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好感度ゲーム#01
しおりを挟むカチカチカチ
カーテンを閉め切り、外の光をできる限り遮断した空間。その空間には、時計の秒針の音とゲームのボタンを押す音だけが鳴り響いていた。
「……今何時だ…」
いくらカーテンを閉めておるからと言っても朝方になればわずかながら光がもれる。ゲームに集中し、時間などとうの昔に忘れていたが、むなしいことに夜はもう明けつつあると嫌でも自覚させられた。
「…何処においたっけか……たしか…」
俺の部屋に時計なんぞと言う便利なものはない。だからこそ今時間を確認する数少ない道具であるつくかどうかも怪しいタッチパネル式の携帯電話を探し出したのだ。探している途中で鞄に入れたまた机に投げたことを思いだし、耳に当てていたヘッドフォンをとり鞄の中をあさった。
「あった…」
鞄の中にあった携帯電話を手に取り電源ボタンをおした。そこの表示されたのは《月曜日5:30》という文字。
「道理で明るくなるわけだ…」
俺は携帯をベットに放り投げ、コントローラーを手に取り、再びテレビ画面へと意識を集中させた。
◯
俺の名前は千斗一(せんと はじめ)今日から高校2年生になる。両親とは仲が悪く、別居中だ。
「…終わった……」
まぁ、別居できているからこそこうして趣味のゲームにも没頭できると言うものだ。
俺はゲームが一段落ついたところで、床に寝転がり背伸びをした。
ふと机を見ると、三学期修了式以降一度も目を通していない課題が目に入った。
「あ…課題……まぁ、いいか」
俺の脳内に一瞬、課題という2文字が横切っていったが、俺はあえてその現実から目を背けることにした。なに悪いことじゃない。人間と言うものは嫌なことから目を背ける生き物なのだから。
まぁ、今頃課題だの何だの言っても仕様がないのも事実だし、学校に行って考えるとしよう。そのためにもまずは腹を満たすとしよう。
「……腹…減ったな」
そう言い俺は立ち上がろうと足に力を入れたのだが…
「……」
辛うじてたつことはできたものの正直生まれたての小鹿のように震えていた。
「……そりゃそうか」
俺は春休みの間はずっと徹夜でゲームをしていた。それに加え、食事は食パン1日三枚のみだ。こんな生活を春休み中続けたらそりゃこうなるわな。
「……」
悲鳴を上げる体に鞭をうちながら俺は学校に向かう準備をした。
◯
昼休み、本来ならばこの時間は全生徒に自由が与えられ、各自学校生活、いわゆる青春と言うやつを謳歌する時間なのだが…
「はじめよ…」
昼休み中盤で呼び出された俺はその青春を謳歌するはずの時間を生徒指導室で担任と二人きりで指導を言う形で過ごしていた。
「……はい」
今目の前にいるのは俺の担任である畑山 大樹(はたやま だいき)と言う人だ。この人は基本的に生徒思いで皆から慕われている。そればかりか長身、及び顔立ちの整った茶髪の眼鏡と言うなかなかの高スペック人間だ。
「まず何故自分が呼び出されたかは理解しているか?」
そう言うと先生はどこからか俺の日記帳を取り出し、机をスライドさせて俺に方へと日記帳を飛ばしてきた。
「…俺は無罪だ」
俺がそう言うと大樹先生はわざとらしく眼鏡の位置をクイッと上げて見せた。
「いいかい千斗、犯罪者は皆同じ事を言うよ。俺はやってない、無罪だ…ってね」
『この野郎。とうとう俺を犯罪者呼ばわりしやがったな』と心では思ったが口には出さない。出せない。俺だって命は惜しいのだ。
「冤罪と言うものはこうやって起きるんですね。先生は心が痛まないんですか?」
「情に訴えかけても無駄だぞ。証拠はそこにあるんだ諦めろ」
そう言いながら大樹先生は日記帳を指で差し、情に訴えると言う俺の無駄な足掻きを一蹴してきた。これは積みかな?
