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迷宮の主
迷宮の主 6
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二階に上がると酸っぱい酒の匂いの中に、花の香のような別の匂いが混じってきてナサインは鼻と口を右手で塞ぐ。混ざると頭がくらくらするような威力があった。二階は一階の騒音などまるで子猫のケンカくらいに盛り上がっていた。
廊下の中ほどくらいまで歩いてくると部屋のドアが開いた。そこが騒ぎと匂いの元凶だったのか部屋の中から匂いや音が目に見える強風のようにナサインに襲いかかった。その瞬間、白い網が目の前に落ちてきて立ちくらみを起こし、部屋から出てきた劣情的な下着姿の女の胸に顔を押し付ける結果になった。
「お前、スケベ」
すぐ後ろで嬉しそうに手を叩くネジフのニヤケ顔を見て意識を取り戻すと、女の肩を押して部屋の中を覗き込む。女は終始笑ってナサインに抱きついてくる。ナサインは女をネジフの方へ放り出すと部屋の中に入っていく。
「ここに坊さんが……」
そう言いかけてナサインは口を開いたまま立ち止まった。
ハゲ頭の裸の男が数人の下着姿の女を追い掛け回している。部屋の奥の真ん中には大きなソファーが置かれ、そこでこの乱痴気騒ぎを拍手して楽しんでいる大男の姿も見えた。両側に女を抱えながら、女の勧める酒を逆らいもせずに飲み干していた。
ナサインの体が震える。目の奥から赤い光が一気にあふれ出てくる。
「てめえ、何してんだ! 今がどんな時だかわかってんのかよ!」
燃え上がるような騒ぎは一瞬で鎮火した。下着姿の女たちはそそくさと自分の服を取りに戻る。ハゲ頭の裸の男は所在なさげにナサインを見つめている。そうしてゆっくりと周囲を見回し、自分の顔を指差した。
「……私? 今、なんでしたっけ?」
ナサインはハゲ頭の裸の男を押しのける。女の身体を盾にして隠れている大男の前にまで歩いてくると、その腕をつかんだ。
「シビト。お前だよ」
引っ張られるままシビトは女の影からゆっくりと立ち上がる。
「まぁ、そんなに怒るなよ」
「このお方は悪くないですぞ!」
ナサインが振り返るとハゲ頭の男はまだ裸のままだった。女たちはこっそりと部屋の外に出て行くのだった。
「私の悩みを解放してくれたのです」
ナサインは部屋の中を見回す。部屋の中にはシビト、アグバデの剣士、裸のハゲ頭の男。
「坊さんがいるはずなんだけど? 違う部屋か?」
ハゲ頭の男は腕を組んで胸を張ってみせる。
「私が僧侶のモンテールであります」
その瞬間、ナサインの心に冷たい風が吹いた。ハズレを引いたかも知れない。だが、時間がない。
「あんた僧侶だったのか。ただのスケベ親父かと思ってたよ」
シビトは大笑いをして部屋の外へ出て行こうとする。
「シビト。どこに行く」
シビトは引きつった笑いを見せて廊下の外を指差す。
「トイレ」
「必要ないだろ」
シビトは舌打ちをしてソファーに戻ると転がっている酒瓶を拾い上げて中の酒を飲み始める。
「あ、俺も飲みてー」
ネジフがシビトの真似をして酒瓶を拾うがどれもはずれでビンを振っては捨てる。
ナサインは裸のまま微動だにしないハゲ頭の男モンテールに向き直る。
「モンテールさんは迷宮に興味はあるかい?」
モンテールは片手で顔を隠す。
「恥ずかしながら、今は破門となった身。お役に立てるとは思えませんな。しかしながら、ここに来る兄弟たちとはまだ縁がありますから、ご紹介くらいは……」
「いい。祈れるんだろ?」
「それはまぁ」
「とりあえず服を着てくれ」
モンテールは部屋の隅に転がっている下着と長衣を拾ってくる。
「今は時間が惜しいから、あんたで十分だ」
ナサインの声にモンテールの下着を引き上げる手が止まる。
「そうですか。では、よろしくお願いします」
太ももに下着を挟んだ男がナサインに頭を下げた。ナサインは小さくため息をついた。
「おい、紹介しろよ」
シビトがネジフをあごで指す。
「こっちはネジフ。フードを取って」
ネジフはナサインに促されるとフードを取る。その出てきた頭を見てシビトが大笑いする。
「なんだハゲが二人か。白と黒のハゲだな」
ネジフが腕を振り上げて激高する。
「ふざけんな俺はハゲじゃねえよ。剃ってんだよ。このハゲと一緒にすんな」
モンテールは下着姿で苦笑いする。
「私だって好きでハゲたんじゃないんですけどね」
