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おいも いちみ(3.鯨編)
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船内の照明は薄暗いが、大きな大きな空間を実感できた。
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
大勢の男たちの掛け声だ。外で聞いたのとは訳が違う。船内に反響して、空恐ろしい轟音だ。
船が岸から離れようとしているのだろう。大きな揺れを感じた。
そこで180度向きを変え、クジラの頭が前になって航行し始めたようだ。
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
マリン船長がクジラ船の内部を説明しながら、
一行は、船首から船尾までまっすぐ貫く中央通路を歩いている。
通路は金網で作られていて、上下左右見通しがよかった。中央通路からいくつもの通路が立体的に枝分かれし、たくさんの船室や動力室につながっている。
動力と言っても、海賊たちの人力である。ちょうどお芋さんたちの真横では、左右20人ずつの海賊が上半身裸で、掛け声をあげながらクジラの前足を動かしていた。
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
その声にかき消されて気付くのが遅れたが、下の部屋で行列ができており、小競り合いが起きている。
「おい、どうしたんだ?」
「船長、山賊の親分がトイレに駆け込んだはいいが、でかい顔が抜けなくなってドア外したんでさぁ。」
どうやら、ドアのなくなったトイレに入った海賊が、次の奴に見られたの見られてないので揉めているらしい。
「トイレは一つしかないんだ。早く直しとけ!あとで僕が困るから。」
「アイアイサ!」
マリンがまた歩き出したので、お芋さんもそれに続いた。
テレビの風呂敷を背負い、さらにその上にポッポポを背負っている。けっこうパワフルだ。
一番後ろには、すっきりしてにこやかな親分がいた。
「み、水・・・」
「ミミズがいたの?ポッポポ。」
「部屋に着いたら飲み物を持ってこさせるから、あと少し我慢して。」
トンチンカンなお芋さんに対して、マリン船長は優しかった。
「いえ、水が・・・上から。」
みんな、上を見た。
ポタッ
ポタッ
「あ、船長、水漏れしてるよ。」
ポタッ
ポタポタッ・・
「この船、年代物だから・・・」
ポタポタポタ・・
ポタポタポタポタ・・・
船が波に揺れると、海水が雨のように降ってきた。
ザーーーーーー
「大丈夫なのー!?わっ、しょっぱ・・・。」
ゴォーーーーー!
「わーーーーーっ!」
もう、ゲリラ豪雨の洪水だった。
「大丈夫、下を見て。排水担当の船員が300人いるから。」
たしかに下の階では、大勢の海パン姿の男たちがそこに溜まる水をすくい、階段をバケツリレーで船の天井まで運び出していた。専用の掛け声付きだ。
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
「上で、潮吹きとして排出するんだ。」
プシューーーーー!
「なるほど。」
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
バケツリレーはその後ずっと続いた。
気を緩めると浸水が激しくなり、クジラ船は沈んでいく。
そしてまた必死に掻き出して浮上し、潮を吹く。その繰り返しだった。
一行は、船長室のある船尾へ向かって歩みを速めた。
途中、通路から少し離れた小部屋で、妙なことをしている4人の海賊たちが見えた。
2人が巨大なウチワを持って通風口に向けて扇ぎ、残り2人がお尻を振ってリズムを取りながら大声で叫んでいる。
「俺たち海賊!マリン船長のクジラ船!お前の足を、チョッキンだ!」
「俺たち海賊!マリン船長のクジラ船!お前の足を、チョッキンだ!」
お芋さんとポッポポが、ぽかんと見ながら歩いていると、マリンが教えてくれた。
「風に乗せて、噂を流しているんだ。奴に届くようにね。」
「奴?」
「帝王だよ・・・。」
お芋さんたちは、船長室に案内された。
ドアの前に妙に足の長い見張り役が1人立っている。腰の位置がお芋さんの肩の高さだ。それでいて身長は同じぐらいである!
お芋さんは吹き出しそうになったが、我慢した。
親分は吹き出した。
船長室に入ると、ふかふかのソファーにドカッと座り、重かったテレビとポッポポをやっと下ろすことができた。
広々として落ち着いた感じの部屋だ。
親分はテーブルの上の宝石箱に興味津々の様子。早速、ネックレスやブレスレットを取り出して、どの組み合わせが今の季節の自分に似合うか、試していた。
マリン船長は、自らポッポポの手当てをしてくれた。
手慣れている・・・。
「長年、海賊家業やってるとね、何でもできるようになるんだよ。」
「マリン、君は何年やってるの?」
「300年。」
「ふ~ん・・・。」
打撲には絆創膏を貼り、やけどには氷砂糖を当て、擦り傷にはファウンデーションを塗り、虫歯は抜いてくれた。骨折した腕は触ると痛いので、そのままにしておいてくれた。
その間にお芋さんはテレビを包んでいる風呂敷を広げ、パン屋がどうなったかチェックし始めた。
ポッポポも親分も、画面を覗き込む。
あの後どんな修羅場があったのか分からないが、もう朝を迎えているようだ。
店の入口には
「本日、店主の浮気発覚につき臨時休業」
の貼り紙がしてある。
「パン屋の不倫」は、24時間生放送のドキュメンタリードラマである。この上ないリアリティが人気の秘密だ。
台本は有って無いようなものだが、出演者たちはできるだけゴールデンタイムに見せ場がくるよう心掛けている。
さて、当のパン屋の亭主は・・・
ソファーに寝そべってテレビを観ている。
彼が観ているのは、これまた全行程をナマで実演する料理番組「24時間クッキング」だった。
オーブンに入れるシーンなど、もう一つのオーブンに出来上がりが用意されているという演出はないので、60分間待たねばならない。料理研究家のおばさんも解説することがなくなって、息子の自慢話を始めた。
さすがのパン屋も退屈そうだ。
それを見ているお芋さんはもっと退屈だったが、この時間帯はどうせ視聴者が少ないので、パン屋が騒動を起こさないことは分かっていた。
ポッポポは、まんざらでもない感じでテレビに見入っている・・・。
船長室の壁に目をやると、大きなイカの絵が飾られていた。
「海の帝王だよ。」
マリンが言った。
「あのイカが?」
お芋さんは、イカがわしいと思った。
「うん。僕は奴を300年も追い続けてる。」
マリンの意味深な話が始まった。
お芋さんは聞く気満々だったが、ポッポポは相変わらずテレビに夢中。だら~っと舌を垂らして見ている。
その時、壁に掛けられていたハト時計が丑三つ時を告げた。
ポッポ
ポッポ
ポッポ
・・・・・何も起こらなかった。
お芋さんは、ポッポポを見た。
「お前、誰だ?ポッポポじゃないな?」
親分も不安げに見つめた。
ポッポポは、慌てた表情で舌をれろれろしていた。
「レロレロ!いつ入れ替わったんだ!?」
手柄泥棒のレロレロ、まだお芋さんのテレビを諦めていなかったのか。大した執念だ。
「ポッポポ、どこ・・・?」
親分がシクシク泣き出した。
さすがのお芋さんも、レロレロが壮絶仮面ドーヤネンに倒されたと思い込んでいた。
「おもちゃの変身ベルトじゃ、猫騙し程度だったか・・・本物を盗ってあげればよかった。」
このポッポポに魅力を感じなくなっていた理由が分かってすっきりした。
その時、別の声がポッポポの名を呼んだ。
「ポッポポ、君を愛してる。」
誰だ、こんな時に。
「もう、僕には君しかいないんだ。」
ん?
