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プロローグ~困惑の林檎~
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一年の半分を覆う雪景色と僅かばかりの鉱山が唯一の特徴といっていいくらいの小さな国リハン。
といっても今リハン国を彩っているのは、短い時間ではあるが赤や黄色等の色とりどりの木々だ。長い冬を越えるための重要な収穫の秋では、王族や庶民を問わず誰もが走り回りながら越冬の準備に追われていた。
もちろん、リハン国第一継王位承権を持つリリー姫も変わらないはずだが、彼女はベビーピンクのドレスを恥ずかしげもなくたくしあげ、白魚のような柔らかく、傷一つない手を、自身の腕より一回りもする木の枝に巻き付けている。
その行為は、決して王女がする作法とは程遠く、農作物の収穫を手伝っているというものでもないくらい、不様な姿を臆面もせず晒していた。
城の一角に設けられた広大な園庭の奥の奥にある、誰からも忘れさられた一本の木。そこによじ登っている、リリー姫の周りには不自然なくらい誰もいない…はずだった。
やっとの思いで、侍女を巻き、お目当ての木によじ登っているリリーはきずかなかったが、彼女を見つめる鋭くも悲しみに満ちた眼差しの青年と、憎しみの隠る眼を向ける男が別々の場所でリリーを見つめていた。
だが、そんな視線にきずくわけもないリリーは
「あと…ちょっと…」
と、必死に木になる赤い身に手を伸ばしていた。
何度かこの場所に来て身をもいだのか、所々引きちぎった後があり、手の届く場所にお目当てのものはなかった。そのため、意を決して恐る恐る、1番高い所になっている身を目指す。
が、元来運動神経のよくないリリー。その悲劇は一瞬の出来事であった。
「あっ…ウソ…」
そう思った時には、アンバランスなままひっかけていた足を滑らせ、その衝撃で折れた枝もろとも地面へと落下していた。
私…死ぬの?
せめて、最後にあの林檎を…ううん…グレルが取ってくれた林檎が…食べたかった…
早々と己の死を受け入れたリリーが、目を閉じかける…が、もう地面に着いているはずなのに、一向に痛みも衝撃音も耳に届かない。
「痛くない?」
と、そっと目を開けるとエメラルドの瞳を目一杯広げ、心配そうにリリーを抱き抱えながら見つめる金髪の青年と目があう。事態を把握できないまま
「おまえは、どうしていつまでたっても成長しないんだ?」
線が細い印象を与えるも、落下してきたリリーを咄嗟に受け止めることのできる立派な体つきを、優雅な白亜の貴族服に包んだ天使のような青年が発したと思えない程の悪態を吐かれたリリーは、目をパチクリとさせている。
そんな彼女に、ため息を吐き出した青年は、抱き上げていたリリーをユックリと、壊れ物を扱うかのごとく地面へと下ろした。
その、言葉と態度の裏腹さに懐かしさで胸を締め付けられたが、その理由をリリーが理解する事はできなかった。
なぜなら、目の前の青年をリリーは知らなかったからだ。
この人が…私を助けてくれたのよね?
でも、私を知ってる割には、王女の私に敬語もない…という事は…知り合い?
いやいや、こんな天使みたいにキレイだけど、男の人を感じさせる色気満載な知り合いなんていないわ!
そもそも、1回でも会ってたら絶対に忘れるわけないじゃない‼
こんなイケメンめったに会えないんだから!
うって変わって、食い入るように青年を凝視するリリーに、じゃっかん引きった顔を浮かべる青年にきずいたリリーは
あっ…ヤバイ…イケメンは変な顔してもカッコいいのね~
…って、彼後ずさってるわ!マズイ!
初対面でこの態度は!!
