二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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二十一話 予想外の出来事が起きた

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「忍、明日は早くから上流の下見に出てるから、町の皆の避難は任せたからね」

「あぁ任せろ。じゃあ、また明日な」

 私と忍は、ほぼ同時に長屋の戸を締め、それぞれ中へと入った。いつも通り忍が装備を外す音が聞こえてくる。

 私は横になり、忍からもらった櫛を眺めた。見ているだけで頬が緩んでしまうのには、自分でも驚いた。

(こんなにも、好きになってしまうなんて……)

 愛しさが心を満たした幸せな気分になっていたが、明日に起こる洪水のことへと頭を切り替えた。

 長屋のある場所は川から離れたところにあり、洪水の被害を受けることはなさそうだと想定していた。町の構造を思い起こしてみると、川に近いのは露店が多かった。

 川の近くを拠点にするだけあって、ある程度は洪水が起こる前提で町作りがされているように思えた。長屋などの居住地区は川から離れた場所や少し高い場所に集中している。洪水が起きた時に商人たちの商売道具が流されてしまう可能性があったが、命さえ残れば、やりなおせる。この乱世を生きる者は皆、強い人たちだと私はここ数日の滞在で感じていた。



 翌朝、私は目を覚ますと忍にもらった櫛で髪を整え、町の近くを流れる川を上流へと辿っていった。佐倉町の天気は薄いくもりといった具合である。しかし、上流に向かえば向かうほど空は暗雲が覆いつくすようになってきた。

 さらに進むと雨が降り始め、ついには川の水が泥に濁った色になってきた。

 周囲を見渡し人の姿がないことを確認すると、私は雀に変化して上空から川の上流を確認すると視界の先で川から水が溢れ出し洪水が発生していることに気がついた。

(まさか……本当に洪水が起こるなんて……)

 町にいるだけでは絶対に気付くことができなかった。私と忍が予言を聞いていなければ、何人もの死者が出ていただろう。

 私は早く飛行できる鷹に姿を変えると佐倉町へと急いで戻ることにした。

 そして、町の近くに戻り上空で滞空して川の様子を見ていると、頭を悩ませる出来事を見つけてしまった。思わず、鷹の姿でため息が出そうになってしまった。

 昨日、神酒の運搬を依頼してきた伊世と、その夫と見られる男性が上流に向かって川沿いを歩いていたのだ。背に空の籠を背負っていたことから、何かを採りに出かけているような様子だった。

 川の上流に目をやると、濁流が僅かに見え始めていた。あの二人がこのまま上流に歩いていったら間違いなく死ぬ。

 かといって、二人を助けにいけば大ムカデに変化する最適な瞬間を逃し、町の被害が拡大するかもしれない。

(どちらの……どちらの命を助ければいいのッ……?)

 もはや、計画を捨てるしかなかった。私は気付くと上流に向かって歩く二人へ近付いていた。先に伊世に向かって憑依して、意識を奪い昏倒させた。

 伊世の夫は急に倒れた驚いた妻にすぐに駆け寄った。

「お、おい! どうしたッ」

 すぐさま伊世の夫に憑依して体を操り、伊世を抱きかかえて川から垂直に離れていった。森の中を走り抜けていくしかなかった。伊世の夫の体には枝で少し切り傷を作ってしまったが、そんな小さいことを考えている余裕はなかった。

 安全な場所まで離れたことを確認すると伊世の夫の意思を奪い昏倒させ、伊世の意識を戻して私は憑依を解いた。

「あれ、伊世さん? ……こんなところでどうしたのですか?」

 私は偶然を装って、地面に横たわる伊世に声をかけた。起きたばかりのようなうとうとした様子で伊世は私を見た。

「あれ? 葛さん? 私、川沿いを歩いておったはずなんじゃが……気付いたらここにおって……」

「私が見回りに通りかかってよかったですね。迷子なら町はあちらの方ですので、まずは戻られた方がいいのではないですか?」

 伊世は困惑しながらも、自分の夫の頬をペチペチと軽く叩き覚醒させると町の方へと向かっていった。

 私は木の陰に隠れると再び鷹の姿になり空へと飛び立った。

 川へと目をやると思ったよりも町に濁流が迫っていて、今から大ムカデになっても避難が間に合わないという確信があった。

(避難はもう、だめだ……どうする? どうするッ!)

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