パン屋だ!
テレビの中のパン屋が、電話している!
「でも私は怪盗。カタギの人間じゃないわよ。」
電話の相手・・・
ポッポポの声だ!
ここにいるのがレロレロだったとすると、彼女はどこにいるんだ。
「気にしない。僕は毎日、君のためにパンを焼くよ。」
「ほんと?うれしいわ。メロンパン・・・でも・・・」
「僕のほかに、好きな男がいるの?」
「いえ、あなたに比べたら、彼は芋よ。」
お芋さんはテレビのスイッチを切り、ポッポポの姿をしたレロレロを見て言った。
「とんだ尻軽女だね。」
レロレロは軽くうなづいた。
このドラマは、明日から「パン屋の三つ股」になる。
「あの・・・僕の話、聞く気あるの?」
マリンが眉を吊り上げた。
「あ、もちろん聞いてるよ!タコの親方を三日三晩追いかけてるんだよね?」
「イカの帝王を300年だよ。」
マリンの話を要約すると・・・彼は300年前、海でイカの帝王に出会い、大量の墨をかけられたらしい。すると体が真っ黒になってしまったばかりでなく、不思議な力のある墨のせいで彼の成長が止まり、今でも少年の姿のままだというのだ。
「・・・やつが僕の“時間”を止めたんだ。」
「その墨、お風呂入ったら落とせるんじゃないの?」
「染み込んでるせいか、ダメだった。」
「そうか・・・。でもさ、仮にイカの帝王を見つけて懲らしめてやったとしても、君のその状況は変わらないんじゃない?」
「やられたままでは、男として僕の気が済まない。それだけさ。今度会ったら、イカリングにしてやる。」
それを聞いて、親分が目を輝かせた。
レロレロはもとの姿に戻り、マリンの話を聞いてれろれろしていた。次の獲物は、マリンが捕らえるイカか。
お芋さんには、マリンの復讐は現実味がないように思えた。
「見つけられるのかなぁ、この広い海でイカ一匹。」
「向こうから出てくるように風の噂を流して挑発してるんだ。」
「でも、君が300年生きてても、イカはもうとっくに死んでるんじゃないの?」
「やつはただのイカじゃないんだ。帝王だよ。それに、目撃証言もあるし。意外に近くにいるよ・・・。」
「う~ん、そうか。よし、わかった!乗りかかった船だ。僕も手伝うよ。」
「ありがとう、お芋さん。」
親分とレロレロもガッツポーズをした。
その時である!
ゴォーーーーー
「わーーーっ!!!」
クジラ船が大きく揺れた。
「おい、どうしたんだ!」
マリン船長がドアの外に立つ“足の長い部下”に向かって叫んだ。部下はドアを少し開けて
「確認して来もす!」
と応えるやいなや、
タッタッタッ
と大股開きで駆けていった。
彼の足の長さだと、この広い船内も5、6歩で一周して来れる。連絡屋として適任だ。
数秒で戻ってきた。
「奴でもす!奴が現れましもした!!」
「わかった、すぐ行く!引き止めておくよう言って!」
「アイアイもす!」
また大股開きで駆けていった。
マリンは壁に掛けてある剣を手に取り、部屋を飛び出して行った。
「えっ!タコの親方が現れたの!?待って、僕も行くよ!」
お芋さんも駆け出した。
レロレロはアバラが折れているにもかかわらず凄い勢いで飛び出してお芋さんを追い抜き、さらにマリンをも追い抜いた。
親分も、むく~っと立ち上がり、イヤリングと指輪を身につけてみんなに続いた。
さっきまで船内に響き渡っていた“ズントコ何とか”の掛け声は聞こえなくなっていた。船は止まっているのか?
