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肆 笛湖救出作戦
第41話 前世
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眩い光のあと、わたしの魂の近くに女性が立っていた。女性は昔の、さながら平安時代の女性が正装してた十二単を着て肌は青白く、ここが水面にも関わらず髪の毛は靡いていない。しっかりとそこに立って、何かを訴えるかのようにじっと、わたしの目を見据えていた。
スクリーンに映し出された映像みたいだ。
なんて、こんな場所にスクリーンがあるわけない。なら、この人は誰、なぜ立っていられる。どこから来た。などなど不可解な謎が頭によぎり、整理がつかない。
『彼が暴れてる』
女性が言った。
心地よい透き通った声。頭の中の濁ったものがさぁと水のように晴れていく。なんでだろう、酷く暖かくてそれでいてわたしはこの人を〝知っている〟と感じた。さっきあったばかりの女性のことを、何か心の中で求めている。
頭だけじゃない。心までもが晴れていく。
『今は何も考えないで。わたしなら、彼を止められる。行きましょう』
彼女は両手を前に、受けれ入れるというポーズを示した。わたしは素直に彼女のもとに、両の手の中の胸へ。近づくにつれて彼女の心臓部分だけが光りそして、わたしも光の中に包まれた。とても温かい、懐かしい感覚。
そしてぶわりと目の前に情景が広がる。シャボン玉みたいな大きな円形があってその中に古い建物、十二単を着た女性たち、燃え盛る炎などの情景がぐんぐん横を通り過ぎていく。その中に探偵がいた。見たことない穏やかな笑みでこちらを見ている。一体誰に視線を注いでいるのか。
男女が縁側に添い遂げて一緒に月を見ている。その後ろ姿もわかる。探偵と、そして、その隣には先程の女性。月がきれいだね、なんて会話をしているかもしれない。仲睦まじいまるで夫婦のような関係だ。
そういえば、ぬらりひょん市長から探偵には奥さんがいたとか、あのときはモヤモヤして詳しく聞けなかった。もしかして、あの人は探偵の奥さんだ。
でもどうしてこんなのがわたしの頭の中に。刷り込むように入ってくる。彼女が一体何者なのか――唐突に理解する。彼女とわたしの魂は同じだ。この世に同じものを共有している。魂が一つなんて、そんなの、一つの可能性しかないでしょ? 彼女はわたしの前世、わたしではないわたしだ。
そしてシャボン玉がパチン、パチンと弾け飛んだ。その中にあった美しい情景も目に焼き付けたくなる光景も全てパチン、と。
そして、湖のなかで大爆発が起きたかのようにある一点を中心にして水飛沫が飛ぶ。天にも届く水飛沫で振りついた雨飛沫は氷河のように痛い。
誰も予想もしなかった展開に度肝を抜く。探偵と湖が怒りのままに殺し合っている中にだ。流石の2人も固まった。水飛沫が滝のように登り徐々に小さくなっていく。さも公園で見る噴水のようになっていく。
水が引いていくと水面の上に一つの光るものが浮いていた。ぼわんとしてて淡い消え入りそうな光。水面には何も映っていない。その光の玉を見て探偵、蛟、晴秋が驚愕した。
せっかく隠しておいた魂が何らかの引き寄せでこちらに来たのだ、と解釈して蛟は爪を鋭利な刃物へ変化。それを硬直して足の裏を地面にピタリとくっついている探偵に向ける。
しかし、探偵を助けるように魂が飛んできて探偵の体を押しのける。足の裏がバランスを崩れて鋭利な爪から間一髪で逃れる。
探偵は胸の中に飛び込んできた魂にそっと震える手で触れるように腕を伸ばした。
『あんまり無茶はほどほどに』
彼女が言った。
腕を伸ばして触れようとしてもふっ、と魂はどこかへ飛んでいった。あともう少しで触れたのに、蝶のようにどこかへ飛び目的地を見つけそこにぽちゃん、と落ちる。わたしの体の中に吸い込んでいく。
「晴明!」
「はれあきだ!」