「記憶にございません」
少しでも足掻いてやろうと明後日の方向を見る俺を見て、大樹先生はため息をついた。
「全くお前は…」
そう言いながら大樹先生は椅子にもたれ掛かり、自分の右胸ポケットから携帯用灰皿。左ポケットからタバコを取り出し一服しだした。
「おいおい良いのかよ大樹先生。勤務時間内だろ?」
俺がそう言うと俺を一瞥して再度ため息をついた。
「本来ならこの時間は俺の休憩時間なんだよ。今お前とこうして話してるのはいわゆるサービスってやつだ。煙吸わねーとやってけねーよ」
そんなもんなのかと思いながら俺は聞いていた。
タバコを吸いながら話を続ける大樹先生。
「はじめよ…俺は別にお前らに数学のプリントをしろとか国語の論文を書けとか難しいことは言ってる訳じゃないだろ?」
俺は言ったかどうかを確かめるためひたすら記憶を探る。しかし、言ったかどうか分かるはずがないのだ…
「俺いつも儒教中は寝てますんで言ったかどうかなんてわかりませんよ」
俺がそう言うと大樹先生はタバコを俺に向けて睨んできた。
「そうだったな。そんなお前には灼熱の煙熱拳をくれてやろうか」
いや待ってくれ…
「それ遠回しに火のついたタバコを俺に押し付けるって言ってまけんか?」
俺の問に対し大樹先生は不適な笑みで答えた。
「いやいや、灼熱の煙熱拳だよ」
「oh my god」
あまりの衝撃に思わず英語になっちまったぜ。
「すんせん。本当すんせん」
両手を上げ降参の意を示し謝罪を続けると大樹先生はタバコを口におさめた。
「お前と喋ると色々げずられてる気がしてならないよ」
そう言いながら大樹先生はため息を再度ついた。
「でだ、本題に戻るが…何故課題を出さない。たかが日記一ページだろうが」
「たかが日記、されど日記ですよ」
正直日記を書く時間がもったいない。俺は、その時間を少しでも趣味の方にまわしたいのだ。
「…」
すると大樹先生は無言のまま、どこからか生徒相談箱と書かれた箱を取り出してきた。いや、本当どっから出したその箱。
「?何すかこれ?」
俺がそう聞くと大樹先生は相談箱と言う文字を指差した。
「お前は漢字すら読めんのか?」
「読めますよ、読んだうえで聞いてるんですよ」
俺がそう言うと大樹先生は右手をおもむろに相談箱の中へと突っ込み複数枚の紙を取り出した。
「この複数枚の相談用紙は、名前は書かれていないものの、内容からしてお前のクラスの級長が書いたものだ」
そう言うと大樹先生は相談用紙を俺に差し出してきた。俺はそれを受け取り、軽く目を通した。内容は全部似たようなものだった。『同じクラスの千斗一君が一年の頃から課題を出さない。そのせいで毎回の生徒会の話し合いで生徒会長に怒こられてまう。』などといった内容が記されていた。
「…こ……これはまた」
成る程、級長のメンタルはすり減ってるわけだな。
まぁ、心から同情してやろう。
「そういえば」
ふと思う…
「ところで、話は変わりますけど、何で俺の日記帳を大樹先生が持ってるんですか」
そう聞くと大樹先生はゆっくりと視線を明後日の方向へと動かしていった。普段決して目線をそらしたりしない大樹先生がゆっくりと視線をそらしたのだ。正直俺は嫌な予感がしてならなかかった。
「え?なにその反応」
大樹先生は頭にてをあて唸っている。この動作が余計に俺の不安を駆り立てた。
「えーとな、非常に言いにくいんだが…」
視線はもはや右へ左へとゲシュタルト崩壊をおこしている。誰から見ても明らかな動揺ぶりが目に見えていた。
「…何ですかもったいぶって」
大樹先生は俺この台詞で覚悟を決めたのかため息をついた。
「…お前昼休みは毎日どこかにいくだろ?その隙に精神的に追い詰められた級長がしびれを切らしてな、今日お前の机の中及び鞄をチェックしたそうだ」
………は?
