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第四章 明日へ

第47話 〈終〉笑顔

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 朝の爽やかな風が窓から室内に侵入してくる。真っ青な空に涼しい風。退院びよりだ。
 身支度を整え、病室から出て行こうとした。幸い、帝斗は熟睡している。ベットからだらしなく、足をはみ出して、オッサンのようないびきをかいている。
 だって、あの話しを深夜の二時まで続けたのだから。そりゃ熟睡するわな。
 黙って病室を出て行こうとした際、声がした。思わず振り向く。
「起きてたのか」
「うーん」
 指五本思いっきり入れそうなほど、欠伸し、おっとりとベットから立ち上がった。眠い目を擦り、まだ眠気がある顔をしている。
「野郎二人、残すなんて鬼畜」
「来週お前も退院だろ」
 脇腹を突かれたような苦い声をもらし、狐のように目を細める。
「来週なんて、遠すぎ。退院したら、女の子連れてきてね。ブスでもいいよ」
 そう言って満足げにまたベットに体を戻す。ゴロゴロと寝返りをうち、背中を見せた。颯負は一つため息をはくと病室をあとにした。
 一階のフロアへと辿りつき、退院手続きをしたあと、また呼ばれるまで時間がかかる。まだ、朝なのにここの病院は多いな。席が疎らに埋まっている。
 呼ばれるまで暇なので、病院で寝てたぶんの情報を収集しようと携帯に腕を伸ばした。雑誌では載っていない情報も多々ある。

「今、退院手続きしている」
「あら、ほんと」
 病院の外で颯負を発見した片桐と玲緒。ここで、びっくりサプライズするつもりが、当の持ちかけた本人が気力なく口から魂が抜けている。
 その当の本人とは菜穂だ。大きな花束も持参してきたのに、朝からこうだ。みんなに出会える日を楽しみと言っていた顔はどこにもない。
「ねぇ、ちょっと」
 暗い表情する菜穂の顔を下から怪訝と覗いた。
「なにかあったの? あんたらしくない」
 子どもを宥めるように両頬をつまむ。
「痛い……」
 涙袋を貯め、玲緒を上目遣いで見上げる。身長がそんな大差ない二人の距離は目と鼻の先。つまんでる手を戻し、クスと笑みを零し、愛らしい忠犬の眼差しを向けてきた。
 それは菜穂の頬が横にたるんと膨らんでいるからだ。おたふく風邪みたいに。
 それをつゆ知らず菜穂はバシと自分から頬を叩いた。たるんとしていた頬がもとの、四角い輪郭になる。
 つまんだせいもあるか、叩いたせいもあるのか頬がピンク色へと変わっている。
「そう、だよね。よし!」
 なにかを吹っ切ったように花束を大事そうに抱えた。

§

 時同じくしてある村の集落。
「ふぁ眠い」
 起きてきたばかりの幸は大きな欠伸をする。それを見て母が口すっぱい口調になった。
「昨日夜ふかししてたからよ」
「だって、アニメの続きが気になるんだもん」
 また大きな欠伸をする幸にふと、ある一枚の新聞紙が置いてあった。父が読んだのだろう。気になる内容でもないのに、気を紛らわすのに最適だ。おもい思わず手に取ってしまった。
 一枚目はテレビ番組の情報。特にこれとっいて面白い番組はなさそうだ。しかも、この日はアニメの情報はなし。興味がだんだんと薄れ、二枚目をめくると息を小さくのんだ。
 小さなスペースに行方不明者たちの事が書かれてあったのだ。しかも、昨日五代に話した内容。
 神の子という信仰を徹底的打破する言葉を毒のように書かれている。
 昨日の出来事を思い出し、思わずふにゃけた顔になる。