探偵と晴秋は2人同じ、同時に、手を取り合いあの時のように心臓がドクンと鳴る。お互いの指先に心臓の鼓動が聞こえる。結びついた心臓はより大きな力へとなす。竜巻のような突風が吹き荒れ、湖も山木も揺れる。
「なんなのこれ!」
雪香さんが氷結の壁を作って身を隠す。
「あいつら、こっちまで殺す気か⁉」
真那ちゃんは氷結から顔だけ覗き何か起こっているか確認するも風と謎の発光体により状況が全く見えない。
「何なんですのもう! お兄様、早くこちらへ!」
土御門さんはお兄さんを心配し声を掛けるも、突風によりその声はかき消される。何かの音に気づいてピクン、と才次くんの耳が動く。わたしの心臓に耳を当てる。
「……生きてる?」
「才次、気持ちはわかるけどもこの子はもう」
「わぷっ、こっから離れねぇと水害がくるぞ!」
湖の水が壁のようにザブンと降りてきた。全身水浸し。しかも水の壁は更に後ろにも控えて悠長なことやっている場合ではない。才次くんはわたしをおんぶして担ぐ。
あんなにいた土御門家はいない。住民の避難を先決したのだろう。にしても車一台くらい置いといてほしかった。
ここから徒歩で山を下山なんて考えたくもないが、ここにいるよりもマシ。
「なるべく遠くまで避難しましょう!」
雪香さんが地面を氷結。それを滑っていく。
「お待ちください! まだお兄様が!」
「んなの知るか! こちとら命が優先だ!」
真那ちゃんは土御門さんを谷底に突き落とすように足蹴にした。なんの予測も助走もなしにいきなり突き落とされて、土御門さんは絶叫マシンに乗っている悲鳴と同様に叫んだ。
「あなたなんてことするのおぉぉぉぉ‼」
と言い滑り落ちていく。
背中に背負った重み、緩やかに戻ってくる温かさに才次くんはさあ、と顔を青ざめる。
「やっぱり生きている!」
「あんなぁ、あんまし言うとさっきの駆除家みたいに突き落とすぞ」
真那ちゃんはやれやれと面倒臭そうに答え、才次くんの肩を叩いた。でもそれを振り払う。
「本当だ!」
才次くんは血相変えて叫ぶ。その仰々しさに目を見張る。
「しゃあねー、脈測るか」
真那ちゃんは才次くんの必死さに折れて腰を低くし、わたしの首元に手を添えた。
ドクン
スクリーンに映し出された映像みたいだ。
なんて、こんな場所にスクリーンがあるわけない。なら、この人は誰、なぜ立っていられる。どこから来た。などなど不可解な謎が頭によぎり、整理がつかない。
『彼が暴れてる』
女性が言った。
心地よい透き通った声。頭の中の濁ったものがさぁと水のように晴れていく。なんでだろう、酷く暖かくてそれでいてわたしはこの人を〝知っている〟と感じた。さっきあったばかりの女性のことを、何か心の中で求めている。
頭だけじゃない。心までもが晴れていく。
『今は何も考えないで。わたしなら、彼を止められる。行きましょう』
彼女は両手を前に、受けれ入れるというポーズを示した。わたしは素直に彼女のもとに、両の手の中の胸へ。近づくにつれて彼女の心臓部分だけが光りそして、わたしも光の中に包まれた。とても温かい、懐かしい感覚。
そしてぶわりと目の前に情景が広がる。シャボン玉みたいな大きな円形があってその中に古い建物、十二単を着た女性たち、燃え盛る炎などの情景がぐんぐん横を通り過ぎていく。その中に探偵がいた。見たことない穏やかな笑みでこちらを見ている。一体誰に視線を注いでいるのか。
男女が縁側に添い遂げて一緒に月を見ている。その後ろ姿もわかる。探偵と、そして、その隣には先程の女性。月がきれいだね、なんて会話をしているかもしれない。仲睦まじいまるで夫婦のような関係だ。
そういえば、ぬらりひょん市長から探偵には奥さんがいたとか、あのときはモヤモヤして詳しく聞けなかった。もしかして、あの人は探偵の奥さんだ。
