彼女の優しい理由

諏訪錦

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真っ赤な嘘4

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 少し前だったら、街の幅広い情報を求めるならタクシー運転手に聞くのが手っ取り早かった。タクシーは幅広い年齢層、職業の人間が利用するため、雑談を通じて様々な情報が集まってくる。
 だが、現在はSNSの利用の拡大で情報収集のやり方も大きく変わった。
 オレは駅前から離れ、東口側の繁華街を抜けた先にある古びたアパートの一室を訪れた。部屋の中は薄暗く、物もほとんどない四畳半だ。寝具と小さな冷蔵庫の他には、古びた部屋に似つかわしくない厳ついPCが異彩を放っている。
漆木うるしぎ、悪いな急に連絡して」
「本当だよ。俺はお前と違って忙しいんだ」
 そう言いながら、こちらに一瞥もくれず
パソコンを操作する手を止めようともしない。
 オレの後ろから覗き込むように顔を出したサーヤは、
「アカサビさん、この人誰ですか?」
 と聞いてきた。
「こいつは漆木。オレの知り合いで、SNSにめっぽう強い男だ」
 そしてオレは、漆木に動物の死骸の話をした。過去三ヶ月で、動物の死骸に関するSNSの投稿がないか聞いてみた。
「動物の死骸ね。その投稿なら何件かあったな。俺が目にした投稿は、近頃街で動物の死骸がよく目撃されているって噂と、自分もペットを飼っているから気をつけたいって書き込み。あと、実際に動物の死骸を見つけて怖かったって投稿だったかな」
「漆木。お前が見た書き込みになにか気になるところはなかったか?」
「一つ気になるというか、話を聞いててもしやって思ったことがある」
「なんだ?」
「動物の死骸を発見して怖かったって投稿があったと言っただろう? その件数が確か八件だったんだけど、それがいまのところ街で見つかっている動物の死骸の数と一致するんだ 」
「それのどこがおかしいんです?」
 サーヤも前のめりに漆木の話を聞く。
「てか、誰この女?」
「私サーヤっていいます。そんなことより、話を先に進めて下さい、漆木さん」 
「まぁいいや。この八件の死骸発見報告なんだが、ユーザーアカウントを変えてはいるが同じ人物による投稿みたいなんだよな」
「どういうことだ?」
「基本的にSNSではアカウントを登録するのにメールアドレスか電話番号を登録する必要があるのは知ってるよな?」
 オレはため息を吐いた。
「まず専門用語が多い。あと忠告しておくと、自分の専門分野の知識をひけらかすなよ、だから漆木は女にもてないんだ」
「こんなの現代人の一般常識だよ。ねえサーヤさん」
 漆木に聞かれたサーヤはこくんと頷いた。
「あと俺は女にもてないわけじゃない。そう思うでしょサーヤさん」
 今度は頷かないサーヤ。
 それを見た漆木は顔をパソコンの方に向け、
「これだからリアルは嫌いなんだ」
 とボソっと呟いた。
 話を戻してくれと頼むと、漆木は不承不承に頷いた。
「さっきも言ったように、死骸を発見したと書き込みされたSNSはアカウント認証にメールアドレスか電話番号を使うんだけど、その投稿者の認証画面にアクセスすることで登録したメールアドレスか電話番号の頭文字と桁数を確認することができるんだよ。過去八件の発見報告が、アカウントこそ違うのにどこか文面とかに共通点が見られて不自然に思ったから認証確認したんだけど、そうしたら全てのアカウントのメールアドレスの頭文字が同じで、しかも桁数まで同じだったんだ。笑えるだろ?」
「ははは、確かに笑える」
「アカサビさん絶対わかってないですよね」
 呆れたように白んだ目を向けてきたサーヤは、嘆息して続けた。
「つまり八回、それぞれ別の場所で動物の死骸を発見したと投稿されたアカウントが、実は同じ人物である可能性が非常に高いということですよね」
