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第三十一話 城の応接室
野営をするに安全な場所の確保というのはダンジョン探索における必須事項と言っても過言では無いかもしれない。
人というのは三大欲求のうちの性欲はやり過ごせても睡眠欲と食欲は如何ともしがたく、どちらかひとつでも満たされていなければてきめんに能力は低下する。
その点、クラッスラの中級階層あたりから先では安全地帯に事欠くことは無い。アレグの腹時計がかなり正確なこともあって時計などと高価で壊れやすい道具を持って潜ったことは無いから実際の時間に換算することはできないが、少なくとも腹が空きすぎるだとか酷い眠気で考えることもできなくなるなどという事態に陥る前に、魔物避けの施された地帯なり簡易的な隠し部屋なりに辿り着く。それもこのダンジョンが現れてから探索をした先人たちの手によるものではなく、最初からそうだったとギルドの史書には記されているのだから首を捻っていたものだが。
「どう考えてもこりゃ、ここで生活していたんだよなあ。…当時から魔物対策が必要だったってことか。しかしそうなると逆に六十階層あたりまでのダンジョン構造はなんなんだ…」
玄関広間に潜む魔物を粗方討伐したり追い払ったりしてから歩き回ってみたところ、広間に面したいくつかの扉は破られ黒緋狼や白擢老狐などといった魔物の寝床にされていたが、城の二階とを行き来する転送陣の設置された隠し部屋と、奥の階下へ降りる階段の両脇にひとつずつ設けられた部屋は、イドリックの考える通りならおそらく繁栄していた頃のままの姿で残っていた。というのも隠し部屋は文字通り隠されているからだが、残るふた部屋も見た目の豪華さとは異なりかなりの強度を誇る作りをしており、扉には壁の左右に埋め込まれた魔石で結界が施されていた。魔法陣に描かれた十三芒星の頂点に定められた順で触れると解除あるいは結ぶことのできる型だ。陣に記された記号を読んで結界を解き、念のためそれぞれ灯り魔法を掛けたランプを手に二手に分かれて踏み行ってみれば貴賓の待機室にでも使われていたのだろう、厚い埃に埋もれているが一目で質の良いとわかる棚や椅子などが置かれ、小振りの暖炉まで設置されていた。
「そうねえ。七十から先は城下町風の迷宮仕様だって今までの考え方、すっぱり改めなくちゃだわ。さておき、雑魚寝なら十人くらいはいけそうね…。向こうの部屋もこんな広さなら四パーティくらい寝泊まりできるわよこれ」
「おおーい!おまえらこっち!こっちすげえぞ!来てみろ!」
「あら。噂をすればお呼びだわ」
「向こうはなにが出たんだ?」
アレグの呼び声に部屋を出たウェンシェスランとイドリックは、階段を挟んだ向こうの部屋へ移動した。
「なあにい?アルちゃん。竜でも出たような声出し…なによ、これえ!?」
開かれた扉から呑気な声を掛けつつ覗き込んだウェンシェスランは言葉の途中で飛び上がった。
「な…んだ、こりゃあ!?…応接室、か?」
続いて入ったイドリックも室内の様子に目を見開く。
玄関広間も相当煌びやかだったがこの部屋は華美が過ぎる。壁や天井は白を基調に規則性を持った細かな金の装飾が施され、大きな窓がいくつも並んでいた。飾り窓かと思いきや向こう側に広い空間が取られ地上のような景色が造られている。荒れていないことから魔道的な人工物と推測された。床には赤地に豪華な草木柄の織り込まれた長い毛足の絨毯が敷かれていて、いっそ踏むのを躊躇ってしまう。そこに置かれた見上げるほどの時計や飾り棚に革張りのソファといった調度品は、磨き上げられた焦茶の木目にこれでもかと金細工が入っていて目が回りそうだ。くらりとして視線を上げればよくあれが落ちてこないと思わせる、玄関からの広間にあったものとは比べ物にならない絢爛な真鍮シャンデリアがたっぷりと水晶を纏っていくつもぶら下がっている。あれの下には寝たくない。
「すっげーよなここ!もう休憩地ここに決定だろこんなん!何十人寝られるんだろうな!?俺この綺麗なやつ見ながら寝たい!」
キラキラとした目で天井を見ながらシャンデリアの真下でアレグがはしゃいだ。
「…ああ。おまえはそういうやつだよ。…まあ、確かにこれほど安全かつ休憩地にあつらえ向きの場所も無かろうというか贅沢すぎやしないか?これだけ綺麗になってるところを見るとなにか維持する魔法でも使われてるだろ?」
「ご名答です。天井の裏に定期的に発動する清掃のための魔法陣が仕込まれていますよ」
