賢者様が大好きだからお役に立ちたい〜俺の探査スキルが割と便利だった〜

柴花李

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第二十話 そうだ色々用意しよう

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 鍛錬も二週間ほど経てば少しは形になってきた。まだ慣れない身には体力を振り絞るような有様だが楽しい。それに要求に何とか付いてこれ始めてきたことがこの上なく嬉しかった。
「おーっし、今日はここまで!だいぶ様になってきたなオリンド」
 くたびれ果てて床に転がるとしゃがみ込んだイドリックが爽やかに笑って頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
「ふへ、ほ、ほんと…?」
「おお。受け身も取れなかった最初とは大違いだ。体の使い方が上手くなってきているぞ」
「よ、よか、良かった。…へへ」
 慣れないと言えば褒められることもまだあまり慣れないけれど、照れすぎて何も言えなくなるなどということも少なくなってきた。オリンドにしてみればかなりの進歩だ。
「そういえば今日は勉強会の前に茶会だったか?」
「んえ?…ああ、うん。アレグさん、が、開くって言ってた」
 汗を流そうと向かった井戸の前で体を拭いながら振られた話題に、そういえば昨日の鍛錬中にそのようなことを言っていたかと、裏庭を囲む高い塀の天辺に視線を彷徨わせてオリンドは意外に思った感想ごと記憶を引っ張り出した。
「そうか。あいつのクッキーは美味いぞ」
「えっ、ほんと!?」
「なんたってベル直伝だからな」
 井戸周りを片付けてからほくほくした様子で食堂へ向かうイドリックの後を、オリンドも期待の心地でついて行った。
 建物に入る前から思ったより美味しそうな香りが鼻腔を擽り始め、食堂前に着く頃には腹の虫が鳴り出す。
「うわ…いい匂い」
 ウッドビーズカーテンを潜ったオリンドは食卓に並べられたとりどりのクッキーに目を輝かせた。
「すごい、美味しそう!」
「だろ!?たっくさん食えよオリンド!」
 いそいそとエウフェリオの隣に座りながら感嘆の声を上げると、調理場のほうから顔を出したアレグが嬉しそうに笑った。
「アルちゃんたら、ほんとたっくさん焼いたから頑張ってね」
 アレグの横を通り抜けて、紅茶を大量に湛えた大きなガラスポットを盆に乗せ運んできたウェンシェスランが悪戯っぽく言うのにオリンドも笑い返して頷く。
「全員揃ったな!よっし、始めよう!」
「うん。…えと、な、なにか、記念日?」
 それにしても何でこんな突然に茶会なのか。オリンドに尋ねられたエウフェリオは軽く首を振った。
「いいえ。思い出すと焼くんですよ。たぶんどこかの店が新作を出したのでも見たんでしょうね」
「ふうん?」
「甘味のお店ってさ、女の子が集まりやすいでしょ?アルちゃん買いに行きたくても行けないのよ」
「あっ」
 そうかアレグさん女子人気がすごいんだ。特に若い子に人気だから、余計に集めちゃうのか。
 気付いた瞬間に裏庭のやたら高い塀にも意識が働いた。何でだろうと思ってはいたが、結界の外側からでも覗き込もうとする者が居るということだ。
 とは言え表に塀は無いのにと考えかけてやめた。裏庭には井戸がある。さっきイドリックの見事な筋肉に見惚れたばかりだ。つまりそういうことだろう。わざわざ強固な壁に守られた安全で便利な市街地を離れて静かな場所に住んでいるのに、遣る瀬無い話だ。
「いーんだよ!俺が焼くクッキーのほうが美味いもん!食ってみろよオリンド」
 沈みかけた気持ちと思考をアレグの元気な声が拾い上げた。はっとして差し出された皿から一枚取り、齧り付く。ほろりとした歯触りで絶妙の焼き加減だとわかった。これはしょぼくれて食べるには勿体無さすぎる。
「…!美味しい…!」
「だろ?」
「うんっ、すごい、美味しい。甘すぎなくて、歯触りもいいし、ちょっとしっとりして、してるから食べやすい。いくつでも入りそう」
「たっはー!っ褒めすぎだろオリンド!」
「ふふ、そこらの店にも負けない味ですよ。…ところで、本日の話題は何ですか」
 茶会と言うからには主役は紅茶と菓子に話題だ。毎回クッキーを食べさせるだけではなく一応何とか話題も用意しているアレグのため、話を振ると彼は嬉しそうに笑った。
「それな!俺さー、イドん家に剣を買いに行きたくって。オリンドの」
「へぁあ!?」
