勇者が死んでしまった件

家庭崩壊

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勇者が死んでしまった件#01

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 我思う、村人こそが至高、平凡こそが丁度いい。生きる人は皆俺を見て勇者になりたいだの羨ましいなどと言う………何故だ、何故羨ましがるのだ。何故好き好んでモンスターと戦いたいと思う。俺、バルドメイト・オル・バトスは勇者(被害者)だ。よく小さい子供達が俺を見ると、「大きくなったら旅に出るんだ!」とか、「バトス兄みたいな勇者になる!」などと言うが、そんなもの数年も経てば諦めるのだ。と言うか、諦めるなよ。もっと粘って是非とも俺から勇者という称号を奪ってくれ。もうこの際誰でもいいから……

「頼む、誰か変わってくれ」

                            *****

俺は今日も家の前にそびえ立つ大樹をのぼり、風が最もあたる位置にある枝に寝そべり、昼寝をしていた。これは俺の日課である。あー、肌に当たる風がとても心地よい。俺はこの時間が最も好きだ。平和だなー、今の時代、一歩外に出れば魔物だの盗賊だの色々と物騒である。そんな物騒にみちあふれた世界で、この昼寝と言う行為は何よりも至福だと俺は思う。俺は静かに目を閉じ、意識を肉体から切り離していった。あと数秒もあれは旅立てる一歩寸前で、俺の体を衝撃が襲い、意識は半強制的に引き戻された。とっさのことで俺も反応できず、木の上からうつ伏せに転がり落ちた。俺はうつ伏せのまま顔を上げて衝撃で俺を襲ったであろう張本人に問う。

「寝込みを襲うのはずるくないですかね?」

それに対し、少女は腕をくみ、ひきつった笑顔で答えた。

「勇者が訓練サボって昼寝するのはどうなのよ!!!」

こいつは俺の幼なじみであり、名をシエンという。シエンはとても優秀な魔法使いであり、魔法の中でも回復魔法を最も得意としている。顔立ちは整っており、何より目を引くのは腰までのびている綺麗な黒髪だ。俺はため息をつきながら立ち上がり、身体中についた草を手ではらった。

「だって面倒くさいし、行く意味ないじゃん。だいたい俺みたいなやる気も生気もないやつが何で勇者なんてやってんだよ。絶対狂ってんだろこの世界」

俺は物心つくまえから自分は勇者だと教会の人間、及び両親達から嫌と言うほど聞かせられて生きてきた。

「狂ってるのは法則じゃなくてアンタよ!パラメーターの全てが常人の数倍!その他全てのスキルがチート級!本来なら一個作るのも何十年とかかるであろうオリジナル魔法を一週間で完成、しかも複数!狂ってるどこしの問題じゃないわよ!もはやバグよ!!!」

そう、シエンが言ったとうり俺のパラメーター、及びスキルは全てチート級。バグと言われてもしょうがない。否定はしないさ

「だからこそ行きたくないんだよ、モンスターのほとんどはワンパンだぞ?これ以上訓練してなんになるんだよ」

そう、文字どうりモンスターの大半はワンパンで終わってしまうのだ。戦いの中の緊張感もなければ戦略を立てる必要もない、どうせ勝ってしまうのだから。勝ちが確定してしまったゲームほどつまらないものはない。俺は深くため息をついた。

「お前はいいよな」

俺がシエンにむかってそう言うとシエンは顔を真っ赤にして怒った。

「なっ!皮肉のつもり!私からすればあんたのほうが何百倍も羨ましいわよ!」

どうやらバカにされたと思ったらしいな。そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。

「ちゃうちゃう、そういう意味じゃないよ………成長できていいなって」

「え?」

俺の言葉に彼女は言葉を失った。いや、意味が理解できなかったのだろう。

「自分のことだからわかる。俺はどうあがこうとこれ以上の成長は無いだろう」

人はステータスカードと言うものを絶対と言って良いほど持っている。このカードにレベル、ステータス及び、スキル等が書いているのだ。人のレベルは最高100だと決まっている。あいにく俺のレベルはもうMAXどころか測定不能と出ている。魔法だって調べ尽くした。特に俺の好きな雷系の魔法には力をいれた。俺は現在12歳。この歳で自分の限界をわかってしまったのだ。

