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迷宮の主
迷宮の主 29
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29
シビトはナサインの前に滑り込む。モンテールは階段を降りて物陰に滑り込む。ネジフは戦斧を構え、階段の上から周囲を警戒する。ウイカは階段の中段に降りる。
「何だお前ら」
ネジフが先に相手を発見したようだった。ナサインは左の階段を駆け上がる。シビトもそれを追う。ウイカは物陰に隠れたモンテールに止まっているように合図を送る。
ナサインは階段の上に広がる広い通路の上に人影を発見する。男女がそれぞれ二人ずつだった。
ナサインの目は一人の女性に注がれていた。
白が基調の長衣が風に揺れるたび、青や緑の光を発する。象牙色の長大な杖を持つ長い黒髪の女。ナサインの声が上ずる。
「シミュラ……」
その言葉をさえぎるようにオレンジ色の髪の女の子がナサインの前に現れる。脇に立つ男たちは戦士のようだったが、幸薄そうな一人は武器も抜かずにぼんやりと立っているだけだった。もう一人の貧相な男は、ネジフに近づいていく。
「うわっ! 目が浮いてると思ったら、人間だった」
「てめえ、ふざけてんのか」
ネジフが戦斧を振り上げると、貧相な戦士の男は走って逃げていく。
「怖い! 怒った! 怖い!」
ナサインの前にシビトが出た。ナサインはその影で両手を合わせる。
「お待ちナサイン」
鋭い美しい響きを持った声だった。
「迷宮の主が、こんなとこまで来た理由は一つじゃないのか?」
ナサインは両手を広げると黒く長い杖が現れる。シミュラは、声を出して笑った。
「一つじゃないわ」
「ガリクソ、腹が減ったよ。オイラ腹が減ったよ」
貧相な戦士が幸薄そうな戦士ガリクソの肩を叩く。ガリクソは、その頭を殴りつける。
ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「だから静かにしてるんだよ」
シミュラは子犬のようにナサインをにらみつける女の子の肩を押さえると、自身の前にまで手繰り寄せる。
「迷宮の主が変わったのに生きているのね」
シミュラの視線からナサインは目を逸らして逃げる。
「新しい主がどんな奴か見に来たのよ」
「それだけじゃないだろ?」
「気に入らない奴なら、殺して奪うつもりでもいたわ」
ウイカは階段を上がりシミュラの姿を見る。女の子がそれに気がつきウイカに小さな舌を見せる。
「カーナ。おやめなさい」
「はいな」
「聞き分けの良い子。本当にカーナは良い子ね」
「へへへ」
オレンジの髪のカーナはシミュラの手に抱きついた。
「だったら、さっさと下に行けばいいだろ」
ナサインはシビトの横に立つ。シビトもゆっくりと身構える。シミュラは長大な杖をシビトに向けて、それからゆっくりしゃがむと杖を床に置いた。そしてまた立ち上がる。
「シモンズ王に対してご無礼でしたね」
シビトはまんざらでもない様子で構えを解いた。
「ナサイン、向こうは話し合いを望んでいるぞ」
ナサインはそのシビトの変わりように舌打ちを返す。黒い杖を空間に投げ捨てると、杖は霧散する。
「立ち話も、なんですから、この先の部屋で、お話でも、いたしましょうか、シミュラ様」
一言ずつ言葉を押し出すようにナサインは言った。その提案にシミュラは凍りつくような笑みを浮かべた。
「それがいいわね」
「ご飯! ご飯!」
はしゃぐ貧相な戦士をガリクソが殴りつける。
ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「だから静かにしてるんだよ」
「俺はレフスなのに!」
「うん、何で自分の名前を言うのかかわからないね」
「俺が誰なのかわかってないからだよ。殴られ損だよ!」
貧相な顔の戦士レフスは明らかにわかる嘘泣きを始めた。
