魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

文字の大きさ
31 / 101
Ⅲ 奪取の魔女 

第30話 五年後

しおりを挟む
 それから五年後――わたしたちは17歳になりました。高校2年生です。アリス様、もといウルド様から直接世界の真理を聞いたあの、五年前が懐かしく感じる。

 どこまでも続く闇の世界、小さな光の粒は数え切れないほどあって、静かな空気。わたしたちが繰り広げる凄惨な音がより響く。宇宙空間にいると、必ずあの子を探す。もういないと分かっているあの子を。

 ザザッと耳につけてるイヤホンの音が乱れた。ゲートから遠く離れたからだ。ノイズが晴れ、暫くしてから相棒のリュウの声がした。
『背後から一匹近づいてくる、気ぃつけろ!』
「OK!」
 振り返ると、ノルンがいた。
 目を凝らしてみないと分からない距離に。儚い星の光と同一化してて分からない。米粒ほどの小さい姿。全然気が付かなかった。
 わたしは聖剣を握って大きく息を吸った。「大丈夫大丈夫、わたしはできる」と呪文のように言い聞かせる。
 目をつぶると、体中に血が巡る音がよりはっきり聞こえた。緊張で大きくドクドク脈うっている。
 この呪文を口にすると、不思議と体が軽くなる。速く脈うっていた心臓の音も、だんだん落ち着いてきた。

 ジャンプするように、宇宙空間で跳ねノルンの元に近づいた。ノルンは、蠍に似て尻尾が長く赤い胴体、そして鋭い刃を持っている。目の色が血のように真っ赤になった。わたしを認識したから。
 ノルンが対象を敵だと認識すると、目の色が赤になる。攻撃開始だ。
 長い尻尾をぐるぐる回して、先端の棘をを飛ばしてきた。掠っただけで即死の毒針。当たらないように、聖剣でガード。掠っただけでも、刺青が浮き、死に至る。すぐに対処すれば浮かない。これはあの子から発見したことだ。

 聖剣でガードしつつ、近づいていく。近くにくれば、毒鉢はだんだんと鉄のように重くなり、聖剣でガードするのもやっとになった。すると、ノルンの体型がいきなり変わった。尻尾が二つになり、さらに長くなった。ノルンとの距離は、やや離れている。それでも、長くなった尻尾が届く。
 まずい。
 わたしは後ろに身を引いた。
 まさかここで、ノルンが第2形態に入るなんて。もし、長くなった尻尾を伸ばすと、毒鉢が直に刺さる。それは避けたい。
 知性型ノルンと違って、攻撃型ノルンは単純だ。だが最近、攻撃型ノルンの変形が見えるようになった。
 あと一歩だったときに、この形態に入ると態勢が崩れる。この場面に直面したら、わたしはつい怯んでしまう。
 けれど、怯むな。
 街の人からノルンを守るため。
 たとえ、神であったとしても。危害を加えるのであれば、斬るしかない。
 第2形態に変わったノルンは、断末魔を切ったような悲鳴をあげた。仲間を呼ぶ声だ。
 断末魔を切った悲鳴は、頭が割れるほど強烈で、右耳が壊れそう。一瞬、宇宙空間が割れたような情景を見せるほど強烈。
 心が落ち着く呪文を唱える暇はなさそうだ。仲間が駆けつける前に早く決着つけないと。

 胸の前に聖剣を掲げた。そして堅く目をつぶる。聖剣を中心に全身が光った。
「聖剣よ、主の名のもとにその刃を振り落とせ!」
 呪文を唱えると、足元から魔法陣が出現。瞬く間に、五十本の聖剣がわたしの周りに。
 ノルンが、再び甲高い悲鳴をあげた。
 二度もくらった攻撃で、頭がほんとに割れそうだ。右耳がキーンって鳴ってて、周りの音が聞こえない。
 視界が横転した。陽炎のような激しい目眩に襲われる。
 落ち着け。大丈夫大丈夫。しっかりしろ。
 わたしは、態勢を整えようとするも目眩のせいで、ぐらぐら傾く。
 いつしか、魔法陣が消えそれと同時に五十本の刃も消えた。
 ノルンは、それを見計らってか長い尻尾を使って攻撃してきた。ただでさえ視界が悪いのに。
 毒鉢に当たらないように、朦朧とした意識で交わす。
 すると、最悪な展開が。遠くのほうからキラリと光るものが見えた。星かと思ったけど、全く違う。閃光に光っていたものが、突如血のように赤くなった、ノルンの目だ。
 それが、数え切れないほどある。
 援軍がきた。あんなに。
 攻撃型ノルンは群れない。けど、偶然居合わせるときがある。仕方がない。ノルンがきたなら、対処しなければならない。
 スイッチを切り替えろ。
 再度、古の魔法の呪文を唱えた。魔法陣が出現。けれど、何者かによって魔法陣がパリンと砕けた。
 力が急速に弱まっていく。
 熱くなっていた体温が、急速に冷たくなっていく感じに似ている。
 あの距離から誰かが魔法陣を壊した。シノ並みの狙撃率だ。どの方角から、誰が壊したのか分からない。
 一度目も二度目も失敗。
 残っているのは、体力のみ。視界はまだぐるぐるして、頭がぐわんぐわんする。けど耳鳴りはしなくなった。イヤホンからリュウの声が微かに聞こえる。
 こっちにシノたちが合流するって。
 合流するまで、わたしだけがやれる仕事をしないと。わたししかやれない仕事、目の前のノルンを倒すこと。
 残り僅かな力で、一匹でも仕留めないと。

