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三 坂井ミリはまだ知らない
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天井は少しずつ引きちぎれるように剥がれ落ち、巨大なコンクリートの一枚岩となって落下しつつある。天井の剥がれる速度は遅く、まだそれほど状況は差し迫っていないように見えた。
まあ、そんなことを悠長に考える余裕を持てるのも、人間じゃなくなったこの肉体のおかげだ。おれの感覚では、十分余裕を持って助けに入れた。
落ちる天井の下はやたらに商品が多い店舗の上だった。陳列棚もマネキンも倒れて服だらけだ。寄生体とナユさんが引っ掻き回したせいだろう。乱雑に跳ね飛ばされ積み上がった布の奥に埋もれるようにして女性が一人取り残されており、彼女を庇うために天井の下へ滑り込む。
失った片腕で天井を受け止め、もう片方で彼女の背中を抱きかかえた。
血で出来た腕とコンクリートぶつかって鈍い音が響く。当たり前だがコンクリートの天井は重い。血液を固めて棒状にしただけの腕じゃ細かい動作もできず、ただコンクリートに突き立てて支えにする他ない。
「大丈夫?」
軋む音がしてんのは、天井の方だろう。おれの骨とかじゃない。そうだとうれしい。
女性は既にほとんど気絶しているようなショック状態で倒れていたが、おれが背中を揺らすと目を泳がせて意識を取り戻した。
「だれ?」
曖昧な発音だが、寝起きじゃ仕方ない。
「第二十一緋連雀隊西川カイ。救急隊員じゃなくて悪いけど、外傷ないみたいだからきっと助かるよ」
「あ、に、逃げ……」
「逃げられる。これどかすから、ちょっと落ち着いて待っててくれる?」
店舗の隅で、背後の棚と天井に挟まれている状態だ。砂埃で視界が霞む。柔らかい服にまみれてクッションになっているのは幸いだった。
にしてもこのコンクリートの塊、どうしようか。腕もどきを刺してるところにヒビが入っている。ここから真っ二つに割ったら間から出られるかもしれない。この女性をかばいつつ、固めた血の出力を上げる。もう一方の生身の腕で、角度を微調整しながら。
安全に壊せばいいだけだ。そう難しくない。
人助けは好きだ。それが正しいか間違いかといえば、人類の立場から言えば絶対に正しい行いだろう。やることなくて暇な人生、絶対に正しいことがわかりきってるなら、それをやらない手はない。
――という場面に、頭蓋骨から電子音が鳴る。
『西川――』
「それ今じゃないとだめ?」
『現在地点は』
「わざわざ通信してんだからせめて会話のキャッチボールして」
『応えられない状況なのか』
「いや余裕だよ。増援はいらない。でも話しかけないで欲しい」
向こうがどういう状況でどういうつもりで通信をかけてきたのか知らないけど、悠長なやり取りのあとの回線越しに隊長が短く不機嫌に息を呑むのが聞こえた。
そういう細かい反応、目の前に居なくても結構わかるようになってきた。
何を、浮かれたことを考えてるんだ? 今はそれどころじゃないだろう。
まあ、そんなことを悠長に考える余裕を持てるのも、人間じゃなくなったこの肉体のおかげだ。おれの感覚では、十分余裕を持って助けに入れた。
落ちる天井の下はやたらに商品が多い店舗の上だった。陳列棚もマネキンも倒れて服だらけだ。寄生体とナユさんが引っ掻き回したせいだろう。乱雑に跳ね飛ばされ積み上がった布の奥に埋もれるようにして女性が一人取り残されており、彼女を庇うために天井の下へ滑り込む。
失った片腕で天井を受け止め、もう片方で彼女の背中を抱きかかえた。
血で出来た腕とコンクリートぶつかって鈍い音が響く。当たり前だがコンクリートの天井は重い。血液を固めて棒状にしただけの腕じゃ細かい動作もできず、ただコンクリートに突き立てて支えにする他ない。
「大丈夫?」
軋む音がしてんのは、天井の方だろう。おれの骨とかじゃない。そうだとうれしい。
女性は既にほとんど気絶しているようなショック状態で倒れていたが、おれが背中を揺らすと目を泳がせて意識を取り戻した。
「だれ?」
曖昧な発音だが、寝起きじゃ仕方ない。
「第二十一緋連雀隊西川カイ。救急隊員じゃなくて悪いけど、外傷ないみたいだからきっと助かるよ」
「あ、に、逃げ……」
「逃げられる。これどかすから、ちょっと落ち着いて待っててくれる?」
店舗の隅で、背後の棚と天井に挟まれている状態だ。砂埃で視界が霞む。柔らかい服にまみれてクッションになっているのは幸いだった。
にしてもこのコンクリートの塊、どうしようか。腕もどきを刺してるところにヒビが入っている。ここから真っ二つに割ったら間から出られるかもしれない。この女性をかばいつつ、固めた血の出力を上げる。もう一方の生身の腕で、角度を微調整しながら。
安全に壊せばいいだけだ。そう難しくない。
人助けは好きだ。それが正しいか間違いかといえば、人類の立場から言えば絶対に正しい行いだろう。やることなくて暇な人生、絶対に正しいことがわかりきってるなら、それをやらない手はない。
――という場面に、頭蓋骨から電子音が鳴る。
『西川――』
「それ今じゃないとだめ?」
『現在地点は』
「わざわざ通信してんだからせめて会話のキャッチボールして」
『応えられない状況なのか』
「いや余裕だよ。増援はいらない。でも話しかけないで欲しい」
向こうがどういう状況でどういうつもりで通信をかけてきたのか知らないけど、悠長なやり取りのあとの回線越しに隊長が短く不機嫌に息を呑むのが聞こえた。
そういう細かい反応、目の前に居なくても結構わかるようになってきた。
何を、浮かれたことを考えてるんだ? 今はそれどころじゃないだろう。
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