「奴はどこだ!」
マリンは、再度戻ってきた“足の長い部下”に聞いた。
「第2食料庫でもす!逃げられないよう、入り口を固めてまもす。」
「お芋さん!船底にある第2食料庫へ行くよ!」
「アイアイサ! 帝王はこのクジラ船の中にいるってこと!?」
「そうだよ。船内に住み着いてるんだ。10年前、大浴場に出たって報告があったんだけどね・・・今度は食料庫か。神出鬼没な奴!」
「お風呂に巨大イカがいたら大騒ぎだったんじゃないの?」
「いや、みんないい気分で入ってるからね。隣にイカがいても意外に気付かないものだよ。」
「そういうもんかなぁ。」
マリンは通路の脇にある階段を駆け下りて行った。お芋さんと親分もそれに続いた。
第2食料庫の前では、大勢の海賊がドアを取り囲み、イカの帝王を外へ誘いだそうとしていた。
「くそーっ、俺たちの食いもん荒らしやがって!許さねー!」
「出てこーい!怖じ気づいたか!このタコ!」
「イカ!!」
そして、特に体格のいい3人の海賊が、前に進み出た。
「いいか、ビリー、ゴン!俺たち3人で奴を仕留めるぞ!」
「おい、ジョニー!何度言ったら分かるんだ。俺はビリーじゃねえ!
泣く子も黙る、馬づらのトムだ!」
「俺だってジョニーじゃねえよ! 海賊一の大きなおケツ、ドン引きのハリーだ!」
「おいおい、海賊一は俺様だろ! 物思いのゴンザレスとは・・・俺のことよ。」
その時だ!
「おい、ジョニー、あれ何だ!?」
倉庫のドアが少しだけ開いたかと思うと、内側から吸盤のついたイカの長い足がニュルニュルと出てくるではないか。
「ぎゃーーーっ!」
トムは馬のようにパッカ パッカと走って逃げ出した。
「やばい、やばい、マジやば過ぎる・・・」
ハリーは、ドン引きした。
ゴンザレスは、物思いにふけっている・・・。
3人の後にいた海賊たちは慌てふためき、前から将棋倒しのように尻餅をついて倒れた。
すると、その後ろに、マリン船長が立っていた。
「帝王! 僕と1対1で勝負しろ!」
辺りが静まり返った・・・。
お芋さんとレロレロ、それに山賊の親分もマリンの後ろに立ち、固唾を飲んで見守っていると、ドアの隙間から出ていたイカの足がゆっくり動いた。
キュル キュル
手招きしている!
食料庫の中へ誘っているのだ。あのイカは肺呼吸なのね。
マリンは金属バットを握りしめ、意を決したように歩き出した。
「お芋さん、いっしょに来て。」
「嫌だ。」
「頼むよ。僕はもう二度と墨を浴びたくないんだ。盾になってよ。」
「しょうがないなぁ。」
お芋さんは、親分の大きな顔を盾にして前へ進んだ。親分はイカリングを食べる気満々だ。
その後にマリンが続く。
さらにその後に、イカに変装したレロレロが、舌をれろれろしながら続いた。彼は骨ボキボキなので軟体動物がしっくりくる。
1対1と言っておいて大勢連なってきたせいか、イカの帝王はシュッと足を引っ込め、中でギャーギャーわめき始めた。
暗いと思っていた食料庫の奥の方にスポットライトが当たっている。
そこに彼らがいた。
なんと、向こうも一匹ではなかったのだ。
中央にいる一際大きいのが帝王だろう。
身長は、足の先まで入れれば80cmはあるだろうか。思ったよりは小さかったが、貫禄十分だ。
帝王の左右にそれぞれ10匹以上のイカが手をつないで一例に並んでいる。
端っこから1匹ずつ、自己紹介が始まった。
○×※△○※◇×
イカ語はさっぱり分からない・・・。
2匹目も3匹目も、みんな同じに聞こえた。
お芋さんたちが退屈そうに見ていると、頼もしい助っ人が来てくれた。
「芋兄さんブハッハッハ、参戦するぜ。ガッハッハッハ(笑)」
スイカ泥棒のズントコショだ。
デパートの入口で笑いが止まらなくなって帰っていったズントコショだが、仕事は最後までやり遂げないと気が済まないのだろう。
ただ、笑いはまだ止まらないようだ。
「芋兄さんがピンチな時に、1人で笑ってられるかってんだ。ドハッハッハッ ゲラゲラゲラゲラ(笑)」
だがその時、彼はイカよりも欲しいものが目に入った。
「へへへっ、ゲラゲラ(笑) こりゃあ上モノだ。ギャッハッハッハ(笑) 頂こう ニャッハッハー」
食料庫の隅に転がっていたメロンを2つ抱え、そのままケラケラ笑いながら帰って行った。
イカ姿のレロレロもズントコショを追うように出て行った。メロンを奪うつもりだ。
「ギャーーッ」
食料庫を出たところで、海賊たちに袋叩きにされたようだ。
ステージでは、最後に帝王が、どや顔で自己紹介していた。
◇※●※※○×○
それが終わると、イカたちは手をつないだまま歩き出し、輪になってお芋さんたちを取り囲んだ。巨大なイカリングだ。
イカリングはお芋さんたちの周りをぐるぐると回り始めた。
「帝王、多勢に無勢とは、卑怯だぞ!」
マリンが金属バットを構え、帝王にまっすぐ向き合う。イカリングの回転はますます速くなったが、マリンもそれに合わせて体を回転させ、大王から目を離さない。
お芋さんもそれに付き合って回らなければならなかった。
もはや猛烈なスピードだ。帝王が目の前に迫ってくるように見えた。
透き通るような白い体が異様に美しい。そら恐ろしいほど大きな目。鋭い眼光がマリンを捉える。
イカは知能が高い。人の目の届かない深海で、進化を遂げている種があってもおかしくない・・・。
「マリン!帝王が墨を吐くよー!!」
「お芋さん、盾になって!!」
「任せて。」
お芋さんが山賊の親分の顔をマリンの前に差し出すと同時に、帝王は物凄い顔をして墨を吐きまくった!
プシューーーーーー!!
親分の顔はみるみるうちに黒くなっていったが、なにしろ顔が大きいので、全部塗りつぶすまでにはかなりの時間を要した。
「お芋さん、そのままこらえて!」
「マリン、早く奴を!」
「よし!!」
バコーーーン!
