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四章 侵略者と夏休み
第47話 惑星へ
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それから三時間後、惑星にたどり着いた。船内の何処かでプシューと扉が開いた音がした。コスモたちが寛いでいる敷地の壁に丸い扉が浮かんだ。
「さて、出るか」
寝転んで雑誌を読んでいたスターが、上体を起こした。お菓子を食べていたコスモも立ち上がる。
操縦席にいたダスクは大きく伸びをした。自分たちの荷物は各自持っていく。そういえば、俺何も持ってきてない。ほぼ強制的に連れて来られたし荷物をまとめる準備なんてサラサラしてなかった。
浮かんだものが徐々にはっきりと線を描き、扉となった。取っ手がない。荷物を持ったスターが近くに来ると、その扉は左にスライドした。自動式かよ。
俺が戸惑っているとコスモが振り返ってきた。扉の向こうの明るい場所を指差して、行こう、と言う。
向こう側は朝日の光のように眩しかった。眩しすぎて、景色がみえない。一歩降り立てばコスモたちがここで生まれて暮らしていた惑星。
コスモたちのことなら知っている。好物とか嫌いな食べ物とか、口癖とか癖とか。でも、地球に来る前のコスモたちは知らない。どうやって暮らしていたのか、家族はいるのか、今まで聞けなかった。
ここに降り立てば、何か知るかもしれない。もっとあいつらのことを知りたい。俺は一歩、人類初の月面以外の惑星着陸を。眩しいほどの光は照明だった。太陽があるのに建物ごとにスポットライトのように照明が張り付いていた。
それ程高くないレンガの建物が続いており、道もレンガ造りだ。お洒落な街だ。辺りは繁華街の真ん中だった。食べ物の屋店が並んでいて、周りには人だかりが出来ていた。人間ぽい。頭に触覚があったり、お尻に尻尾みたいなものが生えている。
空を見上げれば、赤い空だった。血のように真っ赤で、ポツンと太陽がある。真上にあって決して夕刻ではない。なのに、空の色が真っ赤なのはコスモたちから訊くと「通常」らしい。
ここが、コスモたちが生まれ育った場所。空気も雰囲気も地球と似ている。触覚と尻尾があるだけで、人間にみえる。
乗っていた丸い球体がコンパクトに手乗りサイズになり、ダスクの手に乗るとダスクはそれを、ポケットにしまった。
「さっ行くわよ」
踵を返す。コスモたちもそれについていく。繁華街の街中をスタスタと歩いていった。俺は驚きと不安で三匹のあとをついていく。
「何処に行くんだ」
「宮殿」
コスモが指差す場所は、繁華街より高台にあって立派なお城が建っていた。太陽と繁華街から降り注ぐ電気の光のせいで、お城がやけに白く輝いている。
繁華街ではぶつかりそうになりながら、なんとか避けて歩いていく。コスモたちは慣れているように歩いていく。繁華街では生物の臭いが充満している。見たこたない食べ物が並んでいて、生きている生物を売っている店もある。
生きている生物が歩行者を捕まえて店員がそれを、必死で止めていた。周りの人はこれが日常のように何食わぬ顔で横を通り過ぎている。コスモたちも何食わぬ顔でスタスタ前を歩いていってる。
これがこの惑星での〝当たり前〟。
食べ物店の横を歩いていると違和感を感じた。コスモが食べ物に釣られない。食べ物を見るとヨダレ垂らして真っ先に向かっているのに。
「お腹減ってないのか? もしかして体調悪いのか?」
心配になって訊ねると、コスモは冷めた目でこっちを見てくる。
「地球の食べ物が良かったから。ここのは美味しくない」
「確かに。地球の味をしめて、わたしも故郷の食べ物食べたくないかも」
スターがため息をついた。それを聞いたダスクが振り向いた。
「地球に四ヶ月しかいなかったのに、もうそんな洗脳されたの? 確かに美味しかったけど、サターン様に言えないわね」
三匹の歩幅が小さくなった。焦ったようにスタスタ歩いてたのに今やボトボトと歩いている。受験に失敗した受験生のように背中を丸めて小さく歩いている。
「元気出せよ。今から会いにいくのに、そんなんじゃだめだろ」
せっかく励ましてやったのに、三匹は無視。
繁華街から抜け、城に近づくと活気あふれる声が小さくなり、やがて聞こえなくなった。大きな橋を渡っていく。一本の橋で、すれ違う人はいない。