ナサインは頭を抱えた。先が思いやられる。
「何だ? 頭痛かお前?」
二階に上がると酸っぱい酒の匂いの中に、花の香のような別の匂いが混じってきてナサインは鼻と口を右手で塞ぐ。混ざると頭がくらくらするような威力があった。二階は一階の騒音などまるで子猫のケンカくらいに盛り上がっていた。
廊下の中ほどくらいまで歩いてくると部屋のドアが開いた。そこが騒ぎと匂いの元凶だったのか部屋の中から匂いや音が目に見える強風のようにナサインに襲いかかった。その瞬間、白い網が目の前に落ちてきて立ちくらみを起こし、部屋から出てきた劣情的な下着姿の女の胸に顔を押し付ける結果になった。
「お前、スケベ」
すぐ後ろで嬉しそうに手を叩くネジフのニヤケ顔を見て意識を取り戻すと、女の肩を押して部屋の中を覗き込む。女は終始笑ってナサインに抱きついてくる。ナサインは女をネジフの方へ放り出すと部屋の中に入っていく。
「ここに坊さんが……」
そう言いかけてナサインは口を開いたまま立ち止まった。
ハゲ頭の裸の男が数人の下着姿の女を追い掛け回している。部屋の奥の真ん中には大きなソファーが置かれ、そこでこの乱痴気騒ぎを拍手して楽しんでいる大男の姿も見えた。両側に女を抱えながら、女の勧める酒を逆らいもせずに飲み干していた。
ナサインの体が震える。目の奥から赤い光が一気にあふれ出てくる。
「てめえ、何してんだ! 今がどんな時だかわかってんのかよ!」
燃え上がるような騒ぎは一瞬で鎮火した。下着姿の女たちはそそくさと自分の服を取りに戻る。ハゲ頭の裸の男は所在なさげにナサインを見つめている。そうしてゆっくりと周囲を見回し、自分の顔を指差した。
「……私? 今、なんでしたっけ?」
ナサインはハゲ頭の裸の男を押しのける。女の身体を盾にして隠れている大男の前にまで歩いてくると、その腕をつかんだ。
「シビト。お前だよ」
引っ張られるままシビトは女の影からゆっくりと立ち上がる。
「まぁ、そんなに怒るなよ」
「このお方は悪くないですぞ!」
ナサインが振り返るとハゲ頭の男はまだ裸のままだった。女たちはこっそりと部屋の外に出て行くのだった。
「私の悩みを解放してくれたのです」
ナサインは部屋の中を見回す。部屋の中にはシビト、アグバデの剣士、裸のハゲ頭の男。
「坊さんがいるはずなんだけど? 違う部屋か?」
ハゲ頭の男は腕を組んで胸を張ってみせる。
「私が僧侶のモンテールであります」
その瞬間、ナサインの心に冷たい風が吹いた。ハズレを引いたかも知れない。だが、時間がない。
「あんた僧侶だったのか。ただのスケベ親父かと思ってたよ」
シビトは大笑いをして部屋の外へ出て行こうとする。
「シビト。どこに行く」
シビトは引きつった笑いを見せて廊下の外を指差す。
「トイレ」
「必要ないだろ」
シビトは舌打ちをしてソファーに戻ると転がっている酒瓶を拾い上げて中の酒を飲み始める。
「あ、俺も飲みてー」
ネジフがシビトの真似をして酒瓶を拾うがどれもはずれでビンを振っては捨てる。
ナサインは裸のまま微動だにしないハゲ頭の男モンテールに向き直る。
「モンテールさんは迷宮に興味はあるかい?」
モンテールは片手で顔を隠す。
「恥ずかしながら、今は破門となった身。お役に立てるとは思えませんな。しかしながら、ここに来る兄弟たちとはまだ縁がありますから、ご紹介くらいは……」
「いい。祈れるんだろ?」
「それはまぁ」
「とりあえず服を着てくれ」
モンテールは部屋の隅に転がっている下着と長衣を拾ってくる。
「今は時間が惜しいから、あんたで十分だ」
ナサインの声にモンテールの下着を引き上げる手が止まる。
「そうですか。では、よろしくお願いします」
太ももに下着を挟んだ男がナサインに頭を下げた。ナサインは小さくため息をついた。
「おい、紹介しろよ」
シビトがネジフをあごで指す。
「こっちはネジフ。フードを取って」
ネジフはナサインに促されるとフードを取る。その出てきた頭を見てシビトが大笑いする。
「なんだハゲが二人か。白と黒のハゲだな」
ネジフが腕を振り上げて激高する。
「ふざけんな俺はハゲじゃねえよ。剃ってんだよ。このハゲと一緒にすんな」
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「何だ? 頭痛かお前?」
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