マリンは渾身の力を込め、金属バットで帝王を打撃した。
△※Σ( ̄□ ̄)!※涙(ノД`)・°
イカリングは急ブレーキとともに激しく崩れ、イカたちはギャーギャー喚いた。
帝王の目の上には、でっかいタンコブができていた。大きな目が潤んで、痛みにもがいている様子だ。周りの部下が駆け寄って介抱している。
お芋さんは、ちょっと疑問だった。
「マリン、そもそも彼らは敵なの?」
「だって、墨を吐くし・・・。ほら。」
マリンは自分の真っ黒な腕を見せた。
お芋さんの後ろで、親分がポケットから白く輝く真珠のネックレスを取り出して真っ黒な顔の自分につけ、
「首の後ろ止めて」
とイカに頼んでいた。元気そうだ。
それに対して、帝王は重症である。
「マリン、手当てしてあげたら?」
「その方がいいかなぁ。 じゃあ・・・。」
マリンはゆっくりと帝王のそばに歩み寄った。
「見せて。」
○×(´・ω・`)※※
帝王の大きな瞳が、不安そうにマリンを見つめた。帝王の部下たちも、マリンを信じるしかなかった。
マリンは針の名手だ。帝王の手や足に
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
と次々に針をぶち刺していった。
※×※涙涙涙(@_@)死((○(>_<)○))
イカ語は分からないが、死ぬほど痛い様子がうかがえた。それもそのはず、これは針の痛さで怪我の痛みを忘れさせる治療法である。
「ちょっとだけ我慢してて。」
一時的にはより大きな苦痛を伴うが、全体としてみれば怪我の痛みの比重が小さくなるのだ。
それでもお芋さんは見ているのが辛かったので、後ろで鏡を見ていた親分を連れてきて帝王の前に立たせ、真っ黒になったブニップニほっぺを両手で掴み、思いっきり左右に引っ張った。
ぷにょ~~~~~
それを見たイカたちは、ドッと笑った。
○○○※笑(@^O^@)◆※
帝王も思わず吹いた。
しばらくして帝王の腫れも引き、なんとなく和気あいあいとした雰囲気になった。
ドアの外の海賊たちも入ってきて、みんなでメロンを食べながらひと時を過ごした。
マリン船長と手を取り合って喜んでいた帝王は、次にお芋さんの手を握った。
大きな瞳がお芋さんをじっと見つめる。
○◇※●△<(_ _)>謝謝
何か言いたげだった。
300年の誤解がとけたのは、お芋さんのおかげだと思っているのだろうか。
「いやいや、僕なんて・・・。人として当たり前のことをしただけだよ。」
※○謝┓( ̄∇ ̄;)┏?☆
「お礼なんて水くさい。僕たちの仲じゃないか。う~ん、何かお礼がしたいって? 一つだけ頼みがある。」
??△◇※
お芋さんは、真っ黒な顔で微笑む親分をもう一度チラッと見てから帝王に言った。
「僕にも墨をかけて!」
「えっ?」
マリンや海賊たちは、お芋さんを見た。
不死の怪盗お芋になろうというのか・・・。
この先、百年、千年と、彼が仕事をしたら、世の中の面白いテレビが全て消えてしまう。パン屋のその後が見れなくなる・・・。
海賊たちはざわつき出した。
○●△※※□☆・・・
イカたちは全員お芋さんを取り囲み、ぐるぐる回り出した。
そもそも何のために回るのか、と思いながら、お芋さんも円の中心で自転した。
帝王の大きな瞳が、お芋さんを捉える。
優しい目だ・・・。
「いいよ。」
プシューーーーーー!!
視界がだんだん狭くなる・・・
闇に包まれた・・・
「マリン?」
みんなの話し声も聴こえなくなった・・・。
「どうなってんの?」
何だか、意識が遠のいていくような・・・。
自分がどこにいて、何をしているのか、あいまいになってきた・・・。
「僕は・・・天下を揺るがす大怪盗・・・」
チュン チュン
チュン チュン
小鳥のさえずりが聴こえる。
「朝?」
背中に小石の感触が。
「痛てて・・・」
お芋さんは、目を開けた。
「まぶし・・・」
立ち並ぶ高い木々の葉の先に、青空が見える。
「寝てたのか・・・? 寒・・・っ」
お芋さんは起き上がった。
山の中・・・見覚えのある風景・・・。
山賊のアジトへ向かう山道だ。
チュン チュン
チュン チュン
コン コン
コン コン
ぽんぽこ ぽんぽこ♪
ぽんぽこ ぽんぽこ♪
小鳥のさえずりに混じって、動物の鳴き声や軽快なリズムも聴こえていた。
「そうだ、身ぐるみ剥がされたんだっけ。」
お芋さんは、セクシーな下着姿だった。
「ずっとタヌキかキツネに化かされてたってことか?」
怪盗お芋の名声が消えてしまった・・・。
残念ではあるが、お芋さんは意外と冷静だった。
「ん!?」
ふと、何かの気配を感じて、後ろを振り返った。
「あれは、何だ・・・?」
木々の上の方、折り重なる葉の隙間から、白い物体が見え隠れした。
大きな白い蛍光灯みたいな輪っかが水平に浮かんでいる。直径三十メートルはあるだろうか。
「イカリング?」
それは、ゆっくりと回転しながら、音も立てずに少しずつ上昇していた。
側面に一例に並んでいるのは窓か?
お芋さんは、向こうから見られていると直感した。
「帝王・・・。」
イカリングはさらに上昇し、青空に吸い込まれるように消えていった・・・。
自分が何のために山道を歩いていたのか思い出してみよう。
「就職!」
我に返ったお芋さんは、前を向いて歩き出した。
「そろそろアジトに着いてもいい頃だ。」
すると、今度は前方の木々の間から、一羽の鳩がお芋さんに向かって飛んで来るのが見えた。
鳩の脚には、手紙らしきものが巻きつけられている!