ここから見える景色は、地球のものとはまた違った景色だ。賑わっている繁華街とレンガ造りの建物の隙間から見える子供たちが遊んでいる姿。橋の下は血のような赤い池。血で出来た池のようにテカテカしている。
橋は長く続いている。繁華街から城まで一本道。途中、門番の人たちに止められなんとか入らせてくれた。
長く続く橋のため、門番があったのは計三回。厳重だな。橋を渡ってだんだん城が見えてきた。
お城を間近でみると、迫力がある。空に届くんじゃないかと思うほどの高さで、ほんとに真っ白な建物。建物の前にはやはり門番がいて、コスモたちの顔を見るとすぐに開けてくれた。
おぉ、流石侵略者。サターン様も信頼している三匹だもんな。なんか、俺まで嬉しくなってきた。門番の前を通りかかった、すると、肩を掴まれた。突然のことで声が出る。
「は!? なんだよ!」
びっくりして振り払おうとするも、振り払えない。肩をがっしり掴まれている。振り払おうとするたび、肩に圧が加わってきて痛い。
『サスガ、サターンサマモミトメタシンリャクシヤサマ。スバラシイドレイダ!』
片言で何言っているか最初分からなかった。門番の一人が恍惚とした表情している。もう一人の門番もぐにゃりと体を丸めて、顔を覗いてきた。
なんだこいつら。
見世物みたいな眼差し。
ひやりと背筋が冷たくなった。
「放して」
コスモが門番の一人に言った。助かった。中々入ってこないのを見兼ねて戻ってきたのかもしれない。だから怒っているのかも。声が少し低い。
門番の二人は背筋を伸ばして敬礼した。俺はやっと解放されて、肩を回す。肩ボキボキいう。
「ありがとなコスモ」
「ううん」
コスモにお礼を言うと門番の人たちから異様な眼差しを向けられた。俺には分かる。あれは見下している目だ。奴隷が何喋ってんだ、みたいな顔して。
門をくぐって、宮殿の敷地を歩いた。最初は何もない野原で、次に薔薇園。迷路みたいで道がくねくねしている。
薔薇園の迷路を彷徨って暫くすると、大きな扉にたどり着いた。そこの門前にはダスクとスターが待っていた。
「絡まれてたの? 奴隷だと思われたんでしょ?」
スターがくすくす笑う。
「地球の恰好しているからね、フードをかぶってなさい。それにしても、繁華街歩いてよく目ぇつけられなかったわね」
ダスクが真面目な表情で首をかしげる。
ダスクから手渡されたフードを貰って、着るかどうか迷う。貰ったものはダスクがいつも着ているような民族衣装のものだから。古臭いしダサいな。
あとで着ると返事すると、ダスクはジト目で睨んだ。
「どうせダサいと思ったんでしょ! 別にいいよ? あとで困るのは自分だけど」
ふんと鼻で笑い、門を開いた。見上げる高さの大きな門を片手で開けた。ダスクが入るとスターも入り、コスモは手招きして入っていく。
入るしかないか。俺は恐る恐る足を踏み入れた。目を疑うような光景が広がっていた。金城生徒会長の豪邸より大きくて天井が高い。
金のダイヤモンドのシャンデリアがあり、壁には誰かの肖像画がある。廊下には、貝の個展が間隔あけて置かれていた。
息を飲む空間だ。いや、空気を吸うのもおこがましい。異次元の空間みたい。ミントか、ハーブティーか、よく分からんが良い香りが鼻孔を通って脳が刺激し溶ける。ここが王宮の中。
美しすぎる光景に俺はついに、頭がおかしくなった。これはもしかしたら夢なんじゃないかと、頬をつねってみると現実だ。今目の前に広がっている景色は、現実だ。架空の世界じゃない。現実で、俺の目の前にたってある。
見惚れていると、階段をあがっていたスターとダスクに呼ばれる。
「何突っ立ってんの! サターン様に顔見せに行かなきゃ」
二匹のおかげで思考が現実に戻った。声がこだましていく。
コスモが側にいて、階段のほうを指差した。相変わらず、何考えているか分からない無表情で。でも、この子なりに、知らない土地に来た俺のことを心配している。さっきから助けられてばっかだな。頭をかいて、その手をコスモの頭に置いた。
「悪いな。この建物の見惚れてて。さ、行くか」
コスモはほっとしたように笑った。
二匹のあとを追いかけて長い階段を駆け上がってく。部屋と窓がいっぱいあって、大きな窓から、遠い景色まで見渡せる。
繁華街と街。それを覆うかのように赤い海が広がってばっか。度々、屋内にいたメイド服を着た女性と男性たちが通りかかると、深々と頭をさげた。