「……嘘だろ?」
あまりの衝撃に俺は、椅子を倒して立ち上がり先生の肩をつかんだ。
「いやー、さっきなんだがな、級長がにものすごい笑顔で職員室に入ってきてなー、本当にビックリしたぞ」
そう言いながら大樹先生は机の上に複数の携帯ゲーム機を召喚した。
「その時課題と一緒に見つかったものだ。見覚えあるか?はじめ」
机におかれたゲーム機は、アニメのヒロインのカバーなつけられており、見るからに持ち主の趣味丸出しだ。
あーそうですよ見覚えありますよ。だって…
「ちくしょー!!!!!!!!!!!!!」
全部俺のじゃねーか!
そりゃそうだよ!鞄に入れてたんだから鞄チェックされると見つかるわなちくしょー!!!
「お前な…膝から崩れ落ちるなよびっくりした」
先生は引きぎみでそう答えてきた。だがそんなの関係ないのだ。
「終わりだ…ゲームができない世界なんて意味がないんだ…」
俺が崩れ落ちたまま涙を床に垂らしている姿を見かねたのか、先生はため息をついた。
「放課後取りに来い…返してやるから。でだ、大分話がずれたからそろそろ本題に戻りたいんだが…」
「…今返しt」
「今から質屋に行っても良いんだぞ?」
今返してくれと言おうとしたとたん、大樹先生は殺気を放ちながら質屋にいくと言い出した。お金になって返却とかたまったものではない。
「…すんません」
俺の謝罪に大樹先生はじゃあ言うなよと、呆れた顔をしてきた。
「はぁ…さっそくだが、今日初めてお前の日記の中身を見させてもらった。まぁ、ひどいもんだったよ。書いているのは2日分。しかもその内容は目も当てられん」
「別にふざけてるつもりはないですよ」
俺がそう言うと先生は2日目の作文を音読し出した。
「課題について、作文を1日1枚。これは一見簡単そうに見えて実は相当難しい課題だ。1年が365日。夏休み大きく見積もって大体2ヶ月、冬休みは2週間で春休みは1週間。これらの休みの合計が約83日。365日から83日を引いても約282日。つまり、約282枚の作文を1年で書かなければならないわけだ。そう、ここが無理難題である。1年で282回も作文にかけるような出来事が起こるわけないだろう。特に俺とか学校ではずっと寝ているから日記など書こうものなら俺のゲームのプレイ記録帳になるだろう。そんなものを書いてもどうせやり直しをくらうのだ。だったら俺は作文を毎日だすなんてことはしない。無意味だ。眠い…寝る。……これのどこがふざけてないんだ?俺にもわかるように80文字以内で簡潔に、かつ分かりやすく説明してくれないか」
読み上げた日記帳を強く机に叩きつけ、額に若干血管が浮き上がっているその姿はまさに鬼そのものだと俺は思う。まぁ、あくまでも俺が思うだけだから気のせいだ、そう、気のせいだ。気のせいだ。
「俺の自分の思いを、一言一句丁寧に嘘い偽りなく書き出しただけです」
俺がそう言うと先生はは両手で頭を抱え、日記帳で机をバシバシと叩き出した。
「お前は普段からこんなねじ曲がったこと考えてるのか?」
「これも1つの個性ですよ。人がどのような思想を持とうがその人の勝手だと僕は思うんですよね」
そう、課題が必要無いというのも1つの意見であり、それをどうこう言われる筋合いはないのだ。
