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迷宮の主
迷宮の主 52
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52
ひときわ広い空間。主の部屋から数段下がるところに地の底に渦が広がっていた。白いシャツとズボンに身を包み、青いガウンを羽織ってミクモは両手を渦にかざしていた。
「ナサイン。無理をするな。死んでしまうぞ」
「死んだはずだ」
「死んださ」
「お前は誰だ!」
「ただの魔法使いさ。死んでも生き返っただけさ。どうしたんだ。そんなに驚くことじゃないだろう?」
ナサインは右手をミクモに向ける。
「やめておけ、それ以上は本当に死んでしまうぞ」
「こっちを向け」
ミクモはため息をつきながらナサインを振り返る。
「旅をしてきた仲間じゃないか。わたしはお前を信じていたんだ」
ミクモはナサインに向かって歩いてくる。
「早く主に戻らせてくれないか? 君はもう死ぬ。生きているわたしに道を譲りたまえ」
「お断りだ」
「しょうがないな。なんだ? 何が望みだ? あぁ、もしかしてあの女か? あれももうじき死ぬ。それに回復させたところで君たちの事なんて覚えていないぞ」
「どういうことだ」
シビトがナサインの前に立つ。
「シモンズ王。彼女は君に惚れていたようだが、それはわたしの記憶操作によるものだ。あぁ、ナサイン。残念だったね。君は振られたようだ。いや、そうだ。あの女を回復させてやろう。ついでに記憶をいじって君に好意を抱くようにさせてもいいぞ」
ナサインは両手を胸の前で合わせる。腕を開くが、黒い光が左手から右手に移っただけで何も現れ出なかった右手は指先まで黒ずんでしまっている。
「残念だ。もう限界のようだな」
ミクモは右手に青い光の玉を発生させる。シビトが駆け出し、ミクモに殴りかかるが、ミクモの突き出した青い玉がシビトの腰を粉砕する。シビトはそのままの勢いで地面に転がった。
ナサインは両手と膝を付き顔をうなだれる。
「約束してくれ」
「何をだ?」
ナサインは声を絞り出す。地面に汗が流れ落ちる。
「ウイカは助けてやってくれ」
「断る」
ミクモが即答するとナサインはミクモを見上げた。
「嘘だ。いいだろう」
ミクモの手に再び青い光の玉が生まれる。
「あの女は生かして、ロンドにでもくれてやる」
「言うと思ったぜ」
ナサインはゆっくりと祈るように両手を組んで頭を垂れる。
「さよならだ」
ミクモの右手がナサインの頭に青い光の玉を当てようとすると、その動きが止められる。シビトが片足で立ち上がりミクモを羽交い絞めにしていた。
「しつこい男は嫌われるぞ。王様!」
ミクモは右手の青い光の玉を手首を返しシビトの頭に押し当てる。シビトの頭は青い光に粉砕されていく。ナサインが顔を上げた。
「お前がしつこいんだよ!」
ナサインは両手をミクモに向かって突き出した。両手をミクモの身体に当てるとナサインの目が真っ赤に光る。
「何を?」
ミクモはナサインを見下ろす。ナサインの右手の黒ずみがミクモの胸に移動していく。そして、ミクモは胸から真っ黒にただれていく自分の身体の異変に気が付く。
「ナサイン? 何をした?」
ナサインは応えることなくミクモに魔素を注ぎ続ける。胸の皮膚が黒く剥がれ落ち、空気の中に消えていく。それは全身に広がっていく。
「説明しろ! ナサイン!」
ナサインの目はなおも赤く輝き続ける。ミクモの足が二つに折れる。腕が崩れていく。頭が地面に落ちていく。ナサインの手はミクモの身体を突きぬけ、シビトの身体に頭からぶつかる。ナサインとシビトはそのまま床に倒れこんだ。
ナサインの目から、赤い光が消えていく。
「あー、すっきりした」
ナサインは立ち上がると、渦に向かって歩き出す。渦に向かって両手をかざす。
「死んでるよな?」
振り返るナサインはミクモの顔を見てドキッとする。
「何でこっちを向いてるかな」
「あの女は元には戻らんぞ」
ミクモの口が開く。ナサインは苦笑いをする。
「まだ生きてるのかよ」
「死んだ人間ではない。例え死んでシモンズのように生き返らせても、記憶は存在しない。このわたしが作ったものだからな。お前にはまた負けたが、傷は残してやったぞ。フフフフフ、ハハハハハ」