 思ってもみないところで名前が出て飛び上がる。
「ああ、確かに必要だな。いいぞ、いつでも案内する」
「ちょあ待まま待っ、…剣!?…俺に剣!?」
「おまえに剣だよ。でなきゃ何のために俺は剣術教えてんだよ」
 笑みを含んだ声で伸び上がったアレグは食卓越しにオリンドの肩をバシバシと叩いた。
「うあっ、はい。…えっと、目標七階層」
「そうそう!…そうだ、あと鎧もな!」
「鎧も!?…っお、お金、…どうしよう…」
「へあ?」
 金?何言ってんだ。
 アレグはオリンドを凝視した。ややあってから突然頭を抱える。
「あーっ!忘れてた!俺オリンドに水晶の権利のこと言ってねーわ!」
「なんだと!?」
「あんたちょっと、絶対自分で言うってあんなに張り切るから任せたのに!」
「オリンドから何の話も出ないと思ったら、なんと…」
「えっ?えっ?なに?」
 突然の一人だけ訳の分からない状況に混乱するオリンドに、アレグは深々と謝罪した。
「すまーん!クラッスラの九階層で見付けた晶洞!あそこから出る水晶、売り上げの一割は発見したオリンドのもんになるから!手付金で大金貨も二枚出る!」
「…えっ…、ええええ!?」
 寝耳に水とはこのことか。危うくクッキーの皿ごと床に転げ落ちるところだった。皿も体も支えてくれたエウフェリオが安堵の息を吐く。
「…発見からひと月ほどですから、採掘の準備が終わった頃か掘り始める辺りでしょう。とにかく判明して良かった。口座を持っていたら振り込むよう手配しますから、教えてくださいオリンド」
 大金貨二枚となるとそこらの裕福な町人の月収に相当する。持って歩くには少々物騒な額だ。その後の取り分の定期的な受け取りを考えても口座に振り込んだ方が良いだろうと切り出したのだが。
「…こうざ?」
 はて、存在も知らない。という発声を聞いた途端、ばきりと四人は固まった。そんなこととはつゆ知らず、なおもオリンドは疑問を口にする。
「や、というか何で俺の物になるんだ?もうパーティに入れてもらったし、そしたら任務遂行中に手に入れたもの、物も、依頼料とかも共有だろ?個人の金は個人で稼……」
 瞬間。ごう、と、上昇気流を伴って怒髪の天を衝く音が本当に聞こえたように感じた。
 そ、そ、そ、そっかあ。俺そういうとこもやられてたのかあ。…ダメだな本当に何も考えずに生きてた。
 考えずに、ではなく、考えられなくされていたということもわからず、オリンドは自分の至らなさをこっそり反省する。
「どうりで取得物全部渡してくるわけね…っ!ちょっとリンちゃん!共有ったって、その収入で何か必要なもの買ってもらえたわけ!?」
「ふぇあっ!?…や、…えっと…、その…、た、探査スキルに、必要なのって、ま、魔力だけで…」
「あるだろ。魔力強化やら補填の魔石だとか、回復薬、傷薬に、応急処置の道具諸々。それにさっき言ってたが剣に鎧とか。武器とは言わんでも何にだって刃物は使うし、縄なんかの消耗品も必須だろ。泊まりがけになりゃテントに毛布、火打石に鍋だってコップだって、…ああ、もう、鞄も地図も筆記具もタダじゃあるまい。飯もだ」
「や、め、飯はさすがに、あの、預かった金で食材買ってきたり、野草摘んだりして、つ、作ってた。…あ、あとの、は…個人消費の…」
「いやいやいやいや、俺だってわかるぞ。イドが言ったの、どれもこれも必要経費だろ!?」
「……やっぱり?」
「オリンド。後で幼馴染とやらの人相を、しっっっかり、教えてくださいね」
「あっ、…はい」
 逃げてバッツにマーシー。
 ここに来てもまだ彼らを庇うのかと言われそうだが、そればかりでも無い。あんな奴らのために勇者一行の手を汚させたくないとオリンドは思っていた。
「っは~。じゃあ勉強会は中止して、早速口座作りに行きましょっか。リンちゃんごめんね、こればっかりは代行できないから、商業ギルドまでお出掛けしてもらうことになっちゃうけど」
「えっ…、うん。あんまり人と喋らないなら、大丈夫…」
「ああ。なら行けるだろう。互助関係にあるから冒険者ギルドのタグを出せば済む。説明なんぞ聞くだけでいい」
「そんな簡単なの?」
「ええ。タグで身元は保証されますから、書類の記入だのも不要です」
「ふへあ…」
「ごめんなあオリンド。忘れずに言ってれば騒ぎになる前に作れたのに…。その、護衛したら、イドん家も行けそう?」
「うん。大丈夫、と思う。人からの視線は、俺が見なきゃいいし。あの、だ、誰かと話、しなきゃならなくなっ、なったら、代わってもらえると、嬉しいけど」
「それは任せろ!」
 今度こそちゃんとやる!