今後の事も考えて、良い印象を与えなくちゃ‼
リリーは我にかえり、慌ててドレスの端をつまみ上げ腰を落とす
「先ほどは、危ない所を助けて頂きありがとうございます。どなたか存じ上げませんが、感謝いたしま…す?」
王女らしく、模範的な言葉を紡ぎ笑顔で彼を見たリリーは思わず語尾が?になってしまった。
なぜなら、彼女が優雅に話している途中で
「どなたか存じ上げない?よくそんな事が言えるな…」
ドスの聞いた声が耳に届いたからだ。やはり、目の前に立つ不機嫌そうな顔をした青年とリリーは知り合いらしい。
が、どんなに頭をフル回転させても記憶に青年が該当する事はなかった。
戸惑うリリーに、青年は彼女へと歩みを進め、吐息も聞こえそうなくらいの至近距離で甘い声を出す。
天使のような美貌の青年に、極上の甘さを含む声を耳元で囁かれれば、並大抵の女性であれば、腰が砕けるだろうが、リリーは発せられた言葉に青くなったり、赤くなったりと世話しなく顔色を変える。さらに、拳を震わせると青年の胸を有らん限りの力で押し退けていた。
とはいえ、華奢なリリーの力では少し距離が生まれるばかりだ。それでも、その距離に安堵したリリーは、今度は青年を睨み付けていた。
下から小動物が、最後の抵抗とばかりにぶつけてくる視線に青年はニヤリと口角を上げ
「やっと、思い出したようだな? 寝ションベン垂れのリリー?」
と美麗な顔を蠱惑的な顔へと変化させると、リリーの絶叫が木霊した。
「イヤーーーーーーーーーーーーーー‼
そんなの、もうとっくのとうに卒業したわよ!て、なんで、そんな事知ってるのよ!…~思い出したわ!あなたグレルね、そんな事言うのグレルくらいだわ!今さら蒸し返さないで!あなたこそ嘘つきグレルじゃない!!」
顔を真っ赤にし、艶やかな漆黒の髪を振り乱しながら、グレルに挑むリリー。だが、昔から口喧嘩で彼に勝てた事などないのだ。それでも、昔の癖で未だにリリーはグレルの前だと我を忘れてしまう。普段、親である王や王妃、小さい頃からリリーを育ててくれた乳母や、友達のように仲の良い侍女に見せている大人しくも王女としての凛とした佇まいは、グレルの前でだけは、どうしてもできない。どちらもリリーではあるのだが、グレルに対してだけ素直になれないのだ。
そんな、懐かしいリリーの態度に一瞬グレルは目を細め、愛しい者を見るような破顔をリリーへと向ける。
それを目の辺りしたリリーの時が止まった。
これは…誰…?
私の知ってるグレルじゃない…
胸に熱が灯ったような感覚に戸惑い視線を外すリリーの顔は、先程とは違う赤い色を宿していた。
「嘘つきって、どういう事だよ!」
リリーが叫んだ言葉の応答をしているだ
けで、なんてない言葉なのだが、リリーには頭上から降る言葉が、今までにない艶を含んでいるように聞こえ、ますます真っ赤になり、ちじこまってしまった。
「おい!聞いてるのか?嘘つきってなんだよ!」
黙りこくったままのリリーに、苛立ちを含んだグレルの声が刺さる。
それに、反射的に顔を上げ、投げつけるように
「嘘つきに、嘘つきっていって何が悪いのよ!せっ…」
そこまで言ってリリーは再び顔を伏せる。
せっ…成人の儀式の後、突然いなくなったのは、グレルよ!小さい頃からずっと仲の良い幼なじみとしてやってきたのに、何も言わないままいなくなって、手紙もなくて、消息も解らないまま…またあなたは突然私の前に表れて………
4年もどこで何をしていたの?
なんで、何も言ってくれなかったの?
なんで、連絡くれなかったの?
もしかして、私の事が…嫌いなの…?