俺を見て、嫌悪感の目を向けるやつもいる。気にしないでおこう。俺は知らん顔をし続けた。そして、一際大きな門にたどり着いた。ここで三匹の表情や雰囲気が変わる。
「さて、出るか」
寝転んで雑誌を読んでいたスターが、上体を起こした。お菓子を食べていたコスモも立ち上がる。
操縦席にいたダスクは大きく伸びをした。自分たちの荷物は各自持っていく。そういえば、俺何も持ってきてない。ほぼ強制的に連れて来られたし荷物をまとめる準備なんてサラサラしてなかった。
浮かんだものが徐々にはっきりと線を描き、扉となった。取っ手がない。荷物を持ったスターが近くに来ると、その扉は左にスライドした。自動式かよ。
俺が戸惑っているとコスモが振り返ってきた。扉の向こうの明るい場所を指差して、行こう、と言う。
向こう側は朝日の光のように眩しかった。眩しすぎて、景色がみえない。一歩降り立てばコスモたちがここで生まれて暮らしていた惑星。
コスモたちのことなら知っている。好物とか嫌いな食べ物とか、口癖とか癖とか。でも、地球に来る前のコスモたちは知らない。どうやって暮らしていたのか、家族はいるのか、今まで聞けなかった。
ここに降り立てば、何か知るかもしれない。もっとあいつらのことを知りたい。俺は一歩、人類初の月面以外の惑星着陸を。眩しいほどの光は照明だった。太陽があるのに建物ごとにスポットライトのように照明が張り付いていた。
それ程高くないレンガの建物が続いており、道もレンガ造りだ。お洒落な街だ。辺りは繁華街の真ん中だった。食べ物の屋店が並んでいて、周りには人だかりが出来ていた。人間ぽい。頭に触覚があったり、お尻に尻尾みたいなものが生えている。
空を見上げれば、赤い空だった。血のように真っ赤で、ポツンと太陽がある。真上にあって決して夕刻ではない。なのに、空の色が真っ赤なのはコスモたちから訊くと「通常」らしい。
ここが、コスモたちが生まれ育った場所。空気も雰囲気も地球と似ている。触覚と尻尾があるだけで、人間にみえる。
乗っていた丸い球体がコンパクトに手乗りサイズになり、ダスクの手に乗るとダスクはそれを、ポケットにしまった。
「さっ行くわよ」
踵を返す。コスモたちもそれについていく。繁華街の街中をスタスタと歩いていった。俺は驚きと不安で三匹のあとをついていく。
「何処に行くんだ」
「宮殿」
コスモが指差す場所は、繁華街より高台にあって立派なお城が建っていた。太陽と繁華街から降り注ぐ電気の光のせいで、お城がやけに白く輝いている。
繁華街ではぶつかりそうになりながら、なんとか避けて歩いていく。コスモたちは慣れているように歩いていく。繁華街では生物の臭いが充満している。見たこたない食べ物が並んでいて、生きている生物を売っている店もある。
生きている生物が歩行者を捕まえて店員がそれを、必死で止めていた。周りの人はこれが日常のように何食わぬ顔で横を通り過ぎている。コスモたちも何食わぬ顔でスタスタ前を歩いていってる。
これがこの惑星での〝当たり前〟。
食べ物店の横を歩いていると違和感を感じた。コスモが食べ物に釣られない。食べ物を見るとヨダレ垂らして真っ先に向かっているのに。
「お腹減ってないのか? もしかして体調悪いのか?」
心配になって訊ねると、コスモは冷めた目でこっちを見てくる。
「地球の食べ物が良かったから。ここのは美味しくない」
「確かに。地球の味をしめて、わたしも故郷の食べ物食べたくないかも」
スターがため息をついた。それを聞いたダスクが振り向いた。
「地球に四ヶ月しかいなかったのに、もうそんな洗脳されたの? 確かに美味しかったけど、サターン様に言えないわね」
三匹の歩幅が小さくなった。焦ったようにスタスタ歩いてたのに今やボトボトと歩いている。受験に失敗した受験生のように背中を丸めて小さく歩いている。
「元気出せよ。今から会いにいくのに、そんなんじゃだめだろ」
せっかく励ましてやったのに、三匹は無視。
繁華街から抜け、城に近づくと活気あふれる声が小さくなり、やがて聞こえなくなった。大きな橋を渡っていく。一本の橋で、すれ違う人はいない。
ここから見える景色は、地球のものとはまた違った景色だ。賑わっている繁華街とレンガ造りの建物の隙間から見える子供たちが遊んでいる姿。橋の下は血のような赤い池。血で出来た池のようにテカテカしている。
橋は長く続いている。繁華街から城まで一本道。途中、門番の人たちに止められなんとか入らせてくれた。