「はぁー」

俺は再度ため息をついた。特訓をすればそれ相応に能力が向上するから訓練も楽しい。経験値をもらい、レベルが上がるから嬉しいし達成感もある。だが俺はその両方の感情をもう感じることはできないのだ。

「あーもう、なにため息ついてんのよ。ほら、行くわよ!」

俺はシエンに後ろの首根っこを捕まれた。

「行くって何処に?」

俺の問いにシエンは優しく微笑んで答えた。

「訓練所」

俺は無論抵抗する気もないのでシエンに引きずられながら訓練所に向かっていった。

       *****

10分ほどで訓練所についた。とりあえず俺は立ち上がり、背中についた土を落とそうと背中に手をあてた。

「もう、何やってるのよ」

背中についた土を落としているとシエンが手伝ってくれた。まぁ、全ての原因はお前にあるんだけどな。ふと視線を上げると、視線のむこうから1人の少年がこちらに向かって走ってきている。俺にあたる寸前で急ブレーキをかけた。よくそのスピードで止まれたな。

「勝負だ!バトス!!」

こいつはレウス、人の顔を見るたびに勝負を仕掛けてくる。負けず嫌いな上に、勝負事で手を抜かれるのが本当に嫌らしい。だから俺は毎回全力を出すのだが…現在の戦歴、185戦185勝0敗。まぁ、俺の全勝で、見るも哀れな結果である。

「いや、別に勝負するのはいいんだが、どうせ今回も負けるのはお前じゃん。それなのに何度も何度も飽きないの?」

「なっ!つっ、次は勝つんだよ!!!」

次は勝つんだよ………この台詞を聞くのは何回目だろうか?

「その台詞あと何回聞かなければならんのですかねwww」

俺のその態度にはらをたてたのか、レウスは顔を真っ赤にして答えた。

「うるさい!今日は模擬戦で勝負だ!」

よりにもよって俺の最も得意分野で勝負とかこいつは馬鹿か。俺はレウスに手をひかれ、模擬戦所に向かった。

       *****

「おーい、今頃だが本当にいいんだな」

俺はレウスにむかって手を振った。

「当たり前だ!今日こそは勝つ!」

レウスは右足で地面を蹴り、いきよいよく飛び出した。

「はぁーー!!!!!」

レウスは魔法の中でも炎系統の魔法を最も得意とする。無詠唱なんて朝飯前なわけだ。レウスは俺に向かって複数の火の玉を投げながら俺に接近した。四方から迫ってくる火の玉を打ち落とそうとかまえたのだが…

ドパンッ!!!

俺に当たる寸前で火の玉は爆発した。目くらましか。前までのレウスならばそのまま俺に火の玉を当てただろう。なるほど、ちゃんと考えてはいるというわけか。

「どうだ!!この手は読めなかっただろ!!バトス!!!」

レウスは爆発で発生した煙の中から体制を低くして出てきた。左手を右手に添え、炎を右手にまとった。

「くらえ!!!」

そう叫びレウスは俺に向かって真っ直ぐに炎をまとった正拳を突き出した。………うん、悪くない動きだ、だが………

「悪いな、読めてたよ」

俺はレウスの正拳を受け流した。さすがのレウスも予想しなかったのだろう、驚きの顔を隠せなかった。そして、おそらく今の俺の目は真っ赤に染まっているだろう。これが俺のチート能力の1つ

《神眼》…相手の動きを先読みできる。

俺は即座に肉体強化を発動し、空ぶったことにより体制を崩したレウスに裏拳をおみまいした。ギリギリ反応したレウスは腕で防御したが、完全には防げず、約10メートル後方に飛ばされた。追撃をすべく俺は、レウスの真横の方向にマイナスの電子の塊を飛ばした。丁度レウスの横に来た瞬間、俺の体からプラスの電子を発した。磁石の要領でレウスの横に移動完了。その間約0.7秒。俺のオリジナル魔法《電光石火》