グレルにもし、もう1度会えたら言おう!自分をほったらかしたんだから、怒鳴りつけてやろう!そうやって、微かな希望に、すがっていた。この4年間1度もグレルの事を忘れた事などなかった。
その言葉をぶつけられる人が現れたのに、リリーは言葉を紡げないでいた。先程灯った熱が別の感情へと変わり、大粒の涙へと変化していく。
リリーの涙にきずいたグレルは、リリーへと手を伸ばしかけていたが、何かを思いだしたようにリリーの濡れた頬を撫でる事なく元の位置へと戻された。
本来なら、リリーに会う資格は自分にない。彼女をもっと裏切る事になる…それは、変えられない事実。今度こそリリーに嫌われるかもな……
それでも、最後にもう1度会いたかった。
リリーには消して言えない言葉を飲み込みながら、耐えるような苦しい表情をしたグレルはポツリと
「…ごめん…」
こぼす。
グレルは、言葉にできない思いを、熱を手のひらに込めるようにリリーの手を引いた。
何に対しての謝罪か解らないまま、混乱するリリーに熱が伝わる。突然、手を握られ歩き出すグレルの優しさと残酷さに、また胸がいたんだ。
一目でグレルだときずかないくらいに、昔と姿や雰囲気が変わり、何も教えてくれない口は、意味の解らない謝罪を紡ぎ出す。リリーの知っているグレルは、もうどこにもいなかった。
その中で唯一確かで変わらなかった、不器用な愛情。それだけが、リリーの真実だった。
今はもう、なにも聞かないわ。でも、いつかきっと全てを教えてくれるよね?
それまで、待ってるから…
手のひらから伝わる温もりは、リリーの寂しさを包んでいく。嬉しさと悲しみが入り交じった涙を溢しながら、二人は城へと続く石畳道を帰っていく。
そんな二人を見つめ続けていた男達がいた。庭園を出るまで始終泣き続けていたリリーは最後まで、きずかなかった。木によじ登っている時からリリーを見つめていた、もう1つの影が刃物を握りしめ、今か今かと機会を伺っていた事に。
それを、グレルはリリーにはけして見せない冷酷な眼差しで、男達を睨み付ける。
男達は、舌打ちを打つと日が落ちてきた夕刻の闇へと姿を消して行った。
秋とはいえ、夜になるとグッと冷え込むリハン国。吹きすさぶ風は容赦なく二人を打ち付け、体温を奪っていった。それでも、不思議とグレルに握られていた手だけは、温かかった。その温もりだけは、一生忘れないと、リリーは心に誓う、そう思っていた。
…死の直前まで。
リハン国の全てを凍らせる長い冬がもうそこまで来ていた。
といっても今リハン国を彩っているのは、短い時間ではあるが赤や黄色等の色とりどりの木々だ。長い冬を越えるための重要な収穫の秋では、王族や庶民を問わず誰もが走り回りながら越冬の準備に追われていた。
もちろん、リハン国第一継王位承権を持つリリー姫も変わらないはずだが、彼女はベビーピンクのドレスを恥ずかしげもなくたくしあげ、白魚のような柔らかく、傷一つない手を、自身の腕より一回りもする木の枝に巻き付けている。
その行為は、決して王女がする作法とは程遠く、農作物の収穫を手伝っているというものでもないくらい、不様な姿を臆面もせず晒していた。
城の一角に設けられた広大な園庭の奥の奥にある、誰からも忘れさられた一本の木。そこによじ登っている、リリー姫の周りには不自然なくらい誰もいない…はずだった。
やっとの思いで、侍女を巻き、お目当ての木によじ登っているリリーはきずかなかったが、彼女を見つめる鋭くも悲しみに満ちた眼差しの青年と、憎しみの隠る眼を向ける男が別々の場所でリリーを見つめていた。
だが、そんな視線にきずくわけもないリリーは
「あと…ちょっと…」
と、必死に木になる赤い身に手を伸ばしていた。
何度かこの場所に来て身をもいだのか、所々引きちぎった後があり、手の届く場所にお目当てのものはなかった。そのため、意を決して恐る恐る、1番高い所になっている身を目指す。
が、元来運動神経のよくないリリー。その悲劇は一瞬の出来事であった。
「あっ…ウソ…」
そう思った時には、アンバランスなままひっかけていた足を滑らせ、その衝撃で折れた枝もろとも地面へと落下していた。
私…死ぬの?
