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色欲も良いことばかりでは無い

《八之罪》無慈悲な絶対王政

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第一章  第八話
『無慈悲な絶対王政』

部屋を出た私は直ぐに、騒動の正体を知ることになる。

宿の扉は無残にも吹き飛ばされていて、植えていた観葉植物は土を撒き散らして散乱している。
宿内にいた人も何人か倒れていた。

そして宿の中では...


「おい、だからさっさと出さねぇと!」
「わ、私は何も知りません!!」

一人の黒いスーツらしきものをきた金髪の大男が、一人の女性の服の襟を掴んで睨みつけていた。
女性はとても怖がり、震えている。
仕方ない。ここは、助けるしかないだろう。

「その辺にしないか?」
「ぁあ?誰だよてめぇ」

男は私を睨みつける。
が、特に怖くも無かった。

「お前の探しているものはなんだ?もしも見つけたら教えてやろう。だから宿を壊すのはやめてくれんか?」
「ほほぅ、聞き分けがあるじゃねぇか。ピンクの髪の、ちっこいガキだ。さっさとこっちに寄越せ。」

大男は女性の服を離して私の目の前に立つ。
確かに大男だ。私の頭が三つは差がある。

そのガキには思い当たりが、いや、確信があった。

「あぁ、あの子か...。あの子なら死にかけててね、今は部屋で治療中さ。
だがなんとなく、あんたには渡さない方が良さそうに見えるぞ。」

鋭い相貌を一層鋭くし、大男を睨みつける。

それを聞いた大男は後ろを向くと、女性の襟首をつまみあげた。

「言う事を素直に聞かないなら...こうするしか無いよなぁ?」

大男は女性の首を片手で締め始めた。
女性は苦悶の表情を浮かべながら、首にかかっている手を引き剥がそうともがいている。
見るに耐えない。夢に出てきたら呪うぞ。

私は溜息を吐き、片手を大男、ではなく、女性に向けた。
すると女性の先程までの苦悶の表情が消えた。
首を締めているのに苦しんでいない女性を見て大男は少し驚いていたが、すぐに視線を私に戻し、もう片方の手で殴りつけて来た。


......パシッ


私は大男の拳を片手で受け止めた。
大男は怯まず手を引くと足払いを仕掛けるが、それが当たる前に背負い投げの要領で投げ飛ばす。
投げる際完全に掴まれていた女性の事を忘れていたが、伸びた大男のお腹に着地したため無事であった。
女性は大急ぎでその場を離れた。

これがルシフ・リードの持つ力の一つ。
彼女は他人から色々なものを『搾取』する事が出来る。大男の腕の力を奪い取り、その力を以て投げたのだ。
さらに言えば女性の苦しみ、それすらも搾取する事で、女性は窒息の苦しみから開放されたのだ。
もっとも、搾取した側、つまり私は代わりに結構苦しかったのだが...。

大きく息を吸い込んで肺に足りなくなった酸素を思い切り入れ、私は起き上がる大男をただじっと見ていた。

「待てよコルァ!!」

...。

はぁ...。

やれやれと首を振り、大男に殴りかかる。

「これ、いらないから返すぞ。」

先程搾取した力を全て乗せた拳は、大男をたちまち宿の外へ吹き飛ばした。

これが私の力の二つ目。
私は自分が持っているものを、相手に押し付け、『強要』させる事ができる。

二つの能力を合わせて、『絶対王政』と命名している。
もっとも、戦いの最中にそれを呼んだ事はない。


「へぇ、あんた、中々に強いんじゃ無いかい?自分自身をあんなに吹き飛ばすなんてさ。」

聞こえていない事は分かっているが軽い皮肉を口に出した私は殴った方の手をぶらぶらと揺らして余裕の笑みを浮かべた。
女性は心底ほっとしたのか、何度も頭を下げて私にお礼を言っている。

ふと、足元に何かが落ちているのが見えた。
取り上げて見てみると、どうやら魔法器のようだ。
黒をベースに白い柄で装飾されたそれは、所謂『携帯電話』と同じ形をしていた。
この形は見覚えがある。これと同じものを持つ人同士で、遠距離で会話が出来るものだ。

......持つ人同士......

やっと気が付いた。
私は部屋に走って戻った。

あの男には仲間がいる筈だ。ならばもしかして、という可能性がある...

「倒しててくれよ、ブラーズ...」

小さく祈りながら私は、部屋の扉を勢いよく開いた。

部屋の中では......



......



先程の大男と同じく黒服を着た茶髪男が、ブラーズを背中から剣で斬りつける所だった。



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