「良いことを教えてやろう。お前のようなやつを社会府適合者って言うんだよ」
机を叩く手をやめず、圧を放ちながら先生は言ってくる。
「そもそもが間違ってるんですよ。今の時代自宅で働ける仕事もあるです。それすなわち、別に無理して社会に溶け込む必要はないんですよ。先生は取捨選択と言う言葉はご存じですか?俺は要らないものを選んで切り捨ててるだけです」
俺はそう言うと、先生から何かが音崩れる音がした。
「……頭痛くなってきた」
「えー、大丈夫ですか?ブァ◯ァリンいります?」
俺はそう言ってポケットからブ◯ファリンを取り出した。そうあの頭痛に良くきくブァフ◯リンだ。
「頭痛の原因はお前にあるんだよこの当事者。てか、何でお前ブァファ◯ンとか持ち歩いてんだよ」
「嫌ですねー、忘れたんですか?俺偏頭痛持ちなんですよ」
「あー、そういえばそうだったな。まぁ、お前が毎日ちゃんと日記を書き、提出さえしてくれれば俺の頭痛はなおるんだが…」
そんな目で見られても困るんだが。
「そんな視線を向けられても困ります」
俺がそう言うと先生はあくまでも直す気はないんだなとため息をついた。
「困られてもこっちが困るんだが…まぁ、とりあえずだ、お前は今日の放課後図書室にくること」
「何故ですか?」
「罰作業だ」
「何故に!?」
驚く俺をよそに大樹先生は当たり前だろと首を横にふった。
「たかが数時間の罰作業1つで携帯ゲーム機は返ってくるし今回の件は終了だ。文句ないだろうが」
確かに、確かに悪くない。むしろ良すぎる条件なのだが……問題はそこではない。罰作業をすると言うことは今日から放送開始するアニメをリアルタイムで見れないと言うわけで…
「絶対に嫌です」
「お前この期に及んで自分に拒否権があると思っているのか……」
「はい!」
「…」
何を思ったのか…俺の力強い返事に対し大樹先生はふらふらと椅子から立ち上がった。そして、生徒指導室の黒板へゆっくりと歩きだし、白いチョークを手に取り、何かを書き出した。
「先生?」
俺が呼ぶと先生は俺の方に向き直った。
「さすがの俺も我慢の限界だ。これ読める?」
黒板には2つの単語が書かれていた。
「…な…内申点、保護者…」
この野郎、教師という立場、及び権限を存分に使ってくるだと……
「そうだ、俺は教師、しかも担任だ、少しくらい手をまわせるんだぞ?」
ゲスい笑みを浮かべ大樹先生は黒板をチョークでコンコンと何回も叩いている。
「その台詞は教育者としてどうなんですか?」
俺がそう言うと大樹先生は赤いチョークを手に取り内申点、保護者と言う文字に赤線を引きはじめた。
正直、口は笑ってるのに目が笑ってない今の先生は本当に怖い。
「やるのか…やらないのか…どっちだ?」
はじめも言ったが、俺は親とは仲が良くなく逃げるような形で家を出た。世間体しか気にしない俺の親が今の生活態度を報告された場合夢の独り暮らしは終了を告げるわけで…
「………罰作業がんばらせていただきます」
なんとしても独り暮らしだけは死守せねば。
俺に拒否権はなかった。
◯
キーンコーンカーンコーン
「来てしまった………」
放課後開始のチャイムの音も、今の俺にとっては憂鬱なものでしかない。俺は、図書室に向かわおうと椅子から立ち上がったのだが、その行く手を阻んだのはクラスをまとめる複数の人間だった。
