異世界からの友好的侵略者にバカ惚れしたのでひたすら口説く

浦門

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三 坂井ミリはまだ知らない

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 おれは自分自身のことを善人だと思っている。だから寄生体の言葉を聞き終わる前に、おれの手は緩んでいた。
『すごい音しましたけど!』
 回線の向こう側から聞こえてくるのは、ミリちゃんの叫び声と、黙って成り行きを観察している誰か一人――恐らく信之あたりと、あとは最初に話しかけてきた人間じゃないのが一人。
 こっちの音は、天井が割れる音ぐらいまでは向こうに聞こえたらしい。
 じゃ、さっきの声は、聞こえていただろうか?
「ミリちゃん、回線」
『え! またやっちゃいました!?』
 ブチン、と乱暴に回線が切られたノイズが鳴った。頭の中が静かになる。
「た……」
 同じ台詞を目の前の寄生体が繰り返そうとした。喉が潰れたような掠れた声だ。おれが力を緩めるのが遅れて潰したのかも。
 出ない声を絞り出そうと、口を開けたり締めたりする。いかにも苦しげに。目元に涙が滲み出した。中学生か高校生ぐらいの見た目で、着ている制服も今やすっかりボロボロで、身体中あちこちに真新しい打撲や傷を負っていて、血と粉塵にまみれている。命乞いをして涙を流す。いかにも哀れだ。
 おれはそいつの喉に詰まった血反吐を吐き出させるために、もう一度その首に手をかけて力を込めた。
「がはっ、がっ……」
 血と泡を吹き出して、咳き込みながらうめき声を上げた。それでもさっきの掠れた声よりは明瞭だ。
「どうして」
 残った血を黒い学生服の上に吐き出しながら、次にこぼれたのは恨み言だ。当然だろう。さっきのは荒療治だった。でもこの状況じゃ仕方がない。
 それより、話が違う。寄生体ってのは、言語を持たないんじゃなかったのか。全く完全に裏側の異世界人と同化してしまっているから、意味のある言葉を発することができないんだと、おれたちは教え込まれたが。
 奴らが人類に真実だけを話しているわけがない。そんなの当然だ、小学生でもなければ誰だってそれが正解に近い推測だということは薄々理解している。奴らは人類を対等だとは考えていない。
 だからだ。
「助けてやろうか?」
 だからおれは一旦首をへし折るのを止めることにした。請われた助けに応えたかった。その単純な衝動で手を差し伸べた。
 それに改めて考えると、こいつが表側の異世界人の嘘を抱えているのなら、一分一秒でも長く生き延びることに大した意味があるんじゃないかとも思えた。これは人類視点での正当な正義感だろう。
 さっきミリちゃんが慌てて切った回線はまだ掛け直されていない。この寄生体の声は音量が足りず回線を通らなかった。きっとそういうことだろう。おれの背後の女性は――一般人はまずこいつが寄生体かどうかも、知りようがないだろうし。
 つまりこいつが喋れる寄生体だってことは、おれしか知らない。
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