お芋さんは、これから始まる冒険に胸躍らせながら、歩みを早めた。
おしまい
2014年2月
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
大勢の男たちの掛け声だ。外で聞いたのとは訳が違う。船内に反響して、空恐ろしい轟音だ。
船が岸から離れようとしているのだろう。大きな揺れを感じた。
そこで180度向きを変え、クジラの頭が前になって航行し始めたようだ。
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
マリン船長がクジラ船の内部を説明しながら、
一行は、船首から船尾までまっすぐ貫く中央通路を歩いている。
通路は金網で作られていて、上下左右見通しがよかった。中央通路からいくつもの通路が立体的に枝分かれし、たくさんの船室や動力室につながっている。
動力と言っても、海賊たちの人力である。ちょうどお芋さんたちの真横では、左右20人ずつの海賊が上半身裸で、掛け声をあげながらクジラの前足を動かしていた。
ズントコ どっこいしょー
ズントコ どっこいしょー
その声にかき消されて気付くのが遅れたが、下の部屋で行列ができており、小競り合いが起きている。
「おい、どうしたんだ?」
「船長、山賊の親分がトイレに駆け込んだはいいが、でかい顔が抜けなくなってドア外したんでさぁ。」
どうやら、ドアのなくなったトイレに入った海賊が、次の奴に見られたの見られてないので揉めているらしい。
「トイレは一つしかないんだ。早く直しとけ!あとで僕が困るから。」
「アイアイサ!」
マリンがまた歩き出したので、お芋さんもそれに続いた。
テレビの風呂敷を背負い、さらにその上にポッポポを背負っている。けっこうパワフルだ。
一番後ろには、すっきりしてにこやかな親分がいた。
「み、水・・・」
「ミミズがいたの?ポッポポ。」
「部屋に着いたら飲み物を持ってこさせるから、あと少し我慢して。」
トンチンカンなお芋さんに対して、マリン船長は優しかった。
「いえ、水が・・・上から。」
みんな、上を見た。
ポタッ
ポタッ
「あ、船長、水漏れしてるよ。」
ポタッ
ポタポタッ・・
「この船、年代物だから・・・」
ポタポタポタ・・
ポタポタポタポタ・・・
船が波に揺れると、海水が雨のように降ってきた。
ザーーーーーー
「大丈夫なのー!?わっ、しょっぱ・・・。」
ゴォーーーーー!
「わーーーーーっ!」
もう、ゲリラ豪雨の洪水だった。
「大丈夫、下を見て。排水担当の船員が300人いるから。」
たしかに下の階では、大勢の海パン姿の男たちがそこに溜まる水をすくい、階段をバケツリレーで船の天井まで運び出していた。専用の掛け声付きだ。
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
「上で、潮吹きとして排出するんだ。」
プシューーーーー!
「なるほど。」
よっこら ホッコイサー
よっこら ホッコイサー
バケツリレーはその後ずっと続いた。
気を緩めると浸水が激しくなり、クジラ船は沈んでいく。
そしてまた必死に掻き出して浮上し、潮を吹く。その繰り返しだった。
一行は、船長室のある船尾へ向かって歩みを速めた。
途中、通路から少し離れた小部屋で、妙なことをしている4人の海賊たちが見えた。
2人が巨大なウチワを持って通風口に向けて扇ぎ、残り2人がお尻を振ってリズムを取りながら大声で叫んでいる。
「俺たち海賊!マリン船長のクジラ船!お前の足を、チョッキンだ!」
「俺たち海賊!マリン船長のクジラ船!お前の足を、チョッキンだ!」
お芋さんとポッポポが、ぽかんと見ながら歩いていると、マリンが教えてくれた。
「風に乗せて、噂を流しているんだ。奴に届くようにね。」
「奴?」
「帝王だよ・・・。」
お芋さんたちは、船長室に案内された。
ドアの前に妙に足の長い見張り役が1人立っている。腰の位置がお芋さんの肩の高さだ。それでいて身長は同じぐらいである!
お芋さんは吹き出しそうになったが、我慢した。
親分は吹き出した。
船長室に入ると、ふかふかのソファーにドカッと座り、重かったテレビとポッポポをやっと下ろすことができた。
広々として落ち着いた感じの部屋だ。
親分はテーブルの上の宝石箱に興味津々の様子。早速、ネックレスやブレスレットを取り出して、どの組み合わせが今の季節の自分に似合うか、試していた。
マリン船長は、自らポッポポの手当てをしてくれた。
手慣れている・・・。
「長年、海賊家業やってるとね、何でもできるようになるんだよ。」
「マリン、君は何年やってるの?」
「300年。」
「ふ~ん・・・。」
打撲には絆創膏を貼り、やけどには氷砂糖を当て、擦り傷にはファウンデーションを塗り、虫歯は抜いてくれた。骨折した腕は触ると痛いので、そのままにしておいてくれた。
その間にお芋さんはテレビを包んでいる風呂敷を広げ、パン屋がどうなったかチェックし始めた。
ポッポポも親分も、画面を覗き込む。
あの後どんな修羅場があったのか分からないが、もう朝を迎えているようだ。
店の入口には
「本日、店主の浮気発覚につき臨時休業」
の貼り紙がしてある。
「パン屋の不倫」は、24時間生放送のドキュメンタリードラマである。この上ないリアリティが人気の秘密だ。
台本は有って無いようなものだが、出演者たちはできるだけゴールデンタイムに見せ場がくるよう心掛けている。
さて、当のパン屋の亭主は・・・
ソファーに寝そべってテレビを観ている。
彼が観ているのは、これまた全行程をナマで実演する料理番組「24時間クッキング」だった。
オーブンに入れるシーンなど、もう一つのオーブンに出来上がりが用意されているという演出はないので、60分間待たねばならない。料理研究家のおばさんも解説することがなくなって、息子の自慢話を始めた。
さすがのパン屋も退屈そうだ。
それを見ているお芋さんはもっと退屈だったが、この時間帯はどうせ視聴者が少ないので、パン屋が騒動を起こさないことは分かっていた。
ポッポポは、まんざらでもない感じでテレビに見入っている・・・。
船長室の壁に目をやると、大きなイカの絵が飾られていた。
「海の帝王だよ。」
マリンが言った。
「あのイカが?」
お芋さんは、イカがわしいと思った。
「うん。僕は奴を300年も追い続けてる。」
マリンの意味深な話が始まった。
お芋さんは聞く気満々だったが、ポッポポは相変わらずテレビに夢中。だら~っと舌を垂らして見ている。
その時、壁に掛けられていたハト時計が丑三つ時を告げた。
ポッポ
ポッポ
ポッポ
・・・・・何も起こらなかった。
お芋さんは、ポッポポを見た。
「お前、誰だ?ポッポポじゃないな?」
親分も不安げに見つめた。
ポッポポは、慌てた表情で舌をれろれろしていた。
「レロレロ!いつ入れ替わったんだ!?」
手柄泥棒のレロレロ、まだお芋さんのテレビを諦めていなかったのか。大した執念だ。
「ポッポポ、どこ・・・?」
親分がシクシク泣き出した。
さすがのお芋さんも、レロレロが壮絶仮面ドーヤネンに倒されたと思い込んでいた。
「おもちゃの変身ベルトじゃ、猫騙し程度だったか・・・本物を盗ってあげればよかった。」
このポッポポに魅力を感じなくなっていた理由が分かってすっきりした。
その時、別の声がポッポポの名を呼んだ。
「ポッポポ、君を愛してる。」
誰だ、こんな時に。
「もう、僕には君しかいないんだ。」
ん?