「……」
何で最近の若者はこうも集団で集まりたがるかね。しかもドアの前で。なんともはた迷惑な奴等だ。俺は苛立ちを押さえつつ最短道のりを諦め、少し遠いドアから外に出た。
「……気持ち悪…」
ドアを閉めると同時に自然と声がでた。
ドアの前でたむろするあいつらを見て俺は気持ち悪いと感じていたのだ。ああやって互いの顔色を伺いつつ、丁度良いタイミングで相づちをうつ。俺にはそれがとても気持ち悪く写るのだ。あんなのになるくらいならぼっちで良いと思えるほどに。
「今日はとことんついてないな」
放課後開始直後、俺はとても気分を害していた。足取りが重いのは罰作業が嫌なだけではないだろう。
「……はぁー」
まぁ、今どうこう思っても仕様がない。
俺はゆっくりと、しかし確実に図書室へと向かっていった。
○
「…ついてしまったか」
俺は図書室のドアとにらめっこをしていた。
「………はぁー」
いつまでもこうしてても意味はない。俺は覚悟をきめ、ドアノブに手をあてた。
ガラガラガラー
「失礼しまーす」
「いや遅ない」
図書室に入った瞬間先生のツッコミがきた。ふと時計を見てみる。約束の時間を10分ほどオーバーしていた。
「……いや、ほら俺はナマケモノをリスペクトしてるんですよ、ナマケモノって激しい運動をしたら体温が上がって駄目じゃないですか。それと一緒で俺も急いで体温が上がるなんてことがあったら駄目なんですよ」
俺が確信のない知識を繋ぎ会わせ何とかそれっぽい言い訳を言うと大樹先生はため息をついた。
「よくもまぁ、そうペラペラと屁理屈が思い付くもんだ」
この人は俺が原因で1日に何回ため息をつくのだろうか。
「すみませんね、頭の回転だけはいいもんで」
「自分で言うなよ」
俺と先生がいつも通り軽いコミュニケーションをとっていると、奥の方から声がした。
「先生ー、ここでいいですかー」
少し甲高いが声的に男子だと思われる。
「おう、そこの棚でいいぞ」
誰かは知らないが、どうやら先客がいるようだな。全く、罰作業を受けるなんてな。まぁ、どこにでも間抜けなやつってのはいるもんなんだなwww
「誰ですか」
俺が聞くと先生は人差し指をたてて答えた。
「あー、お前と同じ罰作業だよ。てか、お前とクラスは一緒のはずたろ?声聞いてわからないのか?」
「なに言ってるんですか?俺がいちいちクラスメイトの名前及び顔を覚えていると本当に思ってるんですか声とかもっての他です」
先生はまるで無機物でも見るかのような冷たい視線を俺に向けてきた。いやいや、その視線は生徒に、いや人に向けちゃ駄目だろ。
「………お前は本当にろくでもないな。何の躊躇もなく、むしろ誇らしく宣言するあたり、尊敬するよ……」
「ありがとうございます」
「誉めてないんだが、まぁいい、ちょっとこい!木葉(このは)」
先生が呼ぶと、身長の低いやつが1人ぴょこぴょこと歩いて近付いてきた。俺の身長が175だからこいつはおそらく155いくかいかないか位だと思う。制服が少し大きいのは今後の成長を思ってのことだろうが、高2でこの身長。正直希望は薄そうだ。
「呼びましたか先生」
うん。こいつは………誰?
