二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

文字の大きさ
13 / 43

十三話 これはきっと仕組まれた出会いだった

しおりを挟む
 街道近くの畑にいた小鬼の群れを忍と私は、斬り捨てながら思案を巡らせていた。

 忍の生きている間は、あの旗の下で他愛のない会話をして過ごしていたい。そう思い始めていた。会話の最中から薄々気づいていたが、体に力がみなぎるのを感じられた。

 他の妖怪は知らないが、少なくとも妖狐は感情を向けられると成長するというのを強く体感することができた。

 私が強くなるのに必要だったのは、鍛錬でもなく、誰かの隣にいることだったのだ。

 少なくとも私は、いち早く小鬼の群れを殲滅することに途中から意識を切り替えて無心で斬り捨てていた。十三体の小鬼を漏れなく退治したことをお互いに確認すると、忍が大きくため息をついた。

「朝一番で、依頼が入った時に無性にむかむかした理由がわかった。……君と話しがしたかったんだ」

「私も今、同じこと考えてました。早く帰りましょう」

 自然と私は忍の手を取って町へ走り出していた。視線が合うと忍は微笑みを見せた。私にだけ見せてくれる忍の素顔というものは、独占欲を大いに満たし気分を良くしてくれた。依頼人に向かって、ぶっきらぼうに対応する忍の様子を思い出しては、悦に浸ってしまうほどだった。

 出会って、まだ二日しか経っていないのを忘れるくらい、忍のことで頭の中がいっぱいだった。しかし、お互いがお互いに求める要素の全てを持ち合わせていた。それが貴重だとわかっているからこそ早く打ち解けることができたのだろう。

 私にとって必要だった、家族以外の本音で話せる隣にいてくれる誰か。

 忍にとって必要だった、簡単に死なない隣にいてくれる誰か。

 思わず両親の意図を感じてしまうほど、私にとって都合が良い出来事である。自分たちがいなくなることを見越して、代わりに忍という支えになる者を探し出して引き合わせたのではないかと思ってしまうほどだ。



 町に帰ると、私たちは焼き魚と味噌汁を商人から差し入れられた。夕食として旗の下に座り食べることにした。

「食べ物はこうして、いつも誰かが差し入れてくれる。俺たちは、恵まれた生活をしているよな」

「そうですね。相手にするのは雑魚ばかりですが、一応は命を懸けているので正当な対価だと私は思います。妖怪が世にいるかぎりは忍さんの生活は安泰でしょう」

 忍は遠くに沈みかけた夕日を眺めながら味噌汁をすすった。

「妖怪っていなくなると思うか?」

「言葉を話す上位の妖怪はいなくなったりはしないと思います。ですが、妖怪というのは恐れの象徴なのです。今の人々にとって恐ろしいのは鬼や天狗、巨大化した動物という姿なのでしょう。時代が変われば、現れる妖怪の姿も変わると思います」

「興味深いな……」

 忍は考え込んでしまった。

「私の予想では、未来での妖怪の姿は人間の形をしていると思いますよ。人間は武器を使って動物への恐怖をいずれ克服するはずです。この世界の仕組みについても解明が進むはずです。そんな世界になった時、脅威となるのは同じ人間しかいない。何年先の未来かわからないですけどね」

 弓という遠距離から安全に敵を殺す方法を生み出し、火を利用して食物を安全に食する方法を解明していた。妖怪は個人が進化するのに対して、人間は進化はしないが道具を発明して総体が発展する。いつか大妖怪をも殺す道具を人間は作るに至るかもしれない。

「そろそろ、戻るか」

 私は頷いて旗の下を後にして忍の横を歩き、長屋に向かっていった。



 戸の前で手を振り「また明日」と呟いて、部屋に入ると変化を解いて狐の耳と尻尾を出現させた。今日は無性に成長の手応えがあったので尻尾の数を確認しておこうと思ったのだ。自分の手で触り尻尾を数えると、やはり三本になっていた。十五歳で二尾、二十歳で三尾というのが、妖狐として妥当な成長なのかわからなかったが成長には変わりないと、前向きに受け止めることにした。

 耳と尻尾を隠して、外に出て忍の部屋の戸を叩いた。

「少しいいでしょうか。見せたいものがあります」

 忍は装備を外した状態で戸を開けて招き入れてくれた。忍の部屋は女物の柄の布切れや付けているのを見たことのない甲冑など、意外にも物が散乱している印象を受けた。

 そんなことよりも、私は尻尾が増えた喜びを共感して欲しくて、戸を閉めると耳と尻尾を出現させた。

「あ、尻尾が三本になってるぞ」

「そうです。今さっき気づいて嬉しくなって見せにきちゃいました」

「妖狐にとっては、めでたいことなんじゃないか? 祝いの品を探してくるから、明日は一人で旗の下にいてもらえるか?」

「嬉しいです。では、お言葉に甘えて……楽しみにしています。では、また明日」

 私は自分の部屋に戻ると予想外の光景を目にした。

 白鞘の太刀を置いたと思っていた場所に胡蝶蘭の花が一輪、落ちていたのだ。もちろん私が持ち込んだものではなかった。忍と話していた一瞬に誰か私の部屋に入ったのか疑ったが、物音もしなかったので可能性としては薄い。

 どちらにしても、あってもしょうがない物だ。処分しようと触れた瞬間、白鞘の太刀に形が変ったのだ。

『おめでとう……葛』

 ふと、頭の中で母の声がしたような気がして、目頭が熱くなった。涙こそ出なかったが何故か、胡蝶蘭の花が置いてあったことに不信感が無くなって私は、横になるとゆるやかに眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。 草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。 そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。 「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」 は? それ、なんでウチに言いに来る? 天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく ―異世界・草花ファンタジー

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...