パン屋だ!
テレビの中のパン屋が、電話している!
「でも私は怪盗。カタギの人間じゃないわよ。」
電話の相手・・・
ポッポポの声だ!
ここにいるのがレロレロだったとすると、彼女はどこにいるんだ。
「気にしない。僕は毎日、君のためにパンを焼くよ。」
「ほんと?うれしいわ。メロンパン・・・でも・・・」
「僕のほかに、好きな男がいるの?」
「いえ、あなたに比べたら、彼は芋よ。」
お芋さんはテレビのスイッチを切り、ポッポポの姿をしたレロレロを見て言った。
「とんだ尻軽女だね。」
レロレロは軽くうなづいた。
このドラマは、明日から「パン屋の三つ股」になる。
「あの・・・僕の話、聞く気あるの?」
マリンが眉を吊り上げた。
「あ、もちろん聞いてるよ!タコの親方を三日三晩追いかけてるんだよね?」
「イカの帝王を300年だよ。」
マリンの話を要約すると・・・彼は300年前、海でイカの帝王に出会い、大量の墨をかけられたらしい。すると体が真っ黒になってしまったばかりでなく、不思議な力のある墨のせいで彼の成長が止まり、今でも少年の姿のままだというのだ。
「・・・やつが僕の“時間”を止めたんだ。」
「その墨、お風呂入ったら落とせるんじゃないの?」
「染み込んでるせいか、ダメだった。」
「そうか・・・。でもさ、仮にイカの帝王を見つけて懲らしめてやったとしても、君のその状況は変わらないんじゃない?」
「やられたままでは、男として僕の気が済まない。それだけさ。今度会ったら、イカリングにしてやる。」
それを聞いて、親分が目を輝かせた。
レロレロはもとの姿に戻り、マリンの話を聞いてれろれろしていた。次の獲物は、マリンが捕らえるイカか。
お芋さんには、マリンの復讐は現実味がないように思えた。
「見つけられるのかなぁ、この広い海でイカ一匹。」
「向こうから出てくるように風の噂を流して挑発してるんだ。」
「でも、君が300年生きてても、イカはもうとっくに死んでるんじゃないの?」
「やつはただのイカじゃないんだ。帝王だよ。それに、目撃証言もあるし。意外に近くにいるよ・・・。」
「う~ん、そうか。よし、わかった!乗りかかった船だ。僕も手伝うよ。」
「ありがとう、お芋さん。」
親分とレロレロもガッツポーズをした。
その時である!
ゴォーーーーー
「わーーーっ!!!」
クジラ船が大きく揺れた。
「おい、どうしたんだ!」
マリン船長がドアの外に立つ“足の長い部下”に向かって叫んだ。部下はドアを少し開けて
「確認して来もす!」
と応えるやいなや、
タッタッタッ
と大股開きで駆けていった。
彼の足の長さだと、この広い船内も5、6歩で一周して来れる。連絡屋として適任だ。
数秒で戻ってきた。
「奴でもす!奴が現れましもした!!」
「わかった、すぐ行く!引き止めておくよう言って!」
「アイアイもす!」
また大股開きで駆けていった。
マリンは壁に掛けてある剣を手に取り、部屋を飛び出して行った。
「えっ!タコの親方が現れたの!?待って、僕も行くよ!」
お芋さんも駆け出した。
レロレロはアバラが折れているにもかかわらず凄い勢いで飛び出してお芋さんを追い抜き、さらにマリンをも追い抜いた。
親分も、むく~っと立ち上がり、イヤリングと指輪を身につけてみんなに続いた。
さっきまで船内に響き渡っていた“ズントコ何とか”の掛け声は聞こえなくなっていた。船は止まっているのか?
