うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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七章 侵略者と玉座 

第72話 更生

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 ビクビク震えているエンドに、そっと手をおいたのはコスモ。
「何でそんなに震えているの?」
「だ、だって怖い、から」
 エンドの返事に、コスモが首を傾げた。
「何が怖いの?」
「そんなの決まってるだぉ……皆の視線だよ。ずっと人の視線を気にしてずっとここにいたんだ。ずっとここにいたい。なんでみんな分かってくれないんだ」
 スターがかっとなった。目を見開かせる。
「『ずっとここにいたい』ですって? 笑わせんな! あんたがここにいたいと思ってても、あんたを必要としてくれるやつがいるんだ。その人たちのために、立ち上がって顔ぐらい見せろ」
 スターの怒声にエンドが更にビクビクした。隣にいたダスクがスターを睨みつける。スターは怒りぶちまけて、視野は広くない。そんなの気づいていない様子。


 ダスクがエンドに寄り添うように、腰を下ろした。
「あなたはここで何をしてらっしゃったのてすか? サターン様が玉座に座り、仕事で忙しいとき、何をしてらっしゃったのですか? あたしたちはあなたのことを咎めるために来たのではありません。あなたに外の景色を見てほしくて来たのです」
 ダスクの低い声に攻められて、エンドは震えが治まらない。目線を合わせないように足元に向けている。


 すると、突然視界にコスモの顔が降りてきた。
「ねぇ、何でそんな震えているの?」
「それはっ……」
 顔を逸らしてみてもコスモは追いかけてくる。視界に映ろうとしてくる。流石のエンドも腹立ってきて立ち上がった。
「外に行きたくない、て言ったら行きたくないんだぁあああ!!」
 エンドは立ち上がって叫んだ。
 宮殿内に響き渡る。突然立ち上がって叫んだのに、コスモたちは大きく目を見開かせびっくりした様子。一番驚いたのは叫んだ張本人だった。

 荒い息をあげ、肩で息をし、自分が何を叫んだのかだんだん理解してくるとはっとした顔になった。
「僕は何を……ごめんなさい。ごめんなさい。もう叫びません。ミジンコのように小さくなります」
 シュルル、と小さくなりまた体育座りをした。
「なんだ、声出るんじゃん」
 スターがすっとキョンな声をあげた。腰に手をおく。
「そんなか弱い声でボソボソ言ってたから、てっきり声出ないのかと。元気じゃん。心配して損した~」 
「ごめんなさい。元気です。病気なのは本当だけど、ほぼ治ってるし」
 エンドは体育座りして頭を項垂れた。どんな表情しているのか分からない。ダスクはそれを聞いて「やっぱりか」と内心確信した。

「ねぇ、何がそんなに怖いの?」
 コスモの真っ直ぐな瞳が向けられた。ようやく、コスモのたちの顔を見た。目前にいる、真っ直ぐに向けられるその眼差しに、自分が映っている。問いかけてきてるのに、自分は我儘ばかりを言っていた。

「ごめんなさい。我儘ばかりを言って。姉さんはいつも僕の我儘を聞いてくれた。でも、逆に姉さんの我儘を聞かなかった。姉さん……」
 シクシク泣き出した。
 お葬式ムードに。自分たちも散々泣いたが、一人が泣き出すと一人も涙腺が崩壊する。
「ちょっとお泣かないでよぉ」
 スターがシクシク泣き出した。涙がポロポロと溢れてる。さっきまでは怒っていたのに今は泣いて、表情がコロコロ変わること、とダスクは内心呆れてた。

 泣いているスターに「泣かないで」と慰めるコスモ。このままでは、拉致があかないと判断したダスクは手のひらをパンパン叩いた。
「はいはい葬式ムード終わり。あたしたちがここに来たのはエンド様、あなたを外に連れ出すことです。仮にも王族。目線が怖いなど、あってはならない。ギャラクシーもあたしたちもあなたが王になることを願っています。サターン様の後継はあなたしかいない。あなたに頼んでいるです」
 ダスクの切れ長の瞳がさらに鋭くなった。エンドは顔を上げてダスクの顔をまじまじみる。すると突然ははは、と笑い出した。
「ははは。何言ってるの。王族は僕以外にもいっぱいいる」
「えぇ。たくさんいらっしゃいます」
「僕は何の知識もないんだよ。計算だって分からないし、それに、何百年国民の顔を知らない。僕が支持されることはないよ」
「えぇ。知ってます。ですが、いいのですか?」
 ダスクは妖しい表情になった。 
「もし、国民が戦争に駆り出されたら、もし、他国からの侵略に合ったら、もし、この星が不当な条約に結ばれたら、どうするのです? 姉君が必要になって守り、誰よりも平和を願ったこの星を、何処ぞの知らない王族に全部ひっくり返っても、いいのですか?」
 ダスクはわざと、ゆっくりした口調で脅した。悪魔の囁きだ。低い声がまさしく、耳に残りエンドの頭をかき回す。 


