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麻里奈との始まり。
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ボクは彼女たち全員を生まれた時から知っている。歳の離れたいとこだから、三人の幼少期はみんな可愛がって面倒を見ていた。
三人娘の性格はそれぞれが過ごした幼少期の生活状況が影響してか、明らかに異なっていた。
長女の佐藤優深(さとうゆうみ)は生まれた時から跡取りという使命が付いて回った。
三人娘が生まれるどこかのタイミングで男児が誕生していればその任を解かれたかもしれないが、家族構成が固定した現在その使命は継続している。だから性は佐藤のまま。佐藤家は歴史上特別名のある家柄ではないが、その歴史は数百年に及ぶ。一般の家庭では跡取りなんてどうでもいいことでも、佐藤家では大きな意味を持つ。
優深が生まれた頃、祖父が経営する会社は最盛期だった。叔父が長男ということもあって一家は祖父母と一緒に大邸宅に同居していた。その家はもちろん同居するという前提で建てられたもの。叔父は祖父の事業に参加していた。恵まれた環境の中、優深は祖父母と両親に蝶よ花よと甘やかされて育った。そのせいで、少々わがままだ。
彼女が最初に結婚した相手は、ボクも面識のある誠実なサラリーマンではなく、途中から強引に割り込んで来たプロレスラーだった。自分の意志で決められない優柔不断なところが時には家族の反感を買った。その旦那とは長男誕生後に勝手に離婚を決め、今は自分が見つけた男性を婿に迎え平凡に暮らしている。
次女河野洋子(かわのようこ)が生まれた頃は、祖父の会社は傾きかけていて、祖父母と叔父一家は暮らしを別に、そして仕事も祖父の許を離れていた。小学生の頃の彼女は上の長女と後に生まれる下の三女に挟まれていたせいで何かと影が薄かった。三人の中では一番不遇の時代だったかもしれない。だがそれが返って彼女の人生を好転させた。青春時代長女が憧れ、そのために努力を重ねていたが目の出なかった芸能界に、高校二年生の時スカウトという形でいとも簡単に飛び込んだ。連日のように長女の妬みを受けたと後に話す彼女は、全く屈せずFМ放送の番組アシスタントというレギュラーさえ掴んだ。しかし元々強い興味を抱いていないその業界は、あるプライベートな事件が原因であっさり引退。その後アルバイトで知り合った資産家の次男河野博之と結婚。友人に誘われたのをきっかけに保育園経営に乗り出し、今では数か所の保育所を持つ、立派な女性実業家に成長した。三人の中では現在一番成功している人物。二女を設けている。
石川和哉に嫁いだ真一の三女、麻里奈は二女葉子が生まれた五年後、この世に生を受けた。叔父はその頃自ら事業を展開し、祖父は事業をたたんで隠居の身だった。
予期せぬ誕生に祖父の可愛がりようは尋常ではなかった。彼女の二人の姉も幼少の頃よく遊んだのだが、麻里奈の時は幼児の面倒をみるノウハウがボクの中で確立され特に濃密な時間を過ごした。彼女はそんなボクによく懐いてくれた。
実は真一には長男があった。カオルが産んだ最初の子だ。しかし未熟児で生まれてしまった彼は一週間後に息を引き取った(優深の使命はその時から始まっている)。ボクにはそうなった詳しい事情はよく分からない。俺は男の子が欲しい、大きくなったら野球選手にすると、将来の夢を語っていた叔父の落胆は大きかった。
確かに長男の死は悲しい思い出だ。だが、その後の未来を考えれば、それ程悪い出来事じゃなかったとボクは思っている。
なぜなら一つの命が失われたことで新たな命が生まれた。
そう麻里奈の存在だ。
もしも長男が元気に育っていたなら、叔父一家は四人家族で納まっていたかも知れない。経緯はともかく、その後娘が二人続いたから男の子が欲しい叔父の願いを引き継ぎ、彼女が誕生した。叔父には申し訳ないが、心の中で長男に感謝している。
血液型が同じAB型だということも、お互いを繋ぐ大きなファクターだった。
ある年の夏休み、ボクは佐藤家の家族旅行に同行した。その時のはしゃぎようは凄まじく、麻里奈はボクを従えて一日中プールの中で暴れていた。おかげで体重が三キロ減ったという凄まじい思い出は今でも鮮明によみがえる。
麻里奈の結婚式の時、血の繋がりはいとこでも二十以上歳が離れていたせいで、まるで娘を嫁がせる父のような心境に陥ったのも切なくも懐かしい思い出だ。
