迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 33

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33

 九階にある地下農場は村が五つは入るほどの広さがあった。手伝いに呼んだ子供たちの中で男の子らは畑仕事に目もくれず小川で遊んでいた。農業指導をする大人もほとんど経験がない。今年はとりあえずやって見るだけだねとのんびりした調子で土いじりをする。畑の土を耕しているとまだまだ石や木片、布切れ、金属片、動物の骨も混ざっているのでそれを取り除くのも一苦労だった。それでも土は意外と力がありそうで期待を高めた。
「木くずは燃やして灰にするから道の方に投げておきな」
 マイラはがっしりとした体型の女性で四十は超えている。普段は城で洗濯などをしている。子供の頃は夏季に一家総出で避暑地に行き父や兄は魚を捕り母や姉妹でベリーの採集をするのが慣例だった。シミュラとは三十年前に知り合いそれ以来氷の城で暮らしている。
「金属は金属、石は石でまとめておくんだよ」
 シミュラも子どもたちに混ざって土の中に手を入れて遺物を探した。
「ヘンミンキ、ニコ。金属が埋まっていると危ないわね。何か良い案はない?」
「元は刃物ってやつもあるでしょうからなぁ」
 ヘンミンキは六十過ぎだろう。シワも多く髪も薄い。細身だが背中の筋肉は厚みがある。普段は城で使う薪などを集めて薪割りなどをしている。シミュラと出会ったのは五才を過ぎた頃だ。
 ニコは三十代の背が低い栗色の巻き毛の男。両手を上げて「どうにもならない」とアピールをする。ニコが氷の城で生活を始めたのは十三歳の頃だった。誰もニコの声を聞いたことがない。
「シュミラさまー」
 カペラがカエルを拾ってきた。シミュラは「うっ」として両手で視界を遮る。
「カペラ、逃してあげなさい」
「カエル嫌い?」
「嫌いではありません。得意ではないのです」
「ふうん」
 シミュラは楽しそうなカペラの顔を見て軽く微笑んだ。
「楽しい?」
「うん!」
「じゃあ、誰かが怪我をしたら可愛そうだから、畑の中の金属を見つけられるかしら?」
「きんぞくってナイフ?」
「鎖や板、釘なんかもそうね。あそこにまとめているから見に行きましょう」
 シミュラが道の方へ歩き出すと、カペラがシミュラの手を握った。瞬間、シミュラは怖気が振るった。引きつった顔でカペラを見下ろす。
「どうしたの?」
「いいえ。なんでもないわ」
 そうは言ったもののシミュラの声は震えていた。

 木片、石類、金属らしきもの。キレイに分別されている。カペラは金属をまじまじと見る。
「きんぞく。わかった。これを見つければ良いのか。光らせれば良い?」
「そうね! それが良いわ。そうして頂戴」
「うん!」
 カペラは畑に向かって小さな両手を伸ばす。
「きんきんきんぞく、ぴかぴかぴかー」
 カペラの両手が握って開いてを繰り返すと土中の金属が鈍く輝き出す。
「こりゃあ、便利だ」
 ヘンミンキが笑った。
「なんだよ。どうせなら集めてくれりゃあ仕事が減ったのに」
 側で見ていた男の子ハッリが馬鹿にした。カペラの顔が曇る。金属の輝きも鈍る。それを見たシミュラがカペラの頭を撫でてやる。
「あなたは天才ね」
 カペラはうつむくが金属たちの輝きが強くなった。
「自分に出来ないことを素直に褒めることが出来ない人間はここを出ても苦労するだけよ」
 ハッリにそう釘を刺すとシミュラは金属を拾いに畑の中に戻っていった。他の子供たちもそれに続いた。
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