もふもふと心紡ぐ物語

ゆう

文字の大きさ

大中小

6 / 45

もふその①

公爵の告白：完璧な娘と、もふもふの秘密

しおりを挟む

(ここからはパパン(公爵)小話を。どうしても書きたく…そう！もふもふが書けと！
…よろしくおねがいします)

私は、公爵として、そして父親として、この国で最も完璧な娘を育てたと自負していた。
ソフィアは、社交界の華であり、あらゆる分野で才能を発揮した。
王子の婚約者として、彼女は非の打ち所のない存在だった。

だからこそ、王子から婚約破棄を告げられたと聞いた時、私は怒りで震えた。
私の完璧な娘が、あんな軽薄な男に侮辱されるなど、あってはならないことだ。
私はソフィアを執務室に呼び出し、彼女を慰め、そして王子の愚行を非難するつもりだった。

しかし、部屋に入ってきたソフィアは、私が想像していたような、打ちひしがれた様子ではなかった。
彼女はむしろ、清々しい顔で、私に告げた。

「お父様、わたくしはもう、この公爵家には戻れません」

そして、彼女は続けて、とんでもないことを言った。

「わたくしはこれからは、自由な人生を歩みます。そして、お菓子を好きなだけ食べますわ！」

私は頭が真っ白になった。
｢お菓子…だと？｣
完璧な娘が、お菓子を好きなだけ食べるために、自由を求めるというのか？私は怒りを露わにし、椅子から立ち上がった。

その時、ソフィアの足元から、白い毛玉が姿を現した。
それは、まるで雲が地面を這っているような、不思議な生き物だった。

「…なんだ、その生き物は」

私が問うと、ソフィアは誇らしげに言った。

「スノーですわ。わたくしの一番の親友ですの」

その「スノー」とやらが、私の威圧的な声に、ぷるぷると震えている。
そして、怯えた様子で、私の靴に体を擦り付けた。

私は、怒りを忘れて、その毛玉をじっと見つめた。
恐る恐る手を伸ばし、その頭を撫でてみると、想像をはるかに超える柔らかさだった。
私の指先から、全身に不思議な温かさが広がっていくのを感じた。　

「…柔らかいな」

私の言葉に、ソフィアは心底嬉しそうに微笑んだ。

「でしょう？スノーはとても優しい子なんですわ。お父様も、スノーがいればきっと、お疲れも癒やされますわ」

その瞬間、私は理解した。娘は、私が望む「完璧な令嬢」を演じるために、ずっと無理をしていたのだと。
そして、この不思議な生き物が、彼女の本当の姿を受け入れてくれる、たった一人の存在だったのだと。

私は、もはや怒る気力を失っていた。私の完璧な娘は、どこにもいなかった。　そこにいるのは、ただ一人の、お菓子と不思議な生き物を愛する、愛しい娘だった。

私は、椅子に深く腰を下ろすと、ソフィアに向かって、どこか諦めたような、優しい声で言った。

「…好きなようにするがいい。だが、何か困ったことがあったら、いつでも戻ってこい。お前には…帰る家があることを忘れるな」

娘は、その言葉に思わず涙ぐんだ。
私は、彼女が本当に望む人生を歩めるなら、それでいいと思った。

娘とあの不思議な生き物が部屋を去った後も、私は椅子に座ったまま、しばらく動くことができなかった。
そして、私は、この世で最も奇妙な結論にたどり着いた。

（…スノー、か。もしあの毛玉が、娘を幸せにしてくれるのなら…私にできることは、あの毛玉が喜ぶような、最高級のクッキーを、この執務室に隠しておくことぐらいだろうか）

私の完璧な公爵人生に、突如として現れた、もふもふした謎の生き物。私の奮闘は、どうやらこれから始まるらしい。

作者⋮お父様もふもふLOVEへ。ぐふふ

しおりを挟む