 サーヤの要約でやっと理解できた。動物の死骸が発見されている数は八件で、そのすべての第一発見者が同じ人物なんてことは考え難い。それがわかっているから、投稿した人物はわざわざ別のアカウントを使ったのだろう。そもそもなぜ投稿などする必要があるのかわからないが、少なくとも犯人と投稿をした人物は同一人物である可能性が高いということ。
「漆木。その投稿者の情報を探ることはできないのか?」
「投稿の内容を遡れば、あるいは」
 そう言って、漆木は投稿者アカウント全ての過去の書き込みを遡っていく。そして、一通り目を通したのか首をぐるりと回した。
「これは驚きだ」
「なにかわかったのか?」
 とオレは聞いた。
「この投稿者が女だってことは文面からなんとなくわかっていたけど、どうやら娘までいるみたいだ。しかもこの母親、娘を誘拐されたって内容の投稿を過去にしているんだが、内容をよく読んだら児相に保護されたってことらしい」
 児童相談所に子供を連れて行かれるということは、この人物、あるいは家庭環境になんらかの問題があるということだろう。
「しかも、もっと驚くことがある」
 漆木はそう言うと、オレを見て口角を上げた。
「この投稿者の娘が預けられた施設は喜楽園きらくえんだ」
 オレは、その名前を聞いて衝撃をうけた。こんな偶然あるのかと思ったが、改めて考えてみると児童養護施設はコンビニのようにどこにでもあるものではない。この街に住んでいるのならそういうこともあるのだろう。
 オレと漆木の話を怪訝そうに聞いていたサーヤは、我慢できなくなったのか会話に割って入った。
「施設とか、喜楽園とか、なんの話をしているんですか?」
 ああ、そういえばサーヤには話していなかったな。
「喜楽園っていうのは児童養護施設の名前だ。オレと漆木は、その施設で育ったんだよ」
 漆木は両親ともに健在だが、父親の借金と母親の鬱病で養育は不可能ということで、十歳頃に施設にやってきた。その後、債務整理を終えた父親に引き取られるまでの三年間、同じ施設で生活していた。施設にいた頃から、漆木はインターネットに詳しく、話によると父親がIT系の会社を経営していたことが関係しているらしい。
「お二人とも、施設で育ったんですか」
「ま、俺は三年くらいだけど、ここに居られるアカサビは、ほとんど自我が芽生える前から施設にいたという、まるで主のような存在だぜ。いまでも施設に住んでいるんだろ?」
「一応はな。でも、オレもたまにしか帰ってないから施設に新しい子供がいるのか知らない」
 そこで、おもむろにサーヤが手を挙げた。
「質問です。子供の頃のアカサビさんってどんな人だったんですか?」
「聞きたいか?」
「おい漆木、余計なこと言うな。サーヤも関係ない話はやめろ」
「変なことは言わねえよ。で、サーヤちゃんはなにが知りたい。喧嘩屋と呼ばれて大暴れしていた時代か? それとも、そんな硬派な男の甘酸っぱい初恋の話とかか?」
「ぜひ初恋の話をお願いします。相手はどんな人だったんですか?」
「そんなに聞きたいならしょうがないな。名前は中上奏子・・・・っていってな」
「おい! 余計な話をするなって」
「そんなマジになるなって。サーヤちゃん、この続きはまた今度ってことで」
 今度なんてねーよ、とオレは吐き捨て、
「そんなことより、話を戻すぞ。現状、第一発見者らしき人物が事件に関係していると考えていいよな。そして、その娘は児相に連れて行かれ、現在、喜楽園に住んでいる」
 そうとわかったら、取るべき行動は一つ。オレは踵を返し、
「邪魔したな、漆木」
 そう言って玄関の扉に手を伸ばす。
 背後から、漆木が言う。
「これからどうするんだ?」
「決まってるだろ。喜楽園に帰るのさ」
 そう答え、扉を開いて外に出た。

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