「奴はどこだ!」
マリンは、再度戻ってきた“足の長い部下”に聞いた。
「第2食料庫でもす!逃げられないよう、入り口を固めてまもす。」
「お芋さん!船底にある第2食料庫へ行くよ!」
「アイアイサ! 帝王はこのクジラ船の中にいるってこと!?」
「そうだよ。船内に住み着いてるんだ。10年前、大浴場に出たって報告があったんだけどね・・・今度は食料庫か。神出鬼没な奴!」
「お風呂に巨大イカがいたら大騒ぎだったんじゃないの?」
「いや、みんないい気分で入ってるからね。隣にイカがいても意外に気付かないものだよ。」
「そういうもんかなぁ。」
マリンは通路の脇にある階段を駆け下りて行った。お芋さんと親分もそれに続いた。
第2食料庫の前では、大勢の海賊がドアを取り囲み、イカの帝王を外へ誘いだそうとしていた。
「くそーっ、俺たちの食いもん荒らしやがって!許さねー!」
「出てこーい!怖じ気づいたか!このタコ!」
「イカ!!」
そして、特に体格のいい3人の海賊が、前に進み出た。
「いいか、ビリー、ゴン!俺たち3人で奴を仕留めるぞ!」
「おい、ジョニー!何度言ったら分かるんだ。俺はビリーじゃねえ!
泣く子も黙る、馬づらのトムだ!」
「俺だってジョニーじゃねえよ! 海賊一の大きなおケツ、ドン引きのハリーだ!」
「おいおい、海賊一は俺様だろ! 物思いのゴンザレスとは・・・俺のことよ。」
その時だ!
「おい、ジョニー、あれ何だ!?」
倉庫のドアが少しだけ開いたかと思うと、内側から吸盤のついたイカの長い足がニュルニュルと出てくるではないか。
「ぎゃーーーっ!」
トムは馬のようにパッカ パッカと走って逃げ出した。
「やばい、やばい、マジやば過ぎる・・・」
ハリーは、ドン引きした。
ゴンザレスは、物思いにふけっている・・・。
3人の後にいた海賊たちは慌てふためき、前から将棋倒しのように尻餅をついて倒れた。
すると、その後ろに、マリン船長が立っていた。
「帝王! 僕と1対1で勝負しろ!」
辺りが静まり返った・・・。
お芋さんとレロレロ、それに山賊の親分もマリンの後ろに立ち、固唾を飲んで見守っていると、ドアの隙間から出ていたイカの足がゆっくり動いた。
キュル キュル
手招きしている!
食料庫の中へ誘っているのだ。あのイカは肺呼吸なのね。
マリンは金属バットを握りしめ、意を決したように歩き出した。
「お芋さん、いっしょに来て。」
「嫌だ。」
「頼むよ。僕はもう二度と墨を浴びたくないんだ。盾になってよ。」
「しょうがないなぁ。」
お芋さんは、親分の大きな顔を盾にして前へ進んだ。親分はイカリングを食べる気満々だ。
その後にマリンが続く。
さらにその後に、イカに変装したレロレロが、舌をれろれろしながら続いた。彼は骨ボキボキなので軟体動物がしっくりくる。
1対1と言っておいて大勢連なってきたせいか、イカの帝王はシュッと足を引っ込め、中でギャーギャーわめき始めた。
暗いと思っていた食料庫の奥の方にスポットライトが当たっている。
そこに彼らがいた。
なんと、向こうも一匹ではなかったのだ。
中央にいる一際大きいのが帝王だろう。
身長は、足の先まで入れれば80cmはあるだろうか。思ったよりは小さかったが、貫禄十分だ。
帝王の左右にそれぞれ10匹以上のイカが手をつないで一例に並んでいる。
端っこから1匹ずつ、自己紹介が始まった。
○×※△○※◇×
イカ語はさっぱり分からない・・・。
2匹目も3匹目も、みんな同じに聞こえた。
お芋さんたちが退屈そうに見ていると、頼もしい助っ人が来てくれた。
「芋兄さんブハッハッハ、参戦するぜ。ガッハッハッハ(笑)」
スイカ泥棒のズントコショだ。
デパートの入口で笑いが止まらなくなって帰っていったズントコショだが、仕事は最後までやり遂げないと気が済まないのだろう。
ただ、笑いはまだ止まらないようだ。
「芋兄さんがピンチな時に、1人で笑ってられるかってんだ。ドハッハッハッ ゲラゲラゲラゲラ(笑)」
だがその時、彼はイカよりも欲しいものが目に入った。
「へへへっ、ゲラゲラ(笑) こりゃあ上モノだ。ギャッハッハッハ(笑) 頂こう ニャッハッハー」
食料庫の隅に転がっていたメロンを2つ抱え、そのままケラケラ笑いながら帰って行った。
イカ姿のレロレロもズントコショを追うように出て行った。メロンを奪うつもりだ。
「ギャーーッ」
食料庫を出たところで、海賊たちに袋叩きにされたようだ。
ステージでは、最後に帝王が、どや顔で自己紹介していた。
◇※●※※○×○
それが終わると、イカたちは手をつないだまま歩き出し、輪になってお芋さんたちを取り囲んだ。巨大なイカリングだ。
イカリングはお芋さんたちの周りをぐるぐると回り始めた。
「帝王、多勢に無勢とは、卑怯だぞ!」
マリンが金属バットを構え、帝王にまっすぐ向き合う。イカリングの回転はますます速くなったが、マリンもそれに合わせて体を回転させ、大王から目を離さない。
お芋さんもそれに付き合って回らなければならなかった。
もはや猛烈なスピードだ。帝王が目の前に迫ってくるように見えた。
透き通るような白い体が異様に美しい。そら恐ろしいほど大きな目。鋭い眼光がマリンを捉える。
イカは知能が高い。人の目の届かない深海で、進化を遂げている種があってもおかしくない・・・。
「マリン!帝王が墨を吐くよー!!」
「お芋さん、盾になって!!」
「任せて。」
お芋さんが山賊の親分の顔をマリンの前に差し出すと同時に、帝王は物凄い顔をして墨を吐きまくった!
プシューーーーーー!!
親分の顔はみるみるうちに黒くなっていったが、なにしろ顔が大きいので、全部塗りつぶすまでにはかなりの時間を要した。
「お芋さん、そのままこらえて!」
「マリン、早く奴を!」
「よし!!」
バコーーーン!