順調に見えた彼女の成長にも苦労があった。
幼少期、長女優深以上に甘やかされて育ったせいで学生時代酷いいじめに遭った。しかし真一をはじめ家族の協力を得て、自ら暗黒の青春時代を克服した。世の中には珍しい『人の痛みが分かる末っ子』と言っていい。
そんな彼女も今では立派な二児の母。
「なんかママ、少し元気になったみたい。将来このまま一人じゃ寂しいし、たっくんに拾ってもらってよかったんじゃない?赤ちゃん出来たのにはすごくビックリしたけどね」
優深は素直に喜んでいた。
「たっくん、ママでいいの?結構気難しいしわがままだよ。こんなおばあちゃんじゃなくてもっと若い子にしなよ。大変だよ」
葉子は若くして成功した実業家らしく物事の大局を見て話す。厳しい言葉だが表情は好意的だった。
しかしボクを見る麻里奈の表情は終始硬かった。
「……たっくん、それでママと結婚するの?」
見せたことのない鋭い視線がボクの動揺を誘った。
「ま、まあ、ママがそれで良ければそうなると思う。妊娠させた責任もあるし……」
自信と責任感がまるでない返事だった。
「ふうん、そう」
何かを思案しながら麻里奈はボクを見ていた。
「でもたっくん、ママと結婚してもいいけど子供を作るのはこれっきりにしてね」
「えっ」
思わぬ提案にボクは困惑し、言葉を失った。
麻里奈は凝視したまま返事を待っている。
「なんであんたが指図するのよ。それはたっくんとママの問題でしょ!」
優深が割って入った。
「ユウちゃんはちょっと黙ってて。ママがたっくんと結婚しても、私たちのママだってことには変わらない。だからママの将来は私たちにも関係がある。たっくんには悪いけど、家族の問題だから私は口出しする。ママはもう直ぐ還暦だし、身体のことが心配だから」
麻里奈の言葉は、いちいちもっともだが何か強い思いも孕んでいると感じた。
「確かにマリナの言うことにも一理ある。でもとりあえずこれからのことは後日にして、マリナも絶対反対って訳じゃないんでしょ?だったら今夜はたっくんとママのお祝いということで楽しくやろ」
「うん……」
経営者の統率力を発揮してくれた葉子が、張り詰めた空気を解してくれた。ボクは大いに安堵した。
その後はボクが知らない佐藤家の思い出話で場が賑わい、『蚊帳の外』感が否めないひとときだが、穏やかな気持ちで夜も更けていった。
麻里奈の反発は意外だった。でも次第にその理由が明らかになってくる。
三人娘の性格はそれぞれが過ごした幼少期の生活状況が影響してか、明らかに異なっていた。
長女の佐藤優深(さとうゆうみ)は生まれた時から跡取りという使命が付いて回った。
三人娘が生まれるどこかのタイミングで男児が誕生していればその任を解かれたかもしれないが、家族構成が固定した現在その使命は継続している。だから性は佐藤のまま。佐藤家は歴史上特別名のある家柄ではないが、その歴史は数百年に及ぶ。一般の家庭では跡取りなんてどうでもいいことでも、佐藤家では大きな意味を持つ。
優深が生まれた頃、祖父が経営する会社は最盛期だった。叔父が長男ということもあって一家は祖父母と一緒に大邸宅に同居していた。その家はもちろん同居するという前提で建てられたもの。叔父は祖父の事業に参加していた。恵まれた環境の中、優深は祖父母と両親に蝶よ花よと甘やかされて育った。そのせいで、少々わがままだ。
彼女が最初に結婚した相手は、ボクも面識のある誠実なサラリーマンではなく、途中から強引に割り込んで来たプロレスラーだった。自分の意志で決められない優柔不断なところが時には家族の反感を買った。その旦那とは長男誕生後に勝手に離婚を決め、今は自分が見つけた男性を婿に迎え平凡に暮らしている。
次女河野洋子(かわのようこ)が生まれた頃は、祖父の会社は傾きかけていて、祖父母と叔父一家は暮らしを別に、そして仕事も祖父の許を離れていた。小学生の頃の彼女は上の長女と後に生まれる下の三女に挟まれていたせいで何かと影が薄かった。三人の中では一番不遇の時代だったかもしれない。だがそれが返って彼女の人生を好転させた。青春時代長女が憧れ、そのために努力を重ねていたが目の出なかった芸能界に、高校二年生の時スカウトという形でいとも簡単に飛び込んだ。連日のように長女の妬みを受けたと後に話す彼女は、全く屈せずFМ放送の番組アシスタントというレギュラーさえ掴んだ。しかし元々強い興味を抱いていないその業界は、あるプライベートな事件が原因であっさり引退。その後アルバイトで知り合った資産家の次男河野博之と結婚。友人に誘われたのをきっかけに保育園経営に乗り出し、今では数か所の保育所を持つ、立派な女性実業家に成長した。三人の中では現在一番成功している人物。二女を設けている。
