけないからね。じゃあね。
木の精  ありがとう。お元気で。なんだか色々な匂いがするなぁ。

   黒豹が去ると商人の娘が木の精に気がつく。

ニコラ  いらっしゃい。何か用かい? おや、お客さん海外の人かい? 面白い格好を
    してるね。ここは見ての通り世界中の木と言う木を扱っている材木商さ。どんな
    木をお探しだい?
木の精  木の精です。
ニコラ  そうかい。悪かったね。じゃあ、こっちは忙しいんで。
木の精  探してるんです。
ニコラ  なるほど、やっぱり海外の人なんだね。いいよ、言葉って言うのは難しいもん
    だ。よしきた。ゆっくりあんたの相手になろうじゃないか。
木の精  妹を探しているんです。妹は木で年齢が500歳を過ぎています。
ニコラ  これは難解だ。いや、そうか。樹齢500年の木ってことだな。だとすると、
    そんなに難しくは無いよ。

♪ちょっと待ってな
ちょっと待ってな この港には 世界中から いろんなものがやって来る
世界の中のあらゆるものが アタイの目の前に並んでる
目録片手に指示を出し まるで世界を動かしてるよう
ちょっと待ってな すぐに見つける 見つけ出す
ここはアタイの 庭だから

ニコラ  ああ、あったよ。どうも一足違いで売れてしまったみたいだ。残念だったね。
木の精  どこに行ったんでしょう?
ニコラ  おっと、直談判しに行くのかい? 今頃はもう家の柱になってるかもしれない
    ぜ?
木の精  それでもかまいません。教えてください。
ニコラ  熱心な人だな。嫌いじゃないよ。
木の精  木の精です。
ニコラ  そんなに謙遜するなって。ええっと、購入者はマイエンフェルトのあたりに住
    んでいるみたいだな。そこから注文が来てたよ。ああ、マイエンフェルトはここ
    から南東の町だよ。向こうから馬車が出ているはずさ。
木の精  ありがとう。

   木の精、上手に歩いていく。

ニコラ  あれはどこの国の人だろうかなぁ。

   下手奥からオオカミがやってくる。
   ニコラ、手持ち無沙汰なら一回下がってもOK。

オオカミ さて、どこに行こうか。黒豹の奴にはついて来るなと言われたしなぁ。いや、
    待てよ。もう一人の奴には言われてないな。って言うことは、木の精にはついて
    行って良いのか。それにしても腹が減ったなぁ。

   ニコラ、オオカミに気がつく。

ニコラ  いらっしゃい! お客さんは何をお探しだい?
オオカミ ちょうど良かった。何か食べられる物はないか? 俺は何でも食べるぞ。何で
    も食べるからこそ美味いものが食いたい。
ニコラ  お客さん残念だったね。ここには世界中から木材が送られてくるけれど、食べ
    物は送られてこないのさ。
オオカミ 確かにお前、あんまり美味そうには見えないな。しかし、好き嫌いは良くない
    よな。我慢するか。
ニコラ  今日は変わったお客さんが多いなぁ。いつも以上に忙しい。ところでお客さん
    の耳はどうしてそんなに大きいんだい?
オオカミ どうして俺の耳が大きいかって? それは周りの音をよく聞くためだよ。
ニコラ  なるほど。じゃあ、お客さんの目はどうしてそんなに大きいんだい?
オオカミ どうして俺の目が大きいかって? それは食べ物をしっかりと見るためだよ。
ニコラ  なるほどなるほど。しかし、お客さんの口は大きいねぇ、どうしてなんだい?
オオカミ どうして俺の口が大きいかって?
ニコラ  あ、ごめん。ちょっと待ってて!

   ニコラ、走り去る。

オオカミ それはねぇ(飛び掛るための距離を取る)、お前を食べるためだよ!

   誰もいない。

オオカミ ……。へっ、人間なんか食べても美味くないからな。わーざと見逃してやった
    んだ。ありがたく思うんだな!

□照明………暗転(CO)

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