二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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二十七話 話し合いをしてくれた

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「伊世さん、何があったんですか?」



 私と伊世で事態を説明すると、忍は頭を抱えてしまった。

「忍さんは町長に話を伝えてきてくれるかのう? 私はここで葛さんを見守っておる」

 忍は「わかりました」と言って、町長のいる小屋に向かって走っていった。一瞬振り返って、こちらを見たので私は頷いて大丈夫だと頷いて目配せをした。それでも忍の表情は重かった。

「伊世さん……私が追放されたらどうするのですか? 町民の皆さんと険悪になってしまうではないですか」

「ん? 例えそうなったとしても、変わらずに町に居座っておるよ。そんな図太さも生きるためには必要じゃ。はっはっは」

 伊世は大きな声で笑い飛ばした。私が思わず苦笑いをしてしまうほど、伊世はその心も強くたくましいものであった。

 それ故に余計、心象風景で見た蕾のままだった桜の花が気になってしまった。

「それにしても狐の耳がついてると、かわいいのう。触ってもよいか?」

 私は「いいですよ」と頭を下げると伊世は耳を撫で回した。そんな光景を見てなのか、何人かは農具を構えるのをやめて、警戒を解く様子も見受けられた。

(これも伊世さんが狙ってやったことなのだろうか?)

 築いてきた信頼と人生経験の成せる業に思えた。

 伝えてくれた助言の説得力も増して、感じられる。私の両親が言い聞かせてくれた数々の助言も、何か説得力になるものがあったのなら、もっと素直に飲み込めたのかもしれない。

 いや、違う。両親に説得力がなかったのではない。私に理解する余裕がなかった。小屋の外の世界を知ったからこそわかる。両親の言っていたことは正しかった。

「伊世さん……私はこの町で忍と生きたいのです。どうか力を貸してください」

「うむ。そうならば、この伊世に任せるがよい」



 しばらく、広場で待っていると忍が町長を連れてきた。

 町長は白髪交じりの短い黒髪の中年男性だった。顔のいたる所に傷跡があることが特徴的で歴戦の猛者のような雰囲気を醸し出していた。

「話は忍くんから聞いた。伊世婆様の仰る通り、会議で決めることにした。議決権を持つ町民が全員揃ったら会議を始めるように使いを走らせた」

 伊世は黙って頷くのみだった。町長は私の姿を見ても、あまり驚いた様子をしていなかった。昔は退治屋や武士だったりしたのだろうか。その眼光の鋭さは商人や農家のそれとは一線を画していた。



 そうして、夕方頃になると議決権を持つ二十名の町民が揃い、大天狗愛宕の襲来を初めから見ていた町民が一通り説明して情報共有を終えた。

 議決権を持つ者は老若男女様々だったが、私が知っているのは炊き出しを手伝った男性のみであった。一様に事態を重く受け止めているようで深刻な表情をしていた。

 小さな焚火を囲み行われた会議には議決権を持たない者も周囲で見物をしていた。

「では、情報の共有を終えたところで皆の意見を聞きたい」

 町長が皆に意見を求めると一人の老人が挙手をした。

「わしは葛さんを追放した方が良いと思う。伊世さんの言う通り、我らは恩を受けたのは間違いないが、妖狐と天狗が敵対関係にあるのが気になる。町が巻き添えを受けることは避けるべきだと、わしは思う」

 もっともな意見だ。私でも同意できる。愛宕は今回こそ、町を襲わなかったが次はわからない。凍らせた洪水を水に戻したのは、町を襲うというより水という自分の領域を取り戻しただけのように言動からは感じていた。

 しかし、私が『独り』でいるべきだという主張は天狗の決定と断言した。天狗たちにとって私は成長してほしくない。そんなところだろうか。殺さずに泳がされているのは何か理由がありそうだ。

「私は追放するべきでないと思います。忍さんに匹敵する力を持つ方が友好的に町に協力してくれているというのは、唯一無二の価値だと思います。忍さんはいくら強くても人の子。戦えて二、三十年といったところでしょうか。人としての寿命を持たない葛さんならより長期に渡って町に貢献してくれるはずです。それに洪水という人間では、どうしようもない天災からも守ってくれるのは葛さんしかいないと思います」

 若い女性の発言だった。若い者なだけあって先を見据えた長期的な判断だ。その発言に同調する者も反発する者もあり賛否両論といった具合だった。

「忍さんはどうして、葛さんを相棒として引き入れたのですか?」

 追放を否定した若い女性は、ふと忍へ質問を投げかけた。

「天狗が共通の仇だったからです。俺の両親を殺した天狗と葛の両親を殺した天狗は同じ天狗だったので、二人でいつか共に倒そうと協力することになったのです」

 忍の言葉に天狗の方が悪い妖怪なのではという疑念が皆に芽生え始めた。
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