石川和哉に嫁いだ真一の三女、麻里奈は二女葉子が生まれた五年後、この世に生を受けた。叔父はその頃自ら事業を展開し、祖父は事業をたたんで隠居の身だった。
予期せぬ誕生に祖父の可愛がりようは尋常ではなかった。彼女の二人の姉も幼少の頃よく遊んだのだが、麻里奈の時は幼児の面倒をみるノウハウがボクの中で確立され特に濃密な時間を過ごした。彼女はそんなボクによく懐いてくれた。
実は真一には長男があった。カオルが産んだ最初の子だ。しかし未熟児で生まれてしまった彼は一週間後に息を引き取った(優深の使命はその時から始まっている)。ボクにはそうなった詳しい事情はよく分からない。俺は男の子が欲しい、大きくなったら野球選手にすると、将来の夢を語っていた叔父の落胆は大きかった。
確かに長男の死は悲しい思い出だ。だが、その後の未来を考えれば、それ程悪い出来事じゃなかったとボクは思っている。
なぜなら一つの命が失われたことで新たな命が生まれた。
そう麻里奈の存在だ。
もしも長男が元気に育っていたなら、叔父一家は四人家族で納まっていたかも知れない。経緯はともかく、その後娘が二人続いたから男の子が欲しい叔父の願いを引き継ぎ、彼女が誕生した。叔父には申し訳ないが、心の中で長男に感謝している。
血液型が同じAB型だということも、お互いを繋ぐ大きなファクターだった。
ある年の夏休み、ボクは佐藤家の家族旅行に同行した。その時のはしゃぎようは凄まじく、麻里奈はボクを従えて一日中プールの中で暴れていた。おかげで体重が三キロ減ったという凄まじい思い出は今でも鮮明によみがえる。
麻里奈の結婚式の時、血の繋がりはいとこでも二十以上歳が離れていたせいで、まるで娘を嫁がせる父のような心境に陥ったのも切なくも懐かしい思い出だ。
順調に見えた彼女の成長にも苦労があった。
幼少期、長女優深以上に甘やかされて育ったせいで学生時代酷いいじめに遭った。しかし真一をはじめ家族の協力を得て、自ら暗黒の青春時代を克服した。世の中には珍しい『人の痛みが分かる末っ子』と言っていい。
そんな彼女も今では立派な二児の母。
「なんかママ、少し元気になったみたい。将来このまま一人じゃ寂しいし、たっくんに拾ってもらってよかったんじゃない?赤ちゃん出来たのにはすごくビックリしたけどね」
優深は素直に喜んでいた。
「たっくん、ママでいいの?結構気難しいしわがままだよ。こんなおばあちゃんじゃなくてもっと若い子にしなよ。大変だよ」
葉子は若くして成功した実業家らしく物事の大局を見て話す。厳しい言葉だが表情は好意的だった。
しかしボクを見る麻里奈の表情は終始硬かった。
「……たっくん、それでママと結婚するの?」
見せたことのない鋭い視線がボクの動揺を誘った。
「ま、まあ、ママがそれで良ければそうなると思う。妊娠させた責任もあるし……」
自信と責任感がまるでない返事だった。
「ふうん、そう」
何かを思案しながら麻里奈はボクを見ていた。
「でもたっくん、ママと結婚してもいいけど子供を作るのはこれっきりにしてね」
「えっ」
思わぬ提案にボクは困惑し、言葉を失った。
麻里奈は凝視したまま返事を待っている。
「なんであんたが指図するのよ。それはたっくんとママの問題でしょ!」
優深が割って入った。
「ユウちゃんはちょっと黙ってて。ママがたっくんと結婚しても、私たちのママだってことには変わらない。だからママの将来は私たちにも関係がある。たっくんには悪いけど、家族の問題だから私は口出しする。ママはもう直ぐ還暦だし、身体のことが心配だから」
麻里奈の言葉は、いちいちもっともだが何か強い思いも孕んでいると感じた。
「確かにマリナの言うことにも一理ある。でもとりあえずこれからのことは後日にして、マリナも絶対反対って訳じゃないんでしょ?だったら今夜はたっくんとママのお祝いということで楽しくやろ」
「うん……」
経営者の統率力を発揮してくれた葉子が、張り詰めた空気を解してくれた。ボクは大いに安堵した。
その後はボクが知らない佐藤家の思い出話で場が賑わい、『蚊帳の外』感が否めないひとときだが、穏やかな気持ちで夜も更けていった。
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