でもどうしてこんなのがわたしの頭の中に。刷り込むように入ってくる。彼女が一体何者なのか――唐突に理解する。彼女とわたしの魂は同じだ。この世に同じものを共有している。魂が一つなんて、そんなの、一つの可能性しかないでしょ? 彼女はわたしの前世、わたしではないわたしだ。
そしてシャボン玉がパチン、パチンと弾け飛んだ。その中にあった美しい情景も目に焼き付けたくなる光景も全てパチン、と。
そして、湖のなかで大爆発が起きたかのようにある一点を中心にして水飛沫が飛ぶ。天にも届く水飛沫で振りついた雨飛沫は氷河のように痛い。
誰も予想もしなかった展開に度肝を抜く。探偵と湖が怒りのままに殺し合っている中にだ。流石の2人も固まった。水飛沫が滝のように登り徐々に小さくなっていく。さも公園で見る噴水のようになっていく。
水が引いていくと水面の上に一つの光るものが浮いていた。ぼわんとしてて淡い消え入りそうな光。水面には何も映っていない。その光の玉を見て探偵、蛟、晴秋が驚愕した。
せっかく隠しておいた魂が何らかの引き寄せでこちらに来たのだ、と解釈して蛟は爪を鋭利な刃物へ変化。それを硬直して足の裏を地面にピタリとくっついている探偵に向ける。
しかし、探偵を助けるように魂が飛んできて探偵の体を押しのける。足の裏がバランスを崩れて鋭利な爪から間一髪で逃れる。
探偵は胸の中に飛び込んできた魂にそっと震える手で触れるように腕を伸ばした。
『あんまり無茶はほどほどに』
彼女が言った。
腕を伸ばして触れようとしてもふっ、と魂はどこかへ飛んでいった。あともう少しで触れたのに、蝶のようにどこかへ飛び目的地を見つけそこにぽちゃん、と落ちる。わたしの体の中に吸い込んでいく。
「晴明!」
「はれあきだ!」
探偵と晴秋は2人同じ、同時に、手を取り合いあの時のように心臓がドクンと鳴る。お互いの指先に心臓の鼓動が聞こえる。結びついた心臓はより大きな力へとなす。竜巻のような突風が吹き荒れ、湖も山木も揺れる。
「なんなのこれ!」
雪香さんが氷結の壁を作って身を隠す。
「あいつら、こっちまで殺す気か⁉」
真那ちゃんは氷結から顔だけ覗き何か起こっているか確認するも風と謎の発光体により状況が全く見えない。
「何なんですのもう! お兄様、早くこちらへ!」
土御門さんはお兄さんを心配し声を掛けるも、突風によりその声はかき消される。何かの音に気づいてピクン、と才次くんの耳が動く。わたしの心臓に耳を当てる。
「……生きてる?」
「才次、気持ちはわかるけどもこの子はもう」
「わぷっ、こっから離れねぇと水害がくるぞ!」
湖の水が壁のようにザブンと降りてきた。全身水浸し。しかも水の壁は更に後ろにも控えて悠長なことやっている場合ではない。才次くんはわたしをおんぶして担ぐ。
あんなにいた土御門家はいない。住民の避難を先決したのだろう。にしても車一台くらい置いといてほしかった。
ここから徒歩で山を下山なんて考えたくもないが、ここにいるよりもマシ。
「なるべく遠くまで避難しましょう!」
雪香さんが地面を氷結。それを滑っていく。
「お待ちください! まだお兄様が!」
「んなの知るか! こちとら命が優先だ!」
真那ちゃんは土御門さんを谷底に突き落とすように足蹴にした。なんの予測も助走もなしにいきなり突き落とされて、土御門さんは絶叫マシンに乗っている悲鳴と同様に叫んだ。
「あなたなんてことするのおぉぉぉぉ‼」
と言い滑り落ちていく。
背中に背負った重み、緩やかに戻ってくる温かさに才次くんはさあ、と顔を青ざめる。
「やっぱり生きている!」
「あんなぁ、あんまし言うとさっきの駆除家みたいに突き落とすぞ」
真那ちゃんはやれやれと面倒臭そうに答え、才次くんの肩を叩いた。でもそれを振り払う。
「本当だ!」
才次くんは血相変えて叫ぶ。その仰々しさに目を見張る。
「しゃあねー、脈測るか」
真那ちゃんは才次くんの必死さに折れて腰を低くし、わたしの首元に手を添えた。
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