せめて、最後にあの林檎を…ううん…グレルが取ってくれた林檎が…食べたかった…
早々と己の死を受け入れたリリーが、目を閉じかける…が、もう地面に着いているはずなのに、一向に痛みも衝撃音も耳に届かない。
「痛くない?」
と、そっと目を開けるとエメラルドの瞳を目一杯広げ、心配そうにリリーを抱き抱えながら見つめる金髪の青年と目があう。事態を把握できないまま
「おまえは、どうしていつまでたっても成長しないんだ?」
線が細い印象を与えるも、落下してきたリリーを咄嗟に受け止めることのできる立派な体つきを、優雅な白亜の貴族服に包んだ天使のような青年が発したと思えない程の悪態を吐かれたリリーは、目をパチクリとさせている。
そんな彼女に、ため息を吐き出した青年は、抱き上げていたリリーをユックリと、壊れ物を扱うかのごとく地面へと下ろした。
その、言葉と態度の裏腹さに懐かしさで胸を締め付けられたが、その理由をリリーが理解する事はできなかった。
なぜなら、目の前の青年をリリーは知らなかったからだ。
この人が…私を助けてくれたのよね?
でも、私を知ってる割には、王女の私に敬語もない…という事は…知り合い?
いやいや、こんな天使みたいにキレイだけど、男の人を感じさせる色気満載な知り合いなんていないわ!
そもそも、1回でも会ってたら絶対に忘れるわけないじゃない‼
こんなイケメンめったに会えないんだから!
うって変わって、食い入るように青年を凝視するリリーに、じゃっかん引きった顔を浮かべる青年にきずいたリリーは
あっ…ヤバイ…イケメンは変な顔してもカッコいいのね~
…って、彼後ずさってるわ!マズイ!
初対面でこの態度は!!
今後の事も考えて、良い印象を与えなくちゃ‼
リリーは我にかえり、慌ててドレスの端をつまみ上げ腰を落とす
「先ほどは、危ない所を助けて頂きありがとうございます。どなたか存じ上げませんが、感謝いたしま…す?」
王女らしく、模範的な言葉を紡ぎ笑顔で彼を見たリリーは思わず語尾が?になってしまった。
なぜなら、彼女が優雅に話している途中で
「どなたか存じ上げない?よくそんな事が言えるな…」
ドスの聞いた声が耳に届いたからだ。やはり、目の前に立つ不機嫌そうな顔をした青年とリリーは知り合いらしい。
が、どんなに頭をフル回転させても記憶に青年が該当する事はなかった。
戸惑うリリーに、青年は彼女へと歩みを進め、吐息も聞こえそうなくらいの至近距離で甘い声を出す。
天使のような美貌の青年に、極上の甘さを含む声を耳元で囁かれれば、並大抵の女性であれば、腰が砕けるだろうが、リリーは発せられた言葉に青くなったり、赤くなったりと世話しなく顔色を変える。さらに、拳を震わせると青年の胸を有らん限りの力で押し退けていた。
とはいえ、華奢なリリーの力では少し距離が生まれるばかりだ。それでも、その距離に安堵したリリーは、今度は青年を睨み付けていた。
下から小動物が、最後の抵抗とばかりにぶつけてくる視線に青年はニヤリと口角を上げ
「やっと、思い出したようだな? 寝ションベン垂れのリリー?」
と美麗な顔を蠱惑的な顔へと変化させると、リリーの絶叫が木霊した。
「イヤーーーーーーーーーーーーーー‼
そんなの、もうとっくのとうに卒業したわよ!て、なんで、そんな事知ってるのよ!…~思い出したわ!あなたグレルね、そんな事言うのグレルくらいだわ!今さら蒸し返さないで!あなたこそ嘘つきグレルじゃない!!」
顔を真っ赤にし、艶やかな漆黒の髪を振り乱しながら、グレルに挑むリリー。だが、昔から口喧嘩で彼に勝てた事などないのだ。それでも、昔の癖で未だにリリーはグレルの前だと我を忘れてしまう。普段、親である王や王妃、小さい頃からリリーを育ててくれた乳母や、友達のように仲の良い侍女に見せている大人しくも王女としての凛とした佇まいは、グレルの前でだけは、どうしてもできない。どちらもリリーではあるのだが、グレルに対してだけ素直になれないのだ。
そんな、懐かしいリリーの態度に一瞬グレルは目を細め、愛しい者を見るような破顔をリリーへと向ける。
それを目の辺りしたリリーの時が止まった。
これは…誰…?
