Vicky!

大秦頼太

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第七場

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●第七場● お爺さんの家1 夜
   ビッキーが椅子に座っている。

妖精   お腹空いたなぁ。何か無いかなぁ。(ビッキーに気がつく)やあ、人形さん。元
    気かい? 僕は元気だよおかげさまで。え? オイラは誰かって? 嫌だなぁ、
    もう忘れたのかい? あさってのおととい明日の昨日、三日前の五日先にオイラ
    と会ったじゃないか? へへへ、オイラはラニ。妖精さ。おやおや? その顔は
    信じていないと見える。いいだろう、その証拠をお見せしよう。何でもお題をく
    れたまえ。パッと何でもやってやろう。なんたってオイラは怖いもの知らずだ。
    悪魔に白ペンキをぶっ掛けて、半分白くしてやったこともある。まぁ、そのせい
    で悪魔が血眼になってオイラを追いかけてくるんだけどね。さあ、言っておくれ。
    何がお望みだい?

   妖精、ビッキーを見る。

妖精   なんとびっくり。こいつは驚いた。しゃべってるのはオイラだけだ。はじめま
    してお嬢さん。

   妖精、ビッキーを見る。

妖精   ここまで無視されるのも悲しいや。オイラショック。ショックでお腹が空いた
    よ。台所はどっちだい?

   妖精、ビッキーを見る。

妖精   あれ? 体が動かないのかい?
ビッキー (まばたき)
妖精   なるほどね。そういうことか。こいつは好都合。じゃなくて、大変だね。そう
    大変だ。一人でしゃべり続けるって結構大変なんだぜ。でも、良かったね。オイ
    ラ良い物を持ってるんだ。(バッグから小瓶を取り出す)じゃーん、これ。こいつ
    を鼻に塗ると言葉がしゃべれるようになり、飲むと体が動くようになるって代物
    だ。どうだいすごいだろう?
ビッキー (まばたき)
妖精   ちょっとしたリスクもあるんだけど、それはまぁ可愛いもんだ。どうだい興味
    はあるかい? へへへ、まぁ、物は試しってね。まずは鼻に塗っておしゃべりし
    ようか。

   妖精、小瓶の中の液体を指先につけてビッキーの鼻に塗ってやる。
   まだ体は動かないよ。

ビッキー 冷たい!
妖精   どうだい? 話せるようになった感覚は?
ビッキー すごいわ。夢みたい! あたししゃべっているのね!
妖精   そうだろうそうだろう。どう? 飲んでみる? 今度は体が動くようになる
    よ?
ビッキー 飲ませて! 私、動けるようになりたいの。
妖精   そう。それは好都合。おっと、こっちの話。さあさ、たんと召し上がれ。

   妖精、ビッキーに小瓶の液体を飲ませる。

ビッキー 動かないわ。
妖精   しーっ、しばらくじっとして。雫が体全体に染み渡るまで我慢が必要だよ。大
    丈夫。オイラは嘘はつかないからね。君の体は動くようになるよ。でも、時間が
    必要なんだ。ほら、目を閉じて。少し眠るといい。目が覚める頃には、君は人間
    のように動けるようになっているさ。

   ビッキー、妖精に言われるままに眠りについてしまう。

妖精   さて、上手くいった。これで悪魔との追いかけっこもおしまいだ。誰もオイラ
    を追ってこられなくなるからね。ゴメンネお嬢さん。オイラの身代わりになって
    もらうよ。と言ってもお嬢さんには何のことだか分かるまい。しばらくしたら、
    半分白い悪魔がやって来るだろう。いや、やって来ないかもしれない。まぁ、と
    にかく後はお嬢さん次第さ。それでは、ごきげんよう!

   妖精、走り去る。
   マーゴがやって来る。

マーゴ  ねえ、ビッキー。眠れないの。少しお話をしましょ。みんなが私を差別するの
    よ。あの子は都会から来た嫌な奴だって。私、もっと友達が欲しいのに。ビッキ
    ーとお話が出来たらいいのに。あら、目を閉じてる。寝てるの? ねえ、目を開
    けて。

   ビッキー、突然目を開き立ち上がる。ハイジのクララを超える衝撃。

マーゴ  (恐怖)ビッキーが立った! ビッキーが立った! お爺ちゃーん!

   マーゴが奥へと逃げていく。

ビッキー 私、立ってる。体が動くわ。それにしゃべってる。なんてステキなのかしら。
    私、人間になれたんだわ!

   お爺さん、マーゴに連れられてやって来る。
   マーゴはまだ少し恐怖の中にいる。お爺さんを盾にする。

お爺さん なんだいなんだい。怖い夢でも見たのかい。
マーゴ  ビッキーが大変なのよ!
お爺さん どこか壊れたのかい? 明日の朝、直してあげるよ。
ビッキー こんにちは。
お爺さん おおおおおお、人形がしゃべった! 動いた!
ビッキー そうよ! 私しゃべれるし動けるのよ!
お爺さん なんと言うことだ。なんと言うことだ! (お爺さん喜びに震える)わしは天
    才だったのか!
マーゴ  ビッキー、動けるようになったの?
ビッキー そうよ。よろしくね、マーゴ。
マーゴ  どうしてしゃべれるようになったの?
ビッキー 妖精さんがお薬を飲ませてくれたのよ。

   間。

お爺さん なんだ妖精のおかげで話せるようになったのか。(がっかり)
ビッキー そうよ。私、人間になったのよ。
マーゴ  本当に?
お爺さん しかし、これは驚いたなぁ。どういう仕組みになってるんだろうか。
マーゴ  ビッキー、一緒に遊びましょ。
ビッキー ええ! でも、何をして遊べばいいのかしら?
お爺さん そうだ。マーゴット、お前がビッキーの先生になってあげるんだ。
マーゴ  私がビッキーの先生に?
ビッキー そうしてくれたら嬉しいわ! マーゴ。私に一杯いろんなことを教えて頂戴
    ね! この世界のことがもっともっと知りたいの!

   暗転。

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