「悪いなレウス」

俺は右手の人差し指と親指の間に電気を集中させた。瞬間、俺の手から青い光が発動。

「ゲームオーバーだ」

《スタンガン》電力によっては相手を気絶、及び死亡させることも可能。

「ギャー!!!!!!!!」

俺が右手でレウスの背中をついた瞬間レウスの体中に電撃が流れた。生身の人間がこれをくらって立てるはずはないだろう。案の定レウスは気を失い、倒れた。俺の……勝ちだ。

       *****

「あんたねー」

「何だよ」

レウスとの決闘が終わってからやけにシエンが構ってくる。

「手加減とかはないの?」

「したら怒るだろだろ?あいつ」

レウスは勝負事で手を抜かれることを最も嫌う。シエンもそれは理解はしているが、それでもどこか納得がいかないのだろう。

「あー見えてもレウスはアンタを外せばダントツで強いのよ」

わかってる。見てすぐにわかった。悪くない動きだ、むしろいい。作戦もよかったしな。

「じゃあさ、俺の代わりにあいつに勇者やってもらうとか…」

「アンタ………」

シエンは心から失望したと言わんばかりの目で俺をみてきた。

「じょっ、冗談だって」

俺の一言で気まずい空気になってしまった。俺達はその後会話をすることもなく家に帰っていった。



それから3年後、少年は旅に出た。少年はたった1年で魔王を倒し、世界を救ったのだ。1人で魔王に挑み、勝った男。

魔王は死ぬ直前に少年に言った。

「貴様は強すぎたのだ」

少年は悲しい表情でいった。

「そんな事はわかってる」

その後、少年の姿をみたものは誰もいない。まだ、生きてるのか。それともどこかでくたばったのか。

これは誰もが知ってるお話

あまりにも強すぎて、人として大切なものを失った少年のお話

強すぎた少年のお話だ。

       *****

ここはどこだろう?たしか俺は魔王を倒し、魔王城を乗っ取ってから元魔王のベットで寝てたはずた。辺りをみわたしても一面真っ白で、何もわからなかった。

(えー、もしもしー)

 何だろう?脳内に直接声が流れてきているようだった。

(聞こえるー)

これは俺に向けて言ってるのだろうか。だとしたら無視するわけにもいかない。

「えーと、聞こえてるよー」

(あ、本当?何だよー、聞こえるなら返事してよー、悲しいじゃん)

なんと言うか、喋り方が軽いな。

(えー、バルドメイト・オル・バトス本日夜中の2時、お亡くなりになりました。魔王を倒し、世界を救うと言う素晴らしい行為、感心します)

それはまた、唐突だな。…つまり……

「俺は死んだのか?」

俺の質問にたいしてそいつは笑いながら答えた。

(そゆことー、理解がはやくて助かるよ。ほとんどの人は意味がわからないとか言うから面倒くさいんだ)

「……で、俺はどうなるんだ」

(そうそうそれなんだよ。本来役目を終えた魂は消滅し新たな魂へと変化するんだけどね、ある事情で君には魂の原型をとどめておいたんだよ)

魂とかなんとか正直良くわからんな。

「結局なんなんだよ」

(えーとね、率直に言うと君には生き返ってほしいの)

生き……返るか…
答えは考えるまでもない。

「断る」

(え!?)

「え!?」じゃないよ「え?!」じゃ。

「何で好き好んであんな世界に生き返えらなければならんのだ」

(えー、いや、こちらにも事情があるのよ、何か君が死んで1000年後に魔王の隠し子なんてやつが出てきてもう、本当に困ってんのよ)

なるほど、つまりは………

「それを俺に倒せと申すか」

(そうそう)

「どうせ弱いんだろ?親があれだしな」

実際、俺は魔王をたった5発で倒している。

(あー、そこらへんは問題ないよ、なんか1000年後にはモンスターのレベルが何倍にも上がってるから、まぁ、だから困ってるんだけど)

