異世界からの友好的侵略者にバカ惚れしたのでひたすら口説く

浦門

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三 坂井ミリはまだ知らない

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 ミリちゃんは思っていたよりもずっと勉強ができなかった。
「もっかい言ってください! もっかい! そんなの一度に言われてもわかんないです!」
「そこの教科書に書いてあるの読み上げただけなんだけど……」
「教科書に書いてあること読んで意味わかるなら誰かに勉強教えてもらったりしないです!」
「いやもっかい聞きたいって言ったから、なら自分で読めばいいって」
「自分で読むなら誰かに勉強教えてもらったりしません」
「教科書読めないの?」
「読めますよ!」
「読んだ?」
「読んでませんよ」
「読んでみたら?」
「なんで読まなきゃいけないんですか」
 めちゃくちゃだ。おれも相当屁理屈ばかり言う性格だとは思うけど、ミリちゃんはまた違う。なんだこれ。
「そんなことより宿題のわかんないとこだけ教えて下さい」
「どこわかんないの?」
「え!? わからないところは……わからないところです」
 いま一回驚いたのは何。
「わからないところはわからないです」
「ちょっとミリちゃん難しすぎる」
「ですよね! やっぱ中学校の勉強って難しいですよね! いいんですよカイさんには期待していないので、無理なら大丈夫です。他の人に教えてもらいます」
「違う。勉強の内容は簡単だけどミリちゃんの頭の中身が難しい」
「……? どういうことですか」
「カスミちゃんよく頑張ったなって思った」
「いまカスミさん関係なくないですか」
「そうだね」
 不毛だ。とりあえず机の上に教科書と問題集とノートを並べさせて、どれから手を付けるかって話をして。どんな内容なのか教科書と問題集を読みながら確認して、で……まだ一問も進んでいない。それどころか未だにミリちゃんの手にはシャーペンすら握られてすらいない。
「とりあえず問題解いてこ。なんでもいいからやらないと終わんない」
 ミリちゃんがやること眺めてても全く何も進まないし、横から話しかけても話がそれていくだけで結局進まない。とにかく手を付けさせてみようと考え直して、適当に選んだ教科の問題集を開く。
「はい! これわかんないです!」
「早」
 そしてまだシャーペンは握っていない。
「どこ? つーか問題読んだ?」
「よ……読みましたよ」
「読むの早くない?」
「問題って、読まないとだめですか?」
 似たような話繰り返してる気がする。
 ミリちゃんは勉強ができない。
「勉強って、何の意味があるんでしょうね」
「色んな意味があると思うよ」
「うーん……なんか思ってたのと違う」
「何が」
「カイさんがですよ。今の同意するところだと思いました!」
「おれが? おれは勉強する意味あったよ。将来やりたいことあったからね。それができなくなっても、まあ今ミリちゃんに勉強教えられてるから意味なくはないんじゃない」
「将来……わたし将来ないですよ」
「え」
「あ! 間違えた! 将来の夢的なのがないんです!」
「いつかやりたいこと思いついたりするかもよ」
「やりたいことめっちゃあります! でもそれ、もう全部叶ってるんですよ」
「そういうこと? 手止まってるけど」
「ひぇ」
 ミリちゃんは喋り出すと止まらないので、まずは喋りながらできる宿題を先にしてもらうことにした。漢字の書き取り。英単語の書き取り。ノートを覗き込むと、かなり書き慣れてなさそうな崩れた文字がぐねぐねと並んでいる。
「わたし今やってることが夢だったんです」
「ふーん。異世界人と戦うのが?」
「そうです! てゆうかわたしそのために生まれた人造人間なんです!」
「へえ」
 その話は小隊の顔合わせの時に少し聞いていた。だって軍に招集されて、同じ部隊に小学生の女の子が混じってたら疑問にも思うし、上の人間だって説明の必要があるとはわかるだろう。
 その人造人間はこの間中学一年生になったにしては書き慣れていないアルファベットをやたらに行の大きなノートにノロノロと書き写している。
「ジーンAIというやつでですね、血液の適合が絶対出るようにゼロから作られてるんです。ほとんど人間なんですけど。ていうか人間です。でもこうして軍に入って戦うために生まれてるんですよね。かっこよくないですか?」
「ミリちゃんは格好いいって思うんだ?」
 おれはそうは思わない、と頭の中では答えていたが、口に出すようなことでもないので止めた。
 そうは思わない。例え彼女自身が今は本気でそう思っていたとしても、まだ中学生だ。――これは奴らがこの世界に現れる以前の古い考え方だが、おれはそれを捨てる気にはなれない。
「ちょーかっこいいですよ! わたし小さい頃からアニメとか戦隊ものとか見てて! わたし絶対みんなを守るために戦う側だと信じてたんですよね! そしたらマジでそうだったんですよ! すごいです!」
「そっか」
 もちろん笑顔で相槌を打つ。明日死ぬかもしれないのに? ということを、理解しているようには見えない。
 ミリちゃんが自分で望んでやってることだから、赤の他人のおれが口出しすることでもない。でもこうして見ていて、寒い気分だ。
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