 息巻いて宣言したアレグだったが、商業ギルドでの口座作りは本当にタグを出すだけで終わってしまった。先行したエウフェリオが酷い人見知りだと伝えるとギルド員たちは柔和な笑みを向けるだけで話しかけてきたりもせず、おかげでオリンドが発したのも受付でタグを出した時の「お、お、おね、お願いしますっ」と、口座証明の商業ギルドタグを受け取った時の「あ、ありがとうござ、ございます」の、ふた言だけだった。
「さすが…商売人は違うわね…」
 警戒で凝り固めねばならない街中とは雲泥の差の居心地を思い返してウェンシェスランは首を振った。現状のこのオリンドへの悪感情を剥き出す道行く人々に向けても首を振りたい。
 当の本人は新しく発行されたタグの繊細な意匠が気に入ったのか、歩きながらも夢中で眺めていて視線など気にも留めていないようだが。周囲をアレグたちが歩いていなければ人か建物にぶつかること請け合いだろう。
「オリンドー。着いたぞー。イドん家だぞー」
「えっ!?…え、いつの間に?」
 タグと顔の間にアレグの手が差し込まれ、ひらひらと振られてようやくオリンドは顔を上げた。
「あっはっは。なんか肝も据わってきてねえ?ほら、ここがイドの実家」
 言われて見れば冒険者で賑わう商店街でも一際客の多い店の入り口に立っていた。アレグたちの姿を認めて、なお一層詰め寄せてくる。
「親父い。ちょっといいか?」
 集中する客を物ともせず、慣れた調子でイドリックが店の奥に声をかけると、険しい顔をした男性が出てきた。一目で彼の父親だろうとわかる風貌に、オリンドは目を丸くした。
「なんだあ?こらあ。帰るなら帰るで人伝てなり鳥伝てなり前もって連絡入れねえかよ。店がパンクしちまわあ」
「すまんな。急に来ることになっちまって。ちょっと連れに剣を見繕ってやってくれよ」
「あん?…おお!アル坊!元気かお前え!ったく、聖剣手に入れたら途端に見限りやがって!ちったあ顔見せろよこの野郎!」
 アレグを見つけるなり険しかった表情を一転させてカラカラと笑いながら肩を叩いた。
「あっはっは、ごめんておじちゃん。だって聖剣折れねえんだもん」
「何ちゅうこと言うんだお前は。そんでえ?剣を見たいってのは…ひょっとしてそこのヒョロっこいのか」
 ヒョロっこいって言われた。ちょこーっとは肉付いてきたのに。もっと付けなきゃ。
 腹回りや腰回りを撫でて悄気ていると、急に背中を叩かれて咽せる。
「安心しな!お前さんみてえのでもちゃあんと合う剣見繕って…、おりょ?…おいおい兄ちゃん、見た目と違って悪くねえ鍛え方してんな?」
「へぁっ!?」
「…いや、鍛え始めたとこ、か。…ほーん。採掘だか何だかで地力があんだな。おう、アル坊に習ってんなら良い得物持たせてやんなきゃなあ」
 背中や腕や肩や、胸も腹も腰も撫でさすられて泡食ったが、それ以上に次々と言い当てられて驚いた。
「っし、お前ら奥に来な。ちょうど良いもんが入ってる」
 言われて客でごった返す店内を抜け、奥の部屋に入る。背後で勇者がどうのと詰め寄る数人の客に一喝を入れて押し返したイドリックの父、リベラートは後ろ手で締めた扉に鍵も掛けてから室内を案内した。
「こっちだ。うちのドリーちゃん目当ての客にゃ見せらんねえ剣が置いてある」
「その呼び名はやめねえか親父」
「っせんだよ、お前みてえ盾職選ぶような親不孝もんは向かいのキア王子とでも結婚してせいぜい幸せになってろってんだ」
「俺もキアもお互い眼中に無えのは知ってんだろ?ったく、二言目にはそれだ」
「……?」
 えっ、この親子は仲が悪いの良いの?