「いや、世界バランスどうなってんだよ」

(こっちが聞きたいよ)

要は、俺が死んで1000年後の世界にいって魔王を倒してこいと。モンスターは強くなっていると、正直頭が痛くなりそうだった………

(生き返るって言っても魂をもとの世界に返すだけだからね、スキルとかはそのままでも熟練度とかレベルとかは1からだから。歳は変わってないと思うけど)

「なるほどな」

あっちの世界の魔物は何倍も強いんだよな…

「そこのモンスターはどれくらい強いんだ?」

正直、モンスターのレベルによってはいってもいいと思う。

(スライムが前魔王くらいかな)

前魔王レベルとかどんだけ世界バランス崩れてんだよ。

(どうなってんだろうね、世界バランス)

なんか可愛そうになってきたな

「えーと、じゃあ生き返りでたのむ」

(本当!いやー、助かるよ。あっ、これ)

「?」

「これ」と言ったとたんに、俺の右手の人差し指が光り、光が収まったと思うと俺の指には指輪がつけられた。

(それ使うと一回だけ僕と通信できるから)

なるほど、これはありがたいな。至れり尽くせりだ。

(じゃあ、頑張ってねー)

エールをおくると同時に、俺の意識はとんだ

       *****

「っ!!」

なんとも言えぬ痛みが俺の体中を襲った。まるで内側から直接を叩かれている感覚だ。体中が重い、どうやら蘇生は無事完了したようだ。…痛みがだいぶおさまってきたか、俺はふらつきながらも何とか立ち上がり、辺りを見渡した。ここはどこだろう?所々に苔が生えているようだが、全体を見て見たところ教会のようだった。

「よいしょ」

まだバランスはとれず、少しふらついている。これも蘇生の影響だろうか、自分の体を見ると俺は白いオーブを1枚羽織っていた。

「え?」

立ってから自分の体を見るまで気づかなかっのたが、俺の髪の色が白い。透き通るほど綺麗な銀髪だった。たしか、生前の俺の髪は黒かったはずだ、しかもその銀髪は腰辺りまでおりている。あと、胸に控えめな膨らみがあるような……何だかとてつもなく嫌な予感がする。

「おいおいまさか……」

この世界に来て初めて聞いた俺の声は少し甲高かった。長い髪に甲高い声、そして何より胸についた慎ましやかな膨らみ。俺はまさかなと思いつつ、すみに置いてあった鏡の前えと足を運んだ。

「……う、嘘だろ」

俺の嫌な予感は的中した。鏡に写った自分は、肌の白い碧眼の美少女だった。特に目を引くのは腰までのびた銀髪である。身長は低く目で、幼児体型だった。と言うかこれって………

「女じゃねーか!!!!!!!!!!!!」

俺は即座に人差し指の指輪を起動させた。

(えーなにー、ていうか使うの速すぎでしょ)

速すぎじゃないんだよ!一大事だぞ!一刻を争うぞ!!

「おい!こら!ジジィどうなってんだ!」

俺の声を聞いてじぃさんは戸惑った。

(え?だれ?……あー、ダメじゃないか。人の指輪を勝手に盗んじゃ、おとなしくそれを持ち主のお兄さんに返してきなさい)

どうやらじいさんは俺を盗人だと勘違いしたしい。だが………

「俺だよ!バトスだよ!なんだよこれ!肉体を移行したんじゃないのかよ!聞いてないぞ!」

俺の返答にそいつは驚いた。

(え!?まじで、それはまぁ、ドンマイ)

「ドンマイじゃねぇよ!!」

(おそらくこちらのミスですね。スキルとかは問題ないだろうし、いんじゃね)

よくない。何もよくないよ……

「男になることは?」

(ムチャいうな、さすがに生きた人間に干渉はできないよ)

「ですよねー」

(まぁ、頑張ってくれ)

