迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 20

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20

 ウイカは転がった丸蟲を避けながらネジフに向かっていく。ネジフは丸蟲を楽しそうに蹴り飛ばしながら楽しそうに叫んでいる。
「ホウ! ホウ!」
 丸蟲はうなりを上げながら通路の奥に消えていく。それを見ていたシビトも真似をして丸蟲を蹴り始める。しかしシビトが蹴り上げると丸蟲は粉々に砕け散ってしまう。
「ふん」
「ネジフ! 斧!」
「ありがとよ!」
 ネジフはウイカから戦斧を受け取るとそれを担いで丸蟲を蹴り続けるのだった。
「斧、使わないんだ」
 ウイカははっとしてナサインを探す。ナサインは壁にもたれながら座り込んでいる。
「何、休んでるのよ!」
 ナサインの側にやってくると、ウイカはぎょっとした。ナサインの顔色が明らかに悪い。
「大丈夫?」
 その声にナサインはゆっくりと顔を上げて、前方の通路を指差した。ウイカが見ると前方の通路でも大きな丸蟲が黒い糸に縫い付けられていた。後方に比べると黒い糸の本数は圧倒的に少なかった。その間から、丸蟲たちがぞろぞろと涌き出てくる。
「ごめん」
「いい。当然のことをしてるだけだ」
「ナサインって結構いい奴なんだね」
「勘違いするな」
 ナサインは壁に手をついて立ち上がる。
「魔素の量が増えれば、こんな奴ら……」
 ナサインは通路後方を目指して歩き出す。
「そうだ。横から穴を開けてくるつもりみたいよ」
「あれはあれで終わりじゃない」
「え?」
 ウイカはナサインを支えようと手を出したが、ナサインはそれを振り払う。
「モンテール離れろ。お前もだ」
 頭を押さえながらモンテールはナサインの背に回りこむ。ナサインは左手を突き出しながら黒い糸に触れる。それに丸蟲たちが反応して一斉に身動きを開始する。
 糸が振動を始めると黒い糸に触れた丸蟲たちがボロボロと形を崩していく。その開いた隙間めがけて他の丸蟲が飛び込んできて黒い糸にその身を喰われていく。
「丸蟲は魔素の量が少ないから嫌いなんだ」
 ナサインは床に膝を付く。ウイカがそれを支えに行く振り返り、モンテールを呼ぼうとするとモンテールはすでに背中を向けてその場を離れようとしていた。
「ちょっ……」
 ウイカはモンテールの背中の地図を見て言葉を止める。
「ナサイン! 下に行く階段がある。近いよ」
「……知ってる。丸蟲の巣は地下一階の最後の出し物だ。騒がずに進めば誰だって安全に通り抜けることが出来る。それがこんなに過敏に反応するってことは先を行った連中が悪戯に騒ぎ立てたか全滅したかだ」
 メリメリメリ。
 壁に穴が開く。丸蟲の頭が壁を食い破りながら出てくるのが見える。ウイカはナサインを支え起こす。
「先に進もう!」
「こんな雑魚相手に逃げられるか! ふざけやがって!」
 ナサインはウイカを振りほどき両手を頭上に掲げる。
「あのバカ」
 シビトがナサインの声に気がつき、通路中央に向かって拳を突き立てる。
「ふん!」
 シビトの気合で床が盛り上がり壕が作られた。
「全員ここに入れ! 荷物も入れろ」
「ナサインが!」
「あいつは大丈夫だ」
 シビトはモンテールを中に放り投げる。その上にネジフが荷物を放り込んでくる。
「ちょっと、もう少し優しく」
「わりいな」
 最後は飛び込んできたネジフの下敷きになる。
「おじさんは?」
「俺も無事だ」
「じゃあ、あたしも」
「ダメだ」
 シビトはすぐにそう言うとウイカを壕の中に押し込む。
「きちんと隠れていないと吹き飛ばされるぞ」
 壕の側に寄ってくる丸蟲をシビトが駆逐する。ナサインは頭上にあった両手を左右にゆっくりと開いていく。黒い稲妻が両手の中に発生し、ナサインの背中と胸を焦がす。それを下に向け両手を合わせる。瞬間、ナサインの両手は大きく弾かれて彼自身も大きく吹き飛ばされ宙を舞う。そこで生まれた黒い衝撃波が丸蟲たちを吹き飛ばし、天井や壁に激突させその身体を押しつぶす。
 ナサインも同じように壁に激突し地面に叩きつけられた。そのままピクリともしない。
「行くぞ」
 シビトはナサインを抱えるとウイカたちに指示を出した。
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