 ぎゅと聖剣を握りしめた。手汗でベトベトでヌルヌルする。近くにいるノルンの目を見張る。相手もわたしを警戒して微動だにしない。ずっと赤い目玉の中に、緊張しているわたしが映りこんでいる。
 どちらかが動けば、どちらかが死ぬ。
 どんな些細な行動でもだ。
 空気がひんやりして、冷たい汗が頬を伝った。動いたのは先にノルンだった。
 ぐるんと長い尻尾を伸ばし、毒鉢を飛ばす。
 わたしは地を蹴るようにジャンプして、聖剣で毒鉢を斬る。
 そして、さらに大きくジャンプして長い尻尾をざっくり斬った。赤黒い血の玉が空気中に舞った。悲鳴が轟る。悲痛な叫び声。
 ノルンの動きが鈍くなった。
 それを気に、わたしは一気に斬りかかる。
 長い尻尾、胴体を素早いみじん切りで切り刻む。斬った箇所から、うじゃうじゃと子どもが湧いてくる。
 的が小さくなると、わたしの聖剣では不利だ。だが、子どもを絶ちノルンを絶命しなければ。
 素早く、かつ的確にノルンを斬っていく。

 ようやくノルンが絶命。さらさらと灰になって散っていく。けど、これで終わりじゃない。まだ沢山いるんだ。一匹を仕留めている間にも、ノルンたちが攻めてきた。ここは逃げるのが鉄則。囲まれる前に逃げないと。
 勝って生きろ、これが暗黙のルールだ。
 だが、苦しいことも辛い目にあっても、人生生きてさえいればいい。生きてさえいれば勝ちなんだ。
 でも、わたしがここで逃げるとノルンは追ってくる。ゲートまで追ってくるだろう。ゲートの近くには行かせない。
 すると、緑色の惑星の影から何かが見えた。キラリと光っている。星じゃない。銃口が向けられている。
 甲高い音が空気中に響いた。
 数匹のノルンが吹っ飛んで灰になっていく。シノの弾丸は、絶対命中であり貫通力も凄い。数匹のノルンたちの分厚い肉と骨を砕き貫通していく。
 ノルンでさえ、その気配に気づかなかった。まるでそこにいたかのように、引き金を引き、一瞬にして、ノルンたちがいなくなっていく。
 けれど、右側からも左側からもノルンが攻めてきた。
 シノがいる方角も知らされてしまったため、シノのほうにノルンたちが攻めている。わたしのほうにも、ノルンたちの爪やら鋏やら攻撃してくる。
 ノルンの大群に囲まられ、わたしたちはなす術なし。
 そんなとき。
 二つの影がわたしたちを救出してくれた。
 大群だったノルンたちを、たったひと振りで仕留めたマドカ先輩。
 腰まであるウェーブのかかった髪の毛。服がはちきれんばかりのたわわな胸、服越しからも体のラインが分かる。背中に透明な翼があり、黒い帯で両目を覆っている。
 わたしたちの一つ先輩であり、現生徒会長。
「ユナさん、ご無事で何より。あとは私たちに任せて下さい」
「はいっ!」
 神経がすーと軽くなるような優しい声。そっと抱かれているような、柔らかな心持ち。でも、口調が鋭くなっている。

 マドカ先輩が持っている魔女具は、自分よりも長い丈の大鎌。死神を連想させる、白銀の鎌。三日月の刃が、鋭く光っている。ひと振りすれば超特大な攻撃になる。それを器用に振って、攻めてくるノルンたちを薙ぎ払っていく。

「ほんとにそそっかしいですわ。どうしたら、こんなにノルンに見つかるんですの!? 愛されてるんじゃない?」
 反対に嫌味を言ったのは、同じく先輩であり、副生徒会のスズカ先輩。シノの周りにいたノルンたちを、炎で炙った。
 スズカ先輩が持っている魔女具は、札。炎と氷を出せる防御型にも徹した魔女具だ。

「まぁまぁ、スズカさん。二人が無事なわけだし、文句言わないで?」
 マドカ先輩が優しい口調で言った。ノルンを次々と薙ぎ払いながら。
「マドカも甘いですわ! 二人だって、一応は生徒会メンバーなのに、こうなる前に、対処できないとか情けないですわ!」
 札を翳したところから、真っ赤な炎が出現。ノルンたちが次々と炙られていく。
 二人の活躍で、ノルンたちはあっという間に撃退。ほんとに一瞬の出来事だった。
 ノルン討伐が終わり、あとは帰還と反省会。スズカ先輩が鋭い眼光でギロリと睨み、こちらに詰め寄る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...