私の知ってるグレルじゃない…
胸に熱が灯ったような感覚に戸惑い視線を外すリリーの顔は、先程とは違う赤い色を宿していた。
「嘘つきって、どういう事だよ!」
リリーが叫んだ言葉の応答をしているだ
けで、なんてない言葉なのだが、リリーには頭上から降る言葉が、今までにない艶を含んでいるように聞こえ、ますます真っ赤になり、ちじこまってしまった。
「おい!聞いてるのか?嘘つきってなんだよ!」
黙りこくったままのリリーに、苛立ちを含んだグレルの声が刺さる。
それに、反射的に顔を上げ、投げつけるように
「嘘つきに、嘘つきっていって何が悪いのよ!せっ…」
そこまで言ってリリーは再び顔を伏せる。
せっ…成人の儀式の後、突然いなくなったのは、グレルよ!小さい頃からずっと仲の良い幼なじみとしてやってきたのに、何も言わないままいなくなって、手紙もなくて、消息も解らないまま…またあなたは突然私の前に表れて………
4年もどこで何をしていたの?
なんで、何も言ってくれなかったの?
なんで、連絡くれなかったの?
もしかして、私の事が…嫌いなの…?
グレルにもし、もう1度会えたら言おう!自分をほったらかしたんだから、怒鳴りつけてやろう!そうやって、微かな希望に、すがっていた。この4年間1度もグレルの事を忘れた事などなかった。
その言葉をぶつけられる人が現れたのに、リリーは言葉を紡げないでいた。先程灯った熱が別の感情へと変わり、大粒の涙へと変化していく。
リリーの涙にきずいたグレルは、リリーへと手を伸ばしかけていたが、何かを思いだしたようにリリーの濡れた頬を撫でる事なく元の位置へと戻された。
本来なら、リリーに会う資格は自分にない。彼女をもっと裏切る事になる…それは、変えられない事実。今度こそリリーに嫌われるかもな……
それでも、最後にもう1度会いたかった。
リリーには消して言えない言葉を飲み込みながら、耐えるような苦しい表情をしたグレルはポツリと
「…ごめん…」
こぼす。
グレルは、言葉にできない思いを、熱を手のひらに込めるようにリリーの手を引いた。
何に対しての謝罪か解らないまま、混乱するリリーに熱が伝わる。突然、手を握られ歩き出すグレルの優しさと残酷さに、また胸がいたんだ。
一目でグレルだときずかないくらいに、昔と姿や雰囲気が変わり、何も教えてくれない口は、意味の解らない謝罪を紡ぎ出す。リリーの知っているグレルは、もうどこにもいなかった。
その中で唯一確かで変わらなかった、不器用な愛情。それだけが、リリーの真実だった。
今はもう、なにも聞かないわ。でも、いつかきっと全てを教えてくれるよね?
それまで、待ってるから…
手のひらから伝わる温もりは、リリーの寂しさを包んでいく。嬉しさと悲しみが入り交じった涙を溢しながら、二人は城へと続く石畳道を帰っていく。
そんな二人を見つめ続けていた男達がいた。庭園を出るまで始終泣き続けていたリリーは最後まで、きずかなかった。木によじ登っている時からリリーを見つめていた、もう1つの影が刃物を握りしめ、今か今かと機会を伺っていた事に。
それを、グレルはリリーにはけして見せない冷酷な眼差しで、男達を睨み付ける。
男達は、舌打ちを打つと日が落ちてきた夕刻の闇へと姿を消して行った。
秋とはいえ、夜になるとグッと冷え込むリハン国。吹きすさぶ風は容赦なく二人を打ち付け、体温を奪っていった。それでも、不思議とグレルに握られていた手だけは、温かかった。その温もりだけは、一生忘れないと、リリーは心に誓う、そう思っていた。
…死の直前まで。
リハン国の全てを凍らせる長い冬がもうそこまで来ていた。
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