「こいつは永川木葉(えがわこのは)。少し前に暴力事件を起こしてな、相手は軽い怪我だが暴力は暴力だからな」
先生はそう言いながらそいつの頭をぽんぽんと何度か叩いた。
「先生、あれはあいつらが悪いんだって何回も言ってるじゃんか。あと、頭を叩かないでください」
そういえば高1の三学期終わり頃だったか、やたらクラスの連中が騒がしく、読書に集中できなかった記憶がかすかにある。俺は少し視線を下げ、そいつの顔を見だ。そいつは目元に涙をためていた。
「いやな、お前の事情もわかるがどんなことがあろうと暴力は駄目だろ」
涙を先生に見られたくないのか、木葉とやらは視線をしたに下げていた。
どんな理由があっても暴力は駄目か……
「本当にそうっすかね」
俺は頭をかきながら下げていた視線を上げ、先生と向き合った。
俺の言葉にびっくりしたのか、木葉は視線を上げ俺の方を見る。涙ためてまで訴えると言うことはこいつにはそれなりに深い理由があるのだろう。俺は他人に興味はない。こいつが何故涙を浮かべているのかも正直どうでも良い。面倒事も大嫌いだからな
……だが、それよりも俺は、社会の…世界理不尽が
大嫌いだ。
「……面倒くさそうだし、本当は聞きたくないが一応聞いておく、どう言うことだはじめよ」
「おい、お前」
「ん?」
俺が呼ぶとそいつは、服の袖で目をぬぐいながら返事をした。
「お前が暴力事件とやらを起こしたとき、お前を敵対する人は何人いた?」
「たしか……4人」
なるほどね、てか、こいつ1人に対し相手は複数人とはリンチかよ最近の若者は怖いなー。
「なるほど、ねぇ先生」
俺は大ちゃんの方を向き、ギリギリの距離まで近づいた。
「なんだ」
「数の暴力はいいのに、何で力の暴力は駄目なんですか?不公平でしょ?」
「愚問だな、力の暴力は相手を傷つけている」
俺の問に対し先生は切り捨てるかのよう愚問だと良い放った。
「そうですかね?僕はそうは思いませんが……」
「ほう、ならばお前は暴力はやっても大丈夫と言いたいのか?」
明らかに威圧を放つ先生だが…そんなことはどうでも良いのだ。
「いや、そうは言ってないじゃないですか。良いですか先生。数の暴力ってのは大体は大勢で囲んで悪口言ったり、陰湿な嫌がらせをしたりして精神的に追い詰めてくる。または煽るだけ煽って逃げるか先に手を出させる。たちの悪いやつばっかなんですよ。ソースは俺」
数の暴力。俺は誰よりもこの痛みを知っている。
「成る程な…で、お前は結局何を言いたい」
「つまりですね、体の傷、力の暴力でつけられた傷は時間がたてばいずれ直るじゃないですか。それに比べ、精神的に受けた心の傷はその時は許したつもりでもやっぱり心のどこかでは引っ掛かるんですよねー。どうせこいつもなんか言われたんでしょう?」
そう言いながら俺は木葉を指差した。さすがに何の理由もなく人を殴るほど馬鹿じゃないだろ。
「なるほど、つまりお前は一方的に暴力悪いって言うのはおかしいって言うんだな?」
「いやそうなんですけど違うんですよね」
暴力は悪い。これは当たり前のことだ。
「はぁー、じゃあお前は何が言いたいんだ?」
先生は肩をおとし、疲れきっていた。
「いや、確かに暴力は悪い、罰を受けるべき、それは認めますはい。けどですね、それと同様、もしくはそれ以上のことをしている奴が今俺たちが罰を受けているこの時間に遊んでいる。この事が気にくわんのですよ。はじめに言ったでしょ?不公平だって」
「なるほどな」
先生は顎に手をあててうなずいた。
「この世は公平であるべきだ、というわけで、俺より酷いことをしたやつが今こうしている間にも遊んでるんです。俺も帰っていいですかね嫁(アニメキャラ)が待ってるんで」
「却下♪」
「なぜに!」
「いやいやお前は日記の件で罰作業だろうが。この暴力の件は無関係だ」
その後、俺は罰作業と言う名の強制労働に励んだ。木葉とやらは俺のお陰で罰作業無しになり、俺より先に帰宅した。木葉の後ろ姿を見て俺は、二度と人助けはしないと心に誓った。