 困惑してエウフェリオを見ると、とっても仲が良いんですよ、と小声に楽しそうな笑みが付いてきた。
「おうヒョロイの!ちっとこれ持ってみろ!」
「へはぅ!?…あっ、はい!」
 壁際に並ぶ、表の棚とは異なり機能美溢れた剣の中から小ぶりの一本を無造作に渡され取り落としそうになりながらも受け止める。存外手の平に馴染むそれはしっくりと収まった。
「ふわ…。なんか、握り心地が良い」
「だろ?…しかし…んー。おうアル坊。どうだこれ」
「おう!めっちゃ良いけど、なんか物足りないなあ。なんだろ…?」
「んし、次だ次。こっち持ってみろ」
 ひょいと取り上げられほいと渡されてこれまた慌てて握りしめる。先ほどより心地よく手に収まる感覚がした。
「お、わ…すごい、手にくっつくみたい」
「さっきよりはだいぶ良いな。…いや、あとひと押しか」
「だなあ。…おっ、これなんかどうだオリンド」
 ほい。と、アレグが投げて寄越すのに慌てて持っていた剣を左手に持ち替え、右手を差し出して危ういところで柄を取った。
「…う、わっ…」
 何だこれ吸い付いてきたみたい、だぞ?
「おおっ!やるなアル坊!さすがだ!こいつで決まりだろ!」
「だっろー!?どうだよオリンド!剣の方から持ってもらいたがってるみたいじゃねえ!?」
「…うんっ!そ、それ!そんな感じ…くっついてきた気が、する!…すごいっ」
 二人につられて興奮気味の大きな声で話したオリンドは、ちょっぴり肩で息をしながら手の中の片手剣をしげしげと眺めた。左右に一振りずつ持つと、確かな違いを感じて感動する。
「うわ…。剣の長さ、と、重さと、つ、柄の幅?と、丸みが、少し違うだけ、みたいなのに、収まり方が違う…」
「そこがわかりゃ大したもんだ。持ってきな。お代は後でいい。どうせ鎧も見に行くんだろ?」
 左手の剣を剣帯と交換で受け取り、裏口の扉を開けて言うリベラートに、それが常とばかり手短に礼を返したアレグたちがさっさと外に飛び出していく。
「あ、あのっ、あり、ありがとう!」
「おう!たんと可愛がってやってくれな!」
 エウフェリオに手を引かれたオリンドは、なんとか振り返り様にそれだけ伝えて、返ってきた言葉に何度も頷きながら裏口を潜った。
「ふふ。似合ってますよオリンド。それにしてもガナニックの剣を選ぶとはなかなか…」
 片手の塞がるオリンドの代わりに剣帯を腰に着けながら、エウフェリオはしげしげと彼の右手に収まる剣を眺めた。
「ガナニック?」
「ジョーゴ・ガナニック。知る人ぞ知る名工よお」
「ええっ!?お、俺には勿体無…」
「勿体無くない!俺がちゃんと相応しい腕に仕上げてやらあ!」
「…っ!先生!!」
「いや、先生はやめよ?」
「おまえらダラダラやってるとまた囲まれるぞ。キアん家行くまで我慢しろ」
「はあい」
 頭の天辺を大きな手の平で押さえられて二人は肩をすくめた。イドリックに案内されるまま裏通りを通って、隠遁魔法をかけた上で人目に触れにくい場所から商店街通りの向かいへ走る。途中で垣間見えたリベラートの店は入店前とは比べ物にならないほど客で溢れていた。
「っあー。まあだ俺らへの関心薄れねえのかよお」
 武器屋を囮にしたおかげでキアーラの実家には問題なく正面から入ることに成功した。