通信は途切れたと同時に指輪が消滅した。俺は状況が理解できずにいたが、いつまでもここで止まっていてもしょうがない……

「とりあえず、街を探すか」

俺は教会を出て街を目指した。

        *****

どれくらい歩いただろうか、結構な距離を歩いたと思う。

「確かめるか」

俺はチート能力の1つ、《平眼球》を使った。これは何百マイル先のものでも正確にみることのできる能力だ。……うん、間違いなくこの先に街はあるはずだ。能力を解除し、俺は歩きだした。しばらく歩くと、目の前に馬車がやって来たので左側によけた。見た感じとても鮮やかな装飾を施されている。おそらく貴族の馬車だろう。馬車は俺の前を通りすぎることはなく、俺の目の前で止まった。

「?」

馬車の中から出てきたのは少し太り気味の男がだった。その後から一人付き人が出てきた。

「おい、貴様」

今こいつは俺に言ったのだろうか?人のことをいきなり貴様とか失礼なやつだな。

「えっと……私のことですか?」

一応姿形はか弱い女の子だからな、それなりの対応をとるとしよう。
男は俺の体を品定めするように、舐め回すような視線で俺を見てきた。とても気持ち悪い。なるほど、これが世の女性の気持ちか、今身に染みてわかった。

「おい、お前名はなんだ?」

名前か、前のやつだと女っぽくないしな適当に自分でつけるか………

「私はエマと言います」

エマ。とっさにこの名前が出てきたから俺はエマと名乗った。

「なるほどな、エマか。いい名だな」

男は嫌らしい笑みを浮かべて俺にそう言った。いきなり名前で呼ぶとか馴れ馴れしい奴だな。

「あっ……ありがとうございます」

心にもない礼を言うとそいつは俺を指差して予想もしてなかった一言を発した。

「決めた、お主を妃にする」

は?いきなり何をいってるんだこいつは?俺は一瞬理解できなかった。えーと、要約するとこいつはいきなり俺を嫁にすると言い出したのか?いや、それは困る。

「いえ、ありがたいのですが……」

俺は丁重に断ることにしたのだが、相手は全くもって聞く耳を持たない。

「おい!メノウよ!こやつを馬車に乗せよ!帰ったらすぐに式をあげるぞ!」

貴族の付き人であるメノウと言う男が俺の手を引いてきた

「はやく、まいりましょう」

いや、困る。俺は魔王を倒すためにここにきたのだ。それなのにこんなやつの妻になるとかあり得ん!

「いや、私は…その、冒険者になりたいんで……だから、お断りします」

俺の返答にたいしてメノウは不思議そうな顔をした。

「貴様に拒否権はない!私が妃にするといったら貴様は妃になるのだ!」

貴族は俺にそう叫んだ。そんな横暴な。

「そう言うことです。いきますよ」

「お断りします。放してください」

俺は手を引き離そうとしたが、この男中々強い力で手をつかんでいる。

「あの、離してください」

メノウはため息をつき答えた。

「本当に拒否するつもりか」

「ですから、先程からそう言ってるじゃないですか」

「こちらも穏便に済ましたいのだが、こうも抵抗されては致し方ない。これ以上抵抗するのならば、力ずくでつれていく」

正直俺はイラついていた。蘇生、もとい移行した。まぁ、女だったが。しかも転生場所は街からはかなり離れているのだ。炎天下の中何時間も歩けばイラついてくるのは当然だ。それに追い討ちをかけるようにこのようなイベントだ。………まぁいい。そっちが力ずくならこっちもいかせてもらおう。

「ねぇ、ねぇ、お兄さん」

俺は先程と少々雰囲気を変えた。少しイタズラっぽい笑みを浮かべながら俺はいった。

「私からも最終忠告。この手を離さないと痛い目みるよ」

「何?」 

あっけにとられているメノウに俺は軽い電撃を流した。メノウは反射的に手を離し、後ろに二歩下がった。なるほど、少々できるようだな。俺は即座に神眼を発動させた。メノウは驚きの顔を隠せなかった。この小娘…

「なるほど、冒険者を希望するだはあるな」

「何をしているのだメノウ!はやくつれていくぞ!」

貴族がメノウにそう叫んだ。私もそうしたいのはやまやまだが、見た感じこいつはそこそこできる。ここは機嫌を損なわせぬように…

「旦那様、こやつ、そこそこできます。少々力ずくになります」

「かまわん!しかし、肌は傷つけるなよ!」

「御意に」

メノウは貴族の許可が降りると同時に踏み込んだ。所詮は冒険希望者。私のスピードについてこれるものか!