◯
「あー、きつい。普通あそこまでこき使うかね」
常日頃から引きこもっているため、体力及び筋力は零に等しい。それなのにあんな重い本を大量に持たされたのだ。
「明日は筋肉痛確定だな」
罰作業も終わり、すぐに帰ろうと急ぎ足で下駄箱へと向かった。流れるように上靴をロッカーに入れ学生靴を取り出し履きかえて校門を出た。
「暑い…」
まだ4月後半だというのにこの暑さ、異常気象かよ…早く帰ってエアコンのきいた部屋でゲームをしたい。俺はこのまま直行で家に帰ろうと足を進めたのだが……
「ちょっと待って」
それは一人の男によって止められたのだ。俺を校門前で呼び止めたのは木葉だった。
「君と話がしたいんだ、一緒に帰らない」
「……帰り道違うだろ」
そう言うと永川は俺の帰り道を指差した。
「僕の帰り道はこっち。君は?」
「……」
いや、一緒かよ……
◯
現在俺は、クラスメイトの男子と二人っきりで帰ると言う謎のイベントを進行中だ。そう、クラスのマドンナと帰るわけでもなく、可愛い幼なじみと帰るわけでもなく、クラスの男子と帰ると言う実に謎のイベントだ。
「ねぇ、話してもいいかな?」
「ん?あー、そう言えばなんか聞きたいことがあるんだっけ?」
俺は空を見ながらそう言った。
「僕はさ、あのときどうすればよかったのかな」
「ちょと意味がわからんな、とりあえず主語と述語を使ってしゃべってくれないか?」
いきなりどうすればいいの?とか、意味がわからん
「僕、親が両方ともいないんだ、僕が生まれたときに母親は死んで、父親は三歳のときに事故でちょっとね。それから俺は祖母の家にすんでるんだ」
「聞きたくなかったなー、そんな重いどろっどろの家庭事情」
「あはは、いきなり重いよね。けど聞いてほしいんだ。この前あいつらに呼び出されて行ってみたんだけどね、いきなり5人で囲んできて俺のことを馬鹿にしてきたんだ」
「あー、うん。俺が何言っても結局話すのね」
俺は聞いてもないことを聞かされるはめになった。正直面倒くさい。
「自分のことなら我慢できたんだけど、あいつら途中から俺の両親のことまで馬鹿にしてきたんだ。俺は両親のことをあまり知らない。けどやっぱり腹が立つよね。だから殴った」
まぁ、しょうがないだろう。この場合我慢しろと言う方が酷と言うものだ。
「俺は馬鹿だしムカついたらすぐに手が出る。だから、君のさっきの話聞いて凄いと思ったんだよ。ねぇ、僕はどうすればよかったのかな?やっぱり殴るのは間違いだったのかな」
間違いだったかな……か
「その認識がおかしいだろ」
俺の返しに木葉は頭にはてなマークを浮かべている。見るからに何を言っているのか分からないと言った様子だ。
「だからな、間違っただの間違ってないだのがおかしいって言ってんだよ」
木葉のはてなマークは増えるばかりだ。
「どう言う事?、だって間違ってるかあってるかじゃないの?え?え?」
だんだん木葉の頭から煙が出てきた。
…マジかよ
「……この世に正解なんてないんだよ」
「へ?」
「…この世には間違った答えと限りなく正解に近いが間違っている答えの二つしかない。だからお前が間違った選択をしたのは必然であり、何もおかしいことじゃないんだよ」
人間の能力だと正解を求めることはできない…少なくとも俺はそう思う。絶対的に正しい答えを導くなどもはやそれは神の領域だ。
「でもさ、それだったら僕たちのすること決めることは意味なくない?」
木葉は、不思議げに聞いてくる。
「ああ、全くその通りだよ。この世界に意味なんてない。ただ、生まれてきた以上はどうしても選択しなければならない。だからこうやって考えておけば、間違えたときのせめてもの慰めにもなるだろ?」
どうせ間違うのだから…
正解などないのだから…そうやって俺は生きてきた。俺はこの考え方をする自分が大好きで大嫌いだ。
「じゃあ、君ならどうした?」
「は?」
「君が僕の立場ならどうしたの?間違ったと全てを肯定して諦め、投げ出すの?」