「おや、いらっしゃい!向かいが騒がしいと思ったらアンタたちかい。帰ってくるたび騒がれちゃって、ご苦労なこったねえ」
 客はみな勇者の目撃談につられて向こうへ行ったのだろう。閑散とした防具屋の店内には恰幅の良い女性が居た。
「悪いなおばちゃん。ちょっとばかり俺ん家を囮にさせてもらった」
「いいってことよ!借りはアタシの息子になって返してくれんだろ!?」
「だからあ!俺もキアもそういう気はねえって!」
 もはやお定まりのやり取りなのだろう、慣れたように突っ込むイドリックにキアーラの母、ゾーエは彼の背を強かに叩いてカラカラと笑った。
「惜しいねえ。来てくれると嬉しいんだけどねえ。…それで?今日は誰の防具を見るんだい?」
「それはそこの…」
「ああー!あんたかい!?噂のドジョウの干物は!」
「ドジョウの干物!?」
 そんなこと言われてるのか。オリンドは後頭部をパシリと叩かれた気分になった。泥臭くて痩せすぎの男に使われる慣用句だ。
「言われてるよりは小ざっぱりしてるじゃないかい。うん、髪も整ってるし、髭もちゃんと当たってる。服もちょいと古いけどきちんと洗われてるねえ。そこらの野郎どもの方がよっぽど泥臭いってもんだよ。噂なんて当てんなんないね。まあでも痩せ過ぎだよ。もっとベルちゃんの美味しいご飯たんと食わしてもらいな!」
「あう、あ、うん…い、いっぱい、食べさせてもらっ…いつの間に鎧!?」
 畳み掛ける語り口に翻弄され、ようやく返事を挟む頃には軽い革の鎧を着せ付けられていた。
「いいねえ!あつらえたみたいじゃないかい。アンタ見た瞬間に竜堅鱏を着せたくなってねえ」
「竜堅鱏か!いいな。革鎧ん中じゃ一等強靭だし、なによりこの色がいい」
「りゅ、りゅうけんじん…?」
「海に住んでる魔物よ。そりゃもうでっかくて硬くて硬くてほんと硬くて大概の武器や攻撃魔法を受け付けない冒険者泣かせの化け物エイなの」
 聞いたことのない単語にオリンドがそわつくと、ウェンシェスランが狩るのはウンザリだという表情で教えてくれた。しかしながら『エイ』という名も聞いたことがなく首を傾げると、エウフェリオが店の植物紙と羽ペンを借りて簡単に描いて説明してくれたがやはり絵が可愛くてあんまり頭に入ってこなかった。
「…あ、あの、剣も鎧もかなりの値段なんじゃ…」
 さあそれじゃあ鎧のお会計をという段階で目ざとくアレグたちを見付けた客が押し寄せ、ツケとくから逃げろとゾーエに促されるまま裏口から脱出して帰ってきた拠点で、片や名工の剣、片や高難易度魔物の鎧という、考えるにも未体験の値段に思いを馳せたオリンドは顔を真っ青にした。
「えー?…水晶の手付金じゃ足りないかな?」
「アル、本当にその金銭感覚は何とかしましょうね。大金貨十枚は下らないのでは無いですかね…。オリンドなら次のクラッスラ調査で十分成果を上げるでしょうから、心配無いと思いますよ」
 ですから落ち着いて。と、優しく背を撫でてくれるエウフェリオに、オリンドはうっすらと涙を浮かべて安堵の息を吐いた。
「うん…。うん、頑張ってたくさん掘り当てて全部渡す…」
「そうじゃ無い!!」
 さすがに四人から滔々とお説教を受けた。
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