オリンドが模写したらしき紙を見せながらエウフェリオが言うと陣の内容を読み取ったウェンシェスランが白目を向く勢いで頭を抱える。
「なにっ、その贅沢…!清掃ってこれ風魔法に水魔法に火魔法に重力魔法と、…浄化魔法まで組み込んであるじゃない!どれだけ魔石使うのよ!?」
「ええとね、この天井の上、もう魔石の倉庫っていう感じになってる…」
「大概だなおい。ピオニアビアンカ城だってこんな豪勢じゃ無いだろ」
ほのかに頭痛を感じながらイドリックは白牡丹の名を戴くグラプトベリアの王城を思い浮かべた。クラッスラのおかげもあり周辺国の間では群を抜いて裕福なはずだが、これほど豪華絢爛な部屋はひとつたりとも無い。
「そこの時計も時間は合っているか定かでは無いですが、きちんと動いていますし…。眩暈がしそうですよ。しかも階が下がるほど更に豪華になるのでしょう?よほど栄華を極めた国だったんですね…」
「うん。ええと、もっかい探査する?」
「いえいえ、明日は新階層です。なにがあるかわかりませんから、使わなくて済む魔力は使わないでおきましょう」
「俺もそれがいいと思うな。あと、やっぱ何が出るかお楽しみってとこはとっときたいしさ!」
「そっか。なるほど…。あっ、じゃあ索敵もしないほうがいい?」
「それはしてくれ!さっきのあれすげえ助かったもん!オーリンが教えてくれたから、俺シェスカのリクエストに応えられたんだからな!」
殺気を感じ取ってから動いたのでは斜め懸けに斬るしか無かったと手を取って訴えるアレグに、役に立てることがまたひとつ増えたと嬉しくてオリンドは何度も頷いた。
「わ、わかった。索敵はしっかりやる…!」
「頼むな!」
アレグもまた嬉しそうな顔で頷いて、それから盛大に腹を鳴らした。
「…あ」
途端に設置された時計から正午を知らせる鐘が響く。
「おや、昼時ですか。そこな時計の正確さも証明されましたね。素晴らしい。結界を張り直して食事にしましょう」
ちょうど先ほどの魔法陣が裏側に設置された辺りの壁に描かれた同じ魔法陣へ歩み寄り、逆の手順で十三芒星の頂点を突いたエウフェリオは念のために扉が開かないことを確認してからオリンドの側へ戻った。
「毎度のことながらアルちゃんの腹時計は凄まじいわ」
「…そういえば、アレグさん何日も飲まず食わずできるのに、腹時計は正確…なの?」
「おう?おう、そりゃあもちろん。食わなくても平気ったって食わなきゃ腹は減るもん。毎日ちゃんと朝昼晩に鳴るって」
「…そ、…え、…あ。…そうか」
あれ?なんか聞きたかったことと違うような?と首を傾げたオリンドだったが自信に満ち溢れたアレグの表情に押し切られて納得する。
しかし側から聞いていても返事の内容が根本的にずれていたような気がしなくも無い。が、リンちゃんが納得したならそれで良いわあ。と、ウェンシェスランは鞄からお気に入りの茶葉を取り出し暖炉の前に置かれたローテーブルに並べた。
「暖炉は使いますか?」
鞄から飲み水や小鍋と調理したてのまま収納していた副菜をいくつか取り出しながらエウフェリオが尋ねると、顔を明るくしながら頷く。
「そうねえ。できれば使えるとありがたいわ」
「いいな、温かい飯に淹れたての茶。そんじゃ薪を探してくるか。この部屋には無いだろうし」
「それには及びませんよ。火魔法くらいなら使っても支障ありませんから。一時間も燃やしていれば十分でしょう?」
「んぁ、その暖炉、薪も火魔法も要らない。ギルド提携宿の共同炊事場の竈と同じやつだから、ここの魔石を捻ると火が付く」
火床の下に火魔法の陣が仕込まれ、天井裏には及ばないが毎日炊いても数年は魔力が尽きないのではないかというくらいの魔石が敷かれている。呼吸をするように探査してスイッチの魔石を捻ったオリンドは、はたと気付いて口元を覆った。
「ごめ…探査しちゃった…」
「ぶっはっ!…いいっていいってそのくらい!おまえ二割で六十階層とかサーチできちゃうやつが、暖炉見たくらいで何言ってんだよ。何階層かまとめて見るみたいな魔力消費は抑えとけって話だよ」
「ふふふ。そうですよ。このくらいなら大丈夫ですし、助かりますから。ありがとうございますリンド。…それにしても共同炊事場ですか。懐かしいですね」
「あー、ね。あたしらもお世話になったわあ。合同で出資して~なんて考えた人天才かしらって思ったもの」
「あれは助かったよなあ。なにしろ狩ったもの食うのが一番の安上がりだ」
「うん。肉は焼いて煮詰めた酒でもかけたらそれでメインにもなるし、すごく助かる」
