二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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二十八話 目指すものは和解になった

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 長屋の前に着くと、ふと思い立って私は忍に声をかけた。

「そういえば、勝手に復讐から和解に目的が変わってしまったわ。忍の同意を得ていないのに、あんな発言をしてごめんなさい」

「あの場では仕方なかったさ。でも、和解の方がきっと必要なのだろうな。俺たちで白峰を殺すことができても、他の天狗を敵に回すのは目に見えているしな」

 忍は目を瞑り、首を傾げて光景を想像するように腕を組んでいた。

 ふと忍にも伊世からの助言を伝える約束をしていたことを思い出した。

「私は伊世さんの助言を聞いて、本当に和解が必要だと思ったの。憑依が効かない白峰は唯一の対話し相手になるって伊世さんに言われて私、納得しちゃった」

 忍は「たしかにな……」と、すっかり暗くなった空に輝く星々を眺めて呟いた。

「私の使命は白峰を殺すのではなく、対話をして妖狐の迫害を取り除くことだと確信したの。強さは殺すためではなく対話をするために必要な力なの」

 私は姿勢をただし、忍のことを見た。

「……妖怪退治屋、良峰忍。改めて依頼をします。私と共に……どうか……白峰との対話を……天狗との和解をする手伝いをしてください。お願いします」

 忍は頭を下げた私の手を握ると、微笑んで私を抱き寄せた。

「今更、言われるまでもない。俺の願いは葛を死の予言から回避させることだ。それが、討伐から対話になっただけで、文句を言ったりしないさ」

「忍は……あの惨劇を飲み込んで許せるの……?」

「葛は最近になって記憶として見たから印象が強いのだろうな。でも、俺にとってはもう守れなかった過去でしかないんだ。きっと、許せはしない。でも、葛のことなら守れるかもしれない。それに葛には俺が死んだ後も、人生がある。一つでも敵対関係を解消して今後の安全に繋がるなら、俺はその手段を選びたい」

 忍は本当に強い人だ。心身ともにここまで高潔な人は今後、現れることすら考えられない。あんな悲劇を経験して、精神がねじ曲がらなかったことが不思議でならない。

 いや……違う。私にだけ正常に見えているだけだ。もうとっくに忍は、壊れているではないか。

 弱者に心を開かない忍を救えるのは自分だけなのだ。

 途端に愛しさが溢れて忍を強く抱きしめてしまった。不思議そうに尋ねる忍に、私は手を放して意を決した。

「私……忍のことが好き。だから、あなたを独りにしたくない」

「戦う時は俺の体を使うんだろう? 死ぬ時は一緒だ」

 たしかにそうだった。ふと、死ぬと予言されたのは自分だけなのだから、忍に憑依している限り死の運命は回避できるのでは、と想像してしまった。だが、あまりにも楽観的すぎて自分でも笑ってしまうくらいだ。



 そして翌日、予言の刻限まであと七日。私と忍は町長に予告していた通りに、二人で狩りに出かけた。上空から私が雀に変化して妖怪を探して、見つけては憑依で操り忍の方へ向かわせて、忍がそれを斬った。鏑矢が鳴ることもなかったので、日が暮れるまで町の周囲を走り回り、完全に妖怪を狩りつくしてしまった。大小合わせて五十は斬っただろう。

 もはや、身体能力だけで言えば忍の方が上回っていた。出会った当初は、私が強さで追い越されたら捨てられるのでは、と頭をよぎったことがあったが今は全く以て杞憂と言い切ることができる。

 その日の夜は疲労からか、私の憑依を必要とすることなく自然と忍は眠りに落ちていった。私も、それなりの疲労感からすぐに眠ることができた。



 そして、また朝が来た。予言の刻限は六日後に迫っていた。

 櫛で髪を整えて長屋を出ると忍が腕を組んで考えごとをしながら、待っていた。

「何か、考えごと?」

「あぁ、夢を見たんだ。八本の黒い尻尾を持つ妖狐の男が出てきたんだ。髪はかき上げていた。もしかして、君の父か?」

 尾の数も色も髪型も教えたことはなかったのに的確に言い当てたことから、私は大太刀の影響と予想した。あの刀は父の成れの果てであるため、持ち主である忍に影響を及ぼしても不思議はない。

「間違いなく、私の父ね。何か言っていた?」

「白峰とは、どうやって対話するつもりなんだ? と聞かれてしまって起きてから考えているんだが、具体的な案をすぐには思いつかなかった。葛は何か考えていたか?」

 私も言われて気付いた。

「それについては私も明確な手段を考えてなかったわ。今日は忍が一人で狩りに出てくれるかしら。私は町に残って、専念して考えてみる」

「わかった。俺も退治しながら少し考えておく。じゃあ、行ってくるよ」

 小走りに駆けていった忍を見送ると私は長屋に戻ると横になって天井を見つめた。天井を支える柱の木目が川の流れのように線を描いていた。

(何、木目なんか観察してるんだろう)

 思わず私は、かぶりを振り対話の方法を思案し始めた。白峰と戦っている最中は対話の余裕など私にも忍にもないだろう。

 ふと、思い出したのは母の言葉だった。

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