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伍 山神抗争決戦
第45話 城
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【天狗】とは赤ら顔で鼻が高く山に住んでいるものを時々掻っ攫う誘拐犯。知能が高いので捕まることはないがこのところ誘拐はしてないので安心?
【大嶽丸】とは酒呑童子と並ぶ格の高い鬼。滅多に見かけないのでツチノコなみに幻扱いだが、ツチノコは近年ペットとして買われているので大嶽丸のほうが幻の中の幻扱いだ。
天狗の一族と大嶽丸の一族は代々山を統べる格の高い一族だ。まさに虎と龍。どちらも互角だろう。いつ争うか、長年ヒヤヒヤして見守っていたがいつまで経っても抗争を起きずに割と平和に過ごしているので皆忘れかけていた。
だがその抗争がついに今世紀訪れるのだ。まさかわたしが生きている時代に。
「ほぉ、中々の城だな」
探偵は建設中のお城を見上げて恍惚の表情。
「まだ1階しか建ってねぇじゃねえか」
真那ちゃんが城を見上げて舌を出した。
「屈強な男いるじゃなぁい!」
暑さでだれていた雪香さんが元気を取り戻した。この暑さにも関わらずフードを深く被って暑苦しくジャージを着ている才次くんは鼻を詰まんだ。
「臭い」
「才次にはキツいだろうが、この臭いはアルコールだな。鼻栓をしとけ」
探偵はスタスタ前を歩いた。
わたしたち妖怪探偵事務所は天狗の依頼にて、山を登り麓までやってきた。辺り一面木、木、木、獣道で草木は伸びきり誰も管理していない荒んだ場所。木が天まで高く伸びて空が遠い。空気も薄くて、昼間なのに少し薄暗い霧がぼんやりあるかのように遠くが見えない。それに少し肌寒い。人なんて入ってこれない領域だ。
素人目から見ても全然わからないが、この麓から東の山は大嶽丸の領域だ。近いのによく争わなかったと逆に疑う。まぁ、知らないだけで喧嘩はあったみたいだけど。
「よく来てくれたの! もてなすぞ!」
天狗のお爺ちゃんがわざわざ出向いてくれた。建設中の城のお隣に建っている立派なお城は天狗一族の住処。わたしたちはそこに招きられる。
「ジジイ、見たところ完成にはかなり長引くぞ。いつまで出張させる気だ?」
探偵はやれやれと玄関に腰掛ける。たいして汗もかいてないくせに疲れた顔をしてみせた。
「若人たちの貴重な夏休みじゃ。なに、四日くらいでどうじゃ」
お爺ちゃんは探偵の素行に気にせず、さも当たり前の光景のように対応している。でもわたしは痒くなるほど気になる。招かれたからといって無礼を働いていいとは言っていない。ここは自分のお家じありません! を真那ちゃんの耳に耳打ちした。
「おーい、るる他所宅で恥かかせるなて、オカンからの忠告」
真那ちゃんは棒読みで言った。
「オカン?」
探偵は眉を上げた。
真那ちゃんはそれ以上何も言わなかった。探偵はオカン、という誰者でもない人物に心当たりある顔してさらにため息出た。靴を脱いで家主より家の中を歩いていく。
「こりゃ! はっはっはっ瑠月が素直に応じたとは! 天晴なり!」
天狗のお爺ちゃんは高らかに笑った。
声が城内、頭にも響く。
「こちらは天花。わしの自慢の娘じゃ。天花、客人を案内せい。瑠月、待たんか。迷子になるつもりか?」
天狗のお爺ちゃんに呼び止められた頃にはわたしたちから見えない視覚までいた。お爺ちゃんの隣には天花ちゃんが付き添うように側にいた。
天花ちゃんは初めましてと口にして会釈する。わたしたちはその反応にどう返していいのか迷って漸く初めまして、と挨拶した。本当は顔馴染みだが。お互い素知らぬ体で装う。
天花ちゃんの案内で女子更衣室と男子更衣室、それからお風呂まで城の隅々までをみせてくれた。
「あの、ごめんね。さっきは」
わたしは彼女に謝った。彼女は振り返らずに前を向く。
「いいんです。気にしないで」
「わたしたちがここに来たのはお城の建設を手伝うことだけど、ちゃんと、二人の手助けもするから」
探偵から「しないぞ」と小声のクレームを真那ちゃんが頭を叩いて潰した。彼女は苦笑した。
「はは、いいんです。もう。お城が少しずつ大きくなれば戦火の笛は鳴る。誰も、大人も助けてくれない。だからもう、いいんです。わたしたちが駆け落ちすることだけは黙っててください」
「報酬は?」
探偵がこの空気で金を要求してきたので、雪香さんと真那ちゃんのダブルパンチがくらった。探偵は奇跡的に煙管を手放さなかったが、殴りかかってきた二人を親の仇のように睨んできた。
「報酬は、働いて返します」
彼女はきっぱり言った。
それ以上、彼女と話せなかった。すぐに手伝ってほしいと頼まれて女子更衣室でつなぎに着替える。
「はぁ~。何が楽しくてこんなの着るの可愛くないじゃない」
雪香さんは駄々こねる。
「これいいな!」
真那ちゃんだけは大喜び。その場で反復横跳び。わたしのだけつなぎが大きいな。ぶかぶかで服を着ているよりも、服になっている感じがする。女性用のつなぎはピンクで男性のつなぎは黒に似た青色。外は太陽さんさんで見るからに暑いのに実際に外に出ると都会よりも涼しくて気持ちいい。作業できやすい環境だ。暑いと項垂れていた雪香さんもこの温度差に度肝を抜く。
