迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 16

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「シミュラ様、シミュラ様! 閉まってますよ。ここ、閉まってますよ」
 暗闇の中に落ち着きの無い男の声が聞こえてくる。続く女性の声には鋭く深い響きがあった。
「うるさいわね。ガリクソ、レフスを黙らせなさい」
「はい。シミュラ様」
 落ち着いた声の男が返事をすると同時に鈍い音が響く。
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「だから静かにしてるんだよ」
「うん、わかった! ねえねえ、シミュラ様!」
「だからうるさいって」
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
 騒がしい声を切り裂いて可愛らしい声が聞こえてくる。
「ねぇ、シミラ様」
「カーナ。ワタクシの名前はシミュラ。何度言えば覚えてくれるの?」
「だって言いにくいんだもん」
「まぁ、そこがカーナの可愛いところね」
「えへへ」
 愛くるしい笑い声をかき消すように落ち着きの無い声が響く。
「でも閉まってるってことはさ、財宝があるってことじゃねぇ? ことじゃねぇ?」
「うん、だからってうるさくしていいってことじゃないね」
「その通りだね! そのとーり!」
「だからうるさいって」
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「こんな低層に金目のものなんて無いわよ」
「俺は低脳じゃない!」
「だからうるさいって」
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「すみません。うるさくて」
「いいのよガリクソ。死ぬまでしか騒げないんだから、ワタクシは楽しんでますよ」
「それ見ろ! バーカバーカ」
「カーナ、お前ならどうする?」
「はいな。シミラ様、あちしなら顎が形をなくすまでぶん殴り続けます」
「カーナ、怖いこと言わないの。でも、そこがカーナの可愛いところね」
「えへへ」
「財宝! 財宝!」
「だから、罠があったら大変だからやめときなさい」
「えー、そうだね。罠があったらやめるよ。財宝! 財宝!」
「レフス。黙ってそこに座りなさい。消しますよ?」
「はい、シミュラ様!」
「すみません。シミュラ様」
「ガリクソ。二人はセットなんだから、もっとお前も努力なさい」
「はい」
「やーい、怒られた!」
「黙れ」
 鋭いシミュラの声が静寂を生むとすぐにやわらかい響きに変わって聞こえてくる。
「カーナ」
「はいな」
「賢いお前ならどうする?」
「はいな。あちしの亜法なら開けなくてもわかります」
「まぁ、素敵。カーナは本当に賢くて可愛いわね」
「では、ナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカ、中みーせて」
「どう?」
「何か変な感じです。黒い渦が見えますよん」
「黒い渦?」
「あいつわかんねーから適当に言ってるんだぜ」
「そういうことを言わないの。悪口みたいだろ」
「だって、悪口だもん」
「ガリクソ」
「はい」
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「やーめた。渦しか見えないから飽きちゃった」
「じゃあ、やめておきましょうか」
「はいな」
「ほら立て」
「あーあ、財宝があるのになぁ。もったいねーもったいねー」
「ガリクソ」
「はい」
 ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「えい」
 ゲシ。
「痛い! ちびでも蹴られると痛い!」
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