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九章 侵略者と未来人

第97話 2つの機関

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 宇宙海賊団が未来からやってきて、その翌日。朝日も出てないのに早々にスターが相原家にやってきた。玄関のピンポンダッシュをしていつも、相原家の中に侵入するやつ。
 誰かが玄関を出ないとピンポンを難度も押してくる。玄関に近いのは居間にいる俺。音も反響してて、鼓膜の中に無理やり入っていく。

 このピンポンが朝のアラームとなっている。俺は重たい腰をあげて、玄関に向かった。玄関を開けると、ばん、とスターの顔が。
「おはようさんさん! 痛っ!! なんで叩くの!?」
「朝っぱからうるせぇ」
 スターのキンキンした声が鼓膜を破っていく。スターは叩かれた頭を撫でてじろり、とこちらを睨んだ。
 俺はまた、居間に向かってソファーに横たわった。遮られた眠気がまた、意識を襲って、深い眠りに落としていく。
「え、何? こんな所で寝てたの?」
 スターが居間に顔を出して目を見開かせた。
「コスモが大の字でベットを占拠してんだ」
「あぁ」
 スターは納得した様子で二階にあがった。トントン、と二階にあがっていく足音が響いてる。昨夜は夜遅かったのに、スターは元気ピンピンだったな。宇宙人だからかもしれない。

 なら、コスモはなんであんなに寝ているのか全く分からん。考えるのを放棄して、眠ることに集中した。
 それから目を覚ましたのは昼に近い時間帯。こんなところで寝ていたのに、誰も起こさなかった。二階からバタバタと忙しない足音が。

 上体を起こして水を飲んだ。乾いだ喉を潤していく。いっぱい寝たせいで、体がふわふわ浮いていたがやっと、定まってきた感じ。
 冷たい水が体の中に染み渡る。ぐっすり眠って気分は良い。なんだか、景色が大きく広く見える。気のせいだろう。



 二階からバタバタと忙しなく足音がしている。何しているのやら。普段だっとらゲームをしてて盛り上がっているに違いない。でも、昨夜の出来事があったから、楽しいことはしていないと思う。
 宇宙海賊団のための作戦会議だろうか。俺は不安になって、階段をあがった。自分の部屋から騒がしい声が聞こえてくる。

 お祭り騒ぎみたい。何をやっているんだ。笑い声が飛び交っている。俺は怪訝に思ってそぉと扉を開いて覗いた。
 覗いた景色に広がっていた光景は、部屋の中に鹿室とコスモたちが同じゲームで遊んでいたことだ。

 何故こんな時に遊んでいられるのか、神経が疑うが、楽しんで笑っている鹿室の姿をみると心の内にムカムカしていた感情がすっと消えた。

 もしかしたら、コスモたちは鹿室とはしゃぐためにゲームをしているのかもしれない。そういえば出会ってから、不穏な空気しか出さなかった両者が同じ部屋、同じ空間で一緒にゲームをしている姿は、なんど見てもほほえむ。
 コスモたちがやっているのは、トランプ。至ってシンプルなものだ。ババ抜きをしていて、どちらが勝つか負けるかの賭け引きをしている。

 みんなで輪になって、俺から扉側に背中を向けている人がババを持っている。鹿室の背中だ。見た目からして駆け引きに弱そうなのに初っ端からババを持っているなんて、悪運なやつだ。
 でもターンを重ねるうちにババは異動して、鹿室が一位繰り上げ。割と弱そうなのに、見た目に反して運を持っている。ババ抜きが終わった頃合いを見て、俺は部屋に顔を出した。

 そういえば、元々俺の部屋なのに、どうして物陰に隠れてなきゃならん。隠れていたのを恥ずかしく感じる。部屋に顔を出すと、一斉に振り向いた。大きな目玉がこちらを向く。
「おはようさん」
「昼まで寝ていてほんと、お気楽だわ~」
「お、お邪魔してます」
 鹿室はペコリと気まずそうに会釈した。昨夜のこともあって、宇宙人とのわだかまりは残りつつ、年相応に笑えるんだな、てじっと鹿室の顔を見下ろした。見続けて怪訝な表情になるまで。俺は勉強机の椅子に腰掛けた。
「いいや、いいよ。どうぞ。続けて」
「ババ抜きはこれで終わり。早速だけど、作戦会議が始める」 
 ダスクがトランプを仕舞って、真面目な表情になった。空気がまたピリつく。和やかな空気が一気に冷戦のように冷たくなった。
「スター、敵の気配は?」
 ダスクはスターに訊いた。
「ずっと動いてないわ」
 スターはオレンジジュースを飲みながら触角を動かした。ピコピコ左右に振って。
「日光浴が弱点だから、夜にならないと動かない」
 鹿室がトランプ箱をアイスに持たせた。アイスはそれを頭の頂点が開き、それをパクリと食べるかのように頭の中に入れた。トランプを頭に仕舞うと、頂点は静かに閉じていく。
『夏至は午後の八時から冬至は午後六時から。この時期で活発する時間は午後八時から朝の五時までの10時間』
 アイスが的確な時間を示した。
 夜しか動かない侵略者。コスモたちからの情報だと鬼のような姿形だった、というから、コスモたちの星の仕業ではないのが明らかに分かった。
 べスリジア星か、もしくは、それに近い星からやってきた宇宙人。