「さて諸君! 勤しんで作業に励み給え!」
「お前も・お主も・あんたもやるの‼」
探偵は一人優雅に、誰から用意してもらったのか紅茶を飲んでいたので雪香さんと真那ちゃんとお爺ちゃんも揃って探偵を外に引っ張り出す。
【大嶽丸】とは酒呑童子と並ぶ格の高い鬼。滅多に見かけないのでツチノコなみに幻扱いだが、ツチノコは近年ペットとして買われているので大嶽丸のほうが幻の中の幻扱いだ。
天狗の一族と大嶽丸の一族は代々山を統べる格の高い一族だ。まさに虎と龍。どちらも互角だろう。いつ争うか、長年ヒヤヒヤして見守っていたがいつまで経っても抗争を起きずに割と平和に過ごしているので皆忘れかけていた。
だがその抗争がついに今世紀訪れるのだ。まさかわたしが生きている時代に。
「ほぉ、中々の城だな」
探偵は建設中のお城を見上げて恍惚の表情。
「まだ1階しか建ってねぇじゃねえか」
真那ちゃんが城を見上げて舌を出した。
「屈強な男いるじゃなぁい!」
暑さでだれていた雪香さんが元気を取り戻した。この暑さにも関わらずフードを深く被って暑苦しくジャージを着ている才次くんは鼻を詰まんだ。
「臭い」
「才次にはキツいだろうが、この臭いはアルコールだな。鼻栓をしとけ」
探偵はスタスタ前を歩いた。
わたしたち妖怪探偵事務所は天狗の依頼にて、山を登り麓までやってきた。辺り一面木、木、木、獣道で草木は伸びきり誰も管理していない荒んだ場所。木が天まで高く伸びて空が遠い。空気も薄くて、昼間なのに少し薄暗い霧がぼんやりあるかのように遠くが見えない。それに少し肌寒い。人なんて入ってこれない領域だ。
素人目から見ても全然わからないが、この麓から東の山は大嶽丸の領域だ。近いのによく争わなかったと逆に疑う。まぁ、知らないだけで喧嘩はあったみたいだけど。
「よく来てくれたの! もてなすぞ!」
天狗のお爺ちゃんがわざわざ出向いてくれた。建設中の城のお隣に建っている立派なお城は天狗一族の住処。わたしたちはそこに招きられる。
「ジジイ、見たところ完成にはかなり長引くぞ。いつまで出張させる気だ?」
探偵はやれやれと玄関に腰掛ける。たいして汗もかいてないくせに疲れた顔をしてみせた。
「若人たちの貴重な夏休みじゃ。なに、四日くらいでどうじゃ」
お爺ちゃんは探偵の素行に気にせず、さも当たり前の光景のように対応している。でもわたしは痒くなるほど気になる。招かれたからといって無礼を働いていいとは言っていない。ここは自分のお家じありません! を真那ちゃんの耳に耳打ちした。
「おーい、るる他所宅で恥かかせるなて、オカンからの忠告」
真那ちゃんは棒読みで言った。
「オカン?」
探偵は眉を上げた。
真那ちゃんはそれ以上何も言わなかった。探偵はオカン、という誰者でもない人物に心当たりある顔してさらにため息出た。靴を脱いで家主より家の中を歩いていく。
「こりゃ! はっはっはっ瑠月が素直に応じたとは! 天晴なり!」
天狗のお爺ちゃんは高らかに笑った。
声が城内、頭にも響く。
「こちらは天花。わしの自慢の娘じゃ。天花、客人を案内せい。瑠月、待たんか。迷子になるつもりか?」
天狗のお爺ちゃんに呼び止められた頃にはわたしたちから見えない視覚までいた。お爺ちゃんの隣には天花ちゃんが付き添うように側にいた。
天花ちゃんは初めましてと口にして会釈する。わたしたちはその反応にどう返していいのか迷って漸く初めまして、と挨拶した。本当は顔馴染みだが。お互い素知らぬ体で装う。
天花ちゃんの案内で女子更衣室と男子更衣室、それからお風呂まで城の隅々までをみせてくれた。
「あの、ごめんね。さっきは」
わたしは彼女に謝った。彼女は振り返らずに前を向く。
「いいんです。気にしないで」
「わたしたちがここに来たのはお城の建設を手伝うことだけど、ちゃんと、二人の手助けもするから」
探偵から「しないぞ」と小声のクレームを真那ちゃんが頭を叩いて潰した。彼女は苦笑した。
「はは、いいんです。もう。お城が少しずつ大きくなれば戦火の笛は鳴る。誰も、大人も助けてくれない。だからもう、いいんです。わたしたちが駆け落ちすることだけは黙っててください」
「報酬は?」
探偵がこの空気で金を要求してきたので、雪香さんと真那ちゃんのダブルパンチがくらった。探偵は奇跡的に煙管を手放さなかったが、殴りかかってきた二人を親の仇のように睨んできた。
「報酬は、働いて返します」
彼女はきっぱり言った。
それ以上、彼女と話せなかった。すぐに手伝ってほしいと頼まれて女子更衣室でつなぎに着替える。
「はぁ~。何が楽しくてこんなの着るの可愛くないじゃない」
雪香さんは駄々こねる。
「これいいな!」
真那ちゃんだけは大喜び。その場で反復横跳び。わたしのだけつなぎが大きいな。ぶかぶかで服を着ているよりも、服になっている感じがする。女性用のつなぎはピンクで男性のつなぎは黒に似た青色。外は太陽さんさんで見るからに暑いのに実際に外に出ると都会よりも涼しくて気持ちいい。作業できやすい環境だ。暑いと項垂れていた雪香さんもこの温度差に度肝を抜く。
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