…不意の質問にドキッとする。
俺は、今日はじめて話した木葉とやらに心理をつかれた気がした。
「…言葉に刺があるのは気のせいか?」
「…」
そいつは黙ったまま、俺をじっと見てなにも言わなかった。
「…はぁー、それはつまり、俺がお前と同じ状況下に置かれたらどうするかってことか?」
俺が聞くと、そいつは何度も頷いた。
「俺ならとりあえずその場は耐えて、そいつらの内面から攻めていくかな」
少々難しかったか。木葉は首を傾げていた。
「つまりだな、簡単に言うと、あいつらの人間関係をぶち壊す」
「え?」
俺がそういうと木葉は呆気にとられたのか、ポカーンとしていた。
「聞こえなかったのか?あいつらの人間関係をぶち壊すんだよ」
「壊すってどうやって」
「簡単だろ?そうだなー……仮に、仮にだ、とても仲のよい二人組がいたとしよう。安着だが、片方をB君、もう片方をA君とする」
俺は人差し指を立てながら説明を開始した。
「うん」
「内面から崩すってのは理屈上そこまで難しいことじゃない。まず、俺がクラスメイトの誰かに言う、B君は……そうだな、物を盗む。嘘をよくつく。こんなことを言うんだ」
「?言ってどうなるの?」
「面白いネタが嫌いな人間なんていねーよ、いたらそいつは人間じゃねー。だからな、例え噂に徹底的な証拠がなくても面白かったらいいんだよ。人の欠点、失敗なんかあいつらの大好物だろ、だからこそ誘導しやすい。なにもしなくても勝手にB君は嘘をよくつく、物を盗むっていう噂が広がるわけだそれはもう凄まじい速度でな」
「うん」
「そしたらあとはもう簡単さ、A君はそのうちB君を避けはじめ、B君は感づきはじめる。ほっとけば勝手に崩れていくんだよ」
「???」
え?今の説明でわかんないの?
「えーとだな、つまりは適当な嘘を広めてムカつくやつらの人間関係グッチゃグッチゃにしてやろうぜってな訳だ。B君の好感度がた落ち……ってな」
だが、この方法には欠点がある。不確定要素も山盛りだ。誰が言ったと突き止めていけばいずれ俺だとばれるだろう。そうなればすぐさまいじめの標的となる。ソースは俺
「それって駄目じゃない」
「お前が聞いたんだろ?歪んでるのは承知の上。俺ならこうするよ」
そう言って今度こそ歩きだそうと進行方向に向き直った。
「なるほど、じゃあさ手伝ってよ」
「あー、はいはい…………ん?」
ん?今こいつなんて言った?聞き流す感じで返事をしてしまったが、なんだかやらかしてしまった予感が
「本当!手伝ってくれるんだ!やった!」
「いや、まて。何をだ」
「え?仕返し」
仕返し?……まさかこいつ
「はじめくんの考え方凄いと思う。俺は馬鹿だからわかんない。だから手伝ってね」
「仕返しったて、誰に」
「あいつらさ!まだ俺納得してないもん!あんだけ馬鹿にしておいて許せるわけ無い」
結構根にもってんなー
「なるほどな」
つまり、仕返しを手伝えってか。
俺のクラス、1年4組。クラスの中心人物の決めた理不尽なルールに逆らえば即イジメのターゲット。そんなクラス。何処を見ても腐った人間しかいない。こいつらを内面から崩す。
………はぁー、こいつ穏やかな雰囲気を出しておきながら言い出したら曲げないタイプかよ。
「はぁー、何か断っても何度でも来そうだなお前」
「えへへ」
誉めてないんだけどなー
「わかったよ」
「本当!」
「ああ、けどやるなら徹底的にやる。だが、ばれたら終了だ。かつ、皆からイジメにあうという特典付きでな。それでもいいか?」
「うん!どんとこいだよ!!」
俺のだいっ嫌いな学校、そのだいっ嫌いな学校のクラスメイトの好感度を1人1人確実に落としていく。
ミスれば即ゲームオーバー………1人1人の好感度を落とすゲーム。定めし好感度ゲームってとこかな
もうあの頃みたいなボンミスは無しだ間違えてたまるか。
「さぁ、好感度ゲームスタートだ」
応援ありがとうございます!
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