 エンドは目を見開かせた。前髪が隠れていても、そんな気がする。エンドはすっと立ち上がった。
「だめだ。それだけは駄目だ。姉さんが守ったものを僕が今度は守らないと」
 立ち上がる意志が芽ばえた。

 スターはエンドの髪の毛を切り揃えてダスクは衣装をどんなふうに変えるか悩んでいる。 
「待ってダスク! 早まらないで!」
「は? 何が?」
 クローゼットの中にある服を一旦、外に出していると、髪の毛を切り揃えていたはずのスターがドタドタ入ってきた。
 手に持っているのはハサミ。若干黒い髪の毛が挟まっている。
「あんたは何もしないで! ファッションセンスが欠けているのに、人のものを選んでるんじゃありません!」
 スターはハサミを持っている腕の方を伸ばした。ハサミの先端が目と鼻の先。ダスクはむっとしてスターの腕を逸した。
「大丈夫よ任せなさい」
「任せられるか! コスモ、コスモ来て!」
「あいさー」
 コスモは隠してあったお菓子を見つけてはパクパク食っていた。お菓子を腕の中いっぱい持ちながら駆け寄ってきた。リスみたいに頬袋を膨らませている。
 スターから「走らない!」と指摘されても、急かしたのはそっちじゃん、とスターを睨みつける。

 コスモの肩に手を置いてダスクに傾ける。「見張りよろしく」とね。


 髪の毛を切り揃い、ダスクたちと後に合流するるや、服を選んだ。応接間では王族がすでに集まっている。ここから始まる激しい王位争奪戦。服はやっぱり白のほうが良い。

 これから色が付くように、と白い服を選んだ。髪を切り揃えて、程よく短くなった髪の毛。前髪で隠れていた瞳は、くりくりとしいて、男の子なのに可愛い。
 アクアマリンのような暗い青い瞳の持ち主。ずっと見続ければ何処までも沈んでいきそう。
 荒れた肌はクリームを解してつるつるお肌に。ピカピカ光っている。
「我ながら偉いものを作ってしまった」
 スターはふふふと笑った。
「元からこうだったでしょ」
 ダスクが冷たくあしらう。
 エンドの完成ぶりにスターは満足げ。コスモは別人ともなったエンドに目を丸くした。
「あ、あの、やっぱり僕……」
 もじもじしだした。目線も合わない。合わないように下を向いている。
 姿は変わっても中身は変わらない。臆病なところは直らない。
「まぁ、こればかりはねぇ」
 ダスクは一つため息ついた。
「大丈夫! わたしたちもついていくんだから何も怖くない!」
 スターが自分の胸をばん、と叩いた。コスモは便乗して胸を叩く。太陽なようなひだまりの空気だった。ずっと一人ぼっちでテレビの画面しか知らないエンドにとって、この空気は、初めて感じた〝体温〟。この空気にエンドの震えが自然と止まっていた。
「ありがとう」
 今度こそ前を向く。

 コスモたちに引っ張られ、外に向かう。戸のふちで一回立ち止まった。コスモたちは戸の縁の前にいる。エンドが自分からここを通り抜けて来るのを待っている。
 黙って見守った。
 エンドは深呼吸を何度も繰り返しその額には、脂汗がべったり浮いていた。何度も深呼吸を繰り返し、恐る恐る片足を前に。でも引っ込めて。その運動を10分も繰り返していた。

 そうしてやっと転機を迎えたのは、自分の意志だ。片足をだん、とこちら側に突っ込んだ。
「はっ……」
 安堵なのか、または不安なのか息をこぼした。ようやくこちら側に足を突っ込んでも、まだビクビク震えている。

 エンドから見たら、外は光が差し込む場所。景色も何も見えない。見えるのは、手を引いたコスモとスターとダスクの姿だった。自分がこれから光の指す場所に向かわなくてはいけない理由を思い出した。

 姉が守ったこの星を守るため。他の誰かにそれを分け与えはしない。拳を握り、意を決した。

 もう片方の足も光のほうへ向けた。スターとダスクが手をパチパチ叩いた。
「やったじゃん!」
 スターがバシ、と背中を叩いた。友達感覚で。コスモも二人に便乗して手を叩く。歓迎されたエンドの目には、涙が。ふらりとふらついた。ダスクがその後背を支える。
「しっかりしてください。これから、もっとしっかりしないといけないのに」
「そ、そうだね、ただ、すごいびっくりしたんだ、外の景色が、こんなに、温かいなんて、知らなかった」
 ふらついた体を戻し、ゆっくりと顔を見上げた。
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