長く続く橋のため、門番があったのは計三回。厳重だな。橋を渡ってだんだん城が見えてきた。
お城を間近でみると、迫力がある。空に届くんじゃないかと思うほどの高さで、ほんとに真っ白な建物。建物の前にはやはり門番がいて、コスモたちの顔を見るとすぐに開けてくれた。
おぉ、流石侵略者。サターン様も信頼している三匹だもんな。なんか、俺まで嬉しくなってきた。門番の前を通りかかった、すると、肩を掴まれた。突然のことで声が出る。
「は!? なんだよ!」
びっくりして振り払おうとするも、振り払えない。肩をがっしり掴まれている。振り払おうとするたび、肩に圧が加わってきて痛い。
『サスガ、サターンサマモミトメタシンリャクシヤサマ。スバラシイドレイダ!』
片言で何言っているか最初分からなかった。門番の一人が恍惚とした表情している。もう一人の門番もぐにゃりと体を丸めて、顔を覗いてきた。
なんだこいつら。
見世物みたいな眼差し。
ひやりと背筋が冷たくなった。
「放して」
コスモが門番の一人に言った。助かった。中々入ってこないのを見兼ねて戻ってきたのかもしれない。だから怒っているのかも。声が少し低い。
門番の二人は背筋を伸ばして敬礼した。俺はやっと解放されて、肩を回す。肩ボキボキいう。
「ありがとなコスモ」
「ううん」
コスモにお礼を言うと門番の人たちから異様な眼差しを向けられた。俺には分かる。あれは見下している目だ。奴隷が何喋ってんだ、みたいな顔して。
門をくぐって、宮殿の敷地を歩いた。最初は何もない野原で、次に薔薇園。迷路みたいで道がくねくねしている。
薔薇園の迷路を彷徨って暫くすると、大きな扉にたどり着いた。そこの門前にはダスクとスターが待っていた。
「絡まれてたの? 奴隷だと思われたんでしょ?」
スターがくすくす笑う。
「地球の恰好しているからね、フードをかぶってなさい。それにしても、繁華街歩いてよく目ぇつけられなかったわね」
ダスクが真面目な表情で首をかしげる。
ダスクから手渡されたフードを貰って、着るかどうか迷う。貰ったものはダスクがいつも着ているような民族衣装のものだから。古臭いしダサいな。
あとで着ると返事すると、ダスクはジト目で睨んだ。
「どうせダサいと思ったんでしょ! 別にいいよ? あとで困るのは自分だけど」
ふんと鼻で笑い、門を開いた。見上げる高さの大きな門を片手で開けた。ダスクが入るとスターも入り、コスモは手招きして入っていく。
入るしかないか。俺は恐る恐る足を踏み入れた。目を疑うような光景が広がっていた。金城生徒会長の豪邸より大きくて天井が高い。
金のダイヤモンドのシャンデリアがあり、壁には誰かの肖像画がある。廊下には、貝の個展が間隔あけて置かれていた。
息を飲む空間だ。いや、空気を吸うのもおこがましい。異次元の空間みたい。ミントか、ハーブティーか、よく分からんが良い香りが鼻孔を通って脳が刺激し溶ける。ここが王宮の中。
美しすぎる光景に俺はついに、頭がおかしくなった。これはもしかしたら夢なんじゃないかと、頬をつねってみると現実だ。今目の前に広がっている景色は、現実だ。架空の世界じゃない。現実で、俺の目の前にたってある。
見惚れていると、階段をあがっていたスターとダスクに呼ばれる。
「何突っ立ってんの! サターン様に顔見せに行かなきゃ」
二匹のおかげで思考が現実に戻った。声がこだましていく。
コスモが側にいて、階段のほうを指差した。相変わらず、何考えているか分からない無表情で。でも、この子なりに、知らない土地に来た俺のことを心配している。さっきから助けられてばっかだな。頭をかいて、その手をコスモの頭に置いた。
「悪いな。この建物の見惚れてて。さ、行くか」
コスモはほっとしたように笑った。
二匹のあとを追いかけて長い階段を駆け上がってく。部屋と窓がいっぱいあって、大きな窓から、遠い景色まで見渡せる。
繁華街と街。それを覆うかのように赤い海が広がってばっか。度々、屋内にいたメイド服を着た女性と男性たちが通りかかると、深々と頭をさげた。
俺を見て、嫌悪感の目を向けるやつもいる。気にしないでおこう。俺は知らん顔をし続けた。そして、一際大きな門にたどり着いた。ここで三匹の表情や雰囲気が変わる。
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