カーナがその両手で押さえた顔に蹴りを入れる。
「えい」
ゲシ。
「痛い! ちびでも蹴られると痛い!」
シビトはナサインの前に滑り込む。モンテールは階段を降りて物陰に滑り込む。ネジフは戦斧を構え、階段の上から周囲を警戒する。ウイカは階段の中段に降りる。
「何だお前ら」
ネジフが先に相手を発見したようだった。ナサインは左の階段を駆け上がる。シビトもそれを追う。ウイカは物陰に隠れたモンテールに止まっているように合図を送る。
ナサインは階段の上に広がる広い通路の上に人影を発見する。男女がそれぞれ二人ずつだった。
ナサインの目は一人の女性に注がれていた。
白が基調の長衣が風に揺れるたび、青や緑の光を発する。象牙色の長大な杖を持つ長い黒髪の女。ナサインの声が上ずる。
「シミュラ……」
その言葉をさえぎるようにオレンジ色の髪の女の子がナサインの前に現れる。脇に立つ男たちは戦士のようだったが、幸薄そうな一人は武器も抜かずにぼんやりと立っているだけだった。もう一人の貧相な男は、ネジフに近づいていく。
「うわっ! 目が浮いてると思ったら、人間だった」
「てめえ、ふざけてんのか」
ネジフが戦斧を振り上げると、貧相な戦士の男は走って逃げていく。
「怖い! 怒った! 怖い!」
ナサインの前にシビトが出た。ナサインはその影で両手を合わせる。
「お待ちナサイン」
鋭い美しい響きを持った声だった。
「迷宮の主が、こんなとこまで来た理由は一つじゃないのか?」
ナサインは両手を広げると黒く長い杖が現れる。シミュラは、声を出して笑った。
「一つじゃないわ」
「ガリクソ、腹が減ったよ。オイラ腹が減ったよ」
貧相な戦士が幸薄そうな戦士ガリクソの肩を叩く。ガリクソは、その頭を殴りつける。
ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「だから静かにしてるんだよ」
シミュラは子犬のようにナサインをにらみつける女の子の肩を押さえると、自身の前にまで手繰り寄せる。
「迷宮の主が変わったのに生きているのね」
シミュラの視線からナサインは目を逸らして逃げる。
「新しい主がどんな奴か見に来たのよ」
「それだけじゃないだろ?」
「気に入らない奴なら、殺して奪うつもりでもいたわ」
ウイカは階段を上がりシミュラの姿を見る。女の子がそれに気がつきウイカに小さな舌を見せる。
「カーナ。おやめなさい」
「はいな」
「聞き分けの良い子。本当にカーナは良い子ね」
「へへへ」
オレンジの髪のカーナはシミュラの手に抱きついた。
「だったら、さっさと下に行けばいいだろ」
ナサインはシビトの横に立つ。シビトもゆっくりと身構える。シミュラは長大な杖をシビトに向けて、それからゆっくりしゃがむと杖を床に置いた。そしてまた立ち上がる。
「シモンズ王に対してご無礼でしたね」
シビトはまんざらでもない様子で構えを解いた。
「ナサイン、向こうは話し合いを望んでいるぞ」
ナサインはそのシビトの変わりように舌打ちを返す。黒い杖を空間に投げ捨てると、杖は霧散する。
「立ち話も、なんですから、この先の部屋で、お話でも、いたしましょうか、シミュラ様」
一言ずつ言葉を押し出すようにナサインは言った。その提案にシミュラは凍りつくような笑みを浮かべた。
「それがいいわね」
「ご飯! ご飯!」
はしゃぐ貧相な戦士をガリクソが殴りつける。
ゴン。
「痛い! 殴られたら痛い!」
「だから静かにしてるんだよ」
「俺はレフスなのに!」
「うん、何で自分の名前を言うのかかわからないね」
「俺が誰なのかわかってないからだよ。殴られ損だよ!」
貧相な顔の戦士レフスは明らかにわかる嘘泣きを始めた。
カーナがその両手で押さえた顔に蹴りを入れる。
「えい」
ゲシ。
「痛い! ちびでも蹴られると痛い!」
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