マリンは渾身の力を込め、金属バットで帝王を打撃した。
△※Σ( ̄□ ̄)!※涙(ノД`)・°
イカリングは急ブレーキとともに激しく崩れ、イカたちはギャーギャー喚いた。
帝王の目の上には、でっかいタンコブができていた。大きな目が潤んで、痛みにもがいている様子だ。周りの部下が駆け寄って介抱している。
お芋さんは、ちょっと疑問だった。
「マリン、そもそも彼らは敵なの?」
「だって、墨を吐くし・・・。ほら。」
マリンは自分の真っ黒な腕を見せた。
お芋さんの後ろで、親分がポケットから白く輝く真珠のネックレスを取り出して真っ黒な顔の自分につけ、
「首の後ろ止めて」
とイカに頼んでいた。元気そうだ。
それに対して、帝王は重症である。
「マリン、手当てしてあげたら?」
「その方がいいかなぁ。 じゃあ・・・。」
マリンはゆっくりと帝王のそばに歩み寄った。
「見せて。」
○×(´・ω・`)※※
帝王の大きな瞳が、不安そうにマリンを見つめた。帝王の部下たちも、マリンを信じるしかなかった。
マリンは針の名手だ。帝王の手や足に
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
と次々に針をぶち刺していった。
※×※涙涙涙(@_@)死((○(>_<)○))
イカ語は分からないが、死ぬほど痛い様子がうかがえた。それもそのはず、これは針の痛さで怪我の痛みを忘れさせる治療法である。
「ちょっとだけ我慢してて。」
一時的にはより大きな苦痛を伴うが、全体としてみれば怪我の痛みの比重が小さくなるのだ。
それでもお芋さんは見ているのが辛かったので、後ろで鏡を見ていた親分を連れてきて帝王の前に立たせ、真っ黒になったブニップニほっぺを両手で掴み、思いっきり左右に引っ張った。
ぷにょ~~~~~
それを見たイカたちは、ドッと笑った。
○○○※笑(@^O^@)◆※
帝王も思わず吹いた。
しばらくして帝王の腫れも引き、なんとなく和気あいあいとした雰囲気になった。
ドアの外の海賊たちも入ってきて、みんなでメロンを食べながらひと時を過ごした。
マリン船長と手を取り合って喜んでいた帝王は、次にお芋さんの手を握った。
大きな瞳がお芋さんをじっと見つめる。
○◇※●△<(_ _)>謝謝
何か言いたげだった。
300年の誤解がとけたのは、お芋さんのおかげだと思っているのだろうか。
「いやいや、僕なんて・・・。人として当たり前のことをしただけだよ。」
※○謝┓( ̄∇ ̄;)┏?☆
「お礼なんて水くさい。僕たちの仲じゃないか。う~ん、何かお礼がしたいって? 一つだけ頼みがある。」
??△◇※
お芋さんは、真っ黒な顔で微笑む親分をもう一度チラッと見てから帝王に言った。
「僕にも墨をかけて!」
「えっ?」
マリンや海賊たちは、お芋さんを見た。
不死の怪盗お芋になろうというのか・・・。
この先、百年、千年と、彼が仕事をしたら、世の中の面白いテレビが全て消えてしまう。パン屋のその後が見れなくなる・・・。
海賊たちはざわつき出した。
○●△※※□☆・・・
イカたちは全員お芋さんを取り囲み、ぐるぐる回り出した。
そもそも何のために回るのか、と思いながら、お芋さんも円の中心で自転した。
帝王の大きな瞳が、お芋さんを捉える。
優しい目だ・・・。
「いいよ。」
プシューーーーーー!!
視界がだんだん狭くなる・・・
闇に包まれた・・・
「マリン?」
みんなの話し声も聴こえなくなった・・・。
「どうなってんの?」
何だか、意識が遠のいていくような・・・。
自分がどこにいて、何をしているのか、あいまいになってきた・・・。
「僕は・・・天下を揺るがす大怪盗・・・」
チュン チュン
チュン チュン
小鳥のさえずりが聴こえる。
「朝?」
背中に小石の感触が。
「痛てて・・・」
お芋さんは、目を開けた。
「まぶし・・・」
立ち並ぶ高い木々の葉の先に、青空が見える。
「寝てたのか・・・? 寒・・・っ」
お芋さんは起き上がった。
山の中・・・見覚えのある風景・・・。
山賊のアジトへ向かう山道だ。
チュン チュン
チュン チュン
コン コン
コン コン
ぽんぽこ ぽんぽこ♪
ぽんぽこ ぽんぽこ♪
小鳥のさえずりに混じって、動物の鳴き声や軽快なリズムも聴こえていた。
「そうだ、身ぐるみ剥がされたんだっけ。」
お芋さんは、セクシーな下着姿だった。
「ずっとタヌキかキツネに化かされてたってことか?」
怪盗お芋の名声が消えてしまった・・・。
残念ではあるが、お芋さんは意外と冷静だった。
「ん!?」
ふと、何かの気配を感じて、後ろを振り返った。
「あれは、何だ・・・?」
木々の上の方、折り重なる葉の隙間から、白い物体が見え隠れした。
大きな白い蛍光灯みたいな輪っかが水平に浮かんでいる。直径三十メートルはあるだろうか。
「イカリング?」
それは、ゆっくりと回転しながら、音も立てずに少しずつ上昇していた。
側面に一例に並んでいるのは窓か?
お芋さんは、向こうから見られていると直感した。
「帝王・・・。」
イカリングはさらに上昇し、青空に吸い込まれるように消えていった・・・。
自分が何のために山道を歩いていたのか思い出してみよう。
「就職!」
我に返ったお芋さんは、前を向いて歩き出した。
「そろそろアジトに着いてもいい頃だ。」
すると、今度は前方の木々の間から、一羽の鳩がお芋さんに向かって飛んで来るのが見えた。
鳩の脚には、手紙らしきものが巻きつけられている!
お芋さんは、これから始まる冒険に胸躍らせながら、歩みを早めた。
おしまい
2014年2月
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