「敵がどこからやってきたのか今、考える所じゃない。海賊団を倒すとならば、そのやつらが持っていたあの鋭利な刃物が危険視だわ」
 ダスクは顎に手を置き、真剣な表情。うんうんと頷くスター。核を破壊されない限り何度だって蘇る、それが宇宙人。でもちゃんと痛覚はある。


 あの刃物は掠っただけでピリと皮膚が破け、体の中に流れていた血管がブチブチと破っていくあの痛み。あれだけは避けたいと考えている。
「ガーディアン機関も動いている。ずっと街のど真ん中で待機してるわ。夜に動くてこと、教えたほうがいいかしら」
 烏からの情報を聞いて、ダスクはくすくす笑った。スターはむっとした表情を見せるも、特に反論はしない。同じように、鹿室もアイスも。

 唐突にコスモが立ち上がった。
「もしかして、教えに行くの?」
 スターがびっくりして訊く。コスモは首を振った。
「もう昼。グズグズしている暇はない。一樹が起きたなら腹ごしらえ」
 俺に向かってゴーサインを送った。
 昼飯作れ、てか。

 確かに昼飯の時間帯だ。これからやばい奴と戦わなきゃならないなら、腹ごしらえはちゃんとやらないとな。
「よーし、腕によりをかけてやるぞ」
「やったやった」
 俺はまた一階に降りた。その後ろを上機嫌なコスモがついていく。


 昼飯も食べてあっという間に夜。六月の夜は少し涼しい。少しずつ夏が近づいてくる時期、風は涼しく、逆に冷たいくらいの風が吹いていた。
「それじゃあね」
「あぁ」
 俺はコスモたちを玄関で見送った。相手が宇宙人なら、俺の出る幕はない。足手まといだ。コスモたちは張り切って行くのを見届けて、家にやってきたダスクの情報烏によって、情報を集める。どうなったのかを見届ける。それが俺の役目だ。


 相原家を出たコスモたちは、街のど真ん中に行くまでもなく、奇襲された。いいや、待ち伏せだ。ここに宇宙人がいると分かっている海賊団に。いきなり、鋭利な刃物が飛んできて腕や足に刺さる。
「くっ! 自分たちからやってくるなんてね、手間が省けた!」
 鹿室は懐から大砲を取り出して、間もなくして発射した。銃よりも威力が違う。道端の草が燃え、電線が軽く吹っ飛んだ。上空にただ浮いていた雲までも消え失せた威力。

 奇襲した海賊団はあの船に乗って登場。空に飛んでいる船。月の光が妖しく光りて、鬼の姿たちが禍々しく見える。大砲の威力は凄まじかった。それでも尚、宇宙船は吹き飛ばせない。鹿室はちっと舌打ち。
「こんな嬉しくない奇襲は初めてだわ! していい奇襲は好きな女の子のベットに潜り込む男だけで十分だから!」
 スターは怒りに体をぷるぷる震わせて叫んだ。


 コスモは頭に刺さったナイフを抜き取り、カランと投げ捨てた。鋭い眼光で睨みつける。
 風がピタリと止んだ。
 ざわめく木々の音もしない。
 まるでコングを鳴らした瞬間だった。コスモが大きく地面を蹴破って宇宙船よりも高く飛行した。

 また宇宙船を真っ二つにされかねない、と考えた海賊団は重火器を取り出して、様々な方角からコスモを狙う。が、コスモはその弾を空中で避けて、体を回転して宇宙船に着陸。
「すごい。普段寝て食べての宇宙人なのに、あんな身軽に」
「それは貶してる? 褒めてる?」
 鹿室はコスモの行動にびっくり。
 飛び降りたコスモは重火器をバラバラに解体した。サイコロのようにバラバラに崩れおちる。
「うわー! キャプテンどうします!?」
「こっちにくる!」
 重火器を持っていた小鬼たちは大きな影に隠れた。


 大きな体に大きな二本角。海賊らしく、骸骨のマークがついた帽子を被っている。キャプテンと言われた大柄な鬼。赤鬼だ。
 キャプテンと呼ばれたキャプテンは、動じることなく冷静だ。船に降りたコスモを見て、ふむと感心した。
「慌てることはない」
 キャプテンがそう言った途端、コスモの顔が真っ二つに。鼻の上から斬られた。二つの眼球がこちらをむいたまま、空中で何処かに飛ばされた。「あーしまった」とコスモは最後に言って地面に真っ逆さま。
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