「あー!聞いてたらめっちゃ腹減った!食お食お!」
「はいはい、お湯沸かしてるから、あんたたち先に食べ始めてちょうだい」
魔力の火が灯った暖炉の火床に焚き火台を置いて小鍋をかけながらウェンシェスランが言うと、四人はいそいそとローテーブル周りのソファに座った。
「うおっ!なんだこりゃすげえ沈む!」
「随分と柔らかい座面だな。なにで作られてるんだ…。しかしこれじゃ食うのに向かんぞ」
イドリックの渋る声を聞いたオリンドは、幼馴染たちから叩き込まれた習性で咄嗟に使える物は無いかと辺りを見回し、窓際に目を留める。
「…ええと、ふ、フットレストかな、あれ。…あれに、座っちゃう?テーブルも低いし…」
行儀が悪いだろうかと思いつつも窓の下に並べ置かれた足置き椅子を指差し提案すると一瞬全員の視線がオリンドに集まった。やっぱりダメだっただろうか。と、背中に汗が吹き出す。
「いいなそれ!オーリン頭いい!」
「名案だ!ちょいと行儀は悪いけどな。冒険中なんだ、無礼講だろ!」
しかしその不安を吹き飛ばす勢いで楽しそうにソファから立った二人は窓際に駆け寄ってそれぞれ両手にひとつずつ取り、アレグがもうひとつをエウフェリオの方に足で放り寄越した。
「ふむ。高さといい硬さといい、ちょうどいいんじゃないですか?…しかしフットレストなんてよく知ってましたね」
「あっ、うん。さっき話した時計塔で捕まえた迷子猫、依頼主が貴族だったんだけど、すごく気さくな人で。直接お礼がしたいからってお屋敷まで渡しに行って、そこで一回だけ見たことある」
見たというか部屋に通されるとは思ってもおらず酷い緊張もあって椅子と勘違いして座ってしまい大層笑われたのだが。人懐こかったのか一目合った瞬間からとても懐いてくれたその猫と別れなければならないことも相まって、ちょっぴり苦い思い出だ。
ともあれ受け取った足置き椅子を差し出されて触ってみたオリンドは、思ったより座り心地の良さそうな弾力に目を丸くする。
ええっ!?これが足置き!?なにこれ気持ちいい!あの時座っちゃったのと全く違う…。もうこれ腰掛けでよくない?贅沢だなあほんとに。…贅沢って言えば、九十…何階層だっけ、豪華すぎてげんなりした階層が二つあったよなあ。…あっ、うわ、あのでっかいのも思い出しちゃった!
触発されたオリンドは先日の探査で驚くという域を越した内装の光景に、つられて跋扈する巨大な魔物の姿まで思い出してしまって少しだけ青ざめた。
「リンド?どうしました?」
「えぁっ、だ、大丈夫。この先の階層を思い出してたら、すごい怖い魔物も思い出しちゃって。見た目もすごかったけど、熊よりでかくて…」
「あっ!待った待った言いっこなし!そこ楽しみにしたい!目の前に出るぞーって時に言ってくれ!」
「わー!ごめん、ないしょにしとく!」
先に言うの無し!と慌てるアレグにオリンドもそうだった!と慌てて口元に両手を当てて噤んだ。
「ふっふふ!ないしょって…!ないしょってもう、リンちゃん可愛いわあ!んーもう、困っちゃう!」
「リンドは愛らしいのが常ですから仕方ありません」
「へぁあ!?」
なんで、なにが可愛いの!?
意味がわからない。とテーブルを少し叩いて頭を振るオリンドにひとしきり笑って、それはそれはもう昼食を楽しく済ませた一行は、腹の落ち着くまで休憩を取ると荷物をまとめ直して立ち上がった。
「荷物、全部持ってくの?」
「そうですね。再度ここに戻るでしょうけど、場合によっては緊急退避でギルドに直行もありえますから、持って行くに越したことは無いんですよ」
時間停止機能のおかげで収納したものは溢れることも壊れることも混ざることも無く、取り出す際には手を突っ込めば頭に浮かぶ対象物を意識下で選択するだけで済むことからエウフェリオの所持品も鞄へ無造作に放り込むだけという手早さだ。オリンドに説明をしつつ結構な量を詰め込まれた鞄の口が何することもないように閉じられる。もっとも収納先でどれほど乱雑に積まれているかは不明だが。とにかく各々の装備を再確認した一行は再度結界を解くと応接室を出た。
「ん、と、左前からでっかい蛇がゆっくり来る」
「おう!…どのくらいでっかい?」
出て早々にさっそく魔物が来るとオリンドが告げると嬉々として聖剣を構えたアレグは軽い調子で聞き返した。
「えっと、人間ふたりくらいなら飲んじゃいそうな大きさ。…鱗の表面が蒼鉛の結晶みたいな組織になってる」
「おお!でけえな!…蒼鉛?て…」
なんだ?
「金属状の虹色…!?瘴霧蛇じゃないですか!」
もう一つ載せられてきた情報に首を傾げたアレグの疑問の声を遮り、エウフェリオが多少慌て気味にオリンドの前に出る。
「はあい、お任せ!」
瘴霧蛇の名が出た途端にウェンシェスランが聖杖を掲げた。あっという間に五人を淡い光が包み込む。
「うあ…なにこれ綺麗…」
「毒を無効化する膜ですよ。瘴霧蛇の毒は名の通り霧状に散布されるんです。なのでこうして皮膜状の魔法で覆って防ぐのが一番効果的ですね。シェスカの浄化魔法ですから、バジリスクの毒さえ効果を無くしますよ」
「へぁああ!?ば、バジリスクってあのバジリスク!?…ふわぁあ…すご…」
さすがに高ランクすぎる魔物の名については御伽話や吟遊詩人の歌詞ではあるが知るオリンドが、輝く目をウェンシェスランに向けた。
「ちょっ…ちょっとやめてよフェリちゃん。あんたに褒められるとくすぐったいが過ぎるのよ。リンちゃんもそんな純粋な目で見ないでええ!」
「褒めていません、事実を述べたまでです。貴方の浄化魔法と回復魔法は素晴らしいの一言に尽きます」
「んもー!照れちゃうでしょお!?」
「ほ、ほんとに、すごい…。あちこちのギルド行ったけど、バジリスクの毒無効化なんて初めて聞いた」
「やーん!もう、リンちゃんまでー!」
「あう、あ、あの…!」
照れ隠しというよりはこれ幸いといった風で抱き付かれてあわあわと手を振り回し助けを求めた先ではエウフェリオが楽しそうに笑っていた。これは助けてもらえそうにない。焦る気持ちを抑えようと大きく息を吸い込めば、いい匂いが鼻と胸をくすぐって余計に脳が沸騰する。
「いや、だからおまえらは何で戦闘中だってのに井戸端会議をするのかと」
がつり。
その頭を掴んだイドリックがとても良い笑顔で低い声を放った。
「いやーん!いいじゃない!だってあたし毒無効膜かけたらすることないもの!」
「いや、オーリンには見学させなきゃだろー!?」
魔法使い組が会話している間に瘴霧蛇を仕留めたアレグが、顎裏を上に向けて倒れた頭部の隣で聖剣を振り振り言う。あれをこの短時間で討ち取ったのかとオリンドは目を剥いた。
「この階層の魔物相手では見学のレベルでは無いでしょう。私もシェスカも正直、貴方の動きを捉えかねる段階ですよ」
「えっ、まじ!?…えっ、じゃあオーリンも…」
「ううっ、ご、ごめんなさい、俺こないだのグリフォンの段階で目ではほとんど見えてなかった…」
「そっかぁああ…じゃあ今は尚更見せてもあんま意味無いのかあぁああ…!……うん?…目では?」
がっくりと項垂れたアレグだったが、ふと引っ掛かって顔を上げた。
「目では見えない、って?」
「え?…うん。肉眼じゃ見えない」
「おいおいおい、オーリン」
ちょっと待てとイドリックは横から声を挟んだ。
「まさか、探査スキルでなら見えるのか?」
「えっ?…み、見えるっていうか、ええと、動きは追えないけど感じ取れてるっていうか…。突風に吹かれた時みたいな…」
見えず追えなくとも方角や強さがわかることと似ているとオリンドが説明すると、アレグがすこぶる目を輝かせた。
「~~~っっ!おまえ!オーリン!最高じゃん!そういうことは早く言えよ!なあ、次から戦…っあ~、ここではやめたほうがいいか。…鍛錬!そうだ、鍛錬の時は必ず探査スキル使えよ!?」
「えっ!?えっ!?!?…なんで!?」
「なんででもだ!説明するのは難しい。いいか、俺との鍛錬でも使え。約束だぞ」
「えぁっ、え、…うん。わ、わかった」
なんだかよくわからないけれどアレグさんとイドリックさんが言うならそれだけの理由があるんだろう。頷くと至極満足げな笑顔が返ってきてオリンドも笑い返した。
「…なんか、リンちゃんすごいことになっちゃいそうね…」
「ええ。Bランク程度には鍛え上げられるかもしれません…」
これは楽しみだとウェンシェスランとエウフェリオは顔を見合わせて笑った。
人というのは三大欲求のうちの性欲はやり過ごせても睡眠欲と食欲は如何ともしがたく、どちらかひとつでも満たされていなければてきめんに能力は低下する。
その点、クラッスラの中級階層あたりから先では安全地帯に事欠くことは無い。アレグの腹時計がかなり正確なこともあって時計などと高価で壊れやすい道具を持って潜ったことは無いから実際の時間に換算することはできないが、少なくとも腹が空きすぎるだとか酷い眠気で考えることもできなくなるなどという事態に陥る前に、魔物避けの施された地帯なり簡易的な隠し部屋なりに辿り着く。それもこのダンジョンが現れてから探索をした先人たちの手によるものではなく、最初からそうだったとギルドの史書には記されているのだから首を捻っていたものだが。
「どう考えてもこりゃ、ここで生活していたんだよなあ。…当時から魔物対策が必要だったってことか。しかしそうなると逆に六十階層あたりまでのダンジョン構造はなんなんだ…」
玄関広間に潜む魔物を粗方討伐したり追い払ったりしてから歩き回ってみたところ、広間に面したいくつかの扉は破られ黒緋狼や白擢老狐などといった魔物の寝床にされていたが、城の二階とを行き来する転送陣の設置された隠し部屋と、奥の階下へ降りる階段の両脇にひとつずつ設けられた部屋は、イドリックの考える通りならおそらく繁栄していた頃のままの姿で残っていた。というのも隠し部屋は文字通り隠されているからだが、残るふた部屋も見た目の豪華さとは異なりかなりの強度を誇る作りをしており、扉には壁の左右に埋め込まれた魔石で結界が施されていた。魔法陣に描かれた十三芒星の頂点に定められた順で触れると解除あるいは結ぶことのできる型だ。陣に記された記号を読んで結界を解き、念のためそれぞれ灯り魔法を掛けたランプを手に二手に分かれて踏み行ってみれば貴賓の待機室にでも使われていたのだろう、厚い埃に埋もれているが一目で質の良いとわかる棚や椅子などが置かれ、小振りの暖炉まで設置されていた。
「そうねえ。七十から先は城下町風の迷宮仕様だって今までの考え方、すっぱり改めなくちゃだわ。さておき、雑魚寝なら十人くらいはいけそうね…。向こうの部屋もこんな広さなら四パーティくらい寝泊まりできるわよこれ」
「おおーい!おまえらこっち!こっちすげえぞ!来てみろ!」
「あら。噂をすればお呼びだわ」
「向こうはなにが出たんだ?」
アレグの呼び声に部屋を出たウェンシェスランとイドリックは、階段を挟んだ向こうの部屋へ移動した。
「なあにい?アルちゃん。竜でも出たような声出し…なによ、これえ!?」
開かれた扉から呑気な声を掛けつつ覗き込んだウェンシェスランは言葉の途中で飛び上がった。
「な…んだ、こりゃあ!?…応接室、か?」
続いて入ったイドリックも室内の様子に目を見開く。
玄関広間も相当煌びやかだったがこの部屋は華美が過ぎる。壁や天井は白を基調に規則性を持った細かな金の装飾が施され、大きな窓がいくつも並んでいた。飾り窓かと思いきや向こう側に広い空間が取られ地上のような景色が造られている。荒れていないことから魔道的な人工物と推測された。床には赤地に豪華な草木柄の織り込まれた長い毛足の絨毯が敷かれていて、いっそ踏むのを躊躇ってしまう。そこに置かれた見上げるほどの時計や飾り棚に革張りのソファといった調度品は、磨き上げられた焦茶の木目にこれでもかと金細工が入っていて目が回りそうだ。くらりとして視線を上げればよくあれが落ちてこないと思わせる、玄関からの広間にあったものとは比べ物にならない絢爛な真鍮シャンデリアがたっぷりと水晶を纏っていくつもぶら下がっている。あれの下には寝たくない。
「すっげーよなここ!もう休憩地ここに決定だろこんなん!何十人寝られるんだろうな!?俺この綺麗なやつ見ながら寝たい!」
キラキラとした目で天井を見ながらシャンデリアの真下でアレグがはしゃいだ。
「…ああ。おまえはそういうやつだよ。…まあ、確かにこれほど安全かつ休憩地にあつらえ向きの場所も無かろうというか贅沢すぎやしないか?これだけ綺麗になってるところを見るとなにか維持する魔法でも使われてるだろ?」
「ご名答です。天井の裏に定期的に発動する清掃のための魔法陣が仕込まれていますよ」
オリンドが模写したらしき紙を見せながらエウフェリオが言うと陣の内容を読み取ったウェンシェスランが白目を向く勢いで頭を抱える。
「なにっ、その贅沢…!清掃ってこれ風魔法に水魔法に火魔法に重力魔法と、…浄化魔法まで組み込んであるじゃない!どれだけ魔石使うのよ!?」
「ええとね、この天井の上、もう魔石の倉庫っていう感じになってる…」
「大概だなおい。ピオニアビアンカ城だってこんな豪勢じゃ無いだろ」
ほのかに頭痛を感じながらイドリックは白牡丹の名を戴くグラプトベリアの王城を思い浮かべた。クラッスラのおかげもあり周辺国の間では群を抜いて裕福なはずだが、これほど豪華絢爛な部屋はひとつたりとも無い。
「そこの時計も時間は合っているか定かでは無いですが、きちんと動いていますし…。眩暈がしそうですよ。しかも階が下がるほど更に豪華になるのでしょう?よほど栄華を極めた国だったんですね…」
「うん。ええと、もっかい探査する?」
「いえいえ、明日は新階層です。なにがあるかわかりませんから、使わなくて済む魔力は使わないでおきましょう」
「俺もそれがいいと思うな。あと、やっぱ何が出るかお楽しみってとこはとっときたいしさ!」
「そっか。なるほど…。あっ、じゃあ索敵もしないほうがいい?」
「それはしてくれ!さっきのあれすげえ助かったもん!オーリンが教えてくれたから、俺シェスカのリクエストに応えられたんだからな!」
殺気を感じ取ってから動いたのでは斜め懸けに斬るしか無かったと手を取って訴えるアレグに、役に立てることがまたひとつ増えたと嬉しくてオリンドは何度も頷いた。
「わ、わかった。索敵はしっかりやる…!」
「頼むな!」
アレグもまた嬉しそうな顔で頷いて、それから盛大に腹を鳴らした。
「…あ」
途端に設置された時計から正午を知らせる鐘が響く。
「おや、昼時ですか。そこな時計の正確さも証明されましたね。素晴らしい。結界を張り直して食事にしましょう」
ちょうど先ほどの魔法陣が裏側に設置された辺りの壁に描かれた同じ魔法陣へ歩み寄り、逆の手順で十三芒星の頂点を突いたエウフェリオは念のために扉が開かないことを確認してからオリンドの側へ戻った。
「毎度のことながらアルちゃんの腹時計は凄まじいわ」
「…そういえば、アレグさん何日も飲まず食わずできるのに、腹時計は正確…なの?」
「おう?おう、そりゃあもちろん。食わなくても平気ったって食わなきゃ腹は減るもん。毎日ちゃんと朝昼晩に鳴るって」
「…そ、…え、…あ。…そうか」
あれ?なんか聞きたかったことと違うような?と首を傾げたオリンドだったが自信に満ち溢れたアレグの表情に押し切られて納得する。
しかし側から聞いていても返事の内容が根本的にずれていたような気がしなくも無い。が、リンちゃんが納得したならそれで良いわあ。と、ウェンシェスランは鞄からお気に入りの茶葉を取り出し暖炉の前に置かれたローテーブルに並べた。
「暖炉は使いますか?」
鞄から飲み水や小鍋と調理したてのまま収納していた副菜をいくつか取り出しながらエウフェリオが尋ねると、顔を明るくしながら頷く。
「そうねえ。できれば使えるとありがたいわ」
「いいな、温かい飯に淹れたての茶。そんじゃ薪を探してくるか。この部屋には無いだろうし」
「それには及びませんよ。火魔法くらいなら使っても支障ありませんから。一時間も燃やしていれば十分でしょう?」
「んぁ、その暖炉、薪も火魔法も要らない。ギルド提携宿の共同炊事場の竈と同じやつだから、ここの魔石を捻ると火が付く」
火床の下に火魔法の陣が仕込まれ、天井裏には及ばないが毎日炊いても数年は魔力が尽きないのではないかというくらいの魔石が敷かれている。呼吸をするように探査してスイッチの魔石を捻ったオリンドは、はたと気付いて口元を覆った。
「ごめ…探査しちゃった…」
「ぶっはっ!…いいっていいってそのくらい!おまえ二割で六十階層とかサーチできちゃうやつが、暖炉見たくらいで何言ってんだよ。何階層かまとめて見るみたいな魔力消費は抑えとけって話だよ」
「ふふふ。そうですよ。このくらいなら大丈夫ですし、助かりますから。ありがとうございますリンド。…それにしても共同炊事場ですか。懐かしいですね」
「あー、ね。あたしらもお世話になったわあ。合同で出資して~なんて考えた人天才かしらって思ったもの」
「あれは助かったよなあ。なにしろ狩ったもの食うのが一番の安上がりだ」
「うん。肉は焼いて煮詰めた酒でもかけたらそれでメインにもなるし、すごく助かる」
「あー!聞いてたらめっちゃ腹減った!食お食お!」
「はいはい、お湯沸かしてるから、あんたたち先に食べ始めてちょうだい」
魔力の火が灯った暖炉の火床に焚き火台を置いて小鍋をかけながらウェンシェスランが言うと、四人はいそいそとローテーブル周りのソファに座った。
「うおっ!なんだこりゃすげえ沈む!」
「随分と柔らかい座面だな。なにで作られてるんだ…。しかしこれじゃ食うのに向かんぞ」
イドリックの渋る声を聞いたオリンドは、幼馴染たちから叩き込まれた習性で咄嗟に使える物は無いかと辺りを見回し、窓際に目を留める。
「…ええと、ふ、フットレストかな、あれ。…あれに、座っちゃう?テーブルも低いし…」
行儀が悪いだろうかと思いつつも窓の下に並べ置かれた足置き椅子を指差し提案すると一瞬全員の視線がオリンドに集まった。やっぱりダメだっただろうか。と、背中に汗が吹き出す。
「いいなそれ!オーリン頭いい!」
「名案だ!ちょいと行儀は悪いけどな。冒険中なんだ、無礼講だろ!」
しかしその不安を吹き飛ばす勢いで楽しそうにソファから立った二人は窓際に駆け寄ってそれぞれ両手にひとつずつ取り、アレグがもうひとつをエウフェリオの方に足で放り寄越した。
「ふむ。高さといい硬さといい、ちょうどいいんじゃないですか?…しかしフットレストなんてよく知ってましたね」
「あっ、うん。さっき話した時計塔で捕まえた迷子猫、依頼主が貴族だったんだけど、すごく気さくな人で。直接お礼がしたいからってお屋敷まで渡しに行って、そこで一回だけ見たことある」
見たというか部屋に通されるとは思ってもおらず酷い緊張もあって椅子と勘違いして座ってしまい大層笑われたのだが。人懐こかったのか一目合った瞬間からとても懐いてくれたその猫と別れなければならないことも相まって、ちょっぴり苦い思い出だ。
ともあれ受け取った足置き椅子を差し出されて触ってみたオリンドは、思ったより座り心地の良さそうな弾力に目を丸くする。
ええっ!?これが足置き!?なにこれ気持ちいい!あの時座っちゃったのと全く違う…。もうこれ腰掛けでよくない?贅沢だなあほんとに。…贅沢って言えば、九十…何階層だっけ、豪華すぎてげんなりした階層が二つあったよなあ。…あっ、うわ、あのでっかいのも思い出しちゃった!
触発されたオリンドは先日の探査で驚くという域を越した内装の光景に、つられて跋扈する巨大な魔物の姿まで思い出してしまって少しだけ青ざめた。
「リンド?どうしました?」
「えぁっ、だ、大丈夫。この先の階層を思い出してたら、すごい怖い魔物も思い出しちゃって。見た目もすごかったけど、熊よりでかくて…」
「あっ!待った待った言いっこなし!そこ楽しみにしたい!目の前に出るぞーって時に言ってくれ!」
「わー!ごめん、ないしょにしとく!」
先に言うの無し!と慌てるアレグにオリンドもそうだった!と慌てて口元に両手を当てて噤んだ。
「ふっふふ!ないしょって…!ないしょってもう、リンちゃん可愛いわあ!んーもう、困っちゃう!」
「リンドは愛らしいのが常ですから仕方ありません」
「へぁあ!?」
なんで、なにが可愛いの!?
意味がわからない。とテーブルを少し叩いて頭を振るオリンドにひとしきり笑って、それはそれはもう昼食を楽しく済ませた一行は、腹の落ち着くまで休憩を取ると荷物をまとめ直して立ち上がった。
「荷物、全部持ってくの?」
「そうですね。再度ここに戻るでしょうけど、場合によっては緊急退避でギルドに直行もありえますから、持って行くに越したことは無いんですよ」
時間停止機能のおかげで収納したものは溢れることも壊れることも混ざることも無く、取り出す際には手を突っ込めば頭に浮かぶ対象物を意識下で選択するだけで済むことからエウフェリオの所持品も鞄へ無造作に放り込むだけという手早さだ。オリンドに説明をしつつ結構な量を詰め込まれた鞄の口が何することもないように閉じられる。もっとも収納先でどれほど乱雑に積まれているかは不明だが。とにかく各々の装備を再確認した一行は再度結界を解くと応接室を出た。
「ん、と、左前からでっかい蛇がゆっくり来る」
「おう!…どのくらいでっかい?」
出て早々にさっそく魔物が来るとオリンドが告げると嬉々として聖剣を構えたアレグは軽い調子で聞き返した。
「えっと、人間ふたりくらいなら飲んじゃいそうな大きさ。…鱗の表面が蒼鉛の結晶みたいな組織になってる」
「おお!でけえな!…蒼鉛?て…」
なんだ?
「金属状の虹色…!?瘴霧蛇じゃないですか!」
もう一つ載せられてきた情報に首を傾げたアレグの疑問の声を遮り、エウフェリオが多少慌て気味にオリンドの前に出る。
「はあい、お任せ!」
瘴霧蛇の名が出た途端にウェンシェスランが聖杖を掲げた。あっという間に五人を淡い光が包み込む。
「うあ…なにこれ綺麗…」
「毒を無効化する膜ですよ。瘴霧蛇の毒は名の通り霧状に散布されるんです。なのでこうして皮膜状の魔法で覆って防ぐのが一番効果的ですね。シェスカの浄化魔法ですから、バジリスクの毒さえ効果を無くしますよ」
「へぁああ!?ば、バジリスクってあのバジリスク!?…ふわぁあ…すご…」
さすがに高ランクすぎる魔物の名については御伽話や吟遊詩人の歌詞ではあるが知るオリンドが、輝く目をウェンシェスランに向けた。
「ちょっ…ちょっとやめてよフェリちゃん。あんたに褒められるとくすぐったいが過ぎるのよ。リンちゃんもそんな純粋な目で見ないでええ!」
「褒めていません、事実を述べたまでです。貴方の浄化魔法と回復魔法は素晴らしいの一言に尽きます」
「んもー!照れちゃうでしょお!?」
「ほ、ほんとに、すごい…。あちこちのギルド行ったけど、バジリスクの毒無効化なんて初めて聞いた」
「やーん!もう、リンちゃんまでー!」
「あう、あ、あの…!」
照れ隠しというよりはこれ幸いといった風で抱き付かれてあわあわと手を振り回し助けを求めた先ではエウフェリオが楽しそうに笑っていた。これは助けてもらえそうにない。焦る気持ちを抑えようと大きく息を吸い込めば、いい匂いが鼻と胸をくすぐって余計に脳が沸騰する。
「いや、だからおまえらは何で戦闘中だってのに井戸端会議をするのかと」
がつり。
その頭を掴んだイドリックがとても良い笑顔で低い声を放った。
「いやーん!いいじゃない!だってあたし毒無効膜かけたらすることないもの!」
「いや、オーリンには見学させなきゃだろー!?」
魔法使い組が会話している間に瘴霧蛇を仕留めたアレグが、顎裏を上に向けて倒れた頭部の隣で聖剣を振り振り言う。あれをこの短時間で討ち取ったのかとオリンドは目を剥いた。
「この階層の魔物相手では見学のレベルでは無いでしょう。私もシェスカも正直、貴方の動きを捉えかねる段階ですよ」
「えっ、まじ!?…えっ、じゃあオーリンも…」
「ううっ、ご、ごめんなさい、俺こないだのグリフォンの段階で目ではほとんど見えてなかった…」
「そっかぁああ…じゃあ今は尚更見せてもあんま意味無いのかあぁああ…!……うん?…目では?」
がっくりと項垂れたアレグだったが、ふと引っ掛かって顔を上げた。
「目では見えない、って?」
「え?…うん。肉眼じゃ見えない」
「おいおいおい、オーリン」
ちょっと待てとイドリックは横から声を挟んだ。
「まさか、探査スキルでなら見えるのか?」
「えっ?…み、見えるっていうか、ええと、動きは追えないけど感じ取れてるっていうか…。突風に吹かれた時みたいな…」
見えず追えなくとも方角や強さがわかることと似ているとオリンドが説明すると、アレグがすこぶる目を輝かせた。
「~~~っっ!おまえ!オーリン!最高じゃん!そういうことは早く言えよ!なあ、次から戦…っあ~、ここではやめたほうがいいか。…鍛錬!そうだ、鍛錬の時は必ず探査スキル使えよ!?」
「えっ!?えっ!?!?…なんで!?」
「なんででもだ!説明するのは難しい。いいか、俺との鍛錬でも使え。約束だぞ」
「えぁっ、え、…うん。わ、わかった」
なんだかよくわからないけれどアレグさんとイドリックさんが言うならそれだけの理由があるんだろう。頷くと至極満足げな笑顔が返ってきてオリンドも笑い返した。
「…なんか、リンちゃんすごいことになっちゃいそうね…」
「ええ。Bランク程度には鍛え上げられるかもしれません…」
これは楽しみだとウェンシェスランとエウフェリオは顔を見合わせて笑った。
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