§

 陽光が窓の隙間から入ってくる朝。五代は会社でカタカタとパソコンをうっていた。もちろん、行方不明者の内容だ。
 最後の列をうつと、はぁと猫のように体を伸ばした。昨日からずっとここにいて、もう朝かぁ。
「五代ちゃん」
 そんな五代に声をかけたのは係長。両手に缶コーヒーを持っている。
「三月係長。こんな朝っぱから会社になにか用あったんですか?」
「仕事じゃない。あなたのため」
 そう言ってニッコリと笑い、缶コーヒーを手渡した。濃厚ホワイト味だ。ブラック味は三月係長がぐびと一気飲みしている。私もブラック味が良かったなぁと小言を言い、仕方なく缶コーヒーを開けた。中はトロトロで練乳を飲んでいるみたい。
「ごめんねぇ。私のせいなのに、仕事押し付けちゃって」
 苦笑いで三月係長が言う。隣の席に飲み飲み干した缶コーヒーを置いた。
「いいえ。私もこの記事書きたかったので」
「そう。いやぁ、テレビだから調子に乗っちゃていらんことも言ってしまった」
 頭の後ろに手を置き、跳び箱を失敗したような甘ったるい鈍った笑みをした。
 とんだ怪物だなと小言を言ったのは三月係長でさえも聞こえていない。

§

 颯負が出ていった病室では嵐が去ったように静まり返っている。逆にいやに耳にするのは心也のカニューレに繋がっている息の音と機械音、時計の針の音。
「ねぇ、ほんとは起きてるよね?」
 帝斗はボソリと訪ねてみた。颯負がいない今、最も聞きやすい。
 しかし、心也は目を堅くつぶり、問いかけにすらも応じない。ピッピッと規則正しく機械が発動している。ふんと鼻でため息をこぼし、また窓に顔を向けた。その直後、人影が目のはしに写った。
 思わず、振り向く。そこにはベットから起きあがり、今まで命綱だと繋がっていたカニューレや器官を外している心也。
「おいおい」
 びっくり仰天で震わせた声で言う。ベットから起き上がり、片足を地に落とした。なにかあったら即座に逃げるため。
 緊張の糸が張り巡らせる空気。心也がゆっくりと顔を向けた。漆黒の黒い焦点の中に宿る目の光はどこにもない。
 左目が微かに血を連想させる赤目となっていた。まるで、あのゲーム主催者の一人カイトと全く同じ。
「俺はまたこの世界を崩壊とさせる。また楽しいゲームをしよう」
 どことなく声のトーンも死んだように重い。そう言い放った直後、開いた窓から突風が吹き荒れた。バサバサと白いカーテンが波うち響き合っている。
 強風に思わず目をつぶった。その数秒後、風は止み、そして、目の前には心也はいなくなっていた。
 それまで居たと思われるベットから温もりが消え去っている。本当にこの世から消えたように冷たい。
「ゲーム……?」
 顔をしかめ、帝斗は暫く考えることを放棄した。

§

 朝の朝食が整ったと聞き、ミオンは広い廊下を一人で渡る。誰ともすれ違わない。たった一人の鼓動が轟いているだけ。
 いきなり、大きな波の力を感じた。それは、封じたと思う忌まわしき力。
「ミオン様?」
 白装束の女が顔を覗いてきた。朝の朝食の時間にいつまでも来ないから心配したのだろう。表情読めないけど。
「ごめんなさい。また暫く眠るわ」
「それでは何年後、起こしますか」
 ミオンは横に首を振ってみせた。目を細め恍惚した眼差しで言ってみせる。
「自力で起きるわ。あ、でも……」
 さっきまで長い廊下だったのか突如、寝室へと情景が変わる。ベットも枕もきれいに皺をとってあった。
「また崩壊がきたら起こしてね。あなたたちの動けるスペースと部屋が消えるけど良い?」
「構いません」
 あっさりと応えたので、ミオンはベットへと横になる。ふかふかで心地よい。白装束の女が布団を首まで浸かってくれた。生気のない鬱蒼とした表情で顔を覗く。
「それではおやすみなさい」
「ん。おやすみ」
 瞼を閉じ、真っ暗な視界へと入る。
 きっと、起きた時は何者かにこの世界を崩壊されていた時だ。
 起きるのは何万年後か、それとも……。

§

 手続きをし、暫く経って十一分でやっと呼び出しだ。こんなに待たされるとは、と呆気に思い全ての書類を書き終わらせ、やっと病院から抜け出せる。
 暫く、動いてないせいで鈍っているなと体を伸ばしながら病院をあとにした。
 すると、遠くのほうから名前を呼ばれたような気がした。風のように透き通った甘い声は誰でも分かる。
 振り向くと微笑している玲緒と大きく手を振っている片桐、そして、太陽のような笑顔で名前を呼んでいる菜穂。
「おかえりなさい!」
 その笑顔は本当に眩しい。                                                                                      ―完―

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