「シビト! 潰せ!」
ナサインの声にシビトが左腕で身体を起こし、右手を振り上げる。振り下ろした拳はミクモの頭スレスレを通過し、床にヒビを入れた。右手はもう一度振り上げられる。
「待っているぞナサイン。貴様がこちらに降りて来る日を!」
シビトの拳がミクモの頭を叩き潰した。
ひときわ広い空間。主の部屋から数段下がるところに地の底に渦が広がっていた。白いシャツとズボンに身を包み、青いガウンを羽織ってミクモは両手を渦にかざしていた。
「ナサイン。無理をするな。死んでしまうぞ」
「死んだはずだ」
「死んださ」
「お前は誰だ!」
「ただの魔法使いさ。死んでも生き返っただけさ。どうしたんだ。そんなに驚くことじゃないだろう?」
ナサインは右手をミクモに向ける。
「やめておけ、それ以上は本当に死んでしまうぞ」
「こっちを向け」
ミクモはため息をつきながらナサインを振り返る。
「旅をしてきた仲間じゃないか。わたしはお前を信じていたんだ」
ミクモはナサインに向かって歩いてくる。
「早く主に戻らせてくれないか? 君はもう死ぬ。生きているわたしに道を譲りたまえ」
「お断りだ」
「しょうがないな。なんだ? 何が望みだ? あぁ、もしかしてあの女か? あれももうじき死ぬ。それに回復させたところで君たちの事なんて覚えていないぞ」
「どういうことだ」
シビトがナサインの前に立つ。
「シモンズ王。彼女は君に惚れていたようだが、それはわたしの記憶操作によるものだ。あぁ、ナサイン。残念だったね。君は振られたようだ。いや、そうだ。あの女を回復させてやろう。ついでに記憶をいじって君に好意を抱くようにさせてもいいぞ」
ナサインは両手を胸の前で合わせる。腕を開くが、黒い光が左手から右手に移っただけで何も現れ出なかった右手は指先まで黒ずんでしまっている。
「残念だ。もう限界のようだな」
ミクモは右手に青い光の玉を発生させる。シビトが駆け出し、ミクモに殴りかかるが、ミクモの突き出した青い玉がシビトの腰を粉砕する。シビトはそのままの勢いで地面に転がった。
ナサインは両手と膝を付き顔をうなだれる。
「約束してくれ」
「何をだ?」
ナサインは声を絞り出す。地面に汗が流れ落ちる。
「ウイカは助けてやってくれ」
「断る」
ミクモが即答するとナサインはミクモを見上げた。
「嘘だ。いいだろう」
ミクモの手に再び青い光の玉が生まれる。
「あの女は生かして、ロンドにでもくれてやる」
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「さよならだ」
ミクモの右手がナサインの頭に青い光の玉を当てようとすると、その動きが止められる。シビトが片足で立ち上がりミクモを羽交い絞めにしていた。
「しつこい男は嫌われるぞ。王様!」
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「お前がしつこいんだよ!」
ナサインは両手をミクモに向かって突き出した。両手をミクモの身体に当てるとナサインの目が真っ赤に光る。
「何を?」
ミクモはナサインを見下ろす。ナサインの右手の黒ずみがミクモの胸に移動していく。そして、ミクモは胸から真っ黒にただれていく自分の身体の異変に気が付く。
「ナサイン? 何をした?」
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「説明しろ! ナサイン!」
ナサインの目はなおも赤く輝き続ける。ミクモの足が二つに折れる。腕が崩れていく。頭が地面に落ちていく。ナサインの手はミクモの身体を突きぬけ、シビトの身体に頭からぶつかる。ナサインとシビトはそのまま床に倒れこんだ。
ナサインの目から、赤い光が消えていく。
「あー、すっきりした」
ナサインは立ち上がると、渦に向かって歩き出す。渦に向かって両手をかざす。
「死んでるよな?」
振り返るナサインはミクモの顔を見てドキッとする。
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