執着の従者

あやこ

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ここは城下である水の街の隣にある火の街。
この街で新しい生活を始めて半年が過ぎた。
私は名前を変えて生活をしている。
新しい名前はエレンだ。
長かった髪も肩まで切り本当に生まれ変わった。
そして人の目を気にしない生活がこんなにも素晴らしいなんて思っても見なかった。初めは全て自分がやらなければならず大変だったが、それも数日で慣れた。
それに、以前店の下見に来た時出会ったルイが、本当によくしてくれる。年齢は私より2個上で、今は私のお兄さんとして慕っている。私には家族なんていないも同然だったので本当の家族が出来たようで嬉しかった。

「エレン!今日は店を休むんだろう?隣街まで買い出しに行った従兄弟が、今日帰って来るから一緒にご飯でも食べないか?」

ルイが元気よく私の所に駆け寄り声をかけた。

「えぇ、勿論寄らせて貰うわ!じゃ後でそちらに伺うわね。」

ルイの従兄弟ジョルスは生地の販売を最近始めた。隣町というのは城下でもある、私が以前住んでいた水の街だ。やはり大きな街の方が沢山の種類の生地が手に入りやすいので買い付けに出かけたのだ。そのジョルスが今日帰ってくるらしい。

そういえばリンやジェンはどうしてるかしら。念のため最低でも一年は、連絡を取り合うのはやめようと話し合っていた。ジェイコブも私の事はもう忘れてるわよね。色々あったけど幼少期を一緒に過ごした仲だもの。幸せになってほしいわ。


「城下町は本当に素晴らしかったよ。水の街というだけあって沢山の湖や美しい海を見ることが出来て満足さ。それに見たこともないような美しい生地が沢山揃っていた。これからはもっと頻繁に行くことにするよ。」

彼は目を輝かせながら話を続けた。

「そういえば、プリンセスが婚約するらしいよ。話によると最近は殆ど民衆の前に彼女は現れなかったらしいんだけど、今回の良い知らせにみんな喜んでいたよ。確か相手はジェイコブとか言ってたな?元々従者だったらしいが、とても素晴らしい騎士らしく、以前から彼は王の後継者に相応しいと話があったらしい。取り巻きがいっぱいいて遠くからしか見れなかったけどすっごい男前で、周りの女どもの目がハートになってたぞ!あれならプリンセスの心も虜にできるよな。羨ましいねぇ~。」

饒舌に話すジョルスを見て少し笑ってしまったが、婚約の話しは私にとっても朗報だ。そうか、二人は婚約したのか。これで少し安心した。
そしてルイが肉を頬張りながら訊ねた。

「じゃ城下町で盛大な婚約パーティーが開かれるのか?
   俺たちも民衆もそのパーティーに参加できるのか?」

「話を聞くと婚約パーティーも結婚パーティーも無いらしい。なんでもプリンセスの体調がそんなに良くないみたいなんだ。命に別状ないと言う人もいれば、危ないと言う人もいる。どっちにしろここ半年は公の場に全く出てきてないらしいんだよ。」

リリーが病気ですって。彼女は健康や美容には人一倍気にかけていた。そんな彼女が病気だなんて信じられない。何かあったのかしら。最後に会った半年前は健康そのものだったのに。だけど彼女に素晴らしい医師がついてるはずだし、何よりジェイコブがいる。彼は医療に関しても沢山の知識を持っているから、愛している人の為なら最善を尽くすでしょう。

「へぇ~そうなんだ。それは残念だなぁ。
そういえば、母さんから聞いたんだけど、ブラッド様がこの街に帰って来るらしい。王様の従者として長く使えていたけれど、今度はこの町の領主として赴任してくるらしいよ!母さんはブラッド様のファンだからすっごい喜んでたよ。」

ちょ、ちょっとまってブラッドって、あのブラッド?!まずい、まずいわ。彼は王の従者でもあるけどジェイコブの部下でもあった。ジェイコブの事をとても慕っていたわ。もちろん私の顔も知っている。落ち着くのよ私。心配はいらない。火の街は城下町ほどではないけど立派な大きな街だわ。平民の私と領主様であるブラッドがまず顔を合わすことはない。それに私は死んだ女よ。もし、万が一顔を合わせても他人の空似と思うはず!そうよ。絶対そうよ!

私は不安な気持ちを振り払うように出された食事を食べ始めた。
この生活は絶対に守り抜くわ。
どんな事があっても・・・。
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