「瞬地!!!!」

メノウは一瞬で後ろに回り込んだ。そして、どこから取り出したのか自前のクナイを俺の首にをあてた。

「何故抵抗する。旦那様の妃になれるのだぞ?これは素晴らしく光栄なことだ」

貴族に逆らうなどもってのほか。それは常識なのだ。それはこいつもわかってるはずだ。なのに何故抵抗する。

「あいにくですが、お城でぬくぬく過ごす日常はごめんですっ!!」

俺は首に当てられたクナイにマナスの電子を送り、左手にプラスの電子を発動させた。結果、メノウのクナイは引き寄せられるように俺の左手におさまった。

「なにっ!!」

俺はやつが驚いている間にしゃがみ、相手と向き合っておもいっきり立ち上がった。まぁ、アッパーを食らわそうとしたのだが。

「っ!!!瞬地!」

俺のアッパーは不発に終わった。メノウはギリギリで回避に成功したが、内心冷や汗をかいていた。危なかった。侮っていたと。

「瞬地か、瞬間移動と言うより、高速移動ですね」

なっ!?こいつ、技の正体まで見破ってくるか。

「ご名答、そして同時に謝罪。見くびっていた。……旦那様、このままじゃきりがないです。全力でいきます」

「全力でいけ!!いったい何をしている!たかが女一人だろう!」

その女一人がとてつもない強者だと言うのにこの方は

「御意に」

メノウは本格的にかまえてきた

「小娘よ、もう貴様は俺の攻撃を避けることはできんぞ。あの瞬地はまだ五割の力しか出していない」

結構だしてんなー、はぁー。……もういいか

「はぁー、もういいや……おいお前ら、人がちょっと下手に出ればいい気になりやがって」

俺は頭をかきながら台詞をはいた。

「なんだと」

俺のはきだした台詞にメノウは驚いた。

「お前じゃ相手にならんと言ったのだ」

「!?」

俺はそう言うと電気を体内に凝縮した。なるべく外に漏れぬよう。体中に電気を張り巡らせた。手から胸に、胸から足に。これが俺のとっておき、雷を体にまとうオリジナル魔法《雷装》だ。俺の体は青く発光している。

「なっ、なんだ!」

メノウは目を丸くして驚いていた。こいつは何をしている。こんなこと……体への負担は考えているのか!?

「あーそうだ、お前がさっき俺に言った言葉、そのままお返しするよ」

「なに?」

「お前はもう俺に手も出せないよ」

俺は片手をメノウの前に突き出した。

「覚悟はいいな?」

「っ!?」

手をつき出された瞬間、メノウの身体中を悪寒が襲った。こいつは危険だ。本能がそう語りかけてきた。こいつ、ただ者じゃない。人間か?いったい…

「…貴様何者だ」

何者かって?そんなの簡単だろ。俺は飛びっきりの笑顔でいった。

「ただの冒険者希望にきまってるじゃないですか♪」

俺はメノウの右側にプラスの電子をとばし、自分にマイナスの電子を発生させ、瞬時に移動した。その間0.5秒。

「!!!」

メノウは振り返ろうとした。だが、それは俺の手刀によって叶うことはなかった。
こいつ、化け物か、人の限界を有に越えている。

ドサッ

「ふぅー」

終わったか。俺は雷装をといた。瞬間身体中が重かった。どうやらこの体になったことで多少の制限があるようだ。まぁ、問題ないだろ。

「さーて」

今私は金がない。目の前には金持ちの貴族。することはただ一つ。

「貴族のおじさんお願いがあるんだ」

「ひっ」